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開かずの403号室

作者: 田仲真尋
掲載日:2019/07/18

「胃潰瘍ですね。まあ、四~五日ほど入院してください。」


そう告げられ、この総合病院に入院することになって二日目。

仕事の同僚も友達も誰も見舞いにはやってこない。

平日だから仕方ないといえば仕方ないと、まいは諦めていた。

まさか自分が病気にかかり入院するはめになるとは思ってもみなかった。

確かに心当たりはある。

仕事のストレスが溜まっていたのも事実だ。

だが、まさか二十代半ばで体を壊してしまうとは予想だにしてなかったぶん、ショックも大きい。


そんな舞の入院する病室に新たな患者がやって来ると、看護師から聞いた。

この病室は二人部屋だからこれで満室ということになる。


舞は少し緊張気味にその時を待った。

そしてそこにやってきたのは自分と同じ歳くらいの、髪の短い品のある美しい女性だった。


「初めまして。私、白木舞といいます。」


「初めまして。黒木 奈緒なおです。よろしく。」


明るく朗らかな奈緒を見て舞は安心した。

二人は歳も近く、奈緒の方が一つ年上だった。

さらに病気も同じく胃潰瘍ということもあり二人は急速に仲を深めていった。


そんな奈緒が急に妙な事を言い始めたのは、舞が入院して四日目のことだった。


「ねえ舞ちゃん。あの部屋って誰か入院しているのかしら?」


その部屋とは舞たちが入院している向かいの病室、403号室のことだった。

舞も少しばかり気にはなっていた。

その部屋への人の出入りは一度として見たことなかったし、昼間でも、すりガラスの向こうは真っ暗だったからだ。


「いや、誰も居ないんじゃない。」


「で、でもあの部屋の前をたまに通る時、何だか部屋の中から視線を感じるんだよ。」


最初、舞は自分を恐がらせようと奈緒がオーバーに話しているのだと思っていた。

しかし、奈緒は何度もその部屋のことを気にしているようで、同じ話しを繰り返し舞に振った。


さすがに舞も気になりだして、看護師に訊ねてみた。


「えっ!?403号?あの部屋はちょっと事情があって今は使っていないのよ。」


そう言い残し看護師は足早に去っていった。

その看護師の態度にどこか違和感を覚えたが、明日には退院するし、これ以上自分が気にすることではないと感じた。



その夜のことだった。

舞が眠りにつこうとした時、ふと人の気配を感じ目を覚ました。


「な、奈緒さん?」


薄暗い部屋の中で奈緒は舞のベッドの傍らに立っていた。


「舞ちゃん、あの部屋から誰か覗いてる。」


そんなはずはないと舞は思った。

あの部屋は誰もいないはず。

しかし奈緒は執拗にドアの隙間から誰かが見ていると、言ってきかなかった。


「き、来て。」


舞は奈緒に促されるがままベッドを出た。

部屋の扉を少しだけ開けて向かいの病室を確認したが何もない。


「奈緒さん、大丈夫だよ。誰も覗いてなんかないよ。」


舞は振り返り奈緒に言った。


「なに言ってるの……見てるじゃない。ほら、あそこ。」


奈緒はそう言って部屋の扉を開けて廊下へと出て行った。

そしてあの403号室へと向かって行く。

奈緒の様子がおかしいと思い、舞は慌てて奈緒の後を追って部屋を出た。


奈緒がその部屋の前に立ち、何かを指差した。

その時だった。

これまで完全に閉じていた部屋が突然開いたのだ。

その瞬間、奈緒はまるで吸い込まれる様にその部屋へと飲み込まれた。


舞は急いで403号室の扉を開こうとして驚愕した。

――鍵がかかっている。

部屋をドンドン!と強く叩き奈緒の名を呼んだ。


その音に気がついた看護師が数人駆け寄ってきた。

状況を説明すると、看護師がマスターキーを取りに行ってくれた。

そして解錠し部屋へ入り見た光景に、舞は絶句した。


そこにはベッドを壁に立て掛けて、頭の方にある金属部分にかけられたロープで、首を吊って息絶えていた奈緒の死体があった。

体はほんの少しだけ宙に浮いている状態だった。

ついさっきまで歩き回っていた奈緒の死に、舞はパニックに陥った。


看護師たちが舞をなだめ、何とか落ち着きを取り戻した。

しかし、よくよく考えると不自然なことだらけだった。

奈緒は最初からあの部屋で首を吊るつもりだったのだろうか?

だが、それはすぐに否定された。

そもそも、あの部屋は常日頃から鍵がかかっており中に入るのは稀なことだと聞いたからだ。


だとしたら何かの偶然で中に入ることが出来たとして、ほんのわずかな時間で、あれほど用意周到に準備ができたのだろうか?


様々なことが頭をよぎった。

舞は奈緒が少し精神的な病を持っているのではないかという疑いを持っていた。

おそらくそれは正しいだろう。

一度彼女が精神安定剤らしきものを飲んでいるのを目撃したことがある。


だからといって、あのシチュエーションでそんなことをするだろうか?

色々と頭の中を巡っていったが、何一つ分からなかった。


――翌日。

退院の日。

病院を去る直前に一人の看護師が彼女の元へと駆け寄ってきた。

そして声を殺すように話し始めた。


「あの部屋、実は先月にね二人の患者さんが一緒に首吊り自殺したの。それ以来あの部屋は封鎖していたのよ。黒木さんが亡くなったのには驚いたけど、貴女はこの事を忘れなさいね。」


それだけ言って看護師は走り去っていった。


――舞には秘密があった。

それは入院した最初の日。

実はあの403号室から覗いていた二人組の大きくて白い目を見ていたのだ。

彼女は見て見ぬふりをして過ごしていた。


ここで起こったのは夢だ。

舞はここでの全てのことを忘れようと心に誓った。



〈完〉





お読み頂きありがとうございました。

ホラーは初の挑戦で、これが本当にホラーに該当するのかどうか分かりませんが、よろしかったら評価お願い致します。

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