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聖剣物語  作者: 斑目 ごたく
逃亡
36/63

目撃者

「ありゃ~、いっちまっただか・・・」

「街へと向かう馬車に乗りたかったのですか?あれは違いますよ」

「へぇ?そうだったのけ、そりゃ残念だなぁ・・・しかしなんか揉めてたみたいだが、大丈夫だったのかねぇ・・・」


 去っていってしまった馬車の姿にがっくりと肩を落とす男は、そのみすぼらしい格好の膝に手をついた。ずいぶんと急いできたのだろう、その服にはべったりと汗が染み付いていた。

 彼が鋭い人物であったなら、突然すぐそばへと現れた黒髪の兵士を不審に感じていたかもしれない。しかし男は彼に対して何の疑問も抱かず、その与えられた情報を飲み込んでいた。

 その口調や仕草だけで男が鈍い人物であることは察せられた。しかしいくら鈍い男とは言えど気がついただろう、黒髪の男が彼の姿を見て歪めた唇を見れば、彼が悪意を持った人物だと。

 男は去ってしまった馬車の方に目をやるばかりで、黒髪の男の表情の変化には気がつかなかった。


「あれは、勇者様に見えましたが・・・まさかっ!?」

「ええっ、そりゃえれぇ事じゃねぇか!?」

「そう、大変な事です!あなたはこの道を走って、その先にいる人達にこの事を伝えてくれませんか!私は少し確かめたいがあるので、お願いします!!」

「わ、わかっただよ!この道を行けばいいんね!!」

「えぇ!出来るだけ急いでください!」


 黒髪の男の口車に乗せられた男は慌てて走り去っていく。彼の姿を見送っていた男は、その背中が見えなくなったのを確認すると、ゆっくりとした歩調でさっきまで馬車が止まっていた場所まで歩いていく。


「さて、面白い事になりましたね。しかし、あちらの道は・・・モルトリー方面ですか。とすると、彼女に頼るほかないですね。やれやれ・・・母上に連絡しないと」


 頭の中を整理するように言葉を呟きながら進む黒髪の男は、こめかみの辺りに指を添えながら歩き続ける。その速度はゆっくりとした動作の割りに速すぎたが、それに気がつく者はいなかった。


「あぁ母上ですか、オベールです。いえいえ、おわかりでしょう?通告があったはずです・・・おや、この忌々しい気配は・・・いえ、こちらの話です。母上のことでは・・・」


 馬車があった場所にまで辿り着いた男、オベールは急に誰かと話しているかのように言葉をまくし立てる。彼はその途中、地面に落ちていた布切れを拾い上げては顔を顰めていた。


「それで、彼女に連絡いただけますか?えぇ、彼女です・・・お願いできますか?ありがとうございます、母上」


 汚いものに触れるような手つきでそれを摘んでいるオベールは、それを懐へとしまいこむと笑みを漏らしていた。彼にはそれが何か分かったのだろう、痛むように一度胸を押さえるとその場所を離れていく。

 その向かう先は、彼が唆した男と同じ方向だった。

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