〜第六章闘技大会〜其の四
雫達の最初の相手は一番初めに見た斧を使った素手のほうが強い男が率いる団、『疾風の暴威』だ。
こちらのメンバーは六名。
一番手はサラ。
二番手がコウ。
三番手がクリス。
四番手がラマ。
五番手がビレイ。
六番手、大将が雫。
雫に次ぐ力を持つサラがなぜ一番手かというと、最初に勢いをつけて一気にそれにのりたいからであった。
対する相手の構成は一番手から五番手までは正直サラであれば楽勝に勝てる相手だ。
ただ六番手に槍の青年「ディライト」がおり、七番手から九番手はやはりそこまで強くない相手……とはいってもコウやクリス、ラマが戦う相手としては同じくらいの強さの相手だ。
そして十番手、大将に斧を使っていた男、リーダーの「カルマン」が来ていた。
「いいかい、あたしが絶対に六番手までは行く!問題はあのディライトだかって奴がどれだけ強いかなんだが……正直勝てるかどうかが解らない。ただ、これは団対戦だからね?あたしは絶対に相手を無傷では終わらせないからもしもの時は頼むよ!」
サラはそういみんなに言うとリングの上に上った。
リングといっても一変三百メートルはある石のリングだ。
サラが上がると司会が仰々しく騒ぎ立て試合が始まる。
予想通りサラは多少の手傷を負いながらも、ほとんどダメージらしいダメージを受けずに六番手のディライトまで行った。
「……流石ですね。低ランクでありながら通り名をもらっただけはある……というのは伊達ではないんですね。大剣の暴虐のサラさん。」
……。
サラと対峙したディライトのその言葉にぶっちゃけ一番驚いたのは雫達だった。
通り名。
力の認められた者たちが人知れず呼ばれるようになったあだ名だ。
通常Aランク以上のそれも一握りの人間にしか与えられないような通り名をサラが持っているという。
そんな話は雫だけじゃなく、他のメンバーも初耳だった。
「おいおい、サラお前そんなすげぇ通り名ついてたのかよ。」
思わず呆れたように言葉を漏らす雫。
「あっはっは。といっても言ってる奴なんてほっとんどいないんだから知ってる奴のほうが少ないんだよ。そんなの恥ずかしくて名乗れないじゃないか。」
からからと笑いながらそんなことを言う。
実際雫所か他のメンバーも知らなかったのには訳がある。
それは……。
「そうですね、あなたをその名で呼ぶのはほとんどがSクラスの人間だけですからね。」
ということだ。
にしてもこの男一々説明臭い奴だと、雫達だけではなく会場に溢れる他の人たちも思っていた。
「まぁ、そんなことは今は関係ないさね?勝つつもりで行かせてもらうよ!」
サラはその話を打ち切るように剣を構える。
自分の身ほどある大剣。
「……そうでしたね、失礼しました。では……尋常に勝負。」
そう言ってディライトのほうも槍を構える。
それを見た司会がそこで開始の合図を送った。
「っっ!槍兵が特攻かい?」
開始の合図とともにディライトがかなりの速度で槍と突いてきた。
大剣の刃を使いその槍をさばきながら軽く舌打ちをする。
(ッチ!先手をとられちまったかい。にしても……)
「何で槍なのに剣の間合いで振れるんだい!?」
そう特攻し、そのまま責め立てるディライトの間合いは剣士の間合い。
つまり超近距離だ。
通常槍は剣よりも長い距離で攻撃ができるという利点があり、その間合いを保つことによってその真価を発揮できる。
それをこの男は無視した揚句、サラを押すレベルで攻め続けているのだ。
「……い、いつまでも調子に乗るんじゃないよ!」
きりがないと思ったサラは大剣を地面に思いっきり突き刺しその陰から蹴りを放つ。
「っっ!なんて無茶を。」
そういいつつ槍のつかでかろうじて受け止めたディライトは距離を離される。
そこでようやくディライトが超近距離であれだけ攻められていたのかを理解した。
「短槍……かい。珍しいもんを使ってるじゃないか。」
短槍。
普通の槍の半分の長さしかないやりだ。
あまりにも利点をなくしたそれは正直使い勝手が悪いどころの話じゃない。
剣と同じ間合いでありながら切ることができる範囲は先の部分だけ。
何より切ることを目的としてないため、切ろうとしてもまともに切れないのでその行為自体があまり意味をなくす。
かといって槍の特性の突くといったこともこの短さではあまりにも弱い。
両手を使い、しっかりとした技の元突くからこそ必殺の突きとなりえるその突きもその短さではかなり威力が下がる。
正直なところ両手で握るというよりも片手で握るようになっている槍だ。
「……最初の特攻で仕留められなかったのは痛いですね……。」
そう言って冷や汗を流すディライト。
ディライトの先方は奇襲の上のだまし打ちだ。
槍を見た相手はどうしても懐の突っ込んでくるとは考えない。
ある程度の距離から突いてくると考えるからだ。
そこをディライトは最初に懐に突っ込み、困惑してる間に打ち倒す。
そういった先方を得意としているのだ。
「……ただまぁ、流石に……体力を消耗したあなたに負けるのはいささか恥ずかしすぎるので、この勝負だけは何としても勝たしていただきます!」
そう言ってとりだしたのは逆手持ちのナイフ。
右手で槍を左手でナイフを構え一気に責め立てる。
片手で突く槍とはいえ距離付きの助走があればそれ相応の威力がある。
そして、ディライトの早さからサラには躱すことが難しい速度だ。
つまりできるのはそらすかはじくか。
今回のこの突きは今までの戦闘の疲れもたまっていたのだろう、さばくことができず、その大剣の腹で受けはじくことになってしまった。
はじかれた槍は大きく上にそれたが、ディライトははじかれた槍を手放し素早くサラの背後に回り込む。
そうそう簡単に回り込まれるサラでもない。
かろうじてディライトに一発思いっきり力の乗った拳を叩きつけるが、やはりこのレベルの相手であればそれだけで吹き飛ばすといったことはできなかった。
ダメージは大きいだろうがその瞬間の動きだけは目を見張るものがある。
そして首に充てられた逆手のナイフ。
司会の「勝者ディライト!」の叫び声とともにサラの出番は終わってしまった。
「……ったく、槍使いが最後にナイフなんて使うじゃないよ!……何て事はいえないか。正直あたしの実力がまだまだだってわけさね。いい経験になったよ。」
そう言ってナイフを下したディライトに握手を求めるように右手を差し出す。
「……何が実力が足りなかったですか。体力が落ちてなければ最後の攻撃だってさばかれてた可能性のほうが高いじゃないですか……。僕もいい経験をさせていただきましたよ。これほどの力量とは思って思いませんでした。」
サラの右手を握りしめそう言った。
からからと笑いながらリングを後にしたサラはメンバーに「悪い!負けちまったよ。」と言って戻ってきた。
そのあまりに軽さに固くなっていたコウが少し力が抜けた。
といっても、緊張していることに違いはないが。
「大丈夫だよ。最初に言った通りディライトの野郎にはきっついのを一発お見舞いしてきたからね。コウの居合ならうまくすれば一発だよ。」
そう言ってコウの肩を軽くたたくサラ。
「……サラさんですら勝てなかった相手なんですよ?無理です……。」
少しうつむきながらそうつぶやくコウ。
「おいおい。コウ。お前強くなるって言ってた割にはこの程度でしょげちまうのか?」
そんなコウに雫はそう言って声をかけた。
挑発するように。
「雫さんっ!」
クリスが少しきつめの声で止めに入るが、それをビレイが止める。
「……僕だって……できるなら強くなりたいですよ……。」
落ち込んだままそうつぶやくコウ。
「ったく、ならさらに勝った相手に挑むなんてそれこそ大きなチャンスじゃねぇか。ぶっちゃけこれに負けても死ぬわけじゃねぇんだぜ?そんな好条件の中自分より格上と戦えるんだ、強くなるチャンスじゃねぇか。そのうえでもし勝てればコウ自身、自信がつくっていうおまけ付きだぜ?それで何で暗くなんてなんだよ。むしろこんないい条件の中で実力も出せずに何もできなかったとかのほうがよっぽど損だと思うぞ。」
実際、雫は最初から慰めようとしていたにすぎない。
ただそれが他の人から聞くと挑発にしか聞こえなかったわけだが。
そこで慌てて自分が思っていることを細かく伝えることにしたわけだ。
そこまで雫の内面を解っているメンバーは虹だけだったため、その言葉に周りのメンバーは少し感心したように、雫に続いて声をかけていく。
実際、雫が細かく説明できたのは虹のフォローがあってこそだった。
虹が思わず最初雫が言葉を発した際、(それでは攻めてるようにしか着こませんよ雫様。慰めようというのであればもう少し細かく話をしたほうがよろしいです。)という言葉をもらったうえで、即座に次ぎに行った台詞を考えだしてくれた。
表情には出していなかったが、少し焦っていたのだ。
「……皆さん……雫さん……。ありがとうございます!そうですよね、僕が絶対に勝たなくちゃいけないってわけじゃなかったですよね。相手の胸を借りる気持ちで行ってきます!」
コウはそう言ってさっきまで落ち込んでいたのがウソのように元気に顔を上げ、リングに上っていく。
現金な奴だなぁとサラと雫は苦笑しつつその後ろ姿を見送った。
ただ、実際問題雫はコウなら今のディライト相手なら勝利を収めることができると考えている。
それはサラもそうだろう。
コウの居合の早さはかなり早い。
よほど眼がいい人間じゃなければ負えない速度だろう。
終えたとしてもそれに体が突いていくかどうかという問題もある。
相手が固い相手ならいざ知らず、ディライトの装備は革のアーマーだ。
コウの居合による攻撃でも通すことができる。
といっても切り裂くといったわけではなく、衝撃を与えるといった意味でだ。
ディライトは平気そうに立っているものの実際問題かなりのダメージを受けている。
サラの最後の一撃が聞いているのだ。
それもそうだろう。
吹き飛ばなかったのだ。
大剣を片手で扱えるほどの力があるにも吹き飛ばなかった。
その理由は無理やりこらえたから……というのもあるが、サラ自信が吹き飛ばすというよりもダメージを与えることを軸に考えたからだ。
吹き飛ばすのではなく衝撃を体内に残す攻撃。
サラの力でその攻撃を受ければレベルの低いものであれば一発で気絶どころか病院にいきだ。
未だにああして立っていることができるだけでかなり強いという証拠になる。
だからこそ、今ディライトの受けてるダメージがかなりのダメージで、そのうえで居合という速度の攻撃手段を持つコウならば勝利を収められると考えたのだ。
実際、勝負は本当にあっけなく着いてしまった。
コウの攻撃が居合だとディライトも知っていたのだろう。
槍を元の長さに戻し距離を開けて攻撃しようとしたがその槍を居合で吹き飛ばし、距離を詰めようとしたコウ。
ただ今までこのレベルで戦ってきたのは伊達じゃない。
次の瞬間ディライトはコウを蹴り飛ばし距離を測るが、素早く体制を整えたコウが再び体制が整わないディライトに突っ込み一発叩き込んだところでディライトがリタイアしたのだ。
「……あ、あれ?勝てたの?」
確かにサラの攻撃によるダメージが残っていたからだが、それでも勝てたのはそれだけのレベルまで居合の技を上げたコウの努力と、胸を借りるといいながらも勝利を狙っていた心の奥底の気持ちがあったからだろう。
「君は自分を過小評価しているようだね?確かに全快状態であれば勝てたかもしれないですが、それとて全く無傷で倒せたとは思えないほど強かったですよ。もう少し自分に自信を持ってもいいと思いますね。それでは……いずれまた。」
そう言ってディライトは去っていく。
そのまま仲間の元に戻り一声カルマンに声をかけるとそのまま会場を後にした。
ダメージが大きかったため救命室に行ったのだ。
平然と歩きながら言ったのは彼のただの意地だろう。
最初の山場であるディライトが崩れ勢いに乗ったコウが次の相手も倒すことに成功するが、その結果疲れと傷で次の相手の時にリタイアすることになった。
そしてクリスの戦いが始まる。
次はクリスの戦いです。
闘技大会……予想以上に長くなりそうな予感が……。
それでも最低闘技大会終了までは書き上げます。