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月夜の雫  作者: 榊燕
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〜第一章異世界〜其の三

     [月夜の雫〜第一章異世界〜其の三]





「なるほど……あれを倒せと?」


「はい、そうしなければ街にたどり着くことができませんので……雫様なら大丈夫です。」



 岩陰に隠れながら虹とひそひそと相談している事柄、それは岩陰の向こう側にいる三匹のクマのような大きさの狼っぽい闇者の事だ。

 するとい爪と牙、その上での巨体、大きくなったせいで素早さが下がっているかと思ったらそんな事もなく、その動きは雫が今まで見たどんな生き物よりも早かった。


「うん、ぶっちゃけ無理!ってか倒せるわけねぇだろうが!あんな化け物と戦ったこともなければ、真剣な命をかけた殺し合いだってしたことねぇんだぞ!」


 小声で器用に叫びながら逃げだす準備を始めている。


「雫様、ご自身を過小評価し過ぎです。何よりライラ達の動きをしっかりと把握できているという事は、視えているという事です。それであればいくらでも戦いようがあります……何より雫様がどれだけ戦えるか……試してみるチャンスでもあるのですよ。」


「確かに吃驚したけどさ、あのスピードを普通に視えるってのは……で・も・だ!だからと言ってその判断してからの反応に身体が追い付くかは別問題だろ!ちなみに俺はあれほど早く動けない!」


 雫が言う事ももっともだろう、確かに岩陰の向こう側にいるライラと呼ばれた三匹は連携というものは全く無いが、一匹一匹のスピードと、その攻撃力はとても高い。

 先ほど偶々不運にも飛び出て来た鳥の闇者、レイと呼ばれるらしいが、そいつもそこそこ素早かったのだが、反応すらできず一撃の元葬られ、ライラ達の餌となり果てたのをしっかりとその眼で見ていたのだ。


「雫様……ですが、もう逃げる事もできないですよ?」


「はっ?どういう……なるほどね〜これは無理だよね?ってかこうなる前に教えてくれよ!」


「申し訳ございません……ですが、はい。覚悟をお決めしてください。絶対に雫様が負ける事等ありえません!今現在どれだけ動け、どれだけ戦えるかをしっかりと把握して下さい。」


 現在の状況を言い表すと、背中を預けた岩を背に左右と前をしっかりと囲まれている状態だ。

 それも爛々と光り輝く濁った灰色のその瞳と涎をだらだらと流し続けるその口が異様なほどに気味が悪い。

 その上獲物……つまるところ雫がライラ達に気付いた事により、雄たけびを上げながら襲いかかってきた。


「ちょっ!?いきなりかよ!っとと……って躱せた!それに何か動けてるぞおい!俺すげぇぇぇぇ!」


 もう駄目だと思った一撃、確かに視えていたが躱す動作を考える事が出来ても、身体がついていかない……そう思っていた。

 だが雫の身体は、予想以上に考えどおり動いた。

 その身体のキレは今までの雫にはなかった……否あり得ない程の物で、思わずそんな事が出来てしまった事に感動するのは仕方のない事だろう。

 だが今だ戦闘中だという事を忘れてしまうのは如何なものか。


「感動するのは後にしましょう!次が来ます!」


「うわっ!っとと!うひゃ!ってかいい加減にしろや!」


 思いっきり襲いかかってきたライラの一匹を蹴り飛ばした……蹴り飛ばそうとしたが……。


  「い…………いてぇぇぇぇぇ!何だこいつ滅茶苦茶かてぇぇぇ!?」


 蹴り放った足がまるで鉄を思いっきり蹴ったかのような感覚と痛み。

 あまりの事に蹲り足を抱え込む。

 ただ、突然反撃してきた獲物に何かを感じ取ったのか、三匹は一度距離をとって、タイミングを見はからい始めた。


「雫様、流石に武器なしでの戦闘では勝機はありません、私をお使い下さい。」


 そう言って、自身の刃を日の光により輝かせ、絶対の自信を持ちながら雫の手に納まる。


「何だかなぁ……さっきまで絶対出来ない、無理!とか思ってたけど何とかなるかもな……っていうかどうにでもなる気がして来た……なんてーか虹お前さん握り締めただけでなんとも不思議な安心感を得られるな。」


 虹を握った瞬間、不思議な事に体全体が軽くなり、気分が高揚し始める。

 もう完全に負けるなんて言う思いはなく、勝利が約束されている……そんな気持ちになっていた。


「違います、これが雫様の力なのです。今まで自分自身はこうだから出来ない、その思いが強すぎて出来る筈の事も出来なくなっていただけなのです。今この状態が今の雫様なんですよ。今のその安心感というのはある程度御自身の力がどれくらいかというのを把握出来、相手と比較した場合の危険度がかなり低いから……という所が大きい筈です。多少武器である私を持ったことによる安心感もあると思いますけど。」


「よく……解らないけど……今はひとまずこいつ等を倒すか!」


「はい!」


 そう言った瞬間、走り出す雫。

 目の前の一匹に真正面から突っ込む!

 ライラも飽くまでも野生の闇者だ、反応速度と生存本能から目の前に迫った雫に思いっきり爪を振り下ろす。

 だが、真正面から突っ込むそう思った行動は直前ライラを超える高さで飛びあがる事により背後からの奇襲となった。


「そこだっ!」


 背後からのおもいっきりの一撃……横に振るったその虹の刃は斬った感覚が全くなく、一瞬きれなかったのかと雫は思ったが、次の瞬間切り裂いた場所から血が吹き出し、ライラの一匹が絶命する。

 あまりの切れ味に切った感覚すら無かったという事に遅れて気づき、反則に近いまでの攻撃力だ……そう思いながら、次のライラに向かい走り出した。


「体が思い通りに動くってのは気持ちがいいものだな!っっよっと!大ぶりすぎて隙だらけだぜ!」


 新しく接近したライラは横薙ぎに爪をおもいっきり振るが、それを素早くしゃがみ交わした雫は大ぶりした後、身動きが取れなくなっているライラを一刀のもとに切り裂いた……逆袈裟斬り下から上への袈裟斬りだ。

 とても耳障りな悲鳴とともにまた一匹絶命したライラ、残りは一匹だ。


「虹……お前が言ったことが解った気がする。多少強くなった感じはしてたが、ここまで馬鹿みたいに強くなれるとは思ってもいなかったぜっと!っっは!」


 虹に声を掛けながら、振り降ろされた爪を交わし、その腕を切り落とす。

 苦しげに悲鳴を上げたライラは眼を血ばらせて真っ向から突っ込んできた。


「これでラストっ!」


 突っ込んできたライラをサイドステップで躱わしながら、躱わした一瞬で胴体と下半身をさよならさせる。

 数瞬ののち、血が吹き出し、最後の一匹も絶命した。

 三匹と戦闘が始まってから高々数十秒、一分とかからずに終わってしまい、どうしようかとたたずんでいるとまた虹が再度説明を始めた。


「雫様このモンスター達の牙と爪をもっていってください。街にギルドがありますのでそこでこちらの世界のお金と、生きていく為の方法が手に入ります……ギルドというのはこの世界に巣くう人に害なす闇者を討伐したり、各地に広がる争いに参加したり、地域住民からの依頼を受けたりする所謂何でも屋みたいなものです。ですがこの世界、旅人がこのギルドか商会に入っていない限り、荒くれ者の名で呼ばれ、盗賊や強盗と同意義にとられてしまいますので、入ることによるデメリットもやはりありますが、それ以上に入らなかった場合のデメリットが高すぎるので入られた方がいいと思います。そこで役に立つのが今回討伐した闇者の倒したという印です。これを持って行くとギルドが決めた闇者レベルによりギルド内での立場が決まっていきます。」


 虹が言う事をライラの牙と爪を剥ぎ取りながら相槌を打ちつつ聞いていくが、気になるところが色々あったらしく一区切りついた所で口をはさんだ。


「何となくだが、どういった所かは解ったんだが、ギルドに入らない場合のデメリットっていうのは解った……いやまぁ全部とはいえないだろうけどな。ただギルドに入った場合のメリットとデメリット、そしてギルド内の立場ってとこが今の説明で気になったんだが、詳しい話は解るのか?」


「はい、まずはギルドに入るメリットですが、もちろん闇者を倒した際に手に入る報酬とその証拠の品を売り払う際の報酬です。ちなみにギルド以外で闇者の一部などを売り買いする場合違法行為にあたり、賞金首扱いで逆にギルドから狙われることになりますので色々と危ないです。後はギルドから発行されるギルド特有の特殊なブローチがあるんですが、これも立場、ランクと呼ばれる物で色々差がでます。そしてランクによって各種街で宿屋の割引や武器防具の割引等といった特典と、年に四回あるギルド内の賞金付き闘技大会、腕試しみたいなものにも参加できます。デメリットはランクの低いうちはいいのですが、ある程度高くなると強制的に受けなくてはいけない依頼が出てきてしまったりします。もちろん受けないで他に回すこともできますが、その場合は多額の違約金を払い、何度も繰り返すとギルドから追放される場合もあります。後はやはり各種街で事件が起こった場合、まず第一に頼られるため、見捨てたりする事が禁止されると言ったことくらいですね。もちろんその問題によって後からギルドで判断されそれ相応の報酬が手に入りますので全くのデメリットと言う訳でもありませんが。そして立場なんですが、これはランクと呼ばれる物がありまして、一番下がM一番上がSSSと言った形になります、最初は推薦がない限りZから始まります、Gランク位になるまでは全くまともな依頼を受けられませんので、早くランクを上げたい場合は今回みたいに闇者を倒しそれをギルドに持って行くとその闇者のレベルによりランクを上げてもらえます。ちなみにランクC以上からは強制依頼が入りますし、ランクS以上からは国からの依頼も入るようになります。やはり高ランクになればなるほど色々優遇されたり報奨金が高くなったりしますので、高いに越したことはないですね。後ギルドは個人で登録するものですが、時に仲間を集めグループ登録する事も可能です。団と呼ばれる物で、団じゃないと受けられないような依頼等もありますので、所属しておいても損はありません。えてして団での依頼は高額依頼か特殊アイテムがもらえる依頼が多いので得の方が多いですね。ただ下手な所に入ると解ると思いますが人間関係やら報酬の分け前やらで色々とくだらない事になるので、もし所属する場合は慎重にお決めください。」


 虹の長い長い説明をしっかりと聞き終え、タイミングよく三匹全部の牙と爪を集め終わった。

 何か入れる物がないかと周りを見回したが、何も入れる物がなかったので、仕方なくその牙と爪をまとめ、ライラの皮を少し剥ぎ、それを紐代わりにして纏めて肩に掛けて虹にまた話しかけながら街に向って歩き始める。


「んでこのライラっていう闇者だっけこいつはどれくらいの強さ、レベルなんだ?」


「はい、このライラが一匹で大体レベル十五前後ですね。ちなみに闇者につけられる最低レベルが一、最高レベルが百になりますが、どんなに強い闇者であってもレベル七十を超える者は片手で数えられるほどしか存在しません。その中でも最高レベルの確認されている闇者が七十六ですので、実際百まで用意しているみたいですが、そのレベルの闇者が現れたら、この世界が終わりかねませんね。」


 説明を聞いているうちにこの闇者が大して強いものではない事に多少ガッカリしていた。

 確かに戦い始めるとそれほどでもなく比較的楽に倒すことができたものの、最初戦うと決めた時は本気で死ぬと覚悟をした相手だ。

 それが低いレベルの者だと解ってしまい、多少高レベルの闇者じゃないかと期待してたので少しがっかりしたのだ。

 ただ、そのレベルの闇者が何となく弱いと思ったのは雫自身の考えだ。

 虹がそんな雫に気づき、その考えを訂正するように話し始めた。


「雫様、倒した闇者が意外とレベルが低い事にがっかりされたのでしょう?勘違いですよ。このレベルの闇者は通常団で狩るか、たとえ一人で狩るとしてもランクC以上の人間が一匹相手にするのが精々な所です。三匹同時に相手し、無傷で倒せる人間だとランクAクラスの人間でも難しいかなんとか出来るか位の物なので、レベルだけを見ると確かに弱いように見えますが、通常の考えからするとかなり強いレベルの闇者と捉えても問題ありません。ただ……わかるとおりレベルがこれ以上に高い闇者も多数存在します。その闇者を単体ないし団で倒せるものがランクS以上の者達です。闇者レベル三十……このレベルの闇者を単体で一匹でも倒せればSランク相当ですね。団で倒す場合でも最低六人以上で全員のレベルがAクラスないと全滅される恐れがあります。それほどAからSの強さのレベル差が大きい事になります。もちろんSからSS、SSからSSSになると更に高い壁が立ちはだかりますので私も今だSSの人間はみたことありませんし、SSSなんて存在するかも知りません。」


 全くこの世界の事を知らない雫の為に、細々とした詳しい説明まで混ぜ説明しているせいか、一度一度の説明がかなり長くなってしまう……仕方のない事だが雫は少し申し訳なく思いながらも感謝の言葉を虹に言い、改めて今後の事を考え始めた。


(さて……つまるところ俺の今のレベルはたぶんAくらい相当……でもギルドに登録したばかりだとMだったか?でも今回持って行くこいつ等のおかげで多少上のクラスからスタートできそうだな。何よりこの世界の物価が解らないからなぁ……街に着いてからお金の種類と共に色々また虹に聞かないと駄目か……少々情けないがこの世界になじむまで仕方ないだろう。ひとまず街に着いたら宿を探しって……この世界の金俺持ってねぇじゃん!つーことは、まずギルドを探して登録し、これらを報酬と交換してそのお金で宿に泊まる!そして次の日に武器と防具を揃えられれば揃えよう……これらがどれくらいのお金になるかが問題だよな……その後はもう一度ギルドに行ってランクというものを上げるため依頼を受けるのと、団だかってのを探してみるか……確かに一人でやるより仲間とやった方が絶対にいいだろうからな。)


 黙々と歩きながらそんな事を考える、考え事をしていたせいか、それともそれほどあそこから距離が離れていなかったせいか、ハッと気づいたときにはもう街が視界に捕えられる所まで来ていた。

 街の大きさは大したことはない……様に見えるが実際この世界では大きい方らしい。

 確かにこの距離から見ると全体を見渡せるが、雫がいた世界、地球の小さな村と同じくらいの大きさだろう。

 ただ見て解るのはその土地は建物や屋台と呼ばれる物に埋め尽くされ、多数の人が存在しているのが解り、人の数だけみると地球の町位の人がいるかもしれない。

 そんな事を観察しつつ考えながら、少し歩みを速めて街に向かう。

 知らず知らずの内にやはり一人よりたとえ知り合いがいなくとも同じ人間がいる場所に行きたかったのだろう、何より突然異世界に飛ばされ、喜んでいるとは言っても最初から今まで出会ったのが不思議な武器の虹一人?一刀?

 そのおかげで寂しい思いや不安な思いをしないですんだのでありがたい事だろうが、それでも初めて本格的に異世界での人間と触れ合う瞬間……多少緊張しつつも胸を躍らせるのは仕方のない事だろう。

 そんな様子を虹も少しほっとしたような雰囲気で雫を感じる。

 今までそんなに緊張した様子は傍から見ても感じられなかったが、それでも無意識に多少身体が固くなったり緊張したりという事をしていたのだ、虹にはそれが解っていたため、今の本当に安心しながら、期待しつつ足早に街に向かっている雫に安堵したのだろう。

 そして漸く、雫達は街にたどり着いたのだった。

これで第一章完了です。

次から第二章にはいります、ちなみに各章三話づつとかそういうのは決めていませんので、時には二章で終わることもあるでしょうし、時には五章六章と長くなることもあると思います。

頑張って書かせて頂きますので、何かご意見ご指摘ありましたらぜひよろしくお願いします。

誤字脱字を見つけた方もいらっしゃいましたらよろしくお願いしますすぐ直します。

それでは、この旅も最後まで読んでくださってありがとうございます。

またよろしくお願いしますね。

では失礼します。

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