78 猿知恵
「兄上、先ほどはすまなかった。確かにあの状況下で出て行ってもあの女性勇者の二の舞だった」
女性勇者が奴隷落ちした後、俺達は宿屋へと戻り対策を練る事にした。
「いや、わかってくれたのならいいんだ。歯がゆい思いをしたのは俺も同じだしね」
「それでムサシ様、どうなさるおつもりですか?」
「どうしようか…… 非常に厄介な相手だよなぁ、完全にスルーして先を急ぐって手もあるが」
「兄上、何を言っている。あんなのを見過ごせるか!」
「でもリン姉様、倒そうとすると周りの女の人達が身代わりになっちゃうんですよ?」
「うう… それはだなぁ…」
「勇者の中には人質など気にも留めない者もいるでしょう。私達が手を下さなくてもいずれ倒されるかも知れませんね」
「かも知れませんが女性勇者のシルヴェーヌさんが奴隷落ちしてますからね、今のアイツを倒すのは難しいですよ? 逆にガンガン強くなる可能性もある」
出来すぎた用心棒だからな、半端な勇者なら先ずぬっ殺されるだろう。それでシルヴェーヌさんが倒した勇者の必要なギフトを譲渡して貰えばいいだけなんだから。
「しかし自分は見て見ぬ振りをしたくないのだ! 彼女達の命をこれ以上散らせたく無いのだ!」
「リン、気持ちはわかりますがその為には身代わりのギフトをどうにかせねばならないのですよ?」
「うう… なんとかならんのか兄上ぇ…」
なんとかって言われてもな。いっそ俺達も悪人だったら手っ取り早く人質無視してぬっ殺すんだが、あいにくそこまで腐っちゃいない。せいぜい拾った500ギルを猫ババした程度だ。
しかしなぁ、こんな可愛い妹に目をウルウルさせて頼まれて断れるか? いや無理でしょう。
「策が無いわけではない」
「なんだ兄上! ならなんで早く言わない!」
「待て待て話は最後まで聞け。無いわけではないのだけど成功確率は低いんだ。はっきり言うと2割有るか無いかだろうな。だから言わなかった」
「2割ですか。勝負するには心許ないですね」
「でしょう?」
「でも0では無い!」
前向きな娘だよな。それだけ助けたいって事なんだよな。しかしなぁ…
「どうしてもリンちゃんがやりたいのなら兄として、主としてもやぶさかではないよ。でも失敗した時の覚悟は決めて貰わなければならない。どういう事かはわかるね?」
「彼女らの命か…」
「もしくは俺達かも知れない。シルヴェーヌさんはそれくらい強い」
「なに、いざとなったら神獣の力を解放して…」
「それは許さない!」
「え!?」
「神獣の力を解放すれば確かに勝てるよ、でもリスクが高い。高過ぎる。死ぬんじゃ無いんだぞ? 『消滅』だぞ?」
魂なんてもんが有るかどうか知らんけど、消滅するなんて論外だ。
「案ずるな兄上、自分はそれくらいの覚悟はある」
「ああそうだな、言い方が悪かった。俺の覚悟が出来ていない。大切な家族を消滅させる覚悟は断じて出来ない。だから神獣の力の解放は却下」
「ムサシ様…」
「兄様…」
「兄上…」
「だからといって消滅じゃ無いから死ぬのはいいやってのも無しだ。先ず第一は俺達の身の安全だ。つまり失敗したら即効とんずらする覚悟だ。シルヴェーヌさんて言う用心棒がいる限り、逆にそうそうゴスタが死ぬ程のダメージを食らう事は無いと思うんだ。ゴスタ自身も面白半分に彼女らを殺すとかでも無い様だし。問題があるとすればロシアンルーレットだね。あれを使われると彼女らの死はさけられない」
「失敗したら逃走か… 彼女らの命を見捨てる覚悟なんだな…」
「そう言う事になるね」
自称とは言え騎士のリンちゃんの騎士道精神に反する事は重々承知してるが、この条件は飲んで貰わないとな。
「わかった。どのみち兄上にそっぽ向かれたら2割の策ですら使えぬからな」
「ごめんな、ドンと任せろとか格好いい事言え無いダメ兄貴で」
「いや、いいんだ。自分はそんな兄上大好きだ」
あらいやだ。なんかこうも真っ直ぐ言われるとちょっと恥ずかしいじゃないのさ。リンちゃんのイケズ!
「僕も兄様大好きですぅ」
「テンちゃ~ん」
ぎゅっ! 癒されるぅ~! そしてここまで来たらあの御仁にも言わせてみたいよな。
ジィ~っと
ジィ~っと見つめてやるのさ。
「……はいはいわかりました。私もムサシ様大好きです」
「リヴァイアさ~ん!」
ズビシッ!
「私はハグはいりません」
うう… どさくさ紛れに抱き付こうと思ったのに…
「でも兄様、2割と言うのはそれでも低すぎると思います。皆で知恵を出し合ってもう少し確率を上げられませんか?」
「そりゃそうだね。三人寄ればモンキーの知恵って昔の人も言ってたよ」
「なんだ? モンキーの知恵? 猿知恵が役に立つのか?」
「リン、貴女の大好きな兄上は少々ポンコツなのです。深く考えず生暖かい目で時に見守ってあげなさい」
ひどいよ姉さん。しくしく……
「兄様泣かないでっ!」
テンちゃんに頭をなでなでされながら、俺達は策の成功確率を上げる為の会議を始めるのだった。
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