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月夜の雫  作者: 榊燕
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〜第二章ギルド〜其の三

     [月夜の雫〜第二章ギルド〜其の三]





  「まずは武器と防具を揃えたいな」


 寝坊して、少し遅めの昼食を酒場で取り終えた雫達は、まずはどうしようかといった話になり、まずは……と雫がそう言ったのだ。

 昨日ギルドで団を立ち上げた後、すぐに宿屋に行き眠ってしまった為、何も用意ができていなかった為だ。


  「そうだねぇ〜さすがに丸腰って訳にはいかないからね、我等がリーダーが何も装備してない状態だったら少し情けなさすぎるっていうのもあるから、あたしは賛成だよ」


 楽しそうにからからと笑いながらそう言い、雫の意見に賛成してくれる。


  「そうですね、私も周りにばれないように家を出てきてしまい何も準備できてないのでまずは武器と防具揃えてしまいたいです」


 クリスも雫と同じように武器と防具を一切用意していなかった、サラはクリスの言った発言に少し驚いたようにその疑問を投げかける。


  「クリスあんた……もしかして家出してたのかい?」


  「あはは、いえ、少し違います、サラさんは御存知のようですが私の家はサイラック家という比較的裕福な家庭でした、ただ先日両親が亡くなりましてその遺産や権利と言ったものを私しかいなくなった本家から取り上げる好機と叔父が色々と悪だくみしていましたので、巻き込まれ周りに迷惑をかけない内に家を出てしまったのです、いつか自分自身で問題を解決できるようになるまでは冒険者として過ごし経験を積もうと思ったんですよ……今更ながら自分で話してると家出ですよね」


 そう言ってクスクスとなんでもないかの様に笑う。

 クリス自身両親の事はしっかりと整理がついており、遺産関係や叔父の問題を自分で解決するために経験を積もうと努力しやり遂げる覚悟も持っているらしい、見かけによらず芯が強い少女だ。

 そんなクリスを見て、やっちまった!と言った感じで謝ろうとしたサラを雫が止めた。


  「謝るなよ、クリスにとってその話題は謝られることじゃない普通の話なんだ、もう整理もつき覚悟もしている何でもない世間話の延長上でしかないはずだ、そんな彼女に謝罪は侮辱以外の何物でもないぜ、まぁクリスは大して気にしないとは思うが、それでもな?それならクリスと同じように何でもない事のように普段通り話した方がクリスの為になるだろうさ……まぁおそらくだけどな」


 そう言って肩を叩いて笑いかけながら、前を歩きだした。

 もちろん今の話はクリスに聞こえないようにサラにだけ呟いた言葉だ、サラは頭を軽く描きながら「あんたについていく事を決めたのは大当たりかもしれないね」と小さく口の中だけで呟き雫の後を追いながら、何でもないように話を続けた。


  「ん〜確かに微妙に家出とは違うかね、まぁどこにでも嫌な奴はいるって訳だね」


  「そう言う事だな、まぁ折角知り合った仲間だ俺たちに出来る事があれば全力で助けるぜ、クリス意外と頑固そうだから中々助けを求めなさそうだけど、本当に駄目だと思ったときくらいは助けを求めてくれた方がこっちも嬉しいからな、一人であまり抱え込むなよ」


 流石はサラ、人生経験を他の二人より長く積んでいるだけはある、ちょっとした雫のアドバイスを次の瞬間しっかりと実践しているのだから、そのサラに続くように雫もそんな事を言いながらクリスの頭を撫でていた。

 クリスはどこか照れくさそうにしながらも嬉しそうに「ありがとうございます!」と俯いた、その頬は少しだけ赤くなっているように見える。


  「さぁて、んじゃまぁ三人とも意見が一致したところで武器防具屋を探すとしようぜ」


 そう言って雫がクリスの頭から手を離し先頭に立ち歩き始める。

 少し残念そうにその手を見つめながら、しっかりと頷き雫の後に続き、サラも軽く「あいよ〜」と言いながら雫に続いた。

 メインストリートを三人が周りを気にしながら歩いていく、武器と防具屋は何店かありはしたが、どの店もいまいちというか、雫とクリスが見てもあまり分かりはしなかったが、サラからすると粗悪品しか扱っていないような悪徳商店だったらしい。

 しばらく歩き続けると、雫は何かに気を取られたかのようにある一点を見つめいきなり動きを止めた。

 その一点とは薄暗い裏街道へ続く道だ。

 雫は周りが何も見えていないかのようにそこだけを集中して見つめ続ける。

 そんな雫を心配して、クリスが声をかけようとした時、先手を取るかのように雫が一言つぶやいた。


  「こっち……」


 そう言っても全く見動きはしない、出鼻を折られたクリスだが、そんな事はやはり気にしてないらしく、その雫の言葉にどういう事だろうと思いながらその視線を追っていた。


  「雫そっちは裏街道だよ、なるべく近寄らない方がいいと思うけどね」


 先に雫の視線が向いてる所に気づき、そう忠告をするサラ、それでも雫はまるで聞こえてないかのように歩き始める。


  「こっち……こっちに……」


 少し早目の歩調で歩く雫、それをかなり驚いたようにサラとクリスは見ていたが、おいていかれそうな事に気づき慌てて追いかけた。

 確かに危ないところではあるものの、そこまで危惧する所でもない……とは言い切れない場所だが、それでも雫についていくと決めた二人は、後に続き、可笑しくなっている雫にもしもがないように警戒しながら歩き続ける。

 十分ほど歩いた頃、目の前に木の扉が現れた。

 現れたと言っても、元々この場所にあり雫達がそこにたどり着いただけなのだが。

 その家は扉は木のとても古いものだが、周りのレンガみたいなものや奥に立っている大きな煙突からどうしてもそのまんまの印象は受けられない、普通にどこか不思議な家だと誰もが思うだろう。


  「……すまねぇ、何でか解らないんだが、ここに来なくてはいけない気がしてな」


 何なんだろうなこの不思議な感覚、何と説明していいかわからないそれは、実際本人が受けてみないと解らないものだ。


  「気にすんなよ、雫が逆の立場になったら同じく行動するだろう?仲間なんだから謝るんじゃなくてお礼でもいってほしいね」


  「そうですよ!付いてきたのは私達の勝手ですし、何より私は雫さんに付いてい行きたい思ったからついてきたんです、謝れると私も少し悲しくなってしまいますので、謝らないで下さいね」


 そう言って二人は笑いあう、そんな二人に少し顔を俯かせながらも小さく、聞こえるか聞こえないかの大きさでありがとうと呟いた。

 そんな二人を背に、その扉に向きなおった雫は、静かにコンコンと扉を叩いた。

 数秒……。


  「はい、どちら様かしら?」


 ギィィィという音と共にその扉が開かれ、出てきたのは年老いた老女だった。

 背筋は少し曲がり始め、杖がないと歩くのも大変そうな老女なのだが、どうしても見た目と同じ印象を受ける事はなかった、どこかとても生き生きとした生命力に溢れ、杖がなく、腰も曲がっていなければ老人という話が信じられないくらいだ。

 その老女は雫をはじめに三人をゆっくりと見回すと、最後に雫の腰に携えられている虹に注意がいった。


  「申し訳ありません……何故か自分でも解らないのですがここに来なくてはいけない気がしまして……可笑しいですよね自分でも解ります……それでもどうしてもここに来なければ……いえ、ここに来たい、そう感じてしまいお邪魔させていただきました、失礼だろうと思います、すぐに帰りますので少しだけお邪魔させていただいてはいけませんか?」


 説明と共に静かに頭を下げる雫、老女はそんな雫と腰の虹を見つめ、嬉しそうに優しく微笑んだ。


  「いいえ、可笑しい事なんて何もありませんよ、七色を携えし者、どうぞお入りください私たちは貴方様をお待ちしておりました」


 老女はそう言うと、家の中に三人を入れるように入口から身を引いた。

 その返答に驚いたように雫は老女を見、サラとクリスは老女の発言に驚いたように雫を見る。

 だが、いつまでも驚いているわけにもいかないので、まずは三人とも家の中に入ることにした。

 家の中は外から見ればかなりの広さに見えたものの、そうでもなく、奥にある扉が見えるのであの奥に広めのスペースが広がっているようだ。

 居間の椅子に腰を下ろすと、地下に続く階段から一人の女性が昇ってきて、雫達を見回す、老女と同じように三人を見回した後雫の腰に携えられている虹を見て大きく眼を見開きとても嬉しそうに笑いながら老女のほうに走りだした。


  「婆ちゃんとうとうかい!私の時に来たのかい!」


  「ええそうね、間違いないと思うわよ、彼自身自分ではどうしてここに来たかを解っていないみたいで、それでもどうしてもここに赴かなければいけないと言ってましたからね、とうとう現れました……今こそ我が一族の技術をこの御方に受け取ってもらうときです」


 そんな二人の話は内緒話でもないようで、雫達にも普通に聞こえていた。

 ただ、不思議そうにしているのは雫だけであり、サラとクリスは考え込むように雫をじっくりと見まわしている。

 そして老女と女性と同じようにサラもクリスも雫の腰にある虹で視線が止まり、それを見つめているうちに驚きにその表情を変えていく。


  「……不思議で面白い奴だと思ってたけど……雫あんたが虹を携えし者……なんだね……」


  「驚きました……あの方に言われるまで全く気付きませんでした、なぜもっと早く教えていただけなかったのですか?」


 二人は驚いた表情で責めるようにそう聞いてきたが、雫にとって何の話か全く解っていない、虹に話しかけてもこの家に入ってから全く反応がなくなっている。

 仕方なく、サラとクリスにその話は何かと聞くと、少し気が抜けたように溜息をついた。


  「ああ、本当にあんた物を知らないんだね……ってそうか、もしかしてあんた異世界から来たって言うのも本当なのかい?それなら仕方ないのもうなづけるね」


 雫の知らないところでは何やら有名な話らしく、雫が異世界から来たことすら知られているらしい。


  「……はぁ、確かに今更誤魔化すのも面倒だし、仲間に何時までも嘘をつき続けるのも嫌だからな、二人には言っておく、確かに俺は異世界から来たと思われる、俺の住んでいた世界に魔法なんてものもなければこんな武器と防具を必要とする場所もない、何より闇者と呼ばれるようなものは存在すらしないからな、ちなみに俺はこの世界に来てからまだ三日目だ、正直に言うとほとんど何も知らないに等しい……こんな俺でもまだ仲間として認めてくれるなら……これからもよろしく頼む」


 サラの異世界発言に諦めたように雫は自分の事を話し始め、最後に少し悲しそうに二人をみて、頭を下げる。

 頭の上から呆れたように溜息が洩れる、その音に頭を上げると馬鹿だなぁと言った感じで二人が雫を見つめていた。


  「何を今更……異世界から来た奴だろうがこの世界の奴だろうが、雫は雫で変わりないんだろうが、そんな程度で見限るような人間に見えるなんて心外だね」


  「全くです、私達は先程もいいましたが、自分達の意思で雫さんに付いて行くと決めたんですよ、今更異世界から来た、それだけで見限るような覚悟で付いて来たわけではありません、仲間とは……私はそう思っています」


 そんな二人の言葉に雫は思わず泣きそうになった、だが今ここで泣いてしまえば色々と尊厳やら何やらが大変な事になってしまうので必死に我慢する。

 我慢しながら歯を食いしばり、一言「本当にありがとう」と二人に言って、深呼吸の後思いっきり二人に微笑んだ。


  「ありがとう……でもそ七色を携えし者ってなんなんだ?」


  「ああそうでしたね、異世界からきたのであれば知らないのも無理はありませんよね、七色を携えし者というのは、私たちの世界に伝わる御伽噺の一つで、伝説の一つでもあります、簡単に説明してしまいますね」


 その前置きから、クリスの説明が始まった。



  虹を携えし者というのは、この世界を救うと言われている人です。


  ただ他の御伽噺や伝説と違い、その者は勇者や英雄と呼ばれる事はあまりないそうなんです、七色を携えし者は人知れずその世界の危機を救う人であり、決してそれを人々に誇張する事もなかったそうなんです、昔のその人の事なんですけどね。


  この世界に亀裂が入り、ほっておけばその亀裂から世界が分断されるそれほどの危機が訪れた時異世界から七色を携えし者が現れこの世界を救うだろう。


  御伽噺や伝説を知らない人でも、このワンフレーズだけは誰しも知っています、この世界で一番有名といってもいい程の御伽噺ですので。


  詳しい話等は伝わっていませんので実際どういう事なのかは解らないんですが、この世界に伝わっている七色を携えし者の話はこれだけですね。



 クリスはその説明を終えると、一つ息をはいて解りましたか?と聞いてきた。


 解りましたも何も、聞いたことは世界を救う縁の下の力持ちと言われていることしか解らなかったのだが、恐らくそれの説明をしていたのだろう、クリスとサラもそのことが解っているらしいので、雫も解ったと言ってうなづいた。


  「私達の先祖は昔その虹を携えし者と一緒にいたことがあり、その時は色々と事情があったのでご一緒する事ができなかったそうです、それで遙か未来、いつしかまた虹を携えし者が必ず現れる、その時の為にその人が装備できる武器や防具の技術を先祖から代代伝えられているのです、つまり私達の一族は貴方様の為にいるようなものです」


  「まぁ婆ちゃんはそんな堅苦しいこと言ってるけどさ、実際そこまで気にする事でもないよ、ただ単に他の人たちとは違う特殊な武器と防具が手に入ってラッキー位に思ってくれた方がこっちとしても気が楽だからね……っとと、ひとまず自己紹介がまだだったね、私がダーニャ、ダーニャ=ニルベストだ、よろしくな!」


 気にするなといわれても、雫の為に存在する一族だと言われ、全く気にしない事も出来る訳がない、ただ、ダーニャの気遣いを無駄にしないように、気にしないふりをして雫は自分も自己紹介を始めた。


  「ああ解ったよ、俺は夜月雫だ、よろしく頼む」


  「あたしはサラ、サラ=ライカだよろしく頼むよ!」


  「私はクリス=サイラックです、よろしくお願いします」


  「ああ、私はダイロウ=ニルベストです、よろしくお願いしますね」


 雫に続きサラとクリスが挨拶をして、最後にダイロウと名乗った老女が挨拶をした。

 ダーニャは自己紹介の後、雫を立たせると防具と武器を作る為に寸法を測り始めた、ついでにとサラとクリスの寸法も測り、よしっ!と頷くと、駆け足で地下に下りて行った。


  「あらあら、ごめんなさいね、あの娘はようやく自分の今まで学んだ技術を存分に発揮できるという事で張り切っているみたいなの、武器や防具は一週間くらいで出来ると思うわ、それまで申し訳ないけど待っていてね」


  「そんな!こちらこそすいません、ありがとうございます!よろしくお願いします」


 ダイロウのその言葉に慌てて雫は頭を下げる、続いて後ろからサラとクリスもお願いしますと頭を下げると、ダイロウは優しく微笑んで頷いてくれた。


  「あっと!あんた達宿はどこをとってんだい?」


 地下から頭だけをひょこっと出したダーニャが突然そんな事を聞いてきた。

 少し驚いたもののギルド前に宿といったらすぐに解ったと言ってまた引っ込んでしまった。


  「あの娘はしばらくああなると何も聞こえなくなってしまうからね、武器や防具ができたらこちらから伝えに行きますので、それまでゆっくり休んでいてください」


 ダウロウは苦笑を洩らしながらそう言った。

 雫達も解りましたと答え、時間もそろそろ遅くなりかけたのもあり、一度宿に戻ることにした。


  「では申し訳ありませんが、一度戻ります、何かあれば連絡ください。すぐに来ますので」


  「はい、解りました、それではまたお会いしましょう」


 雫達は三人頭を下げその家を後にした、宿に着くころには日が沈みかけ、暗闇が周りを埋め尽くす少し前だった。


  「何だか雫と会ってからドタバタと忙しいねぇ〜今日もこれから食事をとったらもうかなりの時間になってしまうから、また詳しい話は明日かな」


  「そうですね、私も少し驚きすぎて疲れてしまいました、出来れば明日また落ち着いてから話しをしたいと思います」


  「そうだなぁ、俺のせいも多少あるし、俺もまだこっちの世界に来てからの疲れ取れてないからな、明日落ち着いてからまた話しあおうぜ、今は一先ず腹減ったし飯でも食うか」


 サラとクリスが頷いて宿屋隣の酒場に赴き食事をとった。


 その後、あたり一面暗闇に支配された時間帯、三人は別々の自分達の部屋に行き、ゆっくりと眠りに落ちた、明日こそしっかりと話し合いをしようと、それぞれ胸に刻みながら。

修正しました、中身の流れ自体はほとんど変わっていませんが、全体的に違和感があったところなどを直しているうちに、最初投降したものとかなり発言や表現が変わった場所があります。

申し訳ありません。

この度も最後まで読んでくださった方がいらっしゃいましたらありがとうございます。

これからもがんばって書いていきますのでよろしくお願いします。

それでは失礼します。

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