少女の名は、ノア
プロローグの続きです
「おい、お前! 名前は何だ!?」
「……ノア」
「ノアか。良い名前だ!」
「あなたは、何?」
「俺か? 俺は……そうだな、しがない虎さ」
「うん、知ってる」
だって、うちの旅芸人の中の備品で、私の遊び相手で、人間なんて入れない、イノシシの赤ちゃんくらいの大きさしかない、まん丸のまるまるワータイガーくんだもの。
「おい、ノア! 良く聞け!」
「う、うん!」
「お前のさっきの魔法、なんて言っていた!?」
「ら、ラリアット、って」
「何でお前、そんな言葉を知っている!?」
「わからない! ステータスプレートの、魔法の所に、書いてあった!」
「魔法!? 技じゃなくて、魔法だと!? クソッ、一体何の冗談だ、そいつは!!」
「と、虎さんは知っているの?」
「ああ、知っている。いいか、今からそいつのやり方を教える。ぶっつけ本番だが、出来なきゃ死ぬだけだ。わかるな?」
「うん」
「いいか、良く聞け……」
ノアは知った。
ラリアットとは、魔法にあらず。
相手に対し走り込み、勢いのままに相手の首を腕でなぎ払う技。
つまり、剣技や槍技にある武術スキルに近いものであるのだと。
「そんな……魔法じゃ、ないの?」
「ショック受けている暇はねぇぞ! お前は今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立ってんだ! しゃきっとしろ!」
「う、うん!」
虎のぬいぐるみの叱責に、ノアはすっくと立ち上がる。
目の前のぬいぐるみに戸惑っていたゴブリンも、なんの脅威でもなかったと判断し、不快そうに牙をむき出している。
いつの間にか、ノアの恐怖心は和らいでいた。
ノアとゴブリンの距離。
およそ5メートル。
ゴブリンの手にはショートダガー。
ノアは丸腰。だが一人ではない。
突然しゃべり始めた、まるまるワータイガーの虎さん。
戦いの役には立たないはずなのに、心強かった。
ノアは軽く深呼吸をする。
身体が熱くなる。
お腹の下あたりに炎のような熱さを感じ、熱さを全身に巡らせる。
今なら、出来る。
生活魔法すら使えなかったけれど、もう違う。
ノアは確信を持って、力ある言葉を発する。
「ラリアット!」
刹那、ノアはゴブリンに向かって走り始める。
ゴブリンが迎え撃とうと動く。
一瞬で両者が交錯した。
パゴォッ!!
響いたのは、顎の骨と首の骨が砕け散る音だった。
ラリアットの動作は肉体言語ですが、あくまでも「魔法」です。
なので、少女の細腕であごが吹き飛ぶとか、「コマケェコタァイインダヨォ!」