46 イカ・リターンズ
オーシャンビューの大きな窓から射し込む朝日に惰眠から目覚める。
天蓋を降ろしているリヴァイアさん達は朝日が射し込まないから未だに夢の中だ。ちょろっと覗いたらテンちゃんを抱き枕の様にして寝てるリヴァイアさん。テンちゃん羨ましいぞ、代わってくれ。
まだまだオネムな神獣は寝かしといて朝の散歩がてら甲板に出た。
「おお~、気持ちの良い朝だなぁ」
基本的に朝が弱い俺はこんなにスッキリと目覚める事がまず無い。早起きは三文の徳ってのはこう言う清々しい気持ちになれる事自体を指すのかな?
朝の散歩を終えて部屋に戻ると二人共起きていた。
「「おはようございます」」
「おはよう!」
「ムサシ様が一人で起きるとは珍しいですね」
「たまに起きちゃう時があるんですよね。狙っては出来ないんですけど」
「兄様に貰ったお洋服過ごしやすいです」
「そいつは良かった」
テンちゃんにも仲間の証たる?ヘボピージャージをあげたのだ。とても似合ってて可愛いな。
「それじゃ朝飯にでも行きますかね~」
三人揃いのジャージで歩けばさぞかし仲良し兄弟に見えるだろう。すれ違うおばさんが微笑ましい顔で眺めてる。実際は勇者を殺し捲ってる殺人鬼と世界を三日四日で沈める事が可能な怪獣二人です。
そんな不穏当な三人は朝飯を平らげると甲板で日光浴でもする事にした。部屋自体は豪華で宜しいのだが、いかんせんやる事がない。地球の豪華客船とかだと色んな娯楽設備とかあんだがな、ネオピアにそういう客船は無いようだ。船長さんに話したら面白いと言っていた。造ってくれないかな? そしたらそれに乗るのに。
「よーしテンちゃん、石ころをどっちが遠くに投げ飛ばせるか勝負だ!」
「望むところです!」
掛かったな! 俺はギフト鉄砲肩があるのさ!
えーい!と投げるテンちゃん。うん、女投げだね。鉄砲肩使うまでもないや。こっちの世界にゃ野球ないのかな? 野球じゃないにしても球技的なスポーツとかありそうなもんだがね。
「よし、特別にトルネード投法をお見せしよう。うりゃ!」
せっかくだから鉄砲肩ガッツリ使って投げた。うんうん、納得の飛距離だ。テンちゃんも凄~いと感心してるな。
ゴッ!
「こんなものでしょうかね」
そんなドヤ顔満載の俺の記録をあっさり抜く人がいました。ネオピアの怪力番長リヴァイアさんです。あんた腕力が規格外なんだから遠慮せーよ。
「わぁ~、姉様凄い」
石投げ記録ホルダーは三日天下だったな。正確には二秒天下くらいだがな。泣かないよ? 男の子だからね。グスッ。
そんな感じでなんとなくワイワイ時間を潰して遊んでると話し掛けてくる影が。
「やあ皆さんお揃いで」
誰だっけこいつ?
(ムサシ様スロースです)
リヴァイアさんが小声で教えてくれた。なんか既視感。そうだ半目のスロースだ。
「誰かと思えば半目のスロースさん!」
「勘弁してくださいよ~」
カラカラ笑うスロース。勘弁? しないよ。孫の代まで語り続けるよ?
「お三方、船旅は楽しめてますか? 海も穏やかだし実に順調な航海ですよ。ね、言った通りクラーケンなんて出ませんでしょ?」
コイツ! フラグの重ね掛けだと? 職人か? 伝説のフラグ職人なのか?
リヴァイアさんも職人技に引き気味だ。
「ま、まだでも行程の半分くらいですし、油断はしない方が……」
「ハッハッハッ、心配性ですねぇ。大丈夫大丈夫。そんな事起こる訳がありませんよぉ。ハッハッハッ」
フラグ職人はトドメのフラグをおっ立てて笑いながら去って行った。
「アレはアレで名人芸と言っていいのかな?」
「本人に自覚が無いと言うのが厄介ですが」
「僕にも兄様達の言ってる意味がわかりました」
ほんわか穏やかなテンちゃんにまで危機感を抱かせる職人。はた迷惑です。
「こっちに被害が飛び火しない事を祈っときましょうかねぇ」
まあ無駄だと思うとけど……
「クラーケンだぁ! クラーケンが出たぞぉ!」
「「「ほら来た!!」」」
案の定と言うか、これぞ職人技と言うか、見方によっちゃ見事ではあるけども。
「どうします? 行きます? どうせスロースがイカに吊るされてると思いますけど」
「さすがに死なれても気分が悪いです……か?」
「姉様、なんで疑問系なんですか! 助けないと!」
テンちゃんにここまで言われちゃ助け無い訳にもいかないか。とりあえずクラーケンの出た方へ行ってみよう。
「スロースッ!!」
やっぱりスロースがイカの足に捕まってブンブン振り回されていた。スロースのパーティーメンバーが必死に戦っている。
「スロースはイカに何か恨みでも買ってるんすかね?」
「或いは美味しそうに見えるとか?」
「ああ、なるほど。エサ映えですね」
「兄様、感心してないで助けてあげないと!」
テンちゃんは優しいね。いい子だ。
「よっしゃ、テンちゃん武装。衝撃波だとスロースがどこにぶっ飛んでいくかわからんから、弓でイカの足を居抜きます。スロースが足から解放されたら風でソッと拾ってあげて」
「はい! わかりました!」
よーし、狙いを付けてぇ……発射!
ピシュッ! プスッ!
「ぎやぁぁぁ!!」
「「「あ!」」」
「スロォォォースッ!!」
スロースの尻に刺さっちまった! まあ尻なら平気だろ。今度こそ!
ピシュッ! ブスッ!
狙いは違わずスロースを掴むイカの足に命中! イカはたまらずスロースを離す。
フワァッ
「テンちゃんナイスキャッチ!」
「ハックション!!」
ビクッ!!
「あ!」
ドシャッ!!
「スロォォォォォォースッ!!」
テンちゃんが風でスロースを拾ったのだが、後ろにいたリヴァイアさんが盛大なくしゃみをした。思わずビクッとしてしまい、テンちゃんがスロースを落としてしまった。パーティーメンバーの絶叫が聞こえる。やっぱり半目で気絶したか。
「お、おのれクラーケン! スロースをよくも!」
「許すわけには参りませんね」
「え? え?」
素早くイカのせいモードに切り換える俺とリヴァイアさん。テンちゃんはまだまだついて来れないようだ。まぁ慣れだよ。
「今回は逃がさないからな! 覚悟!」
俺は魔弓テンコを振り絞った。
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