58 湖の主
「おいおい、まさかこの俺から逃れられるとでも思っているのか? こいつぁとんだ甘ちゃんだぜ!」
敵はタフ。しかし俺の敵ではない。リヴァイアさんが居なくとも、今の俺には数多のギフトがある。
まさかここに来て予期せぬ大物を引き当てちまったが、ここで慌てるのはド素人のやる事だ。数々の激戦を潜り抜けた俺くらいの猛者ともなれば落ち着いたもんよ。
「ハッ! 抵抗は無駄だって言ってんだよ!」
見苦しい程に足掻きやがる。テメェはドジを踏んじまったんだ。そいつはこの俺に戦いを挑んじまったって事さ。ハードラックとダンスっちまったんだよ!
「さあこれで仕舞いだっ! 観念しなっ!」
ざぱぁぁぁん! どしゃ! ピチピチ!
「わぁ、でっかいの釣れたねえ名人!」
「任さんかい!」
俺は村の北に位置する湖で釣りをしていた。リヴァイアさん達が休眠状態に入ってから五日程経つが未だに復活していない。
そう言えば釣り師のギフトも以前手に入れてた事を思い出し、釣りを始めたところ釣れるの釣れないのってアンタ、今じゃ村の子供たちに名人て呼ばれる程よ。あっという間に釣り師のギフトレベルが3まで上がった。上がりやすいギフトかも知れないけども。
「名人、今日もお裾分けしてくれよ」
「そりゃ構わんけどお前達大概魚好きだな」
「いや、母ちゃんが貰ってこいってうるせぇんだ」
「うちも」
「うちも」
「あたしのおうちも」
「なんつーか、世知辛ぇな。せっかくだ、ほれ! 獣肉も持ってけ」
なんか可哀想になったので異次元ポケットから以前仕留めて収納しといた獣肉をプレゼントしてやる事にした。家畜と違ってかなり重宝がられる高級肉扱いらしいね、今の俺なら楽勝で狩れるからこんなんでよければいくらでもくれてやろう。
「マジか名人! これはガチで嬉しいわ! 魚も嫌いじゃねーけど、毎日じゃなぁ」
「「「「ありがとう名人!!」」」」
「おう! 吐くまで食えよ!」
感謝されるってのは嬉しいもんだ。取り分けこんな子供達に喜んでもらえりゃ、あげ甲斐もあるってもんさね。
さて、それじゃそろそろ帰るとしますかね。釣りを引き上げて村に戻ろうとした時、目についたのは一艘の船。
「あの船、なんか物々しい装備なんだが、良く見るんだよなぁ」
「ん? ああ、ありゃキャプテンエイヒレだよ」
「は? エイヒレ? 酒が進みそうな名前だな」
「キャプテンはさ、この湖の主を追い掛けてるんだぜ」
「え!? 主なんているの!」
「うん、全長五メートルを超えると言われている巨大アユモドキ! 知らんけど」
知らんのかよ。
「なんでも三百年生きてると言われている巨大アユモドキ! 知らんけど」
知らんのかよ。
「釣りあげた釣り師には幸福が訪れると言われている巨大アユモドキ! 知らんけど」
「お前達は噂好きの関西のおばちゃんか!」
でもなんつーか、ロマンだよなぁ巨大生物。あれだなユニファイドメモリーアーキテクチャ、UMAってやつだな。古くはツチノコやら雪男やネッシーとかか? チュパカブラなんて吸血生物もいるとかいないとか。やっぱりこう言う伝説の生物とかって見てみた……
おるやんけ…… 一緒に旅しとるがな…… なんやったらワシの使い魔やがな……
おっといけない。怪しげな関西弁炸裂してしまった。
でもまぁリヴァイアさん達は別口だよなぁ、見た目は綺麗な執事の姉ちゃんだしな。
「で、そのアユモドキは発見情報とかあるのか?」
「そりゃもうあっちのおっさん、こっちのおばさん、キリがないぜ」
「ほー。ちょっと興味あるなぁ。キャプテン釣り上げねぇかなぁ」
「なんだ名人、結構ガキなんだな」
「ガキに言われると屈辱だな。お前達信じてないのか?」
「バカバカしい」
「ナンセンスだよな」
「魚が三百年生きるかっての」
「わたしは見てみたいの」
「かぁー、ひねたガキ共だよ。嫌だねぇ。それに引き換えお嬢ちゃんは良い子だな。子供はそうじゃなくちゃ。よし! お兄ちゃんとお空からアユモドキ探しに行こうぜ!」
「え? お空から?」
キョトンとするお嬢ちゃんを抱っこすると、ふよんと浮かび上がる。
「「「「え!?」」」」
「ほんじゃいっくぞー」
シュワーっと風をきりながら湖の上を遊覧飛行。
「すごーい! わたしお空飛んでるー!」
爛々と目を輝かせて喜んでいる。中々こんな体験出来ないもんなぁ、キラキラと煌めく水面は綺麗だし風は心地よいしで絶好の空中散歩日和で良かったよ。
「お! キャプテンの船だ。五メートルアップの魚を狙うだけあってイカツイな」
なんかクレーンみたいの付いてるし、本気なんだろうなぁ。どんな人だろ? ちょっと見てみるか。早速キャプテンの船に降り立ってみる。
「こんちわー」
「ちわー」
「はいこんにちは。……いやいやいや! こんちわってお前ら何処から!?」
突然現れた来客にびっくりしてる様だ。湖の真ん中で来客されたらそれは当然だろうがね。
キャプテンは初老のオッサンだった。浅黒く引き締まった身体は漁師っぽさ満点だ。
「俺は旅の冒険者でムサシって言います。この子等にキャプテンのお話を伺ってちょいと寄らして貰いました。
「ちょいと寄れる場所でもねぇと思うがな。どんな話を聞いたか大体想像はつくがな、偏屈なジジイでもからかいにきたか?」
「とんでもない! ロマンでしょ! これは!」
「わたしも主みたーい」
「ハッハッハッ! お嬢ちゃん、見せてやりたいが奴はそう簡単に姿はみせないぜ。さすがに三百年生きてるだけあって必要以上に用心深いのさ」
「うーんざんねん」
「悪いな。ま、釣れたら見せてやるから気長に待っててくれや」
「はーい」
なんか思ってたより気の良いジイさんだな。是非とも釣り上げて欲しい。
そのあと少しお話をしてからキャプテンと別れて岸に戻った。待ってた他のガキ共にも遊覧飛行をせがまれて後三週するハメになったのは言うまでも無かったがね。
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