プロローグ
一話目です。
お話の導入です。
続き物なので、適当に楽しんで下さいまし。
いやだ。死にたくない。
降りしきる雨の中、大人たちの悲鳴が響いている。
馬車は横転し、車輪が空転している。
旅の行商人の一団が、ゴブリンの集団の襲撃を受けた。
一体であれば驚異とは言えない連中も、100体を越えた軍勢、しかも知能が著しく高いホブゴブリンが仕切る集団となれば、もはや脅威以外の何者でもない。
突然奇襲を受けた一団は、護衛のハンターたちの奮戦むなしく、もはや蹂躙を待つばかりの状態だった。
「ひっ、ひっ……」
恐怖に震える少女。
袖無しの民族衣装に足をのぞかせるホットパンツは、降りしきる雨と泥にまみれている。
目の前には一体のゴブリン。
ダガーを手に持ち、牙をむき、ギシシと卑しく嗤いながら涎を照れ流している。
目の前の人間の少女を襲い、犯し、なぶった後に殺す。
ゴブリンの鈍く光る眼の奥には、よどんだ欲望が渦巻いているように見えた。
「ひ、ひ、あ……」
少女は震える口で、必死に言葉を紡ごうとする。
恐怖に押しつぶされそうになりながら、なお生き延びる為に戦うことを選んでいるのだ。
しかし、悲しいかな、少女は魔術師でもなければ名を馳せる剣士でもない。
魔力は人並み程度でしかなく、魔物を倒せるような攻撃魔法もマスターしていない。
「ら、り、あ、と」
「ギ?」
少女の口から出てきた言葉に、ゴブリンはいぶかしげに首を傾げる。
「ら、りあと……らり、あと! ラリアト!! ラリアート!! ラリアット!!!」
何度も連呼する言葉。
初歩の魔法を練習した時、ステータスプレートの魔法欄に表示されていた、意味不明の言葉。
誰に聞いても、誰も知らない魔法。
何度唱えてもなにも起こらない役立たず。
ただ、今この場においては、少女がすがることが出来る、ただ一つの希望だった。
「ギシシ……」
なにも起こらないと確信し、ゴブリンが少女へと歩み寄る。
「まてぃっ!!」
その瞬間、殺到と、二人の間に丸っぽい何かが割って入った。
「え?」
「ギ?」
「まさか、こんなコトがあるなんてな。おい、嬢ちゃん、大丈夫か?」
「え? え?」
「ギギ?」
しゃべった。
あまりしゃべっちゃいけなさそうな物が、なにやらすごく渋い声でしゃべった。
「まぁ、驚くのも無理はねぇ。俺も混乱している。だが、必要なのは今を生き延びることだ。違うか!?」
「ち、ちがわ、ない」
「なら、立て! 見ての通り、俺は戦闘の役には立てそうにない!」
「ですよね」
どこからどう見ても、トラのヌイグルミですものね。
細かい説明、一切出てきません。
しばらくは「コマケェコタァイインダヨォ!」の精神でお楽しみ下さい。