〜第二章ギルド〜其の一
[闇夜の雫〜第二章ギルド〜其の一]
ガヤガヤと老若男女が溢れかえるこの場所がギルド……と言いたいところだが、ここは街の広場だ。
周りには露店が建ち並び様々な品物が売り出されている。
冒険には欠かせぬ食料品から各地を回り集めたであろう変な置物やらタぺストリー等まで様々な物が置かれていた。
雫は見慣れぬそれらを見る度に興味を示しあちらこちらをフラフラしていた。
「お〜すげぇ〜あ!あっちのはなんだ!これおもしれぇ!」
虹はそんな雫に呆れたような雰囲気を醸し出しているが、気付かないのか、態と無視しているのか知らないが、気にせずフラフラし続けた。
日が沈みかけ、徐々に露店が少なくなってきて漸く本来の目的を思い出したらしく、雫は偶々見掛けた金髪の少女に声を掛けた……逃げるかのように路地裏に向かってソソクサと動いていた少女にだ。
完璧にそんな事に気付かず……と言うよりも気にせず気軽に声を掛けられるのは虹すら呆れながらも感心していた。
「あっ!ちょっと待って、道教えてくれないかなぁ?」
ビクッと跳びはねながら雫の方に振り返った少女はお人形みたいに綺麗と言うよりも可愛い感じであり、腰上までの長さでウェーブのかかった金髪と蒼い瞳が一際少女を人形のように見せかける。
誰もが始めてみれば息をのみ言葉を掛けるのすら忘れても仕方ない少女にこれまた全くそんな事に気付かず話続ける……虹など呆れを通り越して尊敬すらしている。
「おっ!ラッキー可愛い子に声を掛けたな!って違った今はギルドの場所を教えて欲しいんだが……君知ってるか?」
「えっ!あ、あの……」
少女が返答に困ってオロオロしていると雫の後から見つけた!と言う叫び声と多数の足音が聞こえてきた……誰がどう考えても真っ直ぐに此方に向かって来ていることから少女を狙っているのは明らかだ……が、雫は本気で気付かない……違う、気付いてはいても完璧に無視を決め込んでいるようだ。
「みつくまっぐぱぁ!」
雫の脇から飛び込み少女の腕を掴んだ男が話し終わる前に蹴り飛ばした、力が上がっている雫が蹴ったのだ……二転三転しながら転がり、路地裏の樽に突っ込んだ。
「あのさ〜俺が今話しかけてんだろ?割り込んでくんじゃねぇよ」
後ろで警戒し始めた集団にそういい放ち改めて少女に向き直る。
少女はビクッと再び身体をすくませ脅えたように雫を見る。
「ん〜答えを聞くにも後ろの奴等邪魔で答えられない?じゃ今すぐ此だけ答えて、助けいる?」
雫がさっきまでと何ら変わらないお茶らけた雰囲気で聞いた為一瞬思考が付いていかなかった様だが、質問の意味を理解してさっきまでの脅えた瞳ではなく、何か期待したような瞳で勢いよくコクコクと頷いた。
「了解〜つー訳であんたらこのまま帰るなら許したげるけど、向かってくるなら怪我覚悟してね」
少女の答えを聞くと笑顔で少女にそう返し、頭を軽く撫でながら集団に振り返った。
「どこのどいつか知らないが、訳も分からず揉め事に首を突っ込まん方が身のためだぜ」
集団のリーダーっぽい奴がそう言いながら剣を抜いた。
「いやだってよ、よく考えてみろ?こんな可愛い子が助けを求めてきたんだぜ、そりゃ助けるだろう!むさ苦しい男達とどっちとるか聞かれれば間違いなく可愛い少女だろう!」
胸を張ってそんな事を言い出した雫を呆れ果てたように茫然と集団は見つめていた。
この時初めて集団の考えが一致した。
【こいつは馬鹿だ!】
と。
少女は不思議な事にそんな雫に憧れるような熱い眼差しを向ける……誰もが思った、可笑しくね?と。
「気に入ったぁ!そうでしょ其の通りでしょ!解ってるねあんた、あたしゃすげぇあんたが気に入った!だからあたしも手を貸すぜ!」
だがそんな白けた空気の中、またも全く空気の読めない馬鹿が現れた。
出てきたのは真っ赤ポニーテールの髪の雫と同い年位の女だ、背中に自分と同じくらいの長さの剣を背負っている辺りから剣士だと判断できる、因に女の身長は雫より拳一つ小さいくらいだ。
雫の身長は百七十五位なのでかなり背は高い方だろう、少女に関しては頭二つ分くらい小さい。
「おお!解るか同士!俺は雫、夜月雫だよろしく頼む!」
「ああ!任せな!あたしはサラ=ライカだ宜しくな!」
がっちりと握手を交わす二人、既に集団はおいてけぼりだった。
「ッハ!て、てめえら何してやがる!サッサと馬鹿どもを片付けやがれ!?」
「「「お、おう!」」」
リーダーらしい男の叫び声に我を取り戻し集団は襲いかかってくる、其の数二十人。
二十対二……普通に考えれば勝ち目など全くない勝負だが、生憎この二人は普通じゃ無かった。
「リーダーは雫あんただ、雫の指示に従うよ!」
「作戦名適当にボコる!人死になしでね〜」
「オーケイ!いやに解りやすい作戦だいい感じだ!」
「しゃあないでしょ、サラの戦力も戦い方も知らないんだから、何より人を馬鹿呼ばわりするこのムカツク奴等にそんな上等なもんは勿体ねぇ!」
「あっはっはっは!いいね雫!本気であんたの事気に入ったよ、確かにこんな雑魚に作戦だなんて上等なもん勿体無いねぇ」
因に普通に話しているが、その間も二人は襲い掛かってくる奴等をあっさりと片付けていく、子供と大人と行った感じに、なるべく大怪我しないように気を付けながら片付けていく。
雫は襲い掛かってきた奴等の攻撃を交わすと共にカウンターで腹を殴り、背中を蹴飛ばし、一生懸命手加減している。
サラはこういう事に慣れているのだろう、自ら突っ込み手刀で軽くそいつらを落としていく。 五分も掛からず終わってしまい、最後にリーダーっぽい奴を倒そうとさっきまでいた場所を見ると誰もいなかった。
尻尾を巻いて仲間を見棄て逃げ出したらしい。
「手応え無さすぎだねぇ」
「んだなぁ、弱いのはすぐ解ったけどあれほどとは思わなかった」
意気投合し盛り上がる二人、何時しか話は酒でも飲んで!みたいな感じになっていた。
会話の隙にギルドと言う単語が聞こえてきたので、よったあと直接酒盛りらしい。
サラが幸いなことに案内してくれることになって話が進んでいく。
そしてさぁ歩き出そうとした時、最初の原因であった少女が意を決して話しかけてきた。
「た!助けてくれてありがとうございます!」
それで漸く思い出したらしく、二人は少女から少し目をそらし頭を描いた。
本気で忘れていたらしい、お互い視線がかち合い苦笑をもらした。
「いや、すまんかったな、何かえっと……」
「あっ!クリスです、クリス=サイラックです!」
「あークリス何か無視したみたいになっちまってすまんな、今のことは気にすんな、むしろサラみたいな面白い奴に会えたんだ逆に感謝するぜ」
「へぇ〜サイラック家のお嬢さんかぁだから狙われてたのかね?ああいや理由はいいよ、一先ず雫が言うとおり気にしないでいいよ、雫も言ったがこんな面白い奴に会えたんだ逆に感謝するよ」
二人にそう言われ小さくなってしまう少女。
だが少女はばっと顔を上げ、二人を見渡しながらもう一度頭を下げお礼を言った。
「ありがとうございます!でも助けてもらったのに何のお礼もしないなんて出来ません、せめて食事くらいご馳走させてください!」
中々小動物みたいな外見と雰囲気を持っているが、意外と芯は強そうだ。
そんな少女を雫とサラは苦笑を漏らしながらもどこか嬉しそうに見つめた。
「今から先にギルドに行くからかなり遅くなってしまうけど……」
「私も!私もギルドに用がありますので大丈夫です!」
「そっかぁ〜ならお言葉に甘えてご馳走になろうかな?雫もいいでしょ?その代わりあたしはかなり食べるからね覚悟しなさいよ!」
「ああ、構わないぜ、俺も人並み以上に食べるから、頼むぜ!」
雫とサラの言葉にとても嬉しそうに笑い、大きく頷いた。
「は、はい!ありがとうございます!宜しくお願いします!」
「ああ、宜しくな!」
「宜しくね〜」
こうして三人は日がくれる前にとギルドに急いだ。
偶然か必然か出会った三人はは楽しそうに笑いながらその道を歩いていった。
第二章です。
修正しました。