2 使い魔はリヴァイア……さん?
…う、ううむ… 神様に異世界に転移させられたらしい俺の視界が薄ぼんやり開けてくると…
「グゲッ!?」
「小鬼ぢゃ!小鬼がおる!パ○ーに良く似た小鬼がおる!」
そうです。小鬼です。ファンタジーゲームなんかで出てくる所謂ゴブリンでしょうか? いきなり俺が目の前に現れたせいか、もんどりうってコケてます。
「グゲーッ!!」
お互い突然過ぎてしばしお見合い状態になるも、ゴブリンは我にかえると手にした棍棒を振りかざし襲ってきた!
「ひぎいぃぃ!! お助けぇぇ!!」
三十六計逃げるになんとやら! 無理無理無理! 神様よ!もうちょい転移先なんとかなんなかったのか!
「はぁ…はぁ…振り切ったか」
どうやらゴブリンは諦めたようだ。幸いにも足はさほど速くないらしい。
「グゲゲ?」
「ん?」
「グゲーッ!!」
「また出たぁーっ!!」
今度は逃げた先の前方に現れた!
「ご、ゴキブリが如く逃げれ~!」
と、兎に角落ち着ける場所まで逃げ続けるしかない!って言ってる側から別のゴブリンがひょっこり!
どうやらこの草原はゴブリンの群生地なんだろう!少し奥に見える森まで逃げよう!
なにしろ犬も歩けばでは無いが、勇者も走ればゴブリンに当たる。逃げる先からあっちこっちとゴブリンは現れる。
逃げて逃げてひたすら逃げてる最中に、逃げるコツ?良く解らんけど振り切るのが容易くなった気がした。
「ぶはぁぁっっ!! ハァハァ…ハァァァ こ、ここまでくればハァハァ身を隠せる所もあるだろうゼハゼハ」
どうやら転移した俺は無事人間であるようだったが、運動不足、チョイポチャ[良く言えば]だった為、全力疾走に息も絶え絶えだ。
途中なぜか逃走が楽にならなければ確実にフルボッコ即帰還コースだったろう。
そしてちょいと森を散策したら小川が見えた。
「コレはありがたい」
猛ダッシュのおかげで喉はカラカラだった。
ふぅぅ。喉を潤すと川に自分の顔が写ってる事に気付く。あらいやだ、イケメンじゃないのさ!
冗談抜きで俺はハンサム。これだけは両親に感謝しとる。こないだ二十歳になったばかりなのだ。
「しかしだ、コレはあまり喜ばしい状況じゃないだろ! そもそも武器もなしに放り捨てるとかあんまりだろ!」
実際ゴブリンとはいえ、ケンカすらろくにした事無い俺が素手でどうこう出来るわけもない。
「武器ならありますが?」
「へっ!?」
どこからともなくそう聞こえると、俺は辺りをキョロキョロ見回すがだれもいない。
「だ、誰かい、いるのか!」
ヘタレ全開で叫ぶ俺、すると俺の目の前の空間がにわかに光出すとある形を作る。
大剣だった
大剣は青をベースとした鮮やかな一振りといえた。
「お望みの武器です。どうぞ」
ぶっきらぼうとも取れるあまり抑揚のない口調は女性のそれと思われるが、やはり誰もいない。
「だ、誰なんだ!俺をどうするつもりだ!」
ビビりますよ。ええそれはもう。
「何もしません。勇者様の目の前にいます」
へ!? 目の前? 大剣が地面に突き刺さっちゃいるがって、もしや?
「剣がしゃべったのか?」
「半分正解。半分不正解ですね」
大剣はそう言うとまた光輝き始め、人形を形成し始めた。光が収束すると一人の女性が立っていた。
「はじめまして勇者様。勇者様の使い魔になります。以後、宜しくお願いします」
彼女はそう言うと恭しく御辞儀をした。なんと言うか、執事風に。いや、だって執事服着てんだよ。
銀髪っぽい髪は短髪で整えられて、なんだろ?透明感ていうの? 色白超絶美人! いや、俺が今まで美人と思ってた人達なんて便所コオロギみたいなもんだよ実際。
すいません言い過ぎました。便所コオロギは俺でした。隅っこの方で群生するしか能がありません。
ま、まぁ兎に角美人です。スタイルも服の上からでもわかる程に出る所はでて、引っ込む所は引っ込む。完璧です。
ただ、表情が全くありません。クールビューティーっていうのかな?男装の麗人なんて言葉がしっくりくる感じ。
そんな美人が目の前にいたらすることは一つ
「おねいさん、結婚して下さい。そして郊外に小さな喫茶店を開き、夫婦でほっこり経営していきましょう。子供は一姫二太郎がいいですね」
俺は彼女の両手を掴み、しっかと目を見る。
彼女は一瞬目を見開くも、スッともとに戻り
「使い魔に求婚する人は初めてです。しかもいやに現実的な人生設計で」
「と、とりあえず婚前交渉を、むちゅう」
ズビシッ! 情け容赦のないチョップが俺の顔面をとらえる
「アホな事やってないで今後について考えましょう」
うう…痛いけどそうだな
「ところで使い魔って猫とかじゃない?普通」
「では普通ではないのでしょう」
ぶっきらぼうだ。でも美人だから許す。
「さっきゴブリンの時なんで出てくれなかったの?」
「逃げっぷりが愉快でしたので」
どうしよう? 怒ろうかな? いや、美人だ許そう。
「チョップ痛かったよ?」
「ざまぁないですね(笑)」
よし、打とう!
ズビシッ! 俺のチョップを避けたおねいさんのカウンターチョップが無慈悲に俺を捉えた
気を取り直し
「俺さ、このネオピアですか? 全然わかんないんですよ。で、勇者バトルロイヤルってのをしなくちゃなんなくて…」
ここで俺の経緯を説明した。さすがに使い魔ったら、ほぼ相棒みたいなもんだろう。力になってくれるはずだ。
「はい。おおよその経緯は神からも聞いております。まずは戦闘訓練が必須ですね。ちなみに勇者様のギフトは?」
「そう言えば確認してなかった、えーとBOOK」
BOOKと唱えるや否や目の前に一冊の本が出現した。ギフト目録と書いてある。お歳暮選ぶカタログじゃありまてん。
早速開いてみると、俺の所持ギフトと思われる物が表記されていた。
[使い魔1]
・使い魔を所持出来る。使い魔を武器状態で装備すると使い魔に見合ったステータスアップの恩恵が得られる。
所持使い魔
・名前未登録 腕力特化型 属性水
[ヘタレ1]
・敵に背を向けて逃げるとき、速さ、スタミナ、物理防御、魔法防御にボーナスが得られる
いや、ヘタレて……また後ろ向きなギフトだな……
ゴブリンから逃げてる最中に急に逃げやすくなったの、きっとコレギフトされたんだろ…… でも悪くはないよな、うん。そう思おう。そう思わないと目からしょっぱい汗が止まらん。
「なるほど、私はギフト扱いだったのですね。私を装備することによりステータスに恩恵ですか」
「うん。試してみたいのでちょっと剣になってみて貰えますか?」
どうぞ、と、大剣に変貌するおねいさん。しっかり掴んで装備する。
「なんでしょう…… いざステータスアップとか言われても何の実感も湧かないなぁ、ちょっと木でも斬ってみるか」
サクッ ギィィィ……ズダァァァン!!
「へっ!?」
軽く。そう、俺の胴体くらいの木を軽く斬ったら実にあっけなく寸断した。
「すげぇぇぇっっ!! なんじゃこりゃあ! 俺全然力入れてなかったのに!」
「確かに恩恵は得られているようですね。これなら私を装備さえしていればこの辺のモンスターなら問題ないでしょう、実戦で勇者様の戦闘技術向上の為に倒し捲りましょう」
「うん。わかった。ところでおねいさんお名前は?」
「私ですか?リヴァイアサンです」
「『リヴァイア』さんですね、登録っと!」
かくして、ベタな勘違いが幕をひらいたのである。