〜第四章入団希望〜其の四
[月夜の雫〜第四章入団希望〜其の四]
[サラ]
さてさて、獲物自体は問題ないけど、連れてきたこいつ等がどうなるかが問題だねぇ。
まぁ……あたしが見る限りじゃ闇者と相対して逃げ出さない奴は五名位か……せめて腰とか抜かさないで逃げてくれれば助かるんだけど……何とかしてほしいね。
「サラさん、後ろの方で二名抜けて街に帰えられたみたいです。」
「おっと、気づかなかった……よく気づいたねあんた、えっとラマだっけ、助かったよ。」
本気で気付かなかった、この子意外といい感性してる、こりゃ雫じゃないけど楽しみだねぇ。
「さぁて!ここでもう一度だけ聞いておくよ!後五分もすれば狩場に到着する!そこまでいけばもう途中で腰抜かしたりした奴を助けてる余裕なんてなくなるからね!自身のない奴、覚悟のない奴はここで引きかえしな!」
私は振りかえり残りの奴等に声を大にして最後の忠告をしてやった。
ひと陰に隠れるように立っていながらその視線に宿る意志……私はやる!といった覚悟の籠ったそれは隠しようもなく私を楽しみにさせてくれる。
(いやぁ本気でいい子が来たもんだね!雫も今日眼をつけたみたいだけど、この子はあたしが見極めさせて貰うよ。)
「……お、俺すいません!ここで抜けさせて貰います!」
一人の冒険者の男がそう言って走って逃げだすと、それに続くように「俺も!」「私も!」といった感じで一斉に逃げだしやがった。
流石のあたしも少し茫然としちまったね。
いやだってさ……。
「残ったのが一人ってどういう事だいこれは?」
そう残ったのがラマ一人だけって……情けないにもほどがあるんじゃないかい?
「……覚悟のない人にいられるより、いない方がいいですよ。」
「あんたも意外と辛辣だねぇ、まぁ確かにだけどさ。」
ラマのその言葉にヒューと口笛を吹きながら答え、仕方ないんで二人で行くことにした。
「んでさ、ラマあんたはライラとの戦闘経験は?」
「ありません、レイラルは一人で最高四匹までなら相手にできます。グリも一度だけ戦ったことがありますが、一人では倒せませんでした。」
なるほどなるほど。
実際ランクDでレイラル四匹をソロで倒せるんならたいしたもんだね。
グリは流石にねぇ……あたし達見たいに武器が揃ってるってんならまだしも、普通の武器屋の武器じゃ少々荷がおもいかね。
「一緒に行ったパーティの人が留めの一撃を持って行ってしまい、結局二人で倒したことになってしまいましたので……」
……おお!いいねぇ!こういうの好きだよあたし!
ランクDに何でいるのかが不思議なくらいの実力だね。
「なるほどね〜、でもさ、なんでそれだけの実力があって未だランクDにいるわけ?」
「……依頼……受け忘れて……」
ごめん、思わずふいちまったよ。
確かに高レベル闇者を倒せば依頼を受けずともランクを上げる事は出来るとは言え、一匹だけじゃさすがに無理だしね。
「ああ、ごめんごめん、悪気があったわけじゃないんだよ。家のリーダーと微妙に抜けてるところが似ててね。」
そう、咄嗟に思いついたのが雫のことだった。
あいつも何気に可笑しな実力を持っているにもかかわらず自分自身たいして強くないとか思ってるし、後一歩って所で抜けるところが多いからねぇ。
「そうなんですか?リーダーといいますと雫さんの事ですよね。あのデスブリンガーをただ一人で倒したという噂の……」
「そうそう!まぁ噂っていっても、完璧な事実なんだけどね。実際見てみないと信じられないと思うけどさ。」
私がそう言うと、初めてここで吃驚したような表情を見せて、「本当だったんだ……」と呟いている。
そりゃそうだよね〜。
あたしだって、実際見た人に直接事実だって聞かない限りただの噂としか思えない話だし。
「すごい人なんですね……雫さんって。」
……まぁ確かに凄い奴だよね。
いろんな意味で。
「まぁ実際団に入れば否が応でも雫と付き合っていくことになるんだ。楽しみにしときな!」
まぁこの子は入団確実だね。
実際あの場で逃げなかったのもそうだし、今こう話しながら歩いてるにもかかわらず周りにきちんと意識を向けて闇者の襲撃に備えてるし。
「……なんだかもうすでに入団決定してるみたいに聞こえたんですけど?」
はて?といった感じに首を傾げながら聞いてくるその様子に苦笑を洩らしながら、「後の楽しみだよ。」とだけ言って剣を構える。
あたしに続くように弓を構え視線を闇者がいるであろうその先に向ける。
「流石だねぇ、気づいたかい。」
「はい。これだけ荒々しくこちらを襲う気満々であればいやでも気づきます。」
そうでもないんだけどね。
実際気づかない奴等の方が多いさ、さっきまでいたやつらなら絶対気付けないと思うよ。
まぁそんな事は言わないけどさ。
「さぁて!それじゃあいっちょいきますか!気を付ける事はライラのスピードのみ!動き一度見切ってしまえば後はどうとでもなるから落ち着いて行きなよ!」
あたしはラマにそう言って前方にいるであろうライラに向って一気に詰め寄る。
奇襲をかける予定だったであろうライラは逆に奇襲をかけられ、咄嗟に反応ができなかったみたいで、あたしの一撃で吹き飛び、木に激突してそのまま絶えた。
「……いい感じだね!あのスピードに弓を合わせられるんならかなりいい腕だ!」
あたしの後ろから襲いかかってきたライラをラマの弓が射抜いた。
流石に仕留めるまではいかなかったまでも、横っ腹につきさったから、機動力なんてもう皆無だろうね。
ほら、動きが鈍くなった瞬間に奇麗にずがいに一発決めて終わりだ。
「命中精度も高いっと……どこまで高スペックに出来てるねっと!」
あたしはそう言いながら横から襲いかかってきたレイラルを一刀のもとに切り伏せ、ラマと合流する。
「……私自信命中制度と動体視力には自信がありますので……ただひとつ言っておかないといけないのは……っは!」
ラマは咄嗟に現れた大きな影にまた一本の矢を打ち込んだ。
「…………少しでも硬い敵にあたると、その皮膚を通すだけの力がないんです。この通りに。」
現れた影はグリ。
大きさ二メートルくらいの熊。
実際グリーズルの弱いバージョンってやつだねぇ。
それでも比較的その皮膚は硬い、でもそれほどまで硬いってわけじゃないんだけど……まぁ欠点がなかったら逆に可笑しいからいいか。
「なるほどね!これからはもう少し力をつけるようにしないといけないねぇ、だぁりゃっ!」
矢をはじいたグリがラマに襲いかかろうとしてきたんで、思いっきり吹き飛ばしてやった。
流石に一撃で死ぬ事はなかったか。
まぁ……振り向きざま腕だけで振ったんだから威力なんてほとんどないよねぇ。
「……はい、最近は筋トレするようにしてます。今は一先ず……はぁぁぁっ!……こんな感じで通せそうな場所を狙って何とかする方向でカヴァーしてます。」
気合い一閃って感じかね?
グリの目に吸い込まれるように一本の矢が突き刺さった……ってよくあんなところ狙えるねぇ、その器用さがうらやましいわ少し。
「さぁて、状況整理するよ。今ライラ二匹とレイラル一匹、そして何故かグリが一匹いたね。本当であれば後ライラ一匹とレイラル四匹で終わりの筈なんだけど……」
「明らかにこの殺気まがいの視線の数と一致しませんね、少なく見積もっても八匹くらいはいそうです。」
おしい!九匹なんだよね。
でもそこまで把握できるんなら上出来か、にしても恐らくライラが残り二匹にレイラルが六匹。
……あと一匹結構やばい感じがするから出来るんなら逃げたいところだけど……。
「……サラ……さん。一ついいですか?」
ゴクリと唾をのみ込みながらラマがあたしに近づき、少し震えながら視線を可笑しな殺気を放つ方向へ向ける。
「気づいたみたいだねぇ、あいつは結構やばい感じがする、あたし一人じゃきついかもしれないから、隙をついて逃げるよ!」
「は、い。私……にとって……あのプレッシャーだけで、結構きつい、です。」
少し息を乱しながらそれでも気丈にしっかりとその視線はその方向へ向けている。
「声を出せてるだけでも上出来さね!あたしだって実際今すぐにでも逃げだしたくて仕方ないんだからさ!」
励ますつもりで少しおかしい位のテンションでラマの肩を叩いてやった。
実際あたしも結構緊張してるんだよね。
明らかにグリーズルより強敵だってのは間違いないし。
「っっ、っは!」
集中していない左から突然襲われ、少し焦りながらも正確にその眉間に矢を吸い込ませる。
襲いかかってきたレイラルはその一矢の元絶命し、それを皮切りにレイラルとライラが一斉に襲い掛かってきやがった。
「うらぁぁぁ!ライラは引き受けるから、何とかそっちのレイラル五匹頼むよ!」
確か四匹ならとか言ってたけどこの際頑張ってもらうしかない。
頼むよ〜。
「任せて下さい!無傷で倒せるのが四匹なだけで、実際まだまだ数をこなせます!」
そう言ってまた一匹と倒した。
「よっし!いい返事だ。それじゃああたしが倒すまでに五匹倒してたらそれで完璧に団の入隊許可してあげるよ!」
そう言ってライラの爪を交わし距離をとる。
流石にあのスピードを真正面から対応するにはあたしの早さじゃ追いつけない。
なら……。
「狙い通り!」
一歩下がった瞬間、草むらに隠れていた一匹のライラが背後から飛びかかってきたけど、これを狙ってたんだよね!
「はい一匹目!」
「私三匹目です!このまま行きます!」
ありゃ、これは本気で負けそうだね。
正確さが半端ないよ、ほとんど一矢の元たおしてるじゃないか。
なぁんてね。
「残念、あたしは二匹目も終わりだよ!」
速さについて行く事は出来ないけど、その速さに対応する事は出来るんだよ。
早さに追いついて斬るんじゃなく、その速さで剣にぶつかってくるように構えればいいだけなんだからね。
「……もう少しだったんですけど……っっっっ!?」
残念そうに最後の一匹を倒して近づいてこようとしたラマが一気に前筋力を使って飛びずさった。
草むらから出てきたそいつは襲いかかって来たわけじゃない。
ただ……そうただ、視線をラマに向けただけだ。
それだけで本能的にそう言った行動に出たんだろう。
あたしも思わず剣を構えて、一歩後ずさっちまったしね。
『人間どもか、今我は争うつもりなどない、ただ暇つぶしの散歩に来ているだけだ。我と戦うつもりなどないのであろう?ならば行くがよい。」
そう言ってそいつはあたし達の前から去って行った。
「…………っっは、はぁはぁはぁはぁ!?」
ラマは思わず呼吸まで止めてしまっていたようで、姿が見えなくなってそれを思い出した見たいだ。
かくいうあたしも、実際手のひらには汗がびっしょり、背中も気持ちが悪い位汗をかいているよ。
「……相手が本当に知能の高い闇者で、それも戦いに酔ったやつじゃなくて助かったねぇ。」
あたしが剣を杖によりかかり溜息をつくと、気が抜けたようにラマがその場に座り込んだ。
「私……初めて視線を向けられただけで死んだと思いました。あれ……何なんですか?」
ラマが知らないのも無理はないね。
あたしだって辛うじて名前を知ってるだけで、実際見たのなんて初めてなんだから。
「あいつは、ケンデウスって化け物さ、レベルだって未確認の本気の化け物だよ。」
そうあいつ、あの二メートルくらいの身長に、人と似た顔立ちと体型。
その上人間以上の知能をもち、全身体能力が、人間の五倍以上ある化け物。
実際街中であの雰囲気もなく歩いていれば、闇者だと気付かない可能性もあるくらい人そのまんまの化け物。
「……レベル未確認なんて……神話の話に出てくる闇者レベルってことじゃ無いですか……よく私たち生きていられましたね……本気で今、信じてませんけど神に感謝してもいいかもしれないって思いました。」
クリスが聞いたら少し頬をふくらませるかもしれないようなことを言いながら、少し笑いがこぼれたところを見ると、多少精神的に戻ってきたみたいだね。
立ち直りも早いのは冒険者にとっていい事なのか悪いことなのか。
「おっと……」
「?」
なるほどね、クリスも無事依頼終了したみたいだね。
にしても……あたしんとこの馬鹿達も情けなかったけど、クリスんとこは話にもならないね。
きっとクリスの見た目を馬鹿にして、目立とうとした馬鹿なんだろうけど、腰抜かして助けを呼ばないと帰れないなんて話にもならないじゃないか。
「っってぇぇい!」
びっくりした、木の上からレイラルが一匹襲いかかってきやがったよ。
咄嗟に反応できたからよかったものの、下手したら大怪我してたね。
ひとまず、クリスと通信を終えたあたしは、ラマに言いながら闇者の遺品を集め、クリスの元へ向かう事にした。
「さぁって、ラマ、これからよろしくね!」
「……は、はい!よろしくお願いします!」
あたしはこうして、ラマの入隊を許可して、二人で走りながらクリスの元へ向かった。
残り一話。