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遂に成功!だが……

『フレイム』

「――なんで……。どうして出てくれないの……」

 私はついに疲れが限界に達しその場に倒れ込んだ。

「ま、まだ頑張らないと……」

 そういいながら、私は無理矢理に体を起こそうとするが、私の体は全く動くことはなかった。

 ――そもそも私言葉を言っているだけで、どうしてここまで疲れるのか……。

 それは右腕に力を込めているからだ。

 力を込めるという事はあまり説明がしにくいが、ようするにアニメやマンガで言う、気を溜めるとかそういう感じの事だ。

 ――私が初めて魔法を使ったあの時、私は先ほどからやっているような感覚で力を右腕に込めて言葉を言っているはずなのだが……先ほどから全く魔法が発動する様子はなかった。

「――もしかしてこの右腕が動かなくなったから……?」

 そう呟き、私は右腕を目の前に持ってきた。

 ――やっぱり感覚はないか……。

 心の中でそう呟き、私は感覚のなくなった右腕をそっと地面に降ろした。

 ドサリ。

 少しだけ乱暴に降ろしたはずなのに、右腕から全く痛みの信号が送られてこない。

 ――やっぱりこれが原因なのかな……。

 いや、でも一度そう思って左腕で試しててみたが、結果は変わらなかった。

 だから、結局は私の才能がないって事だ。努力が足りないっていう事だ。

 ――だから、私はこんな所で倒れている場合じゃいのに……。

 だが、私の体は全く言うことを聞かなかった。

 ――せめて一回ぐらいは出さないと……。

 もう体を起こす事が出来ないと悟った私は、体を少しずつ動かし、的に向くように動かした。

「――お願い」

 そう呟き、私は右腕をゆっくりと向けた。

 ――あの時の事を思い出して……、あのすべてを捧げる覚悟を……。

 そう思うと頭の中が、先ほどまで体の痛みでうるさかった信号が途絶え、目の前に見える右腕、そして的だけが私の視界に残った。

 ――あの時と同じように……。全身全霊を懸けて……。

「……」

 そうして私はいつの間にか目をつぶる。そしてあの時の私を思い出す。

 すると、頭の中がフラットになり、何も考えなくなり、的に当てる。その事だけを考える。

 ――これで最後にするんだ……。

 これで成功させて……私は……サキさんに謝らないと……。

 ひどい事を言って悪かったと……。そしてもう一度私に修行をしてほしいと……。

 だから……だから……私はこれで成功させる……!

 ――火が出来るイメージ。私の手から火が出るイメージを……。

 全身の力を、私の空白の体の部位に集中させる。

 ――すると不思議なことに、感覚が無かった右腕に感覚が戻ったように、力が集まっている事に気づいた。

 ――お願い成功して!

『フレイム』

 瞬間、私の目の前が真っ赤に、淡い赤色がまっすぐと延びていった。

 そして、

 ゴォォォォォ!

 耳に焼き付いたあの音が聞こえた。

 そして後からやってくる熱さがこもった風、やけに目に染みるような微量の煙。

 ――これは……。

「で、出た……!」

 確かに私の手から出たそれは、まっすぐと的めがけてとんでいた。

「――や、やったよ……。やったよサキさん……、ザラナさん……」

 私はそれだけ呟き、地面にそっと顔を埋めた。

 そしてそれと同時に、手から出ていた火は止み、少しだけ顔が焼けるような感覚がなくなった。

「――私ついにやったんだ……」

 もう一度そう口に出し、そして的を確認する。

 的は確かに先ほどまでは無かった黒い跡が付いていた。

「ふふふっ」

 その跡を見て、私は思わず頬が緩んでしまった。

 だがそれは魔法が使えた事が嬉しいわけではない。

 ――これでやっとサキさんと仲直りが出来る。

 私の心の中ではただその事でいっぱいだった。

 私が魔法を使えるようになったので、これできっとサキさんがまた私に構ってくれるようになる。

 ――これで私はまた、一人でいることがなくなる。

「よ、よし……。早く行こう……」

 私はそう行って、体を起きあがらせた。

 ――不思議な事に先ほどまで、体がいたく、動かなかったのが、今は普通に動き、立ち上がることが出来る。

 よし……これなら……。

 といっても、完全に回復したわけでもないので、私は足を引きずるようにしてサキさんの所へと向かった。

 ――この時の私はまだ知らなかった。

 私のせいで動き出した運命というの名の歯車はもう止まらない所まで動き始めている事を。




「はぁ……はぁ……」

 一歩、また一歩と、私は足を引きずるように村へと向かって歩いていた。

 ――あの時はサキさんについて行くように、歩いていたからあんまり道は覚えていないけど……多分ずっとまっすぐの道だったような……。

 すべてはもう勘に任せ、私はまた一歩と足を進める。

「――それにしてももう随分歩いたような気がするけど……」

 と私は何度目かになるその言葉を呟く。

 ――本当にこの道に合っているのか?と私を疑いたくなるが、私は恐らくこっちでいいだろうという勘だけを頼りに、進んでいる。

 だが、あまりにも長いような、そんな気がして、時折を足を止めてしまう事もある。

 が、私はこっちで大丈夫!と謎の自信で、立ち止まってもすぐに進むことにした。

 ――それにしてもやっぱりこんなに長かったかな……?

 と流石に少しだけ不安になってきた。

 でも、道はそこまで複雑じゃなかったはずだからこっちであってる気がするけど……。

 ま、今は私の歩くペースが遅いからまだ着かないんだろう。

 そう自分に言い聞かせ、私はさらに足を進める。

「……」

 ――しばらくすると道が開けている所に出た。

「あっ!や、やっとたどり着いた!」

 ついに村にたどり着くことが出来た事のよろこびと、早くサキさん達に合いたいという気持ちが混ざりあい、私は引きずる足でさらに速く歩き出した。

 だが、村に近づくに連れて私はある異変を感じた。

「えっ……?」

 村の前に立った瞬間、私は思わす呆然としてしまった。

 それは何故かというと……、

「む、村がない……」

 そう村に立っている小さな家のようなものが全て破壊――というより、あちらこちらから少しだけたっている煙からするに焼かれたのだろう。

 あんなにいっぱいあった家のような物が全て崩れていた。

「い、一体どうして……」

 目の前に広がった光景はまさに地獄絵図だった。

 ――い、一体どうしてこんな事に……。

 思わず倒れそうになったが、私はなんとかふんばり、ゆっくりと一歩を踏み出した。

「――サキさん……ザラナさん……」

 その二人の名前を呼びながら、私はゆっくりと村の中へと入っていった。

「ひどい……」

 村の中に入ると、遠くで見てたよりもひどい光景に思わず吐き気がこみ上げてくるほどだった。

 ――この村に住んでいた人が寝泊まりしていた家の壁があちこち倒れており、そしてその下には何人もの人が下敷きになっていた。

「うっ……」

 壁の下敷きになっている人は、その状態から逃げられなかったのだろう、見える範囲の全てが焼け焦げていた。

 私はそれから目をそらせ、無理矢理にでもまっすぐ前を向き、歩きだした。

 ――サキさんと一緒に過ごした、サキさんの家へと……。

 ――だがこの時、私は壁に下敷きになっている者をよく見れば良かったのだと後悔することになる。

 なぜならば、この者達が死んだ理由は焼け死んだだけではなく、刀のような物で切られているという事が分かったのだから。

「……」

 だが、そんな事もいざしらず私はただまっすぐ、サキさんの家へと向かって足を進める。

 途中、いくどかまだ煙がでている所を通ったが、私はそれに一切見向きもせずにただひたすら目的地へと向かって足を進める。

 ――まるで今の現実から目を逸らすように……。


「――あった……」

 とうとう私はサキさんの家に着いた。

 だが、当然サキさんの家も見事に焼け死んでいた。

「――サキさんは……ザラナさんは……」

 私はそう呟きながらも、まだ熱い家の残骸を持ちながらも一生懸命探す。

 ――あの人達ならきっとまだ生きているはずだ……。

 きっと……。

 だが、サキさんの家には人一人の死体もなかった。

 という事は、サキさん達はきっとどこかに無事に逃れることが出来たんだ……。

 その事に安堵の気持ちを浮かべながら、私はこれからどうしようと、不意に考えた。

 ――どちらにせサキさん達と合流しなければ私に行くところなどない。

 そもそも今の私の存在理由はサキさん達の作戦を実行する事に成り代わっていた。

 ――結局私はカネリとの約束をないがしろにしたというわけだ。

 ――これではカリンさんに顔向けなんてとても出来たものじゃ

ない……。

 でも、今はとにかく生きないと。生きて私の為に死んでいったカリンさんの代わりにならないと……。

 ――カリンさんの代わりになる。その事だけを考え私はさらに足を動かした。

 とにかく、もうこの村には人一人はいなさそうだ。

 ならサキさん達はきっと新しい場所にでも移ったのだろう。

 だったら私はサキさんを求めて歩き続けるだけだ。

「サキさん……、ザラナさん……」

 私はもう一度二人の名前を口にしたが、当然返事は返ってこない。

 ――私は一体どうすればいいんだ……。

 誰もいない荒れ果てた村で私は歩いている。

 目的地もないまま、私はただただ歩いている。

 それはもはや、考える事を放棄したに等しい。

 だが、それでも私は歩き続ける。

 なぜならば、私は誰かの為に生きる事しか出来ないから……。

「――っ!」

 すると突然私の頭に強い痛みが走った。

 ――一体何が……!?

 そう思い、私は倒れそうになる足をなんとか踏ん張って耐え、私は殴られた方向を目をやる。

「貴様……もしかして炎の魔法使いか?」

 私はそう聞かれると同時に目を見開いた。

 ――そこには立派な防具に身を包んだ兵隊のような人。つまりは剣を握りしめている男性が立っていた。

 ――う、嘘……!ど、どうしてこんな所に男の人が!?

 確か、カネリもサキさんもここには男性は一斉こない。というか絶対にくることはない。

 そう豪語していたはずだが……。

 それがどうしてここに……?

 ――待てよ……。

 ここで私はある事に気が付き、それと同時に頭が冷静になり、どんどん考えが広がっていった。

 ――突然焼き払われた村。そしてそこに絶対にいるはずのない存在がいる。そしてその者は明らかに軍隊に所属している。

 たったこれだけの情報だけでも、私は今この状況を瞬時に把握することができた。

 つまりは――これは全て目の前にいる男性、しかもその男性は軍に入っている。軍というのは国が保有するものだ。

 だから、答えはもう決まっていた。

「――あなた達がこの村を……」

 私は思わずそう口に出してしまった。

 すると、目の前にいる男性は、一度ため息をつき、すぐにポケットのようなものに手をつっこんだ。

それに私は警戒し少し後退りした。

「――全く女ってのは聞いた事もろくに答えねぇ。これだから嫌いなんだっての……」

 そうぶつぶつと呟きながらなにやら縄のような物を取り出してきた。

「お~い!どうした~?なんか見つかったか?」

 とすると今度はその男の後ろからもう一人の男性が出てきた。

「あぁ~、ちょっと生き残りを見つけただけだよ。こいつがそうかもしれなないから今から尋問してやろうと思ってたところだよ」

 男は後ろを向き、そう答えた。

「けっ、お前一人でいい気をさせられると思うなよ~!せっかくこんな所に俺たち二人だけで調査させられる羽目になったんだから、楽しみは分け分けあえよ~!」

 そう笑いながら、もう一人の男も近づいてきた。

 そして、二人の男はあの時のように、私縄で縛ろうと縄をもって近づいてくる。

 ――あの時と一緒だ。私がカリンさんを守れなかった日に……。

 そう頭で理解した瞬間、私の脳裏にあの時の恐怖が蘇った。

 ――イヤだ!イヤだ!イヤだ!捕まりたくない!

 そう心の中で叫ぶが、そんな私の気持ちをいざ知らずに男達は近づいてくる。

 ――このままじゃ私は……。

 そう思った瞬間の行動は早かった。

 私は瞬時に近くに落ちてあった頑丈そうな木の破片を取り、縄を持っている男に向かって切りかかった。

「おっと……」

 男は初め少しだけ戸惑っていた様子だったが、すぐに私の攻撃に反応し、しかも受け止めてしまった。

「全く……近頃の女はしつけがなってない……」

 そういいながら、男は私の右腕を掴みつつ、縄で縛ろうと手を動かそうとしていた。

 ――まだだ!私にはまだ出来ることが!

 と、そう思った瞬間、

「てめぇ!ウミカに何やってんだ!」

 瞬間、目の前で縄を持っていた男性が、頭に何かを殴られたかのように吹っ飛んだ。

「な、何者だ!」

 後ろにいた男は突然、仲間が飛ばされ、戸惑っていたようだったが、流石は軍に所属しているだけがあり、男性は瞬時に剣を抜き取った。

「――ここは任せてウミカ!」

 そう行って突然現れた者は、こちらも瞬時に男性に向かって突進していった。

 ――それはただの突進のように見えたが、以外と計算し尽くされているようで、どこから、どんな角度から攻撃されても対処できるような、そんな技だった。

 そしてもちろん二人目の男性もあっけなくやられてしまった。

 そして、その二人をやった者はそっと私に近づいてた。

「大丈夫だったかウミカ?」

 その者はそっと手を差し出した。

「えぇありがとう――カネリ」

 私はカネリの腕をそっとつかみ立ち上がった。

 そしてその後、カネリに多大な礼をいい、早々にこの村から立ち去った。




「うっ……」

「大丈夫サキ!」

「こ、このくらい大丈夫だよ……」

 そう言うと、髪の赤い少女はぐったりと壁に寄り添いかかった。

「全く無茶しずぎよあなたは」

「けっ。これが無茶せずにいられるかよってんだよ」

「まぁ……無理もないでしょうけどね……」

 そう言って二人の少女は辺りを見渡した。

 そこには、焼け野原が広がっており、まだあちこちから少しだけ悲鳴のようなうめき声のような物があがっていた。

 ――だが、もうその声の者は手遅れだ。その事は二人の少女は十分に知っていた。

「こういう時にスイネがいたらな……」

「確かにそうだけど……今ここにいない人の事を考えてもしょうがないでしょ?」

「まぁ。そりゃそうか……」

 そう言って赤髪の少女はゆっくとり天井を見上げた。

「――それじゃあ私はやることをやりに行くよ」

 そう言って赤髪の少女が立ち上がると、もう一人の少女もそれにつられて立ち上がった。

「……お前は別にこなくてもいいんだぞ?」

「あなたならそういうと思ったけど、そうはいきもせんから。私も同行させてもらいますよ」

 赤髪の少女はそれを聞き、少しあきれたようにため息をこぼすと、もう何も言う気がなくなったのか、まっすぐ前を向いて歩き出した。

 そしてその後をもう一人の少女がついて行く。

 ――最後、赤髪の少女はもう一人の少女に気付かれないように小さく口を開いた。

「――ウミカは無事であ利増すように。

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