4 人間洗濯機
なんやかやで一週間。ゴブリンハントで戦闘技術向上を目指していた、しかし。
「いつまでも野宿は現代っ子もやしっ子の俺にはきつい。この世界の文化にも触れてみたいし… よし! 今日一日は訓練。明日は町を目指して出発するぞー!」
つい先日まで日本の小さな町工場で汗にまみれた日々からはまるで想像も出来んなぁ。
ん? そう言えば向こうの俺はどうなってんだろ? 失踪者?
失踪者なんて腐るほどいるし大した事件でもないか。
つーか帰還したら会社首になってんだろうな。無職はしんどいなー、その辺上手い事神様が便宜してくれると思おう。
そんな事をぼんやり考えながらゴブリンハントする余裕くらいは生まれていた。
「あれ? あのゴブリンちと変だな」
良く見るとゴブリンの集団にやや風貌の違うゴブリンがいる。一回りくらい大きいか? 武器も棍棒ではなく、剣だ。
「ああ、ホブゴブリンですね。ゴブリンの上位種になります。ゴブリンより少し知恵があり、ゴブリンを従えた集団戦術等を使ってきて冒険者を苦しめます、剣や弓を器用に扱えたりもします」
「今の俺でも闘えますかね?」
「特に問題はありません。むしろいい経験値だと思って下さい」
「よし!突貫します!」
いざ戦闘に入れば確かにどうという事もなかった。身に付いたヘタレ根性は良く言えば慎重なんだが、慎重が過ぎるのも考えものだな。
「今の戦闘は良くできましたね。ホブゴブリンから倒したおかげでゴブリン達は混乱して統率をなくしました。落ち着いて各個撃破出来ましたね」
「うーん、でも倒した数はリヴァイアさんのが多いですよねー」
そう、ホブゴブリンこそ俺が倒したが、取り巻きゴブリンはリヴァイアさんの水鉄砲で倒した数のが多い。
「どうですか? そろそろ戦闘に慣れてきたのでは? 特に『勇者』特有の魔法など覚えたりしてませんか?」
「勇者特有魔法? いや、そういう感じは無いですけど…… ギフトは何か増えたかな? BOOK」
[水珠1]
・『使い魔リヴァイア』を装備時に水珠を使用出来る
「水珠ってわかりますか?」
「え!? 水珠を!」
珍しく驚きの表情を見せるリヴァイアさん。レアスキルなんかな?
「それは戦闘中私が使ってるアレです。本来人間が使える様なものでは…」
なんかブツブツと考え始めるリヴァイアさん。
「まぁ、魔法が使えない現状どうあれ水珠を覚えられたのは僥倖です。魔法の様なものですから」
ほう、それはラッキーだ。どれ
「水珠!」
ふよん
あ!でた!実は羨ましかったのよコレ!
遠距離攻撃だもんね。よーしやってやんよー
「撃てーっ!!」
今必殺の水鉄砲が発射された
チロチロチロチロ
ジジィの小便の様な…………
「こちらも精進が必要ですね、勇者様」
「はい。頑張りましゅ」
泣いてない。俺は決して泣いてない。ただ目からしょっぱい汗が流れてるだけさ……
野営地への帰り道、二人でテクテク歩く中、俺はある提案をしていた。
「リヴァイアさんとの心の距離が遠いと思います」
「また面倒臭い事をいいますね」
「そんなハッキリ面倒臭い言わんで下さい。やわなハートが傷付きます」
なんだかなぁ的な視線を向けるも、
「では、どうやってその心の距離を縮めるのです?」
「俺の事も名前で呼んで下さい。村山武蔵というカッコイイ名前です」
「村山、パン買ってこい」
「あ、カレーパンでいいっすか兄貴!って、名字! しかも呼び捨て! あげくパシリ!」
「では武蔵」
「違う! なんか違う! 愛がない!」
「武蔵が名前で呼べといいました」
「なぜ呼び捨て!」
「なぜでしょう? さんや様を付けたらきっと負けだからですかね」
「負けって! じゃあもう名前じゃなくていいです! もっとこうフレンドリーな奴を!」
「ヘタレ」
「悪口です!」
「ポンコツ」
「やっぱり悪口!」
「ポカ○マズ」
「それはロ○の勇者!」
「ふぁいとー」
「いっぱぁぁぁつ!!」
「真面目に考えてませんねぇぇぇ!!」
「はい、まったく」
「しくしくしくしく」
「あ、泣いた。まったくこの人は…… わかりました、なんて呼んで欲しいのですか?」
「じゃあダーリンで!」
「却下です」
今晩のディナーは
カエルさんでした、ケロケロ。
見映えこそアレでしたが結構俺は好きかも。ただボリュームは期待できないよね。
それより問題がある。
体が臭いのだ。
ガッツリ動いて汗だくで風呂入ってなきゃそりゃあなぁ……
当然リヴァイアさんも辛かろう、女性だしな。
「リヴァイアさん、ちょっとこちらへ」
「? なんですか?」
クンクン…… あれ?いい匂い?
ズビシッ!!
「デリカシー! いきなり女性の匂いを嗅ぐとか何考えてるのですか!」
渾身のチョップを食らった。痛い痛い。
「いや、風呂入って無いから臭くてさ、リヴァイアさん臭く無いですよね?」
「私は魔法でケアしてますからね」
「自分ばっかズルい! 俺もやって下さい!」
「はいはい、ではいきますよ」
リヴァイアさんが言うや、俺の足下から俺を包む様に水泡が貯まってくる。
「え!ちょ!ガボガボガボ」
完全に水泡に包まれると水泡の中はさながら洗濯機の様に回転をする。
「ガボガボガボ ガババババ ガボガボガボ」
ペッ! 人間洗濯機が終わると吐き出された。不思議な事に全然濡れてない。魔法とは不思議で偉大だ。コレで雑じゃなけりゃ完璧なんだが……
「はい、もう臭く無いですよ」
「あ、ありがとうございます、でも次からはも少し優しい感じでやって頂けると……」
「前向きに検討はします」
薄汚い政治家の様な返事だな。
よし! リフレッシュしたし、明日はいよいよ町に向けて出発だ。




