ルイーゼ・ライツは我慢しない
「魔物どもを退かせろ!勇者を手に入れた今、あの村を襲う意味などない!」
玉座へと戻った魔王は周りに控える者達に命令を下す、それは先程まで勇者に対峙していた彼女と違い、どこか焦りを感じさせる態度であった。闇に控える者達はその声に慌てて動き出す、しかしそれでも彼女の焦りは収まらないようで、苛立ちを募らせるように肘掛を指で叩いていた。
「それに、これ以上騒ぎが大きくなるのは、得策じゃない。そうでしょう、ヴェルデンガルド?」
そんな彼女に対して声を掛けられるものなどここにはいない、それ故にその声が響くと動揺がざわめきとなって広がる、しかしその声の主を知る者はすぐに平静を取り戻す。
彼らは知っているのだ、その声の主はそれが許されると、なぜならばそれは―――。
「魔王ルイーゼ・ライツ。来ていたのか」
「あら、ご挨拶ね。今回の件で協力を要請してきたのはそちらでしょう、ヴェルデンガルド?それともまさか、妾自ら来るとは思わなかったのかしら?」
いつの間にそこに現れたのか、頭部以外をマントで覆い隠した少女が、ヴェルデンガルドの鎮座する玉座の前に佇んでいた。
豊かな金髪を頭上で二つに括った少女は、その大きく斜めにつり上がった瞳を悪戯に輝かせている。斜め歪ませた口元は挑発的な態度を示しているが、そこに険悪な空気は存在しなかった。
よく見れば彼女の下半身の半分はまだ存在していない、床に敷かれた絨毯から伸びた一筋の影が今も彼女の身体を形作っている。
その影は周りの闇から伸びてきており、彼女がどうやって現れたかはそれを見れば想像に難くない。影がようやく彼女のシルエットを描き、完成した身体を確かめるようにルイーゼは爪先を叩き、伸びをする。
彼女のそのマントの下は何も身に着けていなかった。そのためマントから腕を出して、伸びをすれば身体のほとんどが晒されてしまう。
余裕のある布地に小柄な体格が相まって、意外なほどに露出は抑えられていたが、それは上半身の話であり彼女の細くしなやかな足や、その先の部分は曝け出されてしまっていた。
周りから次々に上がった声は歓声ではない、魔王という絶対の力と権勢を誇る存在の肢体を直視するということがなにを意味するか、それが分かっている者達の悲痛な叫びだった。
彼らは慌てて床へと身体を伏せさせ両手で頭を覆っていた。その状態ですら畏れ多いと感じた者は床を這いずりながら身体ごと背けようともがく、その無理な動作は床との摩擦で肌を裂くだろう、急な動きに打ち付けた傷と相まって、床を染め付ける汚れは増えていっていた。
「あまり部下をいじめてくれるなよ?それに・・・」
「撤退なら妾が子供達に言っておいたわ、その方が早いでしょう?」
ルイーゼの振る舞いに錯乱する部下の様子に、やんわりと抗議を示したヴェルデンガルドに、ルイーゼは気にする素振りも見せずに彼女へと歩み寄る。ヴェルデンガルドもそんな彼女の様子に、困ったように唇を吊り上げるだけだった。
マントに覆われた身体ですたすたと歩く彼女に、ひらひらと舞う布地はチラリズムを演出する。あえてそれを見せ付けるようにしているルイーゼは楽しそうに、玉座に深く座りなおしたヴェルデンガルドは諦めたようにそれを受け入れているが、周りの者達は今も必死におでこの肉を削っていた。
「助かるよ、ルイーゼ。それで、気づいたと思うか?」
「あいつが?まさか。自分の事にしか眼中にないでしょう、あいつは。それにあの坊やの事もある」
ヴェルデンガルドはことさら具体的なことを示すのを嫌う、それはその存在を言及することが危険だと感じていると思えるほどで、ルイーゼはそんな彼女の不安を失笑してしまう。
目の前の存在はこの世で最強の存在だ。自らも強大な力を持っていると自負しているルイーゼすら、彼女を前にしてはその自信が揺らいでしまう。
最古にして最強の魔王ヴェルデンガルドは、恐れるものなどない筈だ。
それでも彼女は慎重に動く、その理由をルイーゼは知っていた。
「そうか、そうだな。ふふっ、普段はあの暴れ猿には頭を悩まされてばかりだが、こういう時は感謝したくなるよ」
「別に良いでしょ。あいつなんてただ暴れたいだけの猿よ、猿」
お互いが猿と呼び捨てる者に、両者とも普段苦い思いをさせられているのか、苦笑いをするヴェルデンガルドに、ルイーゼは吐き捨てるように言い捨てては苛立ちに足を鳴らす。それだけでは怒りが収まらなかったのか彼女はその動作を何度か繰り返し、幾度目かの衝撃に床にひびが走ってゆく。
視線だけでヴェルデンガルドはその行いに抗議を示す、意識をせずに行った行為だったのだろう、それを指摘されたルイーゼは、ばつが悪そうに顔を背けていた。
マントの下の手を動かしたかと思うと、彼女の足元から伸びた影がひび割れた床を覆う。それは僅かに開いた隙間に染み込む様に溶けていき、気づけば元の綺麗な床へと戻っていた。
「それで、どうしてお前自ら来たんだ、ルイーゼ?お前とて、暇ではなかろう?」
「あら、用事がなくては来ては駄目なのかしら?ふふっ、冗談よ、冗談。あのね、今回の仕事のご褒美を貰いにきたの」
玉座の前、ヴェルデンガルドのすぐ眼前にまで近づいたルイーゼは、その足で彼女の組んだ足を跨ぐ。体格の差に僅かにバランスを崩したルイーゼの身体を、ヴェルデンガルドは身を乗り出して支える、彼女はそのまましなだれかかる様にヴェルデンガルドの胸に飛び込んでいた。
ヴェルデンガルドの太ももに跨ったルイーゼは、抱きついた腰を彼女の下腹部へと摺り寄せる。深く座った玉座に足の置き場が見つからないルイーゼは、ヴェルデンガルドの背中を足で叩く、ヴェルデンガルドは仕方がないと息を吐くと、彼女を抱えては玉座の前へと位置を変えた。
「せっかちだな、ついこの間したばかりだろう?」
「いいでしょ?ねぇ・・・・ぅん、おっきぃ」
前に出ることで生まれた空間に足をクロスさせて、ヴェルデンガルドの腰へと自らの下腹部を密着させたルイーゼは、マントをはだけさせて腰をグラインドさせる。
二人の間にはまだ肌を隔てる布地があったが、ルイーゼはその擦り付ける動きによって、ヴェルデンガルドの硬直の感触を感じていた。
淫蕩に濡れた瞳を蕩けさせるルイーゼは、興奮にヴェルデンガルドの首元へと噛み付いていた。硬い皮膚にルイーゼの牙はその表皮を削っただけ、それでも這わした舌に彼女の体組織を咀嚼すれば興奮は加速する、ルイーゼの指先はヴェルデンガルドの衣服を捲ろうとその身体を弄っている。
「すまない、皆。外してくれないか」
「えぇ~、妾は見られながらでも・・・んふ、もうギンギンじゃない?興奮してるんでしょう?ヴェルデ」
ヴェルデンガルドが謝罪しながら願った退室に、寧ろは周りは喜び勇んで従った。この空間はもはや全てが危険だ、見ることが罪ならば、嗅ぐことは罰だろうか。
情欲に乱れるルイーゼから撒き散らされているフェロモンはもはや、凶器となって誰彼構わず魅了する、あまりに強烈過ぎるそれは意識を焼き尽くして、廃人になることすら許さずに支配するだろう。強大な存在に支配されることは喜びだったとしても、誰もそんな状態は望まなかった。
ヴェルデンガルドの下半身を弄っていたルイーゼは、ようやくそれを捲ってお目当てを露出させることに成功する。余っている布に面倒くさくなっても、引き千切ろうとしなかったのは彼女の優しさだろうか、巨大な硬直が解放に反り返ってバウンドし、彼女の柔らかなお腹を叩く。
ヴェルデンガルドのそれは、彼女の性別から考えてもイミテーションだろう、しかしそれは快楽を否定するものではない。ルイーゼは興奮に鼻息を荒ぶらせてそれに手を添える、彼女は知っているのだ、それが快感をもたらしてくれると。
「それで、人払いまでしてなにを話そうというんだ、ルイーゼ?」
「あら?妾はただ・・・まぁ、そうね。ヴェルデ、何故あなたはあの勇者・・・ノエルといったかしら、あの少年を帰してしまったの?せっかく手に入れたのだから、そのまま手元において置けばよかったのに」
人払いがすんだことを確認したヴェルデンガルドは、ルイーゼの腰を掴んで止める。彼女はヴェルデンガルドの硬直を挿入しようと腰を浮かせていた所で、それを中断されて不満げに唇を尖らせた。
ヴェルデンガルドによってその太ももに下ろされたルイーゼは、阻止された快感を埋め合わせるように彼女へと密着する。衝突に、ボリュームの違いすぎる胸に反発され押し戻されても彼女はめげずに、やがてヴェルデンガルドの肩に顎を乗せていた。
ヴェルデンガルドの問いかけに、思い出したように質問を返したルイーゼは、歯を剥き出しにしてその牙をアピールしてみせる、好奇の色に輝く朱色の瞳はいつか魔性の帯びて瞬いた。
彼女の力を知っているヴェルデンガルドには、ルイーゼがなにを言いたいかは言葉にせずとも伝わる。支配しろと囁くこの魔性の女は、嗜虐の嗜好をもって少年を欲していた。
「それが不可能だと、知っているだろう?ルイーゼ。お前は自らを食い殺す番犬を、ベッドに侍らせるのか?」
「それも悪くはないんじゃない、ヴェルデ?」
ルイーゼの提案を鼻で笑って却下したヴェルデンガルドは、彼女に皮肉げに笑いかける。危険すぎると暗に告げたその言葉にも、ルイーゼは関係ないと唇を歪ませる、それは破滅を望む危うさを秘めていた。
自らが食い殺されるイメージに、瞳を蕩けさせ蜜を垂らしているルイーゼに、彼女が持つ破滅志向がその言葉を選ばせたのは事実だろう、しかしとヴェルデンガルドはその目蓋を細める。
彼女は危険をヴェルデンガルドの手元に置かせようと望んでいるのだ。いかに協力関係とはいえ自らに支配できず、打ち勝つことも出来ないヴェルデンガルドの存在を、彼女が疎ましく思っていない筈はない。
淫蕩に濡れるその瞳も、決して理性は失っていないのだとヴェルデンガルドは笑みを深める。
まったく油断ならない、だからこそのパートナーだ。
「悪いさ、ルイーゼ。さて、聞きたいことはそれだけか?ならば、ご褒美をやらないとな」
「ふふっ!本当はあなたがもう我慢できないんでしょう、ヴェルデ?きゃぁ!?」
ヴェルデンガルドの言葉に、自らの下腹部をその硬直に擦り合わせて挑発していたルイーゼは、急に体勢を変えて彼女を持ち上げたヴェルデンガルドに、思わず素の驚きの声を上げてしまっていた。
小柄なルイーゼの身体は、ヴェルデンガルドの両腕に簡単に抱きかかえられる。抱っこされるような形でヴェルデンガルドにしがみ付いた彼女は、乱暴に玉座に放り投げられると股を開かされる、もはやそれを閉じようにも、ヴェルデンガルドの身体がそこに割り込んでいた。
「さて、リクエストは?」
「知っているでしょう、ヴェルデ?」
「あぁ・・・そうだな。激しくするぞ」
覆いかぶさったヴェルデンガルドに、無防備な姿勢を強制されるルイーゼは、それでも挑発的な態度を変えなかった。しかしそのつり上がった唇は暴力への期待に濡れている、ヴェルデンガルドは彼女のそんな期待に応えてやった。
始めこそ痛みにくぐもっていた声も、次第に嬌声へと変わっていく。
小柄な彼女の身体を見れば、その行為は危険にも思えるだろう。しかし彼女の中身は化物であり、その相手は怪物だ。
尽きることのない体力が、果てることのない快楽を求める。
その嬌声が鳴り止んだのは、三日も後の事だった。