〜第四章入団希望〜其の五
[月夜の雫〜第四章入団希望〜其の五]
[雫]
「ちょまてやごらぁぁぁぁ!?」
今の状況を説明してやろうか?
ああしてやるよ!
「っっ、コウ!ビレイ!」
今俺達の現状は。
「はい!、ビレイさんお願いします!」
「ま、任せろ!」
分かれた瞬間、何やら多数の殺気がするなぁと後ろを振り向いて。
「だぁぁぁぁぁ!何で俺いっつもこんなんばっかしなんだぁぁぁぁ!?」
ずら〜っと並ぶ鋏の群れがいた。
「雫さん!いっつもこんなことしてるんですか!?流石ですねぇぇぇぇ!」
重なり合う視線と視線。
「……今我が欲するは聖なる雷!ライトニングウェーブ!……ってキリがないですよ!」
愛想笑いする俺達。
「解ってる!けど適度に振り払いながら逃げるぞ!?」
通じ合う心!?
……なんて、んなわけあるかぁぁぁぁ!?
そのまんま襲われてるわ!
数を数えるのもばかばかしい位のレイラルの群れ。
俺だって既に二十匹は倒してるぜ!
「僕初めてですこんなに倒したのぉ!八匹目ぇぇぇぇ!」
「私も初めてですよ!?こんなむちゃな戦い!ライトニングウェーブ!私で十三匹目です!」
まぁ慌ててる振りもそろそろいいかね。
ぶっちゃけ何とかなりそうだから。
にしても、コウの攻撃凄いな。
居合だろあれ。
速度はまだまだだけど、その刀剣の切れ味はかなりのものだし、ブレもあまりないせいか、一刀の元しっかり倒せてるのがすげぇ。
凄いと言えばビレイもだな。
あいつ走って逃げながら器用に詠唱までこなして敵倒してるんだからよ。
イメージ的に魔法使いってのは落ち着いて集中し、その場にとどまらないと魔法使えないのかと思ったけど、俺の勘違いだったみたいだな。
「にしてもすげぇなぁ、二人とも。コウは速度がもう少し欲しいところだがそれでもしっかり一刀の元敵を斬り伏せてるし、ビレイは俺てっきり勘違いしてたぜ、魔法使いってのは落ち着いて、集中しないと魔法使えないと思ってからな。固定砲台みたいなイメージがあった。」
「あ、ありがとうございますぅぅ!って何で雫さんそんなに落ち着いてるんですか!?」
「私のこれは特殊なだけだ!何ですかその落ち着きは!?下手したら死ぬんですよ!」
なるほど〜ビレイはやっぱり特別ってか特殊?よくわからねぇや。
まぁ後で聞くとして。
「いやさ、最初二人がものすっごく慌ててたから、悪ふざけで慌ててるふりしちまったけど……ぶっちゃけあれくらいならなんとかなるだろう?」
実際の数は解らないと言ったものの、逃げて倒しながら数えたところ、正確ではないが残り六十匹くらいしかいないはずだ。
「……何ふざけてるですか!そんなわけないでしょう!あの数ですよ!?普通に戦って勝てるわけがない!」
「いえ、でも雫さん達はあの依頼をこなした方です、もしかして……」
「こなしたとしても数の暴力に勝てるわけがないだろう!」
さてはて、喧嘩というか、少し言い合いが始まったし、そろそろ狩場にもついちまうからそろそろ決めるか。
「んじゃまぁ後百メートルくらいで狩場予定地だし、そろそろ決めるか。」
俺がそう言って立ち止まると、慌ててコウとビレイも立ち止まる。
「何止まってるんですか!雫さん死にますよ!?」
「何するつもりですか!?いくら貴方が噂通りだったとしても一人であの数を倒せるわけがないでしょう!?」
そう、俺一人なら倒せないだろうな。
まぁ死ぬことなく逃げる事は出来るかもしれないけど……あくまでかもだけどさ。
「まぁな、俺一人なら殲滅するのは難しい!だけどよ、今俺は一人じゃないだろう?」
そう言ってニヤリとコウとビレイを見つめる。
コウは……少し沈黙した後、覚悟を決めたかのように俺に頷き、ビレイはコウが頷いた後、溜息をつきながら「雫さんはいっつもこうなんですか?」といいながらも参戦を決定した。
「はっはっは!まぁこんなもんだな大概。もし俺の団に入るんならそれなりに覚悟しておけよ〜っと朱華頼む!」
「は〜いお父様。大地の精霊よ今こそその御力をこの大地に現し、悪しき存在の歩みを止めよ!アースバインド!」
おおう!すげぇレイラル達の前に巨大な土の壁出来やがった!
それに激突させてあいつら止めやがったぜ!
いや実際、物凄い音だった。
聞いたことねぇけどきっと、爆弾が爆発したらあんな音になりそうだな。
「精霊魔法!?雫さんが使った……わけではないんですね、その妖精ですか。」
物凄く驚いたように俺を見たビレイは、俺の肩にとまった朱華を目にして、少し落ち着いたようだ。
「はい、今のは私です、朱華と申しますのでよろしくお願いします。」
「は、はい!僕コウです!コウ=コロです!よろしくお願いします!」
朱華のその言葉に少し緊張して答えるコウ。
「朱華さん、よろしくお願いします。私はビレイ、ビレイ=ローランです。」
意外にビレイも素直に返事をした。
意外にってのは失礼か。
「さぁって、自己紹介が終わったところであいつらを始末するとしますかね。朱華残り何匹だ?」
「はい!残り四十匹といったところです!すいません、私のアースバインド限界みたいです、崩れます!」
俺はその朱華の言葉と共にその土の壁に走り始めた。
手にはもちろん俺の相棒である漆黒の鎌を装備している。
とても手に馴染むこれは、未だ二度しか本格的に使っていないにも関わらず、もうずっと共に闘ってきているかのように感じる。
『パリン!』
「意外と音奇麗なんだな。」
ガラスが割れたような音とともに、土の壁が消え、目の前にレイラル達が現れる。
俺は全力で鎌を真横に振るい、目の前のレイラル達を切り裂いた。
「おおおらぁぁぁぁ!?新記録!八匹一気にいったぜ!」
そんな事をのたまいながら一度距離をとった俺の後ろから、コウが一歩踏み出し、俺に襲いかかろうとしたレイラルを斬り伏せる。
「流石です!噂はやっぱりただの噂じゃなく、本当のことだったんですね!」
憧れてますって視線が強化されてるよおい。
くすぐったいからやめてくれ、武器が凄いだけなんだっての。
「聖なる雷、我の名の元、今こそこの地に降り注げ!ライトニングレイン!」
おおう!雷の雨か!
空から降り注ぐレーザーの攻撃みたいですげェな。
「……確かに、噂が虚偽だった……ということはないみたいですね。まだ完全に信用したわけではありませんが。」
そう言いながら、ビレイは俺を一度見るとまたレイラルに向きなおる。
「流石だなぁ、今ので一気に半分になったぜ。残り一気に行くぞ!」
そう言った俺に続いてコウが走り、その後方でビレイが魔法を唱える。
朱華は暇そうに俺の肩に止まったままだ。
こうして、その群れとの戦闘は本格的に始めて十分もかからないで終わっちまった。
「さぁて、収集品だけあつめるぞ〜、朱華さっき逃げながら倒したときの奴、どうした?」
「ここに集めておきました!」
「でかした!」
そう言って頭を軽く撫でてやるととても嬉しそうに俺の肩の上で羽根を揺らしてる。
「集めるのも大変そうですね〜、と愚痴を言っていても仕方ないですし集めましょうか。」
一番初めに動き始めるのがやはりコウ、めんどくさそうにそれに続いてビレイも集め始める。
ひとまず全部集め終わると、俺は改めて二人に聞いてみた。
「さて、まぁ解ってると思うけど、あそこにグリが五匹いる。今ならまだ引き返せるけど……二人とも付いてくるか?」
「はい!もちろんです!僕強くなりたいんです、雫さんみたいに強く!」
「もちろんですよ、まだ雫さんの実力を本当に確かめたわけじゃ無いですからね、今度の戦いで見極めさせて頂きます。」
二人とも逃げる気は全くないと。
にしても強く……ねぇ、確かに武器は強いけど、俺自身なんて少しばかり他の人より身体能力が上なだけで、そんなんでもねぇんだけどなぁ。
どうしたもんやら。
まぁ今はいいか、グリ討伐始めるとしようかね。
「オーケイ、んじゃまぁ……行くぞ!」
「まずはこの距離、まだ向こうには気づかれてないんので私が先制攻撃をしますがよろしいですか?」
「オーケイオーケイ、いっちょ派手なのいったれや!」
なぜにそんな話し方になるんだ?といった感じに二人が見てくるが無視。
「……はぁ、行きます!我が思うはその雷、我が願うのはその炎。重なり合うその二つ、今この場にて再現し、悪しき存在への鉄槌となせ!ライトニグボール!」
見た目普通の雷の玉みたいに見えるが……。
飛んで行った先の当たったグリを見ると、当たった瞬間にしびれ、破裂し、その瞬間に……溶けやがった!
「今のは実際かなり集中しないといけないんで、戦闘中は使えません、一撃で倒せる魔法はないんで私は足止めと牽制に務めますがよろしいですか?」
俺は思わず頷きそうになったが、これはあくまで二人の入団試験を兼ねてる事を今思い出した。
「いやだめだ、俺も今頷きそうになったけど、二人の試験でもあるんだから、とりあえず俺が二匹倒すまでに各自一匹ずつ倒せればそれで合格!倒せなかったら……その時はその時でまた考える!」
俺がそう言うと、小さく溜息をつきながら、「それも一理ありますね。」と仕方なそうに前に出るビレイ。
コウに至ってはやる気に充ち溢れ……溢れすぎて空回りするんじゃないかと思ってしまう。
そしてグリが四匹まとまって襲いかかってき来た。
「さぁてまずは一匹目っと。ほらほら急がないとすぐに二匹目いくぞ!」
まず一匹目を刃を下にしていた状態から振り上げて真っ二つに、相変わらず切れ味……すげぇよなぁこれも。
虹の切れ味の次位にすげぇ。
「ライトニング!……っち、あと三発くらいか、余裕だね!」
「っふ!っは!……硬いです!切り裂けません。ですが……切れないわけではないですので……覚悟してください!」
と二人盛り上がり始めたところ悪いんだけど。
「ごめん終わっちまった。」
「「は?」」
二人の息が完璧にそろった。
いや……だって仕方無いっしょ。
振り上げて振り下ろしたら二匹目にあたって倒しちまったんだからさ。
「……はぁ……噂は本当だったんでしょうね、確かに低レベル闇者のグリとはいえ、一動作で二体も倒せるなんて、普通はできません。……今まで数々のご無礼申し訳ありません、これから我が本当の力改めてお見せいたしましょう!」
「はぁ……やっぱり雫さん凄いです。僕も頑張らないと!」
コウは素直に頷いて目の前のグリに攻撃を開始する。
ビレイは、先ほどまでのおかしな挑戦的な態度が一変し、急に俺に対して丁寧な態度をとるようになった。
正直どうしていいか解りませんよ!?
「……闇より出でしその腕で、悪しき存在である目の前の者を今こそその地に飲み干せ!ダークレイド……」
んなこと考えてると、いきなりビレイの目の前のグリが自分の影に沈むように消え去った。
「最後です。」
と同時位に、先ほどから同じ場所のみを切り続けていたコウがとうとうその首を両断した。
「おつかれさーん。コウも結構意地っ張りなんだな、ビレイに関してはもう俺魔法全然解らねぇから凄いとしか言いようがねぇわ。」
そう言ってカラカラと笑う。
「さぁってと、終わった……と思ったんだけどなぁ。」
後ろからさらに六つの視線が俺を襲う。
感覚的に感じたことのあるこの気配は、グリが二匹とライラが四匹。
「さぁて追加オーダーが入りました!ひとまず俺がグリ二匹とライラ一匹を倒すから、その間に二人で一匹ずつでもいいし、一人一匹にしてもいいから、頼むは。」
俺はそう言ってまずはグリの方へ歩いて行く。
ライラに至ってはちかづいて行っても逃げられれば何とか追いかける事は出来ても捕らえることなんてできないからな。
「さぁてコウ君、どうしますか?」
「僕はライラであれば一人の方が借りやすいのですけど……」
「解りました、では一人一匹で、今度こそ雫さんに勝ちますよ!」
「たった一匹倒すのに三匹倒されるなんて少し恥ずかしいですよね!頑張りましょう!」
話しは決まったみたいだね。
んじゃまぁいくとします……とと。
クリスもう終わったのかよ、早いなぁ。
それもほとんどクリス一人でやって、うは、数がめちゃくちゃだったのか、本当に頑張ってくれたな。
「二匹目っと……コウ、ビレイ大丈夫か?」
「心配されるまでもありません、しっかりこなしてみませすよ!」
「問題ありません、流石にこのすばしっこさに手を焼いてますが、決まれば一撃です。」
クリスの話は続き、まじかよ大の男が少女といってもいい位のクリスが頑張ってる間腰抜かして怯えてるだけだったってか。
まじありえねぇ。
「「「完了!」」」
三人が完璧にシンクロした。
少し嬉しいような恥ずかしいような微妙な感覚だな。
『…………クリスよく頑張ってくれたな!』
クリスの話も丁度おわり、こちらも丁度終わったんでクリスのもとへいく事に。
コウとビレイに事情を話し急いで収集品を集める。
そーいえば俺達一番離れているっぽいのか……。
何せ、分かれた時歩いて行った方向が俺とクリスなんて真逆だったからなぁ。
サラは意外と近いかも知れねぇ。
「さぁて、収集品も集め終わったし急ぐぞ!」
俺達はそう言って走り出した。
ビレイなんかは走ってついてきながら、腰を抜かした馬鹿共に愚痴をこぼしている。
コウは黙ってついてくるものの、少女だけを戦わし、自分達は腰を抜かしてる!等という馬鹿達に嫌悪感を抱いてるのは確かだ。
そんな二人を引き連れ、クリスの元に着いたのは俺達が最後だった。
そして馬鹿どもを背負い、町まで戻ろうとしたが途中で元気になって逃げだしやがった……少しいらっとくるな。
「さぁて、一度ギルドに戻って、結果発表だな!」
俺がそう言うと、サラとクリス、ラマ、コウ、ビレイが頷いた。
こうして一路ギルドへ向かう事になった。
「これが今回の報酬です!」
そう言って受け取ったのは全部で九万シル。
予想以上に物価が高くなっており、収集品が高く売れたのだ。
「さぁて緊張……してるのはコウだけかよ、つまらねぇ。」
おっとぼそっと本音が出ちまった気を付けねぇとな。
「結果発表!ってかまぁ今この時点でこの場所にいるだけで入団許可してるんだけどな。」
俺はそう言って三人にカラードルと書類を渡した。
「一応もう登録しておいたが、間違いがあったら直してくれや。
三人の顔をうかがいつつそう言ったものの、間違いがあったら直すのがめんどくせぇ……間違いないように祈るかね。
そして一分経つか経たないかで三人とも間違いないという事だった。
俺はその書類をラリアに出した。
「よっし!これで完全に完了だ!じゃあ改めてこれからよろしく頼むな!」
「はい!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします、雫さん。これからいろいろ学ばせて頂きます。」
「よろしく、お願いします。これからお世話になります。」
上からコウ、ビレイ、ラマだ。
こうして簡単な自己紹介を終えたころ、タイミングよく書類もでき、完璧に三人とも俺達の仲間になった。
それを拍手で迎える俺とサラとクリス。
そして……俺はすでに限界だった……主に疲れが。
おそらくビレイとコウも似たようなもんだろう、サラはまだ元気がありそうだが、クリスなんかは今にも倒れてしまいたい!って感じだしな。
「すまねぇが今日はもう疲れた!だから明日詳しい説明をする!ひとまず今日のところは俺の家があるから、そこで休んでくれや。」
そう言って立ち上がり屋敷に向かう。
本当に今日もまた疲れた……明日、体力が回復してから本格的にどうするか話し合うかね。
まぁ屋敷はギルドから歩いて五分ほどなんですぐ着いた。
まぁ案の定フィアナを最初みた三人の反応は……。
コウは本気で気付かず説明してもいまいち理解していなかったが、問題ないと納得した……つまらねぇ。
ビレイは速攻で魔法詠唱始めやがったんで、後ろからサラがどついて止め、俺が説明してやると、「そんな事もあるんですね……」と心底不思議そうに、どこか興味がそそられるって感じの視線を向けて納得した……もう少し面白いリアクションが欲しいな!
そして……ラマ……。
「……きゅ〜」
まぁ……最初は少しおかしいなくらいに思ってたんだろうな。
その後、透けて後ろが見える事に驚き、少し震えながら俺に訪ねてきたんで。
「ああ、幽霊だ!」
と言ってやった!
まぁ……まさか気絶するとは思わなかったんだけどな……でも、こういう反応を待っていた!
なんてことをやってると、フィアナからは猛抗議をくらい、クリスとサラは本当にどうしようもないなぁと苦笑を洩らしつつラマを介抱し、コウとビレイは溜息をついて乾いた笑みを浮かべていた。
全く失礼な奴らだ……俺悪く……ないよね?
……いや、ごめん、本当は少し悪いと思ってるよ?
なんてことをいいあいながら各自部屋に戻って休むことになった。
ひとまず、俺も部屋にもどり、着替えるとベッドに横になって少し考え事を使用としてたんだが……まぁいわずもがな、速攻で眠りに落ちてしまったわけだ。
第四章完了。
次五章に入ります。
仲間も増え、依頼をこなす毎日が……はじまるんですかね?