発狂する秩序
「すごい!真っ白に真っ黒!」
街の風景は完全に白と黒で統一されている。モノクロの世界に来たかのように。
闊歩しているのは私達と似た姿の人ばかり。
「「こんにちはー」」
見知らぬ天使と悪魔が声を掛けてきた。
「こんにちは」
ここは賑やかで皆フレンドリーのようだ。
私の想像していた天使と悪魔は終止争っているようなイメージしか湧かないが、元の世界とは違う価値観なんだろう。
「図書館はここから東だ。そこに判定師もいる」
「ミミィまだ起きないね」
「おい起きろ。着いたぞ」
「ZZZ…」
「私は大丈夫です。行きましょう。」
「なんか気に食わねぇ」
パチンッ
バロウがミミィの尻を叩く
「うん…ねんみぃー」
「おはよ。歩けるかい?」
「うん。あとヒドラって変態?」
「…?」
誤解を生んだようだ。
バロウは私に小さく会釈をした。
図書館に向かう途中、人だかりを発見する。
コルテスが指さす。
「あれやばくない?武器引っ提げて。戦闘態勢じゃん」
天使が悪魔四人に絡まれている。四人は太く鋭い槍を構えて今にも攻撃しそうだ。一風変わった見た目の天使。細身の剣を担いで民族衣装のような服を着ている。かなりの美人だ。
あの武器は、以前、どこかで見た気が…
「うちに何か用どす?」
「てめぇよくも俺らの部下を切り刻んだな」
「峰撃ち。許しておくれやんす」
「肩がぶつかっただけで血まみれにする奴があるか!」
「女子に手を出してその言い方はありまへんやろ。退いておくんなせぇ」
4人の悪魔が一斉に襲い掛かる。
ザンッ!!!
一瞬の刹那。次の瞬間。悪魔たちは宙を舞っていた。
「大振り過ぎでしたわ」
天使はゆっくりと剣を仕舞う。
「痛ってぇ!」
悶える悪魔。
異様な光景に周りは騒然する。
「こいつあれだ。最近見境なしに天使と悪魔を切り刻んでるっていう奴だ」
「ママー。あの天使悪い人に悪いことしてるよ」
「死にはしまへん。ほな」
目も暮れず天使は立ち去ろうとしている。
「まさかあいつ…」
バロウは一人で天使のもとに歩み寄る。
「おじさんナンパしに行くの?」
「あんな危なっかしい人によく話しかけようとするね」
大丈夫だろうか。
「ちょっと訪ねたいことがある」
「なんどすえ?」
「あんたは空から落ちてきてこの世界の辿り着いたのか?」
「!!」
突然天使は構えだした。
「バロウさん危ない!」
ガチッ!
なんとか斬られずに済んだ。
「真剣白刃取り…やりますなぁ」
細身の剣とバロウの掌がカチカチ揺れる。
「その物騒なもんをしまってくれねぇか」
「この刀は弱い者は切れまへん。強い者しか切れんのです。殿方は大変お強ぉございますゆえ肥しになっておくれやんす」
バロウはすかさず体勢を変え、天使の持ち手を塞いだ。
「いい加減にしろ。さもないと、この剣を圧し折る」
「…降参どす…」
分が悪いと確信したのか、天使は剣を仕舞ってくれた。
「すごいなあいつ。素手で解決しやがった」
「南の地区が全部出禁になってると噂のバロウじゃない」
「おいこら見せもんじゃねぇよ。行った行った」
騒動は収まった。
「思うんだけど、おじさんって結構強いね」
「ああ。誰かに劣勢する姿が想像出来ない」
「俺も一年以上の付き合いだけどバロウが負けたところ見たこと無いよ」
バロウと天使の元へ駆け寄る。
「いっ…もう少し優しく攫んでくれまへんか?大体、どうしてうちがそがぁな理由でここにいるのを知ってはるですか!?」
この人もか!これで四人目。ただ、バロウさんは何故同じ境遇の人だと分かったのだろうか?
「ひゃあ!そこは攫まんといて!」
「バ、バロウさん。この公の場でそれ以上するとまた出禁になります」
「あたいより綺麗、悔しい」
ミミィが裾を握りしめる。
「とりあえず話の場を設ける?」
「ひとまずそうだな」
私達は一旦バーに向かう。
天使は事の成り行きを戸惑いながらも聞いていた。
彼女は深く目を瞑る。
「うちも同じどす。」
「何で俺を斬ろうとしたんだ?」
「誰も信用出来なくて放心してたんどす。こちらに来てから如何わしい破廉恥なお誘いばかりで嫌気が刺してたんどす」
「美人は辛いね」
ミミィも十分美人だと思うが。私はミミィの方が好みだ。
「うちの父はとても人には言えない稼業をやっておりまして、誰かに恨みを買われ家族が鏖にされたのです。暫くするとたいそう奇抜なお地蔵様にあわれてまぁ色々されました。でも不思議なのが祖父の形見の刀が一緒に付いてきたんどす」
武器を持ってこさせる。些細な事だが彼等は何が目的なのだろう。
「お姉さん。名前は何て言うの?」
「青鮫と申します。よろしくお願いしやす」
「なーんか変な喋り方だな。何人だ?」
「キョウト人どす」
聞いたことがある?多分、こう思ったってことは聞いたことがあるな。
「青鮫さんはもう自分の能力をご存じで?」
「うちは穢耐という呪いや疫病に一切かからない能力どす。あと、この刀もただの刀じゃないねん。疼刀・蝦紫言うてなぁ。普段は鈍なんやけど自分より固かったり強かったりすると問答無用で切断するっちゅう逸話があるんよ」
「へー。伝説の武器エクスカリバー的なものなの?」
「ええ。300年刃毀れせずに生きとります」
「それで、俺達はこうなった原因を探しに図書館とか回って旅をする予定だが、あんたも一緒に来るか?」
「あたい達、これから何回か戦うはめになるかもしれないけど大丈夫かな?」
「仲間が多いと助かります」
天使は少し微笑んだ。
「うーん。面白そうやねぇ。うちは定命を斬るのが楽しくてしょうがありまへんのや。白黒で飽き飽きしてたさかい、連いていきますゆえ」
「やったー!危ない美人が加わったよ」
「危ないは余計ですわ」
「よーし。図書館で情報収集だ。あとヒドラとミミィは能力を聞いてこい」
「分かりました」
一行はバーを出て図書館へ向かう。成程、以前行った図書館より大きい。
「んじゃ俺達は先に探してるからよ」
バロウさんと青鮫さん。そしてコルテスとは一旦別れる。
判明師は入り口の隅にいた。怪しげな中年かおばあさんあたりかと思っていたが、なんと子供の悪魔だった。
「あの、私達の能力を判明させて欲しいんですけど」
「今日気分いいからただでいいよ」
小さな悪魔は黒い水晶玉を取り出し、水晶越しに私達を見つめた。今度は分厚い本を取り出す。まだまだ未熟なようだ。
「おー二人とも当たりだよ。お兄ちゃんは絶風。お姉ちゃんは毒熙だね。絶風は最強の風を巻き起こせるんだ。他の風や有害物質、重力まで消せるんだ。毒熙は致死性の光を放出するからめっちゃ強いよ。ただ街中ではやんないようにね」
「あたいってやばい光出せるんだ。でもやり方が…」
「どの人もひょんなタイミングで出たりするんだよ。おいらなんか食事中に能力分かったからね」
「あの時私は無意識に能力を発揮していたらしい」
一方図書館の3階では
「コルテスは一番上から探してくれ」
ドーム状の部屋、壁は全て本に包まれている。コルテスは天上の本を読み漁る。
「バロウはん、ちょっといいどすか?」
「どうした?」
「一つ、話したいことがあるんよ。」