37 ギフト獏の力
「ムサシ様大丈夫ですか!」
ハッピーバレンタインの高らかな前口上の間にテンちゃんが俺の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫かと問われれば大丈夫。でもすごーく痛い」
先程アレクサンドルにやられた背中はざっくりと斬られているものの、今すぐどうこうと言う様な深手でもない。とっさに放った衝撃波のおかげだ。
「見せて下さい! 僕が治します!」
テンちゃんは言うなり俺の傷口に手を当てる。
「え!? 回復魔法!?」
「はい! そんなに強い回復は出来ませんけど」
いや、その歳で十分ご立派だと思いますよ。おかげ様ですっかり傷は癒えてしまった。
「よし、傷も癒えたしハッピーを」
「援護するのですね!」
「いや、しないよ」
「え?」
うん、鳩が豆鉄砲食らったような顔してるね! 可愛いぞ!
「アイツに援護なんて必要かね? スーパースターなんだから一人でなんとか出来るだろ。俺達は全力で応援しよう」
「お、応援ですか……」
ちゃんとした理由あっての事なんだがな。ギフトスーパースターは愛を力に変えるらしいからな、子供達の応援なんてご馳走だろうよ。
「よーし、みんな! スーパースターを応援だ!」
良い子のみんなは手を挙げてはーいと返事をすると、
「おじちゃんがんばれー!」
「負けるなー!」
「キモいんじゃ胸毛野郎ー!」
「おじちゃんパンチいけー!」
ハッピーバレンタインに応援の言葉を次々と投げかける!
「おお! 皆の声援が私に無限の力を与えるぞ!」
ハッピーバレンタインの筋肉がパンプアップされてゆく! どうやら効果は絶大な様だ。
「いけー! おじちゃーん!」
「がんばれー!」
「赤い全身タイツ引くわー! シャ◯かよ!」
「負けないでー!」
「さっきからどさくさ紛れに悪口言ってるのは少年だな! まぁよい、ブーイングも人気の内よ!」
チッ! ポジティブめ。
「応援を力に変える? 厄介なギフトをお持ちの様ですね。貴方達は暫く寝ていなさい」
アレクサンドルが子供達に振り向くと睡眠を発動させる!
バタバタと眠りにつく子供達、俺とテンちゃんはかろうじて回避できたが。
このまま起こさずに寝かしておこう。まだ子供達の夢を食い続ける予定だから、あえて殺さずに寝かしたのだろう。下手に起こして邪魔と判断されたら殺されるやも知れん。
「なんと! 子供達をよくも! ゆくぞ悪漢! 正義の鉄槌を受けるが良い!」
ハッピーが踏み込んだ! 先程の俺との戦いより速度が上がっている。応援の効果なのかはわからんが。
「貴方の方がよっぽど悪漢らしい格好してますがね。貴方も眠りに堕ちなさい!」
突っ込んできたハッピーにアレクサンドルは睡眠を掛ける!
「フハハハハ! スーパースターには効かぬわぁ!」
「なに!?」
ハッピーバレンタインはまったく動じる事なくパンチを繰り出した!
ギィィィン!
パンチを槍で受けるアレクサンドル。睡眠がまったく効かないのはさすがに想定外だったか一瞬驚くも、ハッピーパーンチは防ぐ。
ハッピーバレンタインは状態異常耐性を持っていたからな。睡眠のレベルがもっと高かったら効いていたかもだが。
「睡眠がまったく効かないとは驚きです」
「フハハハハ! 私のパンチを受け止めたのにも驚いたぞ!」
「それを言うなら我が槍で貫けていないその拳の方が驚愕ですがね。しかしこれは調度良いでしょう。数多の夢を食らい続けてきたこの力の検証にはうってつけの相手です」
アレクサンドルはオモチャを与えられた子供の様な笑みをたたえると、手にしている槍を高速で連続突きを放つ!
「さぁさぁ! まだまだ序の口ですよ?」
「フハッ! フハハ! フハハハハ!」
まるで槍を生き物かの如く変幻自在に繰り出すアレクサンドル。それでもその顔には未だ余力を残した余裕を感じられる。
それをパンチで迎撃するハッピーバレンタインも凄まじいのだが、アレクサンドル程の余裕は無さそうだ。なぜか笑いながら捌いているので殊更気持ち悪い。
「素晴らしい! これだけの攻撃を傷一つ無く受けきる! 貴方のギフトには興味が尽きませんね! さあ、ギアをあげますよ!」
更に速度を増すアレクサンドルの連続突き。槍術のレベルもそれなりにあったが、そこはハッピーバレンタインの格闘も然り。本来なら均衡する筈なのたが、
「グッ! クッ! フハッ!」
ハッピーバレンタインはアレクサンドルの連続突きの前に被弾し始める。そしてそれは鉄壁を誇っていたスーパースターギフトの防御をも貫き始めていた。
これがアレクサンドルのギフト[獏]の能力か。
他人の夢を食らい吸収して己の力に還元する。
正直そら恐ろしいギフトだよな。俺は必死こいて修行してきたのに、このギフトは修行いらずだ。これも限り無くチートギフトといえるだろう。
「どうやらご自慢の防御力も底が見えてきたみたいですね。さて、もう一段階ギアを上げますか」
アレクサンドルの攻撃が猛烈な勢いでハッピーに襲い掛かる。目に見えて被弾率が高まっている。
「こりゃ旗色悪そうだ。ちょっくらハッピーを援護してくるよ」
「あ、なら僕も」
「こりゃこりゃ、君はダメだ」
勢い込んで戦おうと躍り出たテンちゃんの首根っこをむんずと掴む。
「危ないからテンちゃんは後方支援。回復要員として頑張ってくれたまへ」
ビッと敬礼してやると、わかりましたぁーとテンちゃんも敬礼し返した。可愛い。
よし、ハッピーと二人がかりでぬっ殺してやんよー!
こっそり背後に回って衝撃波お見舞いしてやんよ! ヒヒヒヒヒヒ!!
汚い? おいおい、忘れておいでかい? あたしゃヘタレ勇者ぞ! 今こそ見せん! ヘタレの真骨頂背後攻撃!
だっしゃオラ! 食らいやがれ!
ドンッ!
「がっ!?」
俺の放った衝撃波は見事にアレクサンドルの背中にヒットした。しかしギフト獏により強化された体には倒せる様なダメージではないようだ。
「クッ! 貴方は!」
バカちんが。ハナから俺の衝撃波で倒せるとか思っちょらんわい。いいのか? 俺なんか気にしてる場合か?
「フハハハハ! 私を相手によそ見なぞ愚の骨頂よ! ハッピーぃぃぃマァグナァム!!」
ドッゴバァァァァ!!
俺に一瞬気を取られたアレクサンドルの顔面に、ハッピーバレンタインの超絶フックが突き刺さった!!
何がどうマグナムなのかはわからない!
爆ぜるかのような強烈なフックを浴びたアレクサンドルはボロ雑巾の様に吹っ飛んだ!
おっし! チョロイもんだぜ!




