73 スープパスタに御用心
「さぁ召し上がれ」
熱々スープパスタを前に顔が引き吊っているリンちゃんがいる。
「あ、兄上、これを鼻で食べるのか?」
「そう言う約束だからね。いや、俺はいいんだよ? 食べなくても。騎士様が約束1つ守りもしない口だけ番長を良しと出来るなら」
「だ、誰も食べぬとは言って無いだろう! 騎士たる者、約束は反故にせん!」
「ではお熱いうちにどーぞ♡」
勇ましく食ってやる! と豪語して麺を鼻先まで持って来るが、全力で体が拒否してるリンちゃん。
「ぐ、ぐぬぬ… うう… うぇ… うぇぇ…」
あ、泣いた。騎士の矜持、約束、拒否する体。あらゆる葛藤の末、神獣麒麟はスープパスタに泣かされた。と、その時。
「あ! リン姉様どうしたのですか!」
トテトテとテンちゃんが駆け寄ってきた。
「食えぬのだぁ、自分は騎士として失格なのだぁ」
「またバカな事をやっているようですね、今度は何なのです?」
リヴァイアさんまでやってきた。事と次第を説明すると。
ズビシッ!
「へぐっ!」
「鼻でスパゲティーなんて食べれるわけ無いでしょうまったく。リン、貴女も簡単な口約束などつつしみなさい」
「ずまぬぅ、姉上ぇ」
「私はいいからムサシ様に謝りなさい。約束を破るのに変わりはないのですから」
「ずまぬぅ、兄上ぇ」
「うん、許すから鼻水垂らしてこっち来ないで。チーンしなさいチーン」
ずまぬぅと喚きながら鼻をかむ神獣。シュールだな。
「で、なんでリヴァイアさんがスープパスタを食ってるんですか!」
「捨てるわけにもいかないでしょう。モグモグ」
それが目的で仲裁に入ったんじゃなかろうか? 幸せそうだからいいけどさ。
イケメン冒険者のレイさんが来るまで暇だったから、リンちゃんの罰ゲームを執行していたのだ。
コンコン
噂をすればなんとやら、どうやらお迎えに来たらしい。
「よお、準備は出来たかって……お嬢ちゃんなんで泣いてんだ?」
「それはリンちゃんの中の純情の暴走が理由無き反抗だったのです」
「なんだかわからんが色々ある年頃みたいだな」
ややこしそうと瞬間的に判断したんだろう、レイさんはそれ以上は踏み入らない。賢いね。
「それではネームドモンスター【暁】の討伐に出発しますか」
かくして俺達はミドロの南部に位置する村へと向かう。そもそもレイさんはこの村の住人らしい。ヒロエ村と言う小さな農村なのだが、ここでも突発的なモンスター被害が発生した。【暁】である。
さすがにネームドモンスター相手に太刀打ち出来る術もなく、村は放棄されて村人達は今、ミドロに避難しているのだ。
「でもやっぱり慣れ親しんだ村が1番だからな。あんたらみたいな腕利きが来るのを待ってたんだよ。何しろ相手はネームドだからな、半端な冒険者じゃ話にならん」
冒険者ギルドに依頼を出しても、ハイオーガですらカツカツな状況だったしネームドなんてとんでもないわな。
そうこうしているうちに村へ到着した。特に荒らされたりとか、そんな感じはない。ただ人はいないから静まりかえってはいるが。
「確かにこの村を放棄するのは勿体ないですねぇ」
【暁】さえ出なけりゃ風光明媚で素朴な田舎ですよ。定年後にのほほんと暮らしたいような村だね。
「ああ、気候や土壌にも恵まれてて本当に良い村なんだよ」
レイさんは悔しそうに村を眺めている。
「ここは気張って取り戻しましょう」
「もちろんだ。もう少し南下した場所に【暁】の巣穴がある。奴はその周辺をテリトリーにして活動しているのだが、この村もそのテリトリーに入っちまってんだ」
なるほどね、害は無くとも縄張りでチョロチョロする人間は目障りなんだろうな。
「では作戦会議ですが、ここで待ち受けて戦うのが手っ取り早くて対策も取りやすい。ただし村への被害は甚大なものとなるでしょうね」
「安全面を優先に考えたいがなるべくなら村への被害は押さえたい。すまんな」
「いえいえ。となるとこちらから赴きますか。奇襲から全力で畳み掛けて先手必勝が出来たらよいのですが」
ネームドの強さは知ってるからね、中途半端な攻撃はしないで全力だ。反撃させる暇を与えないのだ。
「作戦に関しては任せるよ。俺は大して役に立つとも思えんしね。邪魔にならんように皆に合わせるさ」
謙遜だろうな。相当強いと思うんだよね。
「よし、では参りますか。探知で先ずは索敵しますね」
奇襲を討つにしてもサーチ即デストロイなんて都合良くいくとも思えないからね、探知して奴の行動を把握したら改めて奇襲策を練ろう。
程なくして【暁】は補足出来た。ワイルドベアはその名の通り熊型のモンスター。群れを成す事はないので単独で行動している。
とりあえず2日程【暁】の行動パターンを分析してみた。活動帯は日中で、夜間は完全に巣穴に籠っている。
「こいつはもう夜襲してくれと言わんばかりですね」
「まさか自分が襲われる立場になるとは思ってもないだろうからな」
巣穴といっても大した深さもなく、雨風凌ぐ程度のもの。外から丸見えなので遠距離攻撃で狙うのにうってつけだった。
俺達は今、すっかり警戒を解いて巣穴で御就寝の【暁】に感づかれない程度の距離に迫っている。
「それでは全員戦闘用意。リンちゃん副装」
キラキラシャラシャラな額冠を装備し、ムーンライトを手にする。俺とリンちゃんは雷珠、リヴァイアさんとテンちゃんは水珠風珠を各々出現させる。レイさんは魔力を集中させている所をみると何かしらの魔法を放つつもりだろう。準備は整った。
「全員攻撃開始!!」
読んでいただいてありがとうございます
本日で連日投稿は終了させていただきます。仕事が始まると執筆時間がほとんどとれなくて、すいませんです。
次回は火曜日になりますので、これからもよろしくお願いいたします。




