59 キャプテンエイヒレ
待てど暮らせど一向に目覚めない使い魔の二人。かれこれ二週間も過ぎてしまっていた。いい加減焦りの色も隠せない状況だ。
このまま一人で勇者バトルロイヤルを進めるか、否か。二人が休眠してからこっち、幸いにも勇者には出会っていない。ここまで生き残れたのも使い魔の力によるところが大きい、やはりここは二人を信じて待つのが得策だろうな。
その間は地道に鍛えていよう。ギフトレベルが一つでも上がれば儲けもんだしな。
午前中はギルドの依頼をこなすついでに鍛練、
午後は釣りをして過ごすのがもっぱらルーティンになってるこの頃。俺は空飛べるからね、結構湖の中程で釣るのが最近のお気に入りだ。
「大漁大漁♪ 良い小遣いになるんだよね」
釣れた魚は意外と高値で売買されていた。ご当地グルメとして各地で需要が高いそうだ。村の子供達に分け与えても売れる程釣れるのでちょっとした小金持ちになった。リヴァイアさんは一日五百ギルしかくれないからな、鬼の居ぬ間にヘソクリしとこう。
「よーし、今日はこんなもんで引き揚げるかな」
獲物や釣り道具を異次元ポケットに仕舞い、帰路につく。辺りはすっかり夕焼けになっていた。
オレンジ色の日の光りに照らされた湖は、また昼間と違った幻想的な色合いを見せる。リヴァイアさんやテンちゃんが目覚めたら二人にも見せてあげよう。釣った魚も食べて貰おう。きっと喜ぶぞ。
おや! あれに見えるはキャプテンエイヒレの船ではないか。キャプテンも今日は揚がりかな、巨大アユモドキはまだ釣れないみたいだがね。
ん? ……アレって?
キャプテンの船の後ろに魚影? にしてはデカイ様な…… まさか!?
探知! いや! 間違いない! 主だ! マジでいやがった!
俺は急ぎキャプテンの船に近づき、
「キャプテンッ!! 出た! 主だ! 後ろにいるぞ!!」
「何っ!!」
船尾に走るキャプテン、巨大な魚影を確認すると、
「出やがったな宿敵よ! 今日こそ釣り上げてくれるぜ!」
戦闘体制に入る。対主用にあつらえられたクレーンの様な巨大竿からワイヤーの様な糸が放り込まれる。エサは主が好んで食べると言われてる湖エビだ。
「ほぅら食い付け、食い付け」
ゆらゆらと揺れる巨大魚影。突如現れた目の前の好物に逡巡している様だ。ここで簡単にパクつかない用心深さが主たる所以なのだろう。
「さすがに簡単には食い付かんか、しかしこれでどうだ?」
キャプテンが特殊な撒き餌を撒き散らした、これも対主用に調合された物だと言っていたな。
その効果は確かな物だった。さしもの主もエサにパクついた!
「よーし、掛かった!」
「キャプテンやったぜ! こりゃもういただきだろ!」
「いや、まだだ。ここまでは過去に何度も経験してるからな、奴の本領はこれからよ!」
なんと! そいつは初耳だ! しかもこれからが本領発揮とか主、恐るべし!
キャプテンの言う通り、ここから主とキャプテンの一進一退の攻防が始まる。主は糸を断ち切らんと激しく暴れ回り、そうはさせじとキャプテンは絶妙なテクニックで操船する。
巨大アユモドキたる主のパワーは凄まじく、右へ左へ時には潜り、船はその都度引っ張られ不自然に動き回る。
「相変わらずやりおるわ! だがワシも負けてはいられん」
キャプテンの操船にも力が入る。生半可な技術ではたちどころに船は横転しているだろう。
そしてギリギリの攻防の中、主が死力の攻勢に打って出た。その巨体を揺らし大きく飛び跳ねると、その勢いのままに一気に潜る。
「ヤバい! このままだと糸が持たん!」
ギュルギュルと音を立てて吐き出されるワイヤーの様な糸、しかしその糸を支える滑車から凄まじい勢いに煙りが出始めた。
「くそぅ! まったく巻き取れん! 止めるのがやっとか!」
何とかこれ以上潜らせるのは押し止めたのだが、拮抗した力は巻き取るには及ばないみたいだ。
「何か、奴に隙を作れれば……」
隙か。やってみるか。
「キャプテン! 隙を作ればいいんだな? 俺に任せてくれ!」
俺はキャプテンに告げると湖へ飛び込む。向かうは主の元だ。別に斬り殺したりするつもりはない、これはキャプテンのプライドを掛けた漢の戦いだからな。俺はホンの少しお手伝いするだけさ。
少し潜れば主の姿が見えた。これ以上深かったら息がヤバいところだった。
そして俺は主に向かい衝撃波を放つ。水中での衝撃波は威力をかなり削がれるのだが、目的は主の気を引くことにあるので構わない。
そして狙い通り衝撃波は主の体に当たると、こちらに気が向いてしまったようだ。その間隙を見逃さなかったキャプテンが、一気に糸を巻き上げる。
ざっぱぁぁぁぁぁぁんっっ!!
「よっしゃぁぁぁぁっっ!!」
ついに主はキャプテンにより釣り上げられた。長年の戦いに終止符が打たれた瞬間であった。
「やったなぁキャプテン!」
「なんの! ムサシか隙を作ってくれたからこそよ!」
俺達はお互いに健闘を讃え合い、一路岸へと戻るのであった。
「おお! 主は本当にいたのか!」
「スゲエ! でけぇ!」
「マジかぁ!」
噂を聞き付けた村の人達がやって来ては口々に感嘆の溜め息をもらした。キャプテンは一躍時の人だ。主は正式に計測したところ、七メートルもあった。文句なし最大級のアユモドキらしい。
そして一通りの御披露目を済ますと、主はやはり主たるべきとリリースされた。この湖の守護神としてこの先も生き続ける事だろう。
いやはや、今日は面白い物を見せて貰ったな。
読んでいただいてありがとうございます!




