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82 神獣麒麟

 シルヴェーヌさんの猛攻が始まった。速く、重く、そして鋭い。

 神獣装備の能力アップや、[剛撃][韋駄天][頑強]のギフト辺りが何とか被弾を防いではいるが。


 (これはたまらん! 一撃受ける度に骨まで響く! いくらも持たないぞ!)


 (頑張るのだ兄上! 姉上達がやってくれるまで持ちこたえろ!)


 リンちゃんも雷珠を使って援護してくれてはいるのだが、シルヴェーヌさんは驚愕の方法をとっていた。徹底した無視である。正確には被弾時にほんの一瞬だけ動きが遅れるので若干の痛みか何かしらある様だが。

 何しろ全身を電撃に穿たれようがお構い無しなのである。高い[属性耐性]がダメージを極限まで減らし、[再生力]が途端に回復を行うのである。

 とんだチート野郎だ。


 (兄上、ゴスタの盾は思いの外(かた)いようだ! 姉上達が押してはいるがまだ掛かりそうだ! 踏ん張ってくれ!)


 (踏ん張れったってお嬢さん! もうムーンライト握る手の感覚がなくなってきたんだが!)


 今さらながら見通しの甘さが敗因だったな。もう少しやりあえると思っちゃいたんだが、ここまで差があったのか。そしてその差がついに牙を剥いた。


 ギィンッ! ザシュッ!


 「がっ!!」


 「兄上!!」


 ムーンライトを握る右手が跳ね上げられると、返す刀で肩口から右腕が切断された。


 ぐぉぉぉ… これはヤバいんだけどそれがいい!

こんな時になんちゅうギフトだ! でも痛みがある程度緩和されるってのはありがたいっちゃありがたいか? とにかく回復だ! 神様印のポーションならくっ付くかも知れないし!


 ヒタ

 

 吹っ飛んだ右腕を回収している俺の首筋に剣が当てられた。


 「ここまでだな。私が言うのもなんだが、君達は強かった。私がここまで本気になったのだからな。何より殺すには惜しい善人だ」


 シルヴェーヌさんの顔をみると勝者のそれとは思えない複雑な顔をしている。せっかく綺麗な顔なのに歪んでいた。ゴスタの命令により嫌々戦っているからだ。それもよりにもよって己を命懸けで助けようとした人物とだ。食い縛る唇の端から血が滲んでいる。この人も間違いなく被害者なのだ。


 「本当にすまない。私の力では抗う事が出来ない」


 「やめるのだ! 兄上に手をだすな!!」


 その時、リンちゃんが副装を解いて俺とシルヴェーヌさんの間に立ち塞がった。


 「やめ…ろっ、リンちゃん!」


 俺は保証は無いが殺されても帰還で済む。だが神獣はそうもいかないだろう。


 「お嬢さんすまないな。その願いは聞けない」


 ガツッ!!


 シルヴェーヌさんは剣の柄でリンちゃんを殴り飛ばした。そしてゆっくりと剣を振り上げる…


 「自分はっ! やめろと言っているっ!!」


 殴り飛ばされたリンちゃんが叫ぶと、激しい。そう激しい力の奔流が渦巻き始める。


 こ…これは… 解放する気なのか!?


 「な!? なんだこの力は!?」


 さすがのシルヴェーヌさんも目を見開いて困惑している。今がチャンスだ!俺は右腕を引っ付けポーションを飲み干す。オレンジ味の炭酸がシュワシュワする。


 よし! 予想通り引っ付いたぞ! ゼロ距離から受けてみろ! 必殺の衝撃波!!


 ゴッパァッン!!


 「グハァッ!!」


 よーし止めを… なんて悠長な事やってる場合じゃない! 


 「リンちゃん! 解放は許さないと言ったぞ! 絶対にだ!」


 俺は今にも神獣の力を解放しようとしてるリンちゃんに駆け寄る。


 「しかし兄上、もうこれしか方法が無かろう!」


 「もう少しだ! もう少し待てばリヴァイアさん達が何とかしてく……」


 ズバァッ!!


 背中に激しい痛みが走る。振り向けば既にシルヴェーヌさんが立っていた。すげぇ回復力だなしかし! これにはさすがのリヴァイアさんチームもテンちゃんを応援に寄越すが……


 もう無理だなこりゃ、シルヴェーヌさんの剣が振り上げられている。


 「兄上に手を出すな! やめろぉっっ!!」


 「くそっ! リンちゃん! 俺はいい! 解放するな!」


 主の命令全開のつもりだったのだが……




 大気が震えた




 神獣麒麟がその力を解放した。全てを飲み込み全てを圧倒する力の奔流。シルヴェーヌさんの本気がどうのとか、そんなレベルじゃない。主である俺が全力で糞漏らしそうな程おっかないのだ。


 相変わらずその相貌は神獣そのものであり、地面に映し出されたその影も神獣のそれである。麒麟と言うから某ビール会社のアレっぽい姿なのかと思ったが、この影を見るに馬っぽいな。ユニコーンっぽいフォルムだ。そして神獣麒麟の額からは立派な角が生えている。


 身体中にバチバチと電撃を纏い、一体何を考えているのかまったくわからないその相貌で俺を見ている。


 背中の傷はギリギリテンちゃんが回復してくれたのだが、やはり神獣同士のリンク現象なのだろう、力を奪われたようにリヴァイアさんと共に地面に突っ伏している。

 

 こうなったら仕方ない、とにかく早く解放を解かすしかない!


 「おい! ゴスタ! シルヴェーヌさん! これがこっちの本当に本当の全力だ! わかるだろ! これに抗えるわけが無いことを! さっさと譲渡しろ! こうなっては俺にも手がつけられないんだよ! 時間が立てば立つ程ヤバい事になるぞ!(こっちがね) 俺の拷問なんてそよ風レベルの地獄を味わいたいか!」


 まぁおおよそ間違いは言って無いだろう。ただ拷問はしないがね。それこそ痛みも感じずに死ねるだろうがね。


 二人は呆然と突っ立っている。本能で理解しただろう、目の前の絶望と言う名の存在を。


 「ふ、ふざけんな! なんだよコイツ! おかしいだろ! なんだよ! なんだよ!」


 わかるよゴスタ君。おかしいし反則だと思うよ、これは俺も。だからさっさと譲渡しろ。


 「ちくしょう! やってやるよ!」


 ガチリッ!


 ゴスタはこめかみに銃を当て撃鉄を起こした!


 げっ! しまった! その手があった!!



読んでいただいてありがとうございます!

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