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94 王都アーノルド

 「パッカラン♪ パッカラン♪ ハイヨー♪」


 目的の山脈までは距離の問題もあり、馬車旅を選んだ俺達。お馬さん達は俺が考えている以上に力強く歩を進めている。


 「ほらテンちゃんリンちゃん見てごらん、もうミドロがあんなちっちゃくなってるよ」


 出発地点の城塞都市ミドロは、もはやかろうじてその高き壁が見える程度まで離れている。


 「あ、兄上。自分は馬車でそんなにはしゃげる程子供ではないぞ」


 「バカだなぁ、旅の恥はコキ捨てってミズモトカツヨシも言っていたぞ」


 「なに!? ミズモト殿が!?」


 (リヴァイア姉様、ミズモトカツヨシさんて確か…)


 (ええ、ムサシ様の学生時代の友人のお父様ですね)


 ミズモトカツヨシの名を聞いた途端にはしゃぎ出した姉妹を、何やら憐れむかの様に眺めるリヴァイアさんとテンちゃんだった。


 そしてそれは走り始めて小一時間ばかりの事だった。馬車旅における最大の難関が俺の前に立ち塞がったのだ。


 「オ……オエェェ… ぎぼぢわるい」


 「兄様大丈夫ですかぁ」


 さすさすと、俺の背中を擦ってくれるテンちゃん。そう、俺は今大絶賛馬車酔い中である。


 「兄上だらしがないぞ。馬車程度で」


 「こればっかりは三半規管の問題だよ。そもそも道が悪いんだ、デコボコしてさ。あと車輪のサスペンションな。てかサスペンションなんて付いてねーじゃねぇか!」


 まあね、そりゃネオピアでサスペンションなんてまだまだ無かろうよ。車輪なんて普通に木だし。

 道だってアスファルトみたいな舗装路有るわけないんだし。

 つまりこれは酔うべくして酔っているのだ。俺のせいじゃないのだ。


 「ムサシ様、バカ正直に乗って無いで浮いたらどうです?」


 それ早く言ってよ。


 ふよーんと浮いてみればちょっと楽になった。でも四六時中飛べる訳でもないし、馴れないといけないな。或いは本気で馬車のサスペンション…足回りの向上を考えるか。


 「あ、そうだ! ポーション効くかも」


 ぐびぐび… シャキーン!


 「おお! すげぇぞバリ効きだ!」


 「切断された腕すら繋ぎ治す程のポーションを、躊躇無く馬車酔い回復の為に飲める兄上はある意味大物なのだろうな」


 「フッ。誉めるなよ、テレるぜ」


 「ハッハッハッ! 愉快なお客さんじゃわい!」


 俺達の一連のやり取りを御者のおじいさんがカラカラと笑って聞いていた。


 「いやいやおじいさん、笑い事じゃないですぞ! この先の道程で俺が胃液の噴水をし続けるか否か、切実な問題ですぞ!」


 「まぁ確かにワシの馬車に三度三度吐かれてはたまらんのぅ」


 と言うわけで馬車の足回り向上案は本格的に始動する事になった。しつこい様だが専門知識はないので素人改造になるが、それでも今よりは快適になるはずだ。


 などと言っても、さすがにそれなりに大きな町まで行かないとそんな改造は出来ないので、目的地への道程で一番大きな町、王都アーノルドで改造する事となった。


 お馬さんに頑張って貰えば今日中に到着出来る距離っちゃ距離らしいので、ここは一つ急いで貰う事にする。


 「すんませんねぇ、なんだか急かしてしまって」


 「良いて良いて、実を言うとワシもお前さんの話を聞いて楽しみでたまらんのじゃ」


 中々に前向きなじいちゃんで助かるな。


 そして走り続けてお空にお月様が浮かび始めた頃に、王都アーノルドに到着した。


 「おお…… ミドロもデカイ町だと思ったが、このデカさは圧巻だな」


 「そうじゃろうのぅ。何しろ王様がおるんじゃからのぅ」


 じいちゃんが言う通り、町の真ん中にはデデンと王城が鎮座している。城だけでも小さな村ならすっぽり入ってしまうんじゃなかろうか?

 とにかくでっかい町である事は確かだ。


 「とりあえず今日はもう宿で休んでくれ、馬車の話はまた明日じゃ」


 もう夜だからね、一旦じいちゃんと別れ明日また煮詰める事にする。


 今夜のお宿はじいちゃんオススメの宿にした。高くてもいいから美味しい御飯の宿って言ったら迷わずここを紹介された。


 確かにお高そうな宿だなと思ったら、やっぱり高かった。一泊一人五万五千ギルである。高級宿や高級宿! 


 でも高額のギルド依頼やらモンスターの素材売却やら、獣肉なんかも売ったりなんかして、ぶっちゃけ富豪ってくらい金はあるのさ。冒険者って儲かるんだよ、真面目に働けば。でも俺のお小遣い一日五百ギル据え置きなんだけどね。


 「いやぁ、豪華な宿だなぁ」


 「僕もこんなお部屋初めてですぅ」


 部屋は二つとった。俺とテンちゃん、リヴァイアさんとリンちゃんだ。普段テンちゃんを抱き枕にしてるリヴァイアさんがちょっとだけ不服そうだったが。


 そしてこれまた豪華な大浴場で一汗流せば、グルメ神獣お待ちかねのディナータイムである。

 所謂高級料理なのだろう。なのだろうと言うのは俺の知識にはない料理ばっかりだからだ。


 「うん、美味い」


 さすがにここで戦食いするほど豪胆ではない。出ていけとか言われそうだしね。リヴァイアさんも目を細めて舌鼓をうってるあたり、ご満悦のようだ。情報をくれた御者のじいちゃんに感謝だな。


 腹も満たされれば、後はしばらくマッタリと雑談して寝るだけさ。


 「うひょー! ベッドもやっぱりフッカフカだなぁ!」


 サイズもデカイし寝心地も抜群だろう。


 「兄様ぁ」


 枕を持ったテンちゃんがチョコチョコ寄って来た。


 「ん? どしたテンちゃん?」


 「一緒に寝ていいですか?」


 普段リヴァイアさんと一緒だからね、一人だと寂しいのかな。


 「おいでおいで~」


 「エヘヘ~」


 テンちゃんがピョコンとベッドに入り抱き付いてくる。全力で可愛いな。この可愛さの破壊力はネオピア屈指だろ。甘やかす! 誰か何と言おうと俺はテンちゃんを甘やかす!


 そんな可愛い弟を抱き枕にして床に就く。ああなるほど、こりゃリヴァイアさんが不服そうにするわけだ。ふにふにスベスベの感触やらフィット感やらもう、ずっとこうしてたい感じだもん。

 


読んでいただいてありがとうございます!

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