〜第一章異世界〜其の二
[月夜の雫〜第一章異世界〜其の二]
「とりあえず……どこか情報の集まる所にいかねぇとな……なぁ虹、もしかして此処ってモンスターやら化け物やらそんな類の者って存在する?」
「ええ、おそらくそれに類する者が存在いたします、闇より出でし者と呼ばれ、人間に害を成す者達です、一般的に闇者と呼ばれています……一般人が出会えばその闇者のレベルにもよりますが、間違いなく死ぬことになるくらい、人間にとっては脅威です。」
(やっぱりかぁ〜!本気でどうっすかなぁ……多少戦えるって言っても本格的な戦闘なんてやったことねぇっつうの……つまりだ!戦えばほぼ間違いなく俺は死ぬ!……なんだ……結論出てるんじゃねぇか……戦えば死ぬんだ!ならば逃げる!俺の全精力を持って死ぬ気で逃げる!それしかねぇ!)
頭を抱えた雫が、そう結論付けると一先ず山を降りる事を決めたらしい、おそらく闇者と呼ばれる存在であろうその亡骸達の、隙間を縫いつつ下に向って歩き出した。
数時間歩いた頃、足元の周辺どころか、目の前すら一メートル先がもう既に見えないほどの暗闇に包まれ、今日は進むのをあきらめたらしい、周りを警戒し、何もいないのを確認したうえで、大きな岩の陰に腰をおろした。
「なぁ……虹、俺数時間歩きっぱなしだって言うのに、全然疲れないんだけどさ、ここに来る前の俺なら三十分もしない内にばてて動けなくなってるはずなんだが……って俺がここ以外の世界から来たって言ってなかったか?」
「初耳です……なるほどだからですね、私がご主人様と認めたのは雫様が初めてにございます、異世界からの来訪者昔語りでしか聞いたことのない伝承です、以前に読んだ書物の一節をそのまま読み上げますね……異世界より出でし者共は得てして見た目は我等と変わらぬその身だが、その力、その知力、その勇気、その回復力、その体力全てが我等を凌駕する存在だ、異世界より出でし者共はある時は歴史に名を刻む勇者、ある時は歴史に其の名を刻む魔王として常に畏怖と驚異の存在である……という事を読んだ覚えがあります。恐らくですが世界を超えた際の差異により、雫様の世界での能力がこちらの世界での能力だと強化されたように感じるのではないでしょうか?私も詳しい事を知っている訳ではありませんので正しいかどうかは解りません……何より異世界よりの来訪者とお会いしたことも雫様が初めてにございます、お力になれず申し訳ありません。」
虹がその話を元にこの世界の事を色々と話し始める、主人と認めた雫に一から細かく教えて行く為に。
「この世界、星自体に名前は付いておりません、今私達がいる大陸がセレディアと呼ばれるこの世界で、一番大きな大陸です。ほかにセレガイ、オクディア、セレア、死の大陸と呼ばれる大陸があります。これ等は五大陸と呼ばれ、人間が住んでいるのは死の大陸以外の四大陸にそれぞれ住んでいます。死の大陸と呼ばれる所に住んでいるのは闇者のみといわれておりますが、その大陸に挑み帰って来たものがおりませんので詳しい事が解っていない状態です。今いるこの山がセレディアの一番端にあるディアレストと呼ばれる山です。此処からですと、一番近い街がディアと呼ばれるそこそこ大きな街なのですが、丸一日は歩き続けないとつけない距離です。」
「なるほどな、完璧に異世界だな、俺の住んでいたところにはそんな大陸存在しねぇし、星自体に地球と名前もついてるしな。何より闇者とか呼ばれる化け物なんて存在しないし。」
虹の説明を聞きつつ、本当に異世界に来たことを実感する雫はやはりとても嬉しそうだ。
それを不思議に思ったのだろう、虹が怖々と控えめに問いをかけた。
「雫様……雫様は不安ではないのですか?突如として自分が今まで住んでいた世界とは全く別の世界に飛ばされたというのに……」
「俺はね、物心ついた時からあっちの世界は俺の本当の世界じゃない……そう思い続けていたんだ。おかしな奴だろう?だから夢みたいな異世界というものに憧れ……いや違うな、異世界こそ本当の自分の世界だと思い続けていたんだな……まぁそんな可笑しな人間に友達や親しい者達が出来るわけもなく、常に一人。俺はあの世界から違う世界に行く事を毎日のように祈ってたんだ。だから不安とかはない!今あるのは……そうだな、たぶん歓喜って言うのが一番当てはまる感情だろう。」
雫はそう言うと本当に嬉しそうにに笑った。
「それに向こうには俺を心配してくれる人もいないし、誰も俺を必要としてくれる人もいないから未練も何もないんだ。」
そこだけは少し寂しそうな雰囲気をにじませていたが、それも一瞬で、逆に今度は虹に問いかけていた。
「そういえば、この世界だと虹みたいな意志を持っている武器って言うのは普通なのか?」
「いえ、恐らくほとんど存在しないと思われます。私自身今まで一度も出会ったことがありませんので、全く無い……とは言い切れませんが、あるとも言い切れません。私自身どうしてこのように意志を持つようになったのか忘れてしまっていますので何とも言い難いですが……そうですね、言い忘れましたが街中では私と話したりはしない方がいいと思います。私の声が聞こえる人等は滅多にいませんので、雫様が独り言をつぶやいてるようにしか見えなくなってしまいます。ですのでお願いします。」
雫は一つ頷いて虹を改めて見る、そこには闇すら寄せ付けないような銀色の刀身と七色に光る宝石が奇麗に存在する。
決してどれだけ離れていようと虹の事が認識できるだろうと、不思議な感覚に支配されるが、どことなく居心地のいいその感覚に素直に身を任せた。
しばらく見つめていると、思い出したかのようにまた問いかけが始まった。
「そういや、この世界には、やっぱり魔法とかってあるのか?」
「はい存在します。殆どの人が簡単な火付け位の魔法でしたら使えますが事戦闘において使える魔法となると、あまり数多く使える者はいません。ですのでこの世界で魔法使いと呼ばれる者たちはかなりの力を持った者達になります。勿論例外もありますが……。ただ魔法といっても何でもできるわけではないんです。火を起こし風を起こし、水を起こし、大地を起こすつまるところ、この四つに別けられるのですが、火は攻撃が主の魔法、単体から複数体にまで数多くの強力な魔法が多いです。水は基本回復の魔法が主です。時折幻覚や幻影といったものを作り出す者もいます。風に関してはほとんど支援ですね、攻撃も火の次に多いです。そして大地は防御の魔法が主です。それ以外に簡単な治療系の魔法もあります。私自身魔法が使えるわけではありません……使えないはずなのでこれ以上詳しく御教えする事はできませんし、魔法を使う方法等も存じ上げておりません。」
魔法、改めて聞くと感嘆のため息しか漏れなかったようだ、雫は少しワクワクしながら魔法に思いをはせているが、実際使えるかどうかは魔法を使える人に教えを請うまで解らない。
そんな事は解っているのだろう、それでも期待せずにはいられないようだ。
「ふわぁぁ……流石に眠くなってきたな……すまねぇが寝かせてもらうな。」
「はい、大丈夫です何かありましたら全力で起こさせていただきます。」
「ああ、頼むよ……」
そう言って雫は眼を閉じる、何だかんだといって色々と疲れていたようだ、それもそうだろう突然異世界に飛ばされ、数時間歩きまわり、初めて聞く世界の話を延々と聞いていたのだ、精神的にも肉体的にも疲れない訳がない。
目を閉じて数分もしない内に寝息を立て始めた雫、虹は静かにそれでも絶対守るという意思と共に傍らに有った。
「御主人様……私が初めてそして最後に認めたただ唯一の主……よろしくお願いします……」
とても、静かに、誰にも聞こえないほどの呟きだった……ただそこには長年探し続けたとても大事なものをようやく見つけた……そんな感じのとても奇麗な感情が見える。
それを呟いた瞬間、雫は寝ていながら、しっかりと頷いた……ただ首が落ちただけかもしれないが、虹にとってはそれだけでもう十分満足だったらしい、意識を周りに向け、何物であろうと近づいてくればすぐ解るようにした。
虹は次の日雫が起きるその時まで常にそこに有り続けた。
二話目です。
短いですがこまめに更新していけるように頑張ります。
何か変な点や気になる点がありましたらご指摘くださると大変作者が喜びます。
誤字脱字などもありましたら是非お教え下さい。
それでは、最後まで読んでくださった方ありがとうございます、またよろしくお願いします。
では、失礼しますね。