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聖剣物語  作者: 斑目 ごたく
勇者、誕生
12/63

光と闇

 扉を越えた向こう側には猛烈な死の匂いがした。

 逃げ出したときよりも確実に濃密なその匂いは、すぐさま鼻を手で押さえても吐き気が催してくるほど強烈なものであった。

 問題は呼吸だ、重い扉に全力を使った身体は、すぐにでも新鮮な空気を欲しがっている。指で摘んで封じた鼻呼吸は催した吐き気に口呼吸も満足に出来ずに、湧き出る汗だけが後から後から頬を伝って落ちていった。

 限界に結局、摘んだ指を離して吸い込んだ死臭に上ってきた吐き気は、今度は耐え切れずに吐き出した。前日から大して食べれてなかった旅路に、嘔吐したものは水っぽく固形物といったら先程食べたブリトーぐらいだろうか、ジャンは食べれなかった海老ブリトーと、ノエルのことを思い出していた。


「っはぁ・・・はぁ、今・・・行くからな」


 膝に手を置いた姿勢で空気を吸い込むと、自らの胃液の酸っぱい匂いがした。それも辺りに漂う死臭よりもましと呼吸を整えて、視界に捉えた剣を拾ってジャンは背筋を伸ばした。

 大広間には明らかに死体が増えていた。何より入り口の付近に数人の兵士の死体が転がっており、多くは身体の一部が引き千切られるか食い千切られて絶命していたが、一人だけがハーピーの下半身を胸にめり込ませながら倒れ伏す者がいた。

 恐る恐る死体を踏み越えて、以前はベールの掛かっていた辺りまで辿り着くと、ようやく全体が見渡せるようになる。そうして見れば増えた死体と同じく、生存者の姿がちらほらと見つかる。

 それは床に倒れ伏し呻き声を上げているようなのも含むが、今こちらによたよたと駆けて来ているような者もいた。


「あ、あんた!助けてくれ!たすけっ!?」

「・・・・・・・っ!」


 ジャンが何かしようとするよりも早く、その男は背中から鉤爪で貫かれる。かなりの勢いで貫かれたため男は空中に吹き飛ぶような姿勢を取るが、彼は中空にぶら下げられていたのは僅かな間だ、その喉へと血流が逆流し吐き出される、それよりも早く床へと叩きつけられていた。

 男はどうにかそれから逃れるようにもがくが、鉤爪の先端は男の胸元を突き出て、その肌を引っ掻いており、とてもじゃないが外れる様子もなかった。そうしている内にもう一つの鉤爪が彼の肩口を抉る、悲鳴は大して上がらなかった、口腔内に溜まった血がゴボゴボと泡立つだけで。

 ジャンはその一連の出来事を、ただひたすらに見つめることしか出来なかった。唯一で来たのは奥歯を噛み締めて悲鳴を上げないようにしたことぐらいだろう、魔物から身を隠すために死体の振りをしようにも、既に目の前にいる状態に一歩も動くことが出来なかった。


「だずっ、げ・・・・」


 彼の目から生気が消えていく様を見送っても、彼に抱いたのは哀れみよりも怒りだろう。はっきりとこちらを見据えて懇願された救援に、傷口に口を寄せようとしていたハーピーがこちらへと顔を向ける。握りなおした剣の柄は冷たく、驚くほどに頼りなかった。


「キェェェー!キェェェー!」

「う、うあぁぁぁ!!」


 人間を模したような顔から、鳥に似たけたたましい雄叫びが上がる。それはこちらを警戒してか、それとも仲間へと獲物の存在を伝えているのか。

 あまりに深く突き刺さったため今だに抜けない男の身体に、ハーピーは翼を激しくはためかせた。それは威嚇の意味もあったのだろう、実際翼を広げたハーピーの身体はあまりに巨大に感じさせ、竦んだジャンは一歩後ろへと下がっていた。

 振り絞るように叫んだ声は喉につっかえて大して響きもしない、咄嗟に上げたその声は何もそんな自分を奮い立たせるためではない。暴れるように翼をはためかせていたハーピーは、なんとそのままジャンへと向かって来ていたのだった。

 考えてみれば人間を襲い、それを餌として巣に持ち帰る生き物だ、その状態でも飛べない理由はなかった。しかし本来は鉤爪で掴んで運ぶのだろう、突き刺している今の状態はどうにもバランスが悪いらしく、引きずるようにして滑空する事しか出来ていない。

 ジャンに勇気があれば、もしくは訓練を積んでいれば、咄嗟に手にした剣を使って迎撃を試みただろう。しかし震える彼にはただ縋るように柄を握り締めることしか出来ずに、じりじりと下がる足はもはや、何かに躓いて尻餅をつく。

 躓いたものは半端に柔らかく衝撃を和らげる、寧ろ握り締めたままの剣の柄が胸を叩いて呼吸を止めた。酸素が行き渡らなくなった頭は空転し、迫りくる魔物の姿がスローモーションに見えていた。

 すでにハーピーはジャンの目の前にまで迫っている。尻餅に変わった軌道も滑空の低さには大して意味もない、しかしハーピーは何かに気づいたかのように急に翼をはためかせた。


「ひぃ!?」


 衝撃と痛みの予感に身を縮こまらせたジャンは、何時までもやってこないそれに、恐る恐る目蓋を開く、目の前には神殿の大広間が広がり、戸惑う彼は慌てて周囲の様子を窺った。彼は自らの後方に倒れるハーピーの姿と見つけることになる、その脇腹は切り裂かれ濁った色の血が流れ落ちていた。

 見ればジャンが握り締めていた剣の切っ先には、真新しい血が張り付いていた。自らの胸に叩きつけるようにして抱えた剣が、鉄杭のように向かってくるハーピーの身体を突き刺そうとしたのだろう、回避を試みたハーピーはどうにか致命傷を避けたが、そのダメージは軽くは見えない。


「うわぁ!?す、すまねぇ、すまねぇ・・・」


 立ち上がろうとしたジャンは何か柔らかい感触を掴む、そちらに顔を向ければそれが血に濡れた衣服だと気づくだろう。

 死体を踏みつけにしていたとようやく知ったジャンは、慌てて飛びのく。その謝罪の言葉は誰に向けたものだろうか、少なくともジャンが動いた反動で僅かに傾いて見せた瞳は、もはやどこも見てはいない。


「キィーー!キィーー!!」


 脇腹を切り裂かれ、今だ男の死体からも解放されず、無理な姿勢をとったためバランスを崩して身体のあちこちを床に打ち付けてもなお、ハーピーは警戒の声を高く上げながらジャンを睨みつける。

 それはただの威嚇であり、自らの命を守るための行動だったのかもしれない。しかしその激しい翼のはためきを先程も目撃したジャンにとっては、攻撃へと移る準備にも見えていた。


「くそ、なんだよ・・・あぁ、もう・・・あぁ・・・」


 ジャンはのろのろとハーピーに近づいていた、その距離が縮まるたびに警戒の声と羽ばたきが強くなっていく。ジャンのその栗色の巻き毛が巻き上がる風に暴れて頬を叩き、何かを逡巡するように頭を迷わせる彼に纏わりついていた。

 やがてハーピーの前へと辿り着いたジャンは、剣を握り締め高く掲げる。上半身をどうにか上げているだけのハーピーは、その状況にさらに激しく暴れ始める。

 翼をいくら振り回しても届かない距離にも、意外にも鋭い羽根がジャンの頬を切り裂く、頬に流れた血の雫はなぜか別の液体に薄れて消えた。


「悪いな・・・んっ!!」


 刃を下にして貫いたのは腹の部分だ、首を落とせば絶対だと分かっていても、技量の不安は大きな的を選ばせた。魔物の身体の構造はよく知らないジャンにも、胸元のほうが急所に思えた、しかし人体を模した上半身にそこに剣を突き刺すのを躊躇ってもいた。

 腹部を貫かれたハーピーはそれでも暴れ続ける、狂ったように甲高い鳴き声を上げながら、必然的に近くなったジャンの頭部を翼で何度も打ちつけていた。

 衝撃でよろめいたジャンは横へと足を流す、それは偶然であったが運が良かった、ハーピーの強烈な鉤爪が彼が先程までいた場所を薙ぎ払う。その一撃はジャンの足首を砕くには十分な威力だろう、彼は慌てて剣を引き抜いた。


「くそっ!死ね、死ねっ!この、くそがっ!!」


 危険に我を忘れたジャンは何度もハーピーに剣を突き立てる。暴れる翼が彼の視界を塞いで、その切っ先の半分ほどは床を叩いただけだ、それでも十分過ぎるほどの回数その身体には剣が突き立っていた。

 ジャンはその状況は見えていない、何せ床を叩いた感触とハーピーを貫いた感触の見分けすらつかなかったのだから。彼の頭を叩き視界を塞いでいた翼が何時しかなくなっていても、彼はそれを止める事はなかった。


「死ねっ!死ねっ!くそっ!はっ、はぁ・・・はぁ・・・」

「キィー・・・キィ・・・、ィ・・・・・・」


 弱弱しくなっていったハーピーの鳴き声は、やがて掠れて消えた。ジャンが攻撃を止めたのはそれに気がついたからではない、力任せに振り下ろすだけの行為に、耐え切れなかった剣が歪んで折れ曲がり、ハーピーの身体に縫いとめられて引き抜けなくなったからだった。

 荒い呼吸に肩を上下させるジャンは、それ故に自らが生み出した強烈な死臭を吸い込んだ。まるで攪拌するように掻き混ぜた魔物の身体はその臓物をも撒き散らす、ハーピーが啄ばんだ人肉すらも半分消化されぐずぐずの断面を見せていた。

 吐き気はすぐに喉元を越えたが、先程内容物を吐き出したばかりの臓腑は、酸性の体液を撒き散らすばかり。本来通るべきでないものばかり立て続けに通過させた食道は、ヒリヒリと焼きついた痛みで不満を訴えかけてきていた。


「はぁ、はぁ、勘弁してくれよ・・・・くそっ!」


 消耗し足元をふらつかせるジャンは、胃液で汚れた口元を拭う、その唇は魔物の血で紅を引いた。彼の腕や手はハーピーの返り血で真っ赤に染まっており、顔にも今塗ったのとは違う赤が散りばめられていた。

 拭うために使ったはずの手の甲に水気を感じ、その事実に気づいたジャンは短く悪態をついた。一刻も早くこの場を離れたかったが、せっかく拾った剣を失い無防備な状態では、大きな物音を立てた後ということもあり慎重にならざるを得なかった。

 ジャンは一度やってきた門の方を振り返る、自分一人で勝手に飛び出しては来たものの、助けに来てくれるのではないかという淡い期待は確かにあった。しかし現状としてその扉が開く気配はなく、ここで引き返すほどの決断力を彼は持ち合わせていなかった。

 仕方なくジャンは周囲を探って新たな武器を求める。当然そこいらに存在する武器というと兵士が持ち込んだ剣となる、しかし先程拾ったもの以外は全て死してなお強く兵士達が握り締めていた。

 その一つからどうにか指を離そうと試みるも、死後に固まり始めている身体は強固で、おっかなびっくり死体に触れているジャンの力では、到底すぐには動かせそうもなかった。


「かたっ・・・うぅ、マジかよ、これ」


 血に濡れたばかりの指先は。ぬめりを帯びて掴んだものを滑らせる。どうにか死体の指を一つと二つと折り曲げていると、近くから翼のはためく音が聞こえてきた。

 慌ててジャンが目をやったのは自らが殺したはずのハーピーの方だ、それが確かに死体になったのを確認し安堵の息を吐くと、すぐ後ろから鳥に似た鳴き声が聞こえた。

 ジャンのすぐ後ろ、身体の向きから考えれば正面に降り立ったハーピーは、近くに倒れていた死体へと跳ねるようにして近づくと、その身体を啄ばみ始める。自分が見つかったのではないと安堵したのは一瞬の事だった、すぐにジャンは気づくことになる、死体だと思っていた男が実は生きていたと。


「ぅぁ・・・・・ぁ・・・・あぁ・・」


 そのくぐもった悲鳴は、意思を感じさせないものであった。実際にそれはほとんど肺に残っていた空気が、刺激によって漏れ出しているだけの声なのかもしれない、それでもジャンには救援を求める怨嗟の声に聞こえていた。

 すぐに移動を開始したのは、そんな声をこれ以上聞きたくなかったからか。武器をすぐに手に入れるあてのない現状に、ハーピーが啄ばむのに夢中になっている今は唯一のチャンスでもあった。

 息を殺し、出来るだけ物音を立てないようにハーピーの後ろを通るのは、意外なほどにうまくいった。

 彼らが五感のどれを重視して狩りを行うのかは知らないが、ハーピーの返り血を全身に浴びた事がプラスに働いたのかもしれない。単にそのハーピーが啄ばむのに夢中だっただけかもしれないが、どちらにしても耳を塞ぎその事実から目を逸らしたジャンには、知る由もなかった。

 それからしばらくは身を低くして慎重に歩く、かつて逃げ出した道を戻るというのは不思議な気持ちであったが、それに浸る余裕はなかった。広間にいるハーピーの多くは死体か、そうでないものを啄ばむのに夢中で、ジャンを狙って動くものは今のところいなかった。

 しかしその幸運も何時まで続くかは誰にも分からない、何か物音が響くたびに彼の足は焦って空回りを繰り返していた。


「って!なんだよ・・・もう・・・?」


 何かに躓きつんのめったジャンは、すぐにそれを確認するために振り返る。この状況に死体にも慣れ始めた彼は、それを目にすると凍りつくように動きを止めた。

 彼の足首に絡み付いていたのは、倒れ伏したレスコーの腕だった。


「お、おっさん、おい、おい!・・・ぁぁ、ぁぁ・・・」


 レスコー手が何かを探すように動いて見えたのは幻覚だろう、ジャンが躓いた事の余波がまだそこに残っていただけか。

 ジャンはレスコーの閉ざされた目蓋に触れようと手を伸ばす。しかし触れてしまうと彼の死が事実になってしまいそうで躊躇してしまう、結局ジャンが伸ばした手は彼の剣を掴んでいた。


「おっさん・・・ちょっと借りるよ」


 小さく声をかけても返ってくる反応はない、しかしどこか満ち足りた感情が心を満たす、片手に握ったレスコーの剣は先程まで使っていた物よりも重く、ジャンには片手で使うのは難しそうだった。

 改めて両手で握りなおし、その感触を確かめているとどこかで物音がする、それは確か目標としている方角ではなかったか。


「・・・・・・ノエル?」


 遠く、聖剣の台座から程近い場所に一人、ふらりと立ち上がった少年の姿が見える。そのオレンジ色の髪は血で汚れても尚、光を浴びて輝いていた。

 ノエルの姿を視界に捉えたジャンは、何度も瞬きを繰り返す。その身体は自然と立ち上がり今までの慎重な足取りは忘れたかのように、一歩一歩にその歩幅を大きくしていった。

 やがては両手も振り回し始めて全力疾走に近づいたその足取りは、重たい剣に慣れていない身体にバランスを崩し転びそうになる。扱い方も知らないその腕は振り回す切っ先に危険を齎していたが、それがどこを切りつけたとしても気にもなりはしなかった。


「ノエル、ノエルゥゥゥーーー!!」


 ジャンは大声で親友の名を叫ぶ、引き寄せられるように聖剣へと向かっているノエルは、意識がはっきりとしないのかジャンの声に反応を示さなかった。

 なにを気にすることがあるだろうか、ジャンは全力で走り続ける。何時か剣を抱えて走るのにも慣れて、走る速度も彼自身が知る最高を上回ろうとしていた。

 その時、大きな物音が二つ響く。一つは扉が開いて聖女一行が入ってきたもの、そしてもう一つはジャンが見過ごしたハーピーがこちらへと飛び立つ音だった。

 ハーピーの軌道はジャンを狙ったもののように見える。しかしその目線は微妙にずれて、ほとんど一線上に並んでいるノエルに狙いを定めていた。

 前後も不確かな動きでどうにか聖剣へと向かっているノエルよりも、一応とはいえ剣を手にしているジャンの方が脅威ではあるだろう。それでもハーピーは確かにノエル狙う軌道を取っていた。

 それはこの襲撃の目的が聖剣にあったことを示している、しかしジャンにとってはそれはどうでもいい事であった。どうにか剣を振り上げて自らの存在をアピールするが、ハーピーはジャンの事を気にする素振りすら見せなかった。


「ノエルー!そこを動くなぁぁ!!」


 どうにか聖剣の台座に辿り着いたノエルは、寄りかかるようにその身体を預ける。その目線は今だ彼方を彷徨うように定まらず、ジャンの姿をその瞳に掠めては明後日の方向へと視線をやっている。

 ジャンは一瞬後ろを振り返り、そしてノエルへと大声で呼びかける。先程から近くに気配を感じていたハーピーの姿は、もうすぐそこにまで迫っていた。

 彼には選択肢があった。ここでレスコーから借り受けた剣を使ってハーピーを迎撃する選択と、このまま最短距離を進んでギリギリのタイミングでノエルの身代わりとなる選択だ。ノエルを助けて自らも助かるほどのスピードも、距離の猶予も許されてはいなかった。


「ジャン・・・・?ジャン!!」


 親友が自らの名を呼んだ、命を投げ打つには十分だ。

 やけくそにジャンは持っていた剣を後ろへと投げつける。当たる筈もないが身体は少し軽くなった、無理な動きをして崩した体勢も、タックルするだけならば気にもならない。

 そうしてぶつかったノエルの身体は驚くほどに軽く、ジャンは押し出されながらも聖剣から手を離そうとしない親友の姿に、笑みを浮かべた。

 ジャンの背中に熱が奔る、痛みはまだ感じなかった。

 床へと叩きつけられたジャンは、その衝撃を頭へと受け意識を朦朧とさせる。感覚が麻痺してしまったのか痛みは今だに感じられず、ただただ急激に失われていく体温に、震えることすら出来ない身体が恐ろしかった。

 薄れていく意識の中で、ジャンはあまりに眩い光を見ていた。

 それがなにかは、本能よりも深い部分が知っていた。

 ジャンの唇が震える、声はきっと出てなどいない。


「やったな・・・・ノエル」


 ジャンの意識はそこで途絶えた。





 目に焼きついた光は、瞬きをしてもしばらくは視界を白く染める。

 急になくなった足場にノエルは膝をつく。手にした聖剣は驚くほど軽い手触りで床を結いつけた、それを支えにどうにか態勢を保っているノエルにはまだ周りは見えていない、それでもここが今までいた場所とは違うとは分かった。


「ようこそ、勇者よ。さて、早速だが名前を聞かせて・・・おっと、こちらから先に名乗るべきだな」


 それはいっそ神聖とも思えるほど、圧倒的な力を秘めた声だった。

 聖剣が何かに反応して脈動する、それが何故かは見えずとも分かる。


「我が名はヴェルデンガルド、魔王ヴェルデンガルドである」


 魔王はそこに、聖剣はここに。

 勇者という名を背負わされた少年は一人、そこで震えていた。

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