5 はじめてのおつか……さつじん
「起きて下さい、勇者様」
うぅむ…… 俺が眠たい眼を擦るとリヴァイアさんが寝ている俺に跨がっていた。
「起きて下さい勇者様、起きて私と楽しい事をしましょう」
「た、楽しい事? それはどんな事?」
「とっても気持ちの良いことです」
言いながら上着を脱ぎ出すリヴァイアさん
「します!します! 楽しい事しまっす!」
「だから起きて下さい勇者様」
「起きて下さい勇者様」
「起きて…下さい…勇者様…」
「いい加減起きなさいポンコツ!!」
パンパン! パンパン!
「いだい!いだい! 往復ビンタで起こすのはやめてやめて!」
「今日は町を目指すのでしょう? 早めに出発した方が宜しいかと?」
「え?あ、うん、えと、楽しい事は?」
「はい? 何を寝ぼけてるんですか? もう2、3往復しますか?」
「すんましぇん、今起きますからご勘弁を」
夢か。だよなー、リヴァイアさんがそんなサービスするわけないよなー。俺はぢぃぃぃっとリヴァイアさんを見つめる。
「こんな綺麗なねーちゃんおるのに生殺しなんて神も仏もあったもんじゃねー」
「また罰当たりな… 天罰が下りますよ?」
「天罰? 当ててみろってのさ! 何が神だよ! 人の人生弄びやがって! 神様のうんこたれー! いんきんたむしー!」
その瞬間、雲一つ無い青空から不自然な程に赤黒い稲妻が走り、俺を貫いた!
ゴガガガガガガガガッッッ!!
「アベベベベベベベベベ!!」
ぷしゅぅぅぅ………
まぢで……天罰……ありやがった……
「天罰って本当にあるのですね… 私初めて見ました」
さしものリヴァイアさんも驚きの表情を隠せずにいた。
この天罰、メチャクチャ痛かった。人生で感じた痛みの中でも、掛け値なしにダントツぶっちぎりで一位といえる。しかしあんだけ痛かったのにダメージは0。とりあえず天罰で大往生と言う前代未聞の帰還にはならずにすんだ。
「リヴァイアさんはここが何処で最寄りの町とかわかるの?」
「いえ、おおよそくらいですね。ゴブリンの草原を抜けた先に街道がありましたよね? 先ず街道沿いに行けば宜しいかと」
全く土地勘の無い俺はその案に異を唱えるべくもなく、街道を目指した。途中ゴブリンがこんにちはするも、もはやゴブリンなぞ鼻くそ程度でしかない。
「よし!街道だ。 さてどちらへ進もうか天の神様の言うとおりなのなのな……」
ネオピアの神様の言うとおりにしたら碌な事になりそうもないが……
「うん、こっちに決めた」
「本当に適当ですね」
「いいんです、特に急ぐわけでも無いし」
上天気のお日様の下、マッタリお散歩はとても気持ち良い。
暫く進むと前方に馬車が見えた。
そしてその脇で斬り合う人間も。
(勇者様)
リヴァイアさんが話掛けてきた。いや、正確にはテレパシーと言うか頭の中に直接語り掛けるのだが。これは装備中ならではらしい。
大剣状態のリヴァイアさんに普通に会話していたら、春先に現れる独り言の激しいアホの子みたいに思われるので助かる。
(勇者様、旅の人が野盗に襲われている様です)
今まさに一対三で戦っている。三人の方が野盗と思われる。
(リヴァイアさん、助けましょう! 援護頼みます!)
(了解いたしました)
俺は襲われてる剣士風の男を助けるべく走りだした。
ヘタレとしてはかかわり合いにはなりたくない事案なのだが、かといって見捨てる程に腐ってもいない。もっとも野盗が手に負えない程であればスルーするが、正直ゴブリンとさほど変わらない気がする。
「そこの剣士さん! 助太刀しますよ!」
「おお! 助かる!」
近づいた俺が声を掛ければ、剣士風の男は少し安堵したようだ。
「なんだクソガキテメェ! おい! このガキも纏めて殺っちまえ!」
リーダー格の野盗が俺を見て子分二人に指示を出す。クソガキとは言ってくれるな。ハンサムガイとか言い方は考えて貰いたい。
リーダー格に指示された野盗は、おう!と応え二人同時に俺に斬り掛かる!
それは剣と言うにはあまりにも……
ではないが、大剣リヴァイアさんを持ってすれば二人同時に撫で斬りにするのには何の問題もなかった。
そしてこれは人生において初の殺人である。あんまり気分のいい物ではないが、悪党相手に慈悲の心を持っていたら命はいくつあっても足りない。そうリヴァイアさんに忠告されていた。ネオピアに来た以上、きっとその時は来るといわれていたのだ。
確かに勇者なら斬り殺しても帰還で済むが、初めからネオピアの住人ならば本当に死であろう。
腹は決めていた。勿論、悪党等に限るが。
「な!? なんだ! なな、なんなんだてめぇは!」
子分を一撃で撫で斬りにされ驚愕するリーダー格。
「問われて名乗るもおこがまし……」
ズシュッ!
俺が格好良く名乗ろうと話し出した隙に、剣士風の男がリーダー格の心臓を後ろから貫いていた。
(どんまい)
項垂れる俺をリヴァイアさんがそっと気遣ってくれた。
「おい! ダネス! 大丈夫か! おい!」
剣士風はリーダー格を殺すと、馬車の上で血を流している男に声を掛けた。どうやら旅仲間が先に野盗共に斬られていたようだ。
(リヴァイアさん!)
(はい、回復します。ヒール!)
俺に促されリヴァイアさんが回復魔法をかける。ダネスの出血は止まり、とりあえず死にはしないようだ。ただ、流した血が多いのかあまり顔色は良くない。気も失ったままだ。
「これは… 回復魔法か! これならダネスも持ちこたえられる! 重ね重ねなんとお礼を申してよいか!」
「いえいえ、礼には及びませんよ。お仲間さんも助かって何よりです」
「剣の腕に恥じぬ剣士のようだな、まさか二人纏めて両断するとは」
「いやぁ、まぐれ当たりですよぉハハハ、それよりこの馬車」
俺が指摘したのは車輪が穴にハマッて出せなくなっていたのだ。
「ああ、先ほどの野盗の仕掛けた罠にハマッちまってな、どうしたものやら……」
コレくらいはリヴァイアさん恩恵の怪力で出せそうだが、あんまり悪目立ちしたくないんだよなぁ…… っても、やらなきゃしゃーないわなぁ。
「ちょっくら失礼して、おいせっと」
「はぁ? あんた一体なんて力してんだ!」
軽々と馬車を持ち上げた俺に剣士風は眼を丸くする。
「いやまぁ、まぐれですよぉハハハ」
「まぐれねぇ」
とりあえずまぐれで押し通す。後の事は後で考える。
「とにかく、改めてありがとう。俺は剣士のトレイバー。この馬車の護衛で雇われたんだが、ご覧の通りの有り様で恥ずかしい限りだ。あんたが来なけりゃ、コイツらの変わりに転がってたのはきっと俺だろう」
野盗の死体を蹴りトレイバーさんは情けない! と項垂れる。
だが、実際は三人相手にやり合っていたわけで、自分だけ生き残る戦いに徹していたらそうでも無かろうと思う。
「何にせよ色々助かった、礼がしたいのだが一緒に村まで乗っていかないか?」
「宜しいのですか? それは助かります」
「よし!なら早速出発だ! そら、乗って乗って!」
人助けはするもんだな。と思いながら俺は馬車に乗り込んだのだった。




