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月夜の雫  作者: 榊燕
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〜第五章資金繰り〜其の二

     [月夜の雫〜第五章資金繰り〜其の二]





「……おぉう!何だこの依頼の数!?」


 雫達が準備を整えギルドを訪れると、そこには走りまわるギルドの従業員達。

 そんな彼等、彼女等を不思議そうに見ながら、掲示板に向かったのだ。

 そして掲示板を見た一言めがそれだった。


「何かあわただしいし、この依頼の数……少しばかり異常じゃないかね?」


 サラも雫の言葉に頷きながら掲示板を見つめる。


「おっ!ラリア!おはよう、今日何なんだ?何かあったのか?」


 丁度タイミングよく通りかかったラリアに声を掛け、この異常な状態が何でか尋ねる。

 忙しそうに走り回ってたラリアがピタッと動きをとめこちらを見つめる。

 その瞳はかなりの疲労を感じさせるのに十分なくらい虚ろになっている。


「あ、ああ!雫さん!丁度いいところに!」


 ラリアが雫の姿に焦点を合わせると、突然大声をあげて詰め寄ってきた。


「うぉ!な、なんだ?」


「もぅ大変なんですよ!?何でか三日前から冒険者の皆さんが突然依頼をこなしてくれなくなっちゃって、その上この街から離れちゃったんですから!今この街にいる冒険者の数は雫さん方いれても二十人にも満たないんです!」


 今にも泣きそうになりながらすがりついてくるその姿は涙を誘うものがある。

 少し引きながらも雫はそんなラリアを慰めるように頭を撫でていた。

 サラとコウ、ビレイとラマは少し苦い表情を浮かべながらラリアを見つめる。

 何故か……その答えを知っているかのように。


「にしても……なんでなんだろうな?突然だったんだろう?ひとまずしゃあねぇ!俺達で出来る限りの依頼をこなしてくか!」


 雫がそう言うと、クリスを除いた全員が気まずそうにギルドメンバーを見る。

 そんな様子に気づいたクリスが不思議そうにサラに尋ねる。


「サラさん?何か……知ってるんですか?」


「……いや、何も知らないさ……」


 明らかに知ってる感じでそう言ったサラは少し悲しそうだった。

 そんな様子にそれ以上聞くことができなくなり、クリスは諦めて雫と同じように掲示板を見つめる。


「……あら?こんないい依頼が手つかず……治療の依頼!私これ受けます!」


「ああ!僕これ!刀剣の鑑定!これ受けます!」


「……私はこの魔法研究の手伝いという依頼を受ける事にしよう。」


「私はこの狩りの手伝いという依頼をこなそうと思う、貴族の依頼らしくかなりいい金額だしね。」


 各自自分の特技をいかせる依頼を見つけていく。

 ある意味、絶対一番になくなるような美味しい依頼がごろごろと残っている。

 クリスの治療の依頼は特殊な依頼だが、それでも絶対残っているような依頼ではない、何せ依頼の報酬が五万シル。

 コウの刀剣の依頼も五千シルと大金だ。

 ビレイの魔法研究の手伝いは成功度合いにより報酬が変わるみたいだが最低で一万シル、最高で十万シルまでなるという。

 ラマの狩りの依頼はどこぞの馬鹿な貴族が出した依頼らしく、ただの手伝いにも関わらず一万シル。

 他にも一万シルを超える依頼がまだ十数個残っているうえ、十万シルを超える依頼すら二三残っている。


「へぇ……俺たちにとっちゃ結構ラッキーだな!俺はこれだな、討伐依頼。一週間くらいかかるみたいだが八万シルって高額だしな!」


「ならあたしはこれだね!三日間で五万シル。あたしも討伐依頼だね。これ以外他に出来る事ってないから仕方ないさね!」


 そう言って一人一人個人で出来る依頼を見つけ受理してもらう。

 サラと雫の二人で受付をし、ほかのメンバーには外で待っていてもらう事にした。

 ラリアは一気に数が減って喜び、感謝していた。

 その時、ほかの冒険者達も戻って来たらしく、報酬や新しい依頼をこなすため掲示板に向かおうとしたが……雫達の姿を見つけると、こそこそと小声で話し始める。


(……何だ?……ん?俺達の話なのは間違いないみたいだな……化け物?厄災?)


 多少聞こえてきた単語から、間違いなく雫達の事を話してるのは間違いなく、それがいい話じゃない事も解る。


(ところどころ聞くと……俺達が化け物で厄災を運んで冒険者を殺そうとしてる……って感じで聞こえたけど……聞き間違いか?それとも……)


「雫、気にすんじゃないよ、ただの噂話さ。馬鹿な奴等の嫉妬ってやつだよ。」


 雫が立ち止まりその言葉を聞いてる事に気づいたサラが、いつの間にか隣に立ちそう言って俺を促しながら外に出る。


「……サラの反応からすると、本当にああいう話が出てる訳だな。ってことは……何だこの騒ぎ俺達のせいじゃねぇか……ったくままならねぇ!」


 がしがしと頭を掻きながらサラと二人、外で待っている他のメンバーの元に向かう。


「ふむ、つーことは俺以外の他の奴等はすでにこのこと知ってるわけか?」


「さっきの反応からすると、クリスだけ知らないはずだね。他の奴等は皆知ってるぽかったよ。」


「なるほどね〜、だからかさっきから少し気まずそうにしてたの。」


「……何だい気づいてたのかい。なるべく気付かせないようにしたかったってのにさ。」


 そんな事を話しながらメンバーの元に着くと、今までそんな事を話してたなんてことを全く表に出さず、のほほんとした感じの明るい調子で午後から出発するといいだした。


「一先ず、俺とサラはしばらく戻ってこれないから、その間はクリス頼むな!後各自依頼が終了した時点でギルドを助けてやってほしい。なるべく多くの依頼をこなしてやってくれ。」


「はい!解りました。私の依頼は基本的に一週間かかるものの、夜の時間だけなんで他の依頼も受けられますし、他の皆の補助をする事も出来るので任せて下さい!」


 ある程度話をまとめると一度屋敷に戻り、雫とサラは保存食を少し多めに持ち、すぐに討伐の依頼をこなすべく屋敷を後にした。

 ビレイも魔法研究を行うべく、必要だと思われる道具を揃え屋敷を出る。

 ラマは午後からの予定らしく、狩りに必要な弓と矢を揃え、もしもの時の為に救急道具も用意しながらクリスに訪ねてきた。


「クリスさん、救急の道具ってこれでいいでしょうか?」


「はい?ああはいはい、えっと……包帯とタオル、奇麗な水とアルコール……大体いいと思いますけど、これも持って行った方がいいですよ、レイコウの葉、すりつぶしてぬれば熱と化膿を抑える効果がありますから便利です。」


 クリスは紅葉のような形の紫色の葉っぱをそう言ってラマに手渡す。

 ラマも礼をいいながらそれをしまい、準備を整えると、二人お茶を飲みながら少しゆっくりする事にした。


「すいません!僕もこれから言ってきますね!夜には戻ってこれると思います!」


 二人がお茶を飲んでいると、あわただしくコウがそう言って食堂の扉を開け放ち、走って屋敷を出て行った。


「これで後はラマさんが二時間後に出かけるのと、私が夜に出かけるだけですね。一応今日戻ってくる予定なのはコウさんとラマさん、そして私ですか。ビレイさんは確か……」


「ビレイさんは三日後までには戻ると言ってましたね。早く終われば明日にでも戻れるかもしれないという事でしたが。」


「そうでしたそうでした!ひとまず、今日は簡単なスケジュール表みたいなものを作っておきますので、何か変更や新しい依頼を受けた場合、直接言えない時はそれに書いておくようにしてください。コウさんにも伝えてもらっていいですか?私後で行く前にビレイさんに伝えに行ってきますので。」


「はい大丈夫です。」


 これからの予定を話し合いながら少しゆったりとした時間を過ごす。

 この一週間色々とあわただしく買い物やら部屋の整理やらを行っていたため、短いながらもこういうゆったりと過ごせる時間を大事にしていた。

 雑談交じりにそんな時間を過ごしていると、すぐに二時間がたってしまい、ラマも依頼をこなしに出かける事に。


「それでは行ってきますね。夜には戻ってこれるはずなので、入れ違いになってしまうかも知れませんね。」


 そう言って屋敷を後にした。

 一人残ったクリスは、一人で暇だなぁと思いながら、夜の準備に入った。

 といっても、今回の依頼は神聖の奇跡による治療なので、必要なものといっても特にない。

 あえて持って行くとすれば杖くらいだろう。

 準備すると言っても十分くらいで全部終わってしまい、その依頼の時間が来るまでフィアナと一緒に雑談をしながら時間を潰す事にした。

 そして、夜といよりも夕方に近い時間になり、クリスが屋敷を出ると、屋敷に残っている人はダーニャのみとなった。

 そしてダーニャにいたっては工房にこもり武器と防具を打つか寝るかのどちらかしかしていないため、つい今日の朝までにぎやかだった屋敷は静まり返っていた。


「……あのような……楽しい時間になれてしまうとやはりこういった静かな時間というものが今まで以上に寂しく感じられますね……」


 フィアナは誰もいなくなった食堂に立ちながらそう呟いて、少しさびしそうにため息をついた。


「さて、こんなことで気落ちしていてもはじまりませんよね!皆さんが戻るまでに部屋の掃除でもしてしまいましょう!」


 そんな様子も一瞬で、次の瞬間にはいつも通りの笑顔を浮かべながら部屋の掃除をするために屋敷の中を歩きまわる。

 そして、そんな状態が一か月近く続くことになった。

とりあえず、ある程度お金がたまるまで続きます。

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