23 ラーマン
ヨルムさんの道場を手伝い始めて一週間が経った。
ラーマンの道場とは、門下生同士の軽い小競り合い程度は数回あったものの、大問題とまでは至らない。これなら近いうちに延び延びになってた出発も出来るかな。なんて思ってればフラグも立つってもんよ。
「たたた大変だぁ~!!」
ほらな。血相変えて道場にやってきたのはトンチンカンのチン。単独だと倫理的に問題がありそうな名前だ。
「慌ててどうした。何が大変なんだ。五文字以内で纏めて説明しろ」
「え! 五文字? え~と」
「はい、文字数オーバーです。死んで下さい」
「兄ぃ達ムチャクチャが過ぎるぜ……」
「ほいほい、冗談はそこまでじゃの。で、何があった?」
「そうだ! ラーマンのおっさんが風牙を討伐に行くって! 今広場で有志を募ってる!」
「はぁ!?」
「バカな!! アイツはまた同じ愚行を繰り返すつもりか!!」
ついに動いたかと思えばこれか。ネームドモンスターの討伐なんて懲りたんじゃなかったのか?
「とにかく広場へ向かうぞ、いくらなんでも風牙の討伐は阻止するんじゃ」
広場に着くとかなりの人だかりが出来ていた。中心で何やら叫んでいる男がいる。きっとラーマンだろう。道場主とは思えない太っちょだ。
「おい! ラーマン! 風牙の討伐なんて止めるんじゃ! ひどい目にあったのを忘れたのか!」
「おやおや、誰かと思えばヨルムさんとトロールグレートを倒した英雄様ではないですか?」
さっそく嫌味か。門下生の何割かがうちに流れたらしいからな、恨み骨髄ってとこか。
「ひどい目にあった? 一体いつの話しをしているのです? 私の道場はあれから血の滲む様な修行の日々でしたからね。当時とは比ぶるべくもない」
この太っちょが修行の日々ねぇ。俺ですらネオピアに来てからちょいポチャが引き締まったんだぞ? 修行してないのは明らかだろ。
「風牙の強さは知っておろう! ましてや町民の有志を募るなぞ言語道断じゃ!」
「なに、前線に立つのはうちの門下生です。それに英雄様も勿論いらっしゃいますよね? なら危険はないかと」
やっぱり狙いは俺か。どさくさ紛れに殺っちまおうって腹が見え見えだな。
「皆も以前何が起こったか忘れたのか! 考え直すのじゃ!」
「はいはい、臆病者の爺さんにまで来てくれとは言いませんよ。でも邪魔するのはやめていただきたいものですね」
ヨルムさんの必死の説得もどこ吹く風だな。これはちと旗色悪いな。
「ヨルムさん、だめだコイツは。何言っても聞かないタイプだわ。一旦退こう」
熱くなり過ぎてるヨルムさんをなだめてとりあえず道場へと戻った。
「どいつもこいつも狂っておるわい!」
怒り心頭だな。まぁ息子さん夫婦の事もあるしな、仕方ないか。
「にしてもですよ、ラーマンとこの門下生が前線張るにしても民間人がそこまで参加するものなんですかね? 命懸けですよ?」
「翡翠じゃよ」
「ああ、確か良質の翡翠が取れるとかでしたね」
「この討伐に参加した者、より手柄が大きい者から優先して鉱脈の採掘権が得られる。以前の翡翠の旨味を知っとる者なら欲に目も眩むだろうよ」
人間の欲ってのは果てしないもんだな。手前の命を掛けるってんだから。
「あれでは取り止めたりなさそうですね。でも本当に風牙に勝つ自信あるのかな? でなきゃ自殺行為ってくらい自分でもわかってるだろうに」
「わからん。さっぱりな。一体何を企んでおるのやら。とにかく、おそらくラーマンの狙いはムサシ、お主じゃ。無理に付き合う事は無い。危険過ぎる」
「そうはいきませんよ。名指しでああ言われちゃ退けない。ヨルムさん1人の方がよっぽど不味いですからね。むしろヨルムさんこそ残るべきです。ユッコちゃんの事を考えたらね」
ああはっきり言って行きたくないさ。俺だけの問題ならバカにされようがコケにされようが気にしないし。リヴァイアさん曰く修行した今の俺達でも勝ち目は薄いらしい。そこにド素人を連れ歩くわけだ。腹にダイナマイトくくりつけてヤクザの事務所に特攻するくらいバカげている。
でもヨルムさんが行く以上は仕方ない。何かあったらユッコちゃんは天涯孤独になっちまう。寝覚めの悪そうな事態は避けねばならぬ。
「欲に目の眩んだバカ共とはいえ、本来は気の良い連中なんじゃよ。ほってはおけんからの」
それにほったらかしたら息子さん夫婦にあの世からドヤされると、カッカッカッと快活に笑ってみせるヨルムさん。仇討ちとか考えてないだろうな。
討伐の準備をして広場に戻ってみれば、参加する連中も粗方準備を済ませていた。
酷いもんだな。装備らしい装備の者などほぼいなかった。まともそうなのは冒険者ギルドで見知った顔、つまりは冒険者なのだろう。普段着にその辺の棒っ切れ持っただけな奴もいる。
「遠足じゃねぇんだぞ……」
「ムサシ、とにかく風牙の姿を見たらコイツ等とて自分の愚かしさに気付くじゃろうて。後は撤退の手助けに専念しよう」
そうは言っても被害者が0で済むとは思えないがね。やるだけやりましょうか。
「皆さん準備はよろしいですか? それでは風牙討伐、出発しますよ。エイエイオー!」
この野郎緊張感のカケラもないな。なに企んでんだか知らんが、コイツが1番の要注意人物だからな。極力目は離さないようにしないとな。




