〜第六章闘技大会〜其の五
「我願うは我が敵たる者への鉄槌!フレイル!」
驚くことに先制攻撃を仕掛けたのはクリスだった。
見た目から……そんな印象を全く受けていなかったことでその奇襲にも近い先制攻撃は成功して、相手にまともに当たった。
雫たちですらクリスが先に攻撃を仕掛けたことに驚いている。
それもそうだろう、今まで共に過ごしてきてクリスがこんな先に攻撃を仕掛けるような性格をしていないことが解っているのだから。
だが、クリスもまた雫たちがばらばらに金を稼いでいる間に成長をしていたのだ。
まともに奇跡を食らった相手はそのまま気絶して戦闘終了、続いて次の選手との戦いになった。
「……っっ!きゃぁぁ!?」
流石に……油断を誘ったうえでの攻撃じゃなければなかなか攻撃は当たらない……その上、奇跡を唱えるだけの時間もなかなか与えてもらえずに、油断しなくなった九回線目の相手に多少のダメージを与えながらクリスは負けることになった。
元々……神聖使いの彼女は一対一での戦闘には向かないのだから仕方のないことだろう。
むしろ一人倒せたことすら凄いことなのだ。
「すいませn……まともにダメージを与えることなく負けてしまって……。」
落ち込みながらそうやって戻ってくるクリスに「何言ってんだい。」と笑いながらサラが頭を撫でている。
周りのみんなも驚いたように凄いと言いながらクリスを迎えた。
そして次の戦闘はラマだ。
「クリスさんがあれだけの頑張りを見せたんです。私だってやって見せますよ。」
そう言ってリングに上っていく。
相手は短剣使い……かなり素早さが高いので厄介な相手だが……それ以上にラマは素早く動きながら矢を放つ。
右足に一本の矢がかすり体制を崩したところで相手の眼前に深々と矢を突き刺した。
「……参った。」
今ので命を取ることもできた……それが解ったのだろう。
相手も意外と素直にリタイアをしてくれた。
ひとつ大きく息を吐いて雫たちを見るラマ。
雫たちもにぎわいながらよくやったとほめたたえる。
「ふむ、まさか……五人だけの団に俺が出る羽目になるとは思わなかった……すまねぇ、侮っていた。だが、今からはそんなものはない。怪我したくなければリタイアしろ。お前の今の実力じゃ俺には勝てん。」
カルマンはそう言って斧を置いたままリングに上ってきた。
相手から掛かるプレッシャーだけでだんだん息が荒くなるラマ。
「……できません。私だって月夜の雫の一員です。戦いもせず引くなんてことはしません!」
ラマがそう言った瞬間、カルマンは嬉しそうに笑った。
「そうだ、そういう相手じゃなきゃ戦いがいがねぇ。実力は……まだまだこれからだが気概がいい。相手してやるよ。」
カルマンのその言葉を口尻に試合が始まった。
素早く動き回りながら矢を放つラマだが……その攻撃はことごとくかわされる。
その命中精度は群を抜いているにもかかわらず全てかわされている。
それだけ相手との間に実力差が存在しているのだ。
「……いけっ!」
カルマンの背後を取った瞬間今までで一番早い矢を打ち込んだ……にもかかわらずそれをそのこぶしで落とされた。
「いい腕だ。だが……俺に届くにはまだまだ足りない、もう少し強くなったらもう一度戦おうぜ。」
カルマンはそういうと素早くラマに走り寄る。
ラマも逃げるように避けようとするが……ラマよりさらにカルマンの方が早かった。
「終わりだ……。」
そう言ってラマは腹に一撃をもらい……そのまま力尽きた。
気絶したラマをカルマンが雫たちの方へ運んでいく。
「いい娘だ。何より気概がいい……いいメンバーがそろっているな。だが……今俺とまともに戦えるのはお前さんだけだぜ?」
カルマンはそう言って雫にラマを渡す。
獰猛に笑いながらそう言ったカルマンはそれだけ言うと戻っていく。
「……悔しいですが事実です。今の私ではあの人の相手は務まりません……恐らく傷一つつけられないでしょう……。」
悔しそうにこぶしを握りしめて絞り出すように呟いたのはビレイだ。
そんな彼の肩を叩きながら「これからまだまだ強くなれるんだろう?」と笑う雫。
そして……ビレイは戦闘放棄をして雫とカルマンの戦いが始まった。
「クックック。いいねぇ、いいねいいね!お前さん。強いなぁ。」
カルマンは本当に嬉しそうに笑いながら構える。
雫も漆黒の鎌を構えながら構えた。
初めに動いたのはカルマンだ。
ラマ戦で見せたスピードよりもさらに速い速度で雫に詰め寄り思いっきり殴りかかってくる。
それをかろうじて躱し、追撃で蹴りが放たれたのを鎌の持ち手部分で受け止め……吹き飛ばされる。
「今ので一撃も入らないか。流石だな。」
そう言いながらなお詰め寄ってくるカルマン。
「……無防備すぎるぜカルマン!」
詰め寄ってきたカルマンに向かって、地面に付していた鎌を振り上げる。
軽くかするがよけられた。
そしてそのまま攻撃をしてくる。
「っちぃ!」
雫もそのこぶしによる攻撃を身を捻り辛うじてかわすが……体制が無茶だったおかげでそのまま突っ込んできたカルマンのタックルを食らう。
一進一退……本当に実力が拮抗している戦いだった。
「……強すぎるぜ。ちと厳しいな。」
荒い息を吐きながらそう漏らしたのは雫だ。
「よく言うぜ、こっちこそぜんそく全力での攻撃をこうまでよけられちまっちゃ、自信がなくなるってもんだぜ。」
カルマンも息を荒くしながらそう言って笑う。
そうしてぶつかり合う二人。
カルマンの奮うこぶしや蹴りを躱し反撃し、躱される。
そんな戦いを数十分続け……互いにそろそろ体力の限界に近付いてきたところで……。
「来る……んだな。」
「おう、これが最後だ……決めてやるよ!」
カルマンはそういうと今までの中でも最高の速度で雫に詰め寄った……と思ったら消えた。
そう感じた瞬間虹から(後ろです!)という声が聞こえ、咄嗟に前方に転がる。
そして……雫の頭があったところにカルマンの蹴りが通り過ぎて行った。
転がり、すぐにそのすきをついてカルマンの首元に虹と突き付け……時間が止まる。
「……っち、あれを躱されちまったらな……。負けだ負け。畜生め!」
こうして、カルマンが負けを認め、雫たちの勝利で試合は終わった。
カルマンの言葉を聞いた瞬間雫はその場に座り込んで大きく息を吐いた。
「はぁ……疲れた。しんどい。ってか人間なのかよあんた。」
雫は同じく地面に座り込んだカルマンにそう話しかける。
「どっからどう見ても人間だろうが。っていうお前こそなんだよ最後の。あれ……躱せるとか絶対人間じゃねぇだろうが!」
そう言ってお互い笑う。
こうして……とりあえず今日の試合は終わり……夜、酒場で楽しそうに雫たちとカルマン達が酒盛りをしていたのはまた別のお話。
次の相手は……スターライカー……優勝候補のエクスターズは1団だけ余ったため、自動で決勝戦へ進出らしい。
こうして……酒盛りを続けながら明日への英気を養っていく雫たちだった。
数々のご意見ご指摘ありがとうございます!
誤字脱字などの修正だけは行わせていただきました。
本当に……誤字とか多くて申し訳ありません。
お金の管理……もう少ししっかり煮詰めます……確かにおかしいところが多すぎますね。
ご都合主義については……すいませんご勘弁ください。
なるべく少なくしようとは思うんですが……多少なりともそういったところが出てしまうのは作者の力量不足です。
修正できる……そう感じるだけ物語を書けるようになったら修正させていただきます!
後……虹についてなんですが……前の感想にも確か書いたと思うんですが、色々と裏設定で「読んだ」で間違いありません。
……そこまでかけるかどうかが今のところ怪しいんですが……当初の予定では後々のその設定関係の話が出る予定でした。
もし……そこまでかけなければ申し訳ありません……。
ちなみに主人公の名前は夜月雫です。
色々と間違えや読みづらいところがあって申し訳ありませんでした。
それでも読んでくれた皆さん、応援してくださった皆さん本当にありがとうございます!
あとがきで申し訳ありませんが、この場にてお礼を申し上げます。