51 女勇者
その日の夜は昼間の女勇者の件もあるし、念のため夜番は立てる事にした。いくら実力差があろうとも策や罠いかんによっては殺されても不思議はない。寝込みを襲うなんてのは最たる線だろう。
「気持ちよさそうに寝てるな。千年以上生きてる神獣なんてこの寝顔からは想像出来んわな」
テンちゃんもリヴァイアさんもスヤスヤと寝息をたてて夢の中だ。
「探知」
定期的に探知を掛け不審者の接近に注意する。宿屋のご家族と他の宿泊客以外にこの宿屋に人がいない事がわかる。
深夜の小さな村だ、夜中出歩く者もほぼいないに等しい。この静かな夜に襲ってくるのは余程の手練れでもないと難しいだろう。
そんな中、何回目の探知だったろうか、気になる動体が引っ掛かった。
宿屋の中ではない。探知の策的内ギリギリに入る程度の距離がある。宿屋のはす向かいの建物の方向だ。窓からこっそりと様子を窺ってみると、やはりそこには昼間の女勇者がいた。さすがに距離がありすぎて神眼範囲外だった。
「リヴァイアさん、テンちゃん、起きて。お客さんのお出ましだ」
二人を静かに起こし簡単に説明する。
「で、どうしますか? 向こうから仕掛けてくるのを待つか、こちらからうって出るか」
「村に被害を出したくありませんからね、こちらから出ましょう。逃げると思いますけど今回は追い掛けましょう、いつまでもこんないたちごっこ続けていく訳にもいかないし」
なるべく感付かれ無いように接近して取り押さえたり出来ればベストなんだが。譲渡ですむならそれに越したことはない。
テンちゃんが正面から、リヴァイアさんが側面から、俺は少し離れてからバレない様に空を飛び、空中から追い込む事にした。
先ず俺が女勇者の背後の方へ石ころを投擲する。背後に気が向いた所をテンちゃんがダッシュする、そこで攻撃してくれば仕方ない、応戦するが、逃げる様ならおそらくリヴァイアさんの方へ逃げるだろう。
皆が所定の位置に着いたのを確認すると、自慢の鉄砲肩で石ころを投げる。予想通り背後の物音に意識を向けたところに、テンちゃんが猛ダッシュする。それに気づいた女勇者は、案の定リヴァイアさんのいる方向へ走り出す!
「よし! 捕った!」
女勇者の前に躍り出たリヴァイアさんが取り押さえた瞬間。
「消えた!」
ブワッと、霧が晴れたかの様に女勇者の姿が消えた!
「くそっ! ギフトか! 探知!」
その反対側に高速で遠ざかる動体、女勇者だ!
「リヴァイアさん三時の方向に逃げた! テンちゃん副装! 追い掛けるぞ!」
テンちゃんマントをひるがえし、高速飛行で追い掛ける! 制空権を掌握してるのは強みだな!
しかし女勇者もかなりの速度だった。ヘタレ持ち、或いは他のスピードアップのギフトでも持って要るかも知れない。
付かず離れずの距離でひたすら逃げに徹している。だがこっちはまだスピードアップの手段がある。
「テンちゃん追い風と空気抵抗の操作お願い!」
「わかりましたぁ!」
グンッと、ターボの様にスピードが増すと一気に差を詰めてタックルをかますも、
「また消えた! 探知!」
向こうか! また別の方向に走っている。神眼でギフトを見る余裕が無い。厄介なギフト持ちである事は確かだが。
しばらく一進一退の追い掛けっこは続いた。リヴァイアさんはもはや着いてこれていない。もし仲間なりがいたとしたら分断作戦もあり得る、これ以上の深追いは止めようかと思ったところで、
「洞窟か」
「アジトかな?」
「かもね、とにかく中に入って行ったんだ中に居るのは間違いない。リヴァイアさん連れて来るからテンちゃん入り口見張ってて、ヤバそうなら全力で逃げて」
テンちゃんの副装を解いてリヴァイアさんを連れに戻る。結構戻ってしまったが下手に動き回るより良かろうと、リヴァイアさんが判断して止まっていた様だ。探す手間が省ける分その方が確かに早い。この辺の判断はさすがです。
「アジトらしき洞窟を発見しました、テンちゃんに見張りを頼んでます、急ぎましょう」
リヴァイアさんを副装させて高速飛行で洞窟に戻る、テンちゃんが油断なく見張っている。
「お待たせ、なんか動きあった?」
「今のところ何もないです」
奥で待ち伏せでもしているのだろうか? もしくは別の出入り口があるかも知れないな。
「よし! 突入しよう」
洞窟へと潜入して行く。異次元ポケットに収納していた松明を灯して薄暗い通路を進んで行く。
今のところ別れ道が無いので迷う心配こそ無いのだが、敵のホームであればどんな罠があるかもわからないので否が応にも慎重に進まざるを得ない。
探知も定期的に掛けてはいるが、それらしい動体も発見出来ていない。
「やはり別に出入り口があって逃げられたのかも」
「とりあえずまだ先はあるので進んでみましょう」
今は使い魔を装備せずにいる。状況いかんで決めようと思っている。
そして尚も進み続けると開けた場所に出た。空洞化してる空間はかなり広い、そしてそこに女勇者は待ち構えていた。いや、その他に二人の男の勇者もいた。
ここに誘い込む事が罠だったのかも知れないな。
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