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長老さんの家へ

「ここが長老さんの家だよ」

「こ、ここが長老さんの……」

 ごくり……。

 私は緊張のあまり生唾を飲み込んだ。

 ――よ、よし!い、行くぞ!

「――そんなに気負んなくてもいいよ。別に長老っていっても私達の間では姉さんみたいなものだから」

「で、でも……。こ、この手を治してくれたのは長老さんなんでしょ?」

 そう言って私は――動かなくなった右腕を出した。

 カネリはその手を見て一瞬だけ、顔をしかめた。

 ――そう、私の右腕はもう動かなくなっていた。

 一応見た目上では、治っているようにも見えるが、本当はとんでもなく腫れ上がっていたようだ。

 ――だがこれも全て、長老さんの治癒の魔法で見た目だけでもと、治してくれたようだ。

 火傷の傷だけはどうもならなかったようだが、こうして見た目だけでも普通にしてくれてとてもありがたいと私は感じていた。

 ――なにせこの腕はカリンさんをあの男達から守るために命と一緒に捨てるつもりだったから……。

「――ごめんなウミカ。その腕治せなくて……」

 すると突然、私の表情を見てカネリが謝ってきた。

「べ、別に謝らなくていいよ!そ、それにこうして見た目だけでも治してくれて本当に感謝しているよ。見た目は大事だからね!うん!」

 そう言って勢いよく頷くと、突然カリネが笑い出した。

「はっはっ。ウミカって面白い人なんだな」

「……それって馬鹿にしてる?」

「い、いやそんな事はないよ!」

 そう会話を交わしながらも私は心の底で――こんなに幸せでいいのだろうか、と思う。

 だが、そんな考え方は心の中にそっとしまっておこうと思う。

 なぜなら、私はもうカネリの為に生きると決めているから。

 カネリが笑って生きてくれるならそれでいい。

 私はその為に命を尽くす。そう決めたのだから。

「よし。じゃあそろそろ行こうかウミカ」

「う、うん!」

 カネリに手を引っ張られるように、私達は長老の家に足を踏み入れた。

 ――家といっても、目の前にあるのはボロい布に囲まれたものだった。

 そもそも私は今地下にいるらしい。

 これはカネリから聞いたことだが、この世界では、女性の立場が全くないらしい。――それを聞くと昔の日本のように思えるが、現状はもっとひどかった。

 ――何せ女性は、家事、雑用、それに男の性欲を満たすためにしか存在しているような扱いであり、もはや女性は男性の奴隷だった。

 そして、あの時男達が言っていたことを思い出した。――あの男達はカリンを見て売りに行くといった。

 この世界ではもはや女性は奴隷として人身売買が行われているようだ。

 ――ひどい……。

 その話を聞いた私はそう思った。

 だが、そこまで男性の権力があるのは純粋な力であった。

 どうやらこの世界では、男性は力があればあるほど権力はあるようだ。

 だから当然、力のない女性は必然的に権力が最低底となり、奴隷の道をいくしかなくなったそうだ。

 ――その事を聞くと、私はなおさらこの命を懸けて、カリンを守ってよかったと、そう思った。

「――ん?どうしたんだウミカぼーっとして?」

「い、いやなんでもないよカネリ」

「それならいいんだけど」

 そういいながら、私は無駄な考えをなくし、今はカネリの事だけ考えることにした。

 そしてそんな事をしている内に、もう長老さんの扉――といっても布と布の間にあるものだが――につき、カネリは勢いよく家に入った。

「――よぉ長老!連れてきたぜ!」

 そう言って入っていったカネリの後に続いて、私はゆっくりと、

「ど、どうも……」

 そう言って入っていった。

 ――長老さんの家ってどんな家なんだろう……?

 そう思いながら、ゆっくりと家の中を見ようと視線を動かすと、私は主に二つの事に驚き固まってしまった。

「――おぉ、やっと目覚めたか!どうじゃ?調子はもういいかの?」

 少し年寄り臭い言葉を発しながら長老さんは――水が入っているプラスチックのような容器から――そっと立ち上がった。

「え、えっ!え?」

 私は思わず混乱してしまい、急いで視線をずらそうとする。

 だが、そんな事はおかまいなしに、長老はさん何も持たずに近づいてきた。

「長老、風呂好きもいいけど、人様の前に出る時くらいは服ぐらい着たらどうだ?」

 そう、長老は裸だったのである。

 い、いやこういう時は女同士だから全くの問題はないはずなのだけど……。

 ――流石にそこまで堂々と見せてくるのは少しだけ恥じらってくれませんかね?

 なんて、長老さんにいきなり言えるわけがなく、私はそっと視線をずらす。

 ――そしてもう一つの驚きとは……、

「ちょっとそこの小娘。後ろにかけてある服を取ってくれないか?」

 と長老さんが言ってきた。

 ――い、いや小娘って……。

 とまた思わずつっこみそうになったが私はなんとかこらえた。

 だが、そんな事を気にせずに、またカネリが口を開いた。

「――いや、長老。どうみてもあんたの方が小娘だろ」

 そう、私の前にいる長老さんはどうみても幼稚園児か小学生低学年くらいにしか見えないのだ。

「し、失礼じゃぞカネリ!何度もいうが私はこう見えてもピチピチの20歳なんじゃぞ!」

 ――ピチピチの20歳?こ、この体系で……?

「――ぷっ。……あっ」

 私はつい我慢ができす。笑ってしまった。

 そして、私に対してなのか、長老さんに対してなのかは分からないが、カネリもつられて笑い出した。

 その笑い声を聞きながら、不満そうな表情を浮かべながらぶつぶつと口を動かした。

「全く……最近の若いものは……。もう少し礼儀というものをわきまえてほしいものじゃ……」

 ――い、いや……長老さん……。あなたも20歳(仮)なんだから十分若いんじゃ……。

 なんて事は流石に言わずに、私は今度こそ笑いをこらえ、後ろにかけてあった、服に手をかけた。

「ど、どうぞ長老さん」

「ふむ。すまんのぉ~若いの」

「い、いえ……」

 ――やっぱり、その体系にその言葉は違和感しか感じない……。

「そいつはウミカって言うんだよ長老」

 と、先ほどから気になっていたのか、カネリが長老に私の名前を教えた。

「おぉ、そうかそうか、ウミカというのか。いい名前じゃな」

「あ、ありがとうございます……」

 ほ、本当の名前は違うんだけど……そこをいちいち説明すると、少しややこしいことになりそうなので、私はもう一生この名前でいる事を覚悟した。

 そして長老は私から受け取った服――といってもこれも少し薄汚れているのだが――をゆっくりと着た。

 そして、その光景はどう見ても教育番組とかでみる一人でお着替えのシーンにしか見えず、また吹きそうになったが、今度はしっかりと我慢することが出来た。

「――それにしてもお主はもう仲良くなったのか?」

「まぁな」

「は、はい……」

 私とカネリはほぼ同じタイミングで返事を返した。

 そんな様子を見て、長老さんは少しだけ安心したように、息を吐いた。

 ――その反応を見るからに、カネリのお姉さんを殺した私達がどう関わるかがずっと気になっていたのだろう。

 そして、こうして仲良くなれたのもカネリの器が大きいからだ。本来であれば、こうして仲良く話すことすらかなわなかったのだ。

 そして、そんな事を訳知らず、長老さんは少しだけ機嫌がよくなり、近くにあった椅子に腰掛けた。

「それでは改めて。――儂はスイネじゃ。皆からは長老など呼ばれているが、儂は普通にここに済んでいるだけじゃからあまり気にすることはないぞ」

「は、はぁ……」

 住んでいるだけで長老と呼ばれている意味は少しだけ分からなかったが、カネリの様子を見るにここでは中心的な人物に代わりはないらしい。

 すると、そんな様子が伝わったのか、カネリが代わりに説明を始めた。

「長老はここで唯一の治癒の魔法を使えるんだよ。だから私達は長老に頼るようにこうしてここに住み始めたから、これを長老って呼び始めたんだよ」

 なるほど……。確かにこの私の腕を見た目だけでも治してくれたという事だった。

 きっと悲惨な見た目だったこの右腕をここまで治してくれるという事はきっとすごい魔法使いなのだうろ。

 それと同時に、私はまだ感謝の言葉を言ってなかったことを思い出した。

「あ、あの長老さん。この右腕の手当ありがとうございました」

 そう言って頭を下げると、長老さんは少しだけ表情を曇らせた。

「――儂はただ、見た目を治しただけじゃ。傷そのものを治したわけじゃない。その証拠にもう右腕の感覚はないじゃろう?」

「は、はい」

 その長老さんの言葉に短く返事をするした。

「じゃったらお礼はやめなさい。それぐらいしか出来なかった儂はお前さんに礼を言われる資格はないわい」

 長老は少しぶっきらぼうに答えた。

 だが、私はそんな事は思っておらず、ただ見た目だけでもここまで治してくれた事に感謝しているだけだ。

 だけど、長老さんの様子をみる限りこれ以上礼を述べるのはあまりよくないことだろう……。

「――それにしてもお主。その傷は一体どうしたんじゃ?そこまでの火傷の傷をつけたものなど儂は見たことがない。それにそこまで火傷の傷を追わせるほどの魔法は儂は知らない」

 この……傷の……原因……?

 そ、それは……、

「わ、私が炎の……魔法?を使ったから……」

 と正直にそう答えよている途中で、私の言葉を中断するように、長老さんが立ち上がった。

 ――え?い、一体どうしたと……。

 突然の長老の豹変ぶりに驚きながら、カネリに助けを求めようと視線をずらすが、どうしてカネリまでもが驚愕の表情を浮かべていた。

「え、えっと……わ、私何か変な事をいいましたか……?」

 長老さんもカネリもしばらくの間固まっていたので、私はその長い沈黙に耐えられずに思わず口を開いた。

 そしてそんな中初めに動いたのが長老だった。

「――お主今の言葉は本当か!?」

「え?」

 長老さんが私の肩を思いっきり掴み――までは慎重的に出来なかったようで、ちょうど私の腰あたりで服を掴んできた。

 そして長老さんはその勢いのまま、

「魔法を……炎の魔法を使ったというのは本当なのか!?」

 ともう一度問いかけてきた。

「――は、はい。本当ですけど……」

 私は長老達が動揺している意味が全く分からず、ただただ聞かれたことに答えた。

 すると、長老さんは私の服を掴んだまま、顔を俯かせながらじっと立ち止まった。

「――え、え~と……」

 一体どうしたんですか?

 と聞こうとした瞬間、

「動揺しすぎだよ長老。ウミカが困ってるだろ」

 そう言って先ほどまで黙っていたカネリが長老さんをそっと私から離した。

 そして私から離れた長老さんは、やっと少し動揺が収まったのか、ゆっくりと頷き、

「そ、そうだな。すまなかったなウミカ」

 と言ってきたので、私は「い、いえ……」と短く返した。

 ――今の私はそんな事よりも、長老達が動揺した理由をただ聞きたかった。

 だが、どういう訳か長老さんは口をじっと閉じ何かを考えるようで、さらにカネリはその長老さんをじっと見ていた。

 ――え、え~と……。これは……。

 なんだか変な空気になってしまい、私は思わずなんて言えばいいのだろうかと思考した。

 だが、もとよりコミ症である私にこんな時に言葉がしゃべれるわけもなく、ただ私も一緒になって黙ることしか出来なかった。

「――よし」

 と、しばらく続いた沈黙の後、長老さんがやっと口を開いた。

「儂は少し行く所ができた。――カネリ、ウミカに町を案内してやれ」

「分かりました長老」

 それだけ言って長老さんは家の扉をそっとくぐろうとした。

「ちょ、ちょっと待って下さい!い、一体どうしたんですか?」

 とそんな長老さんを私は思わず、口を開いた。

 長老さんは一瞬だけ立ち止まって、後ろを振り向いた。

「――あぁ、そうじゃカネリ。ちょうどまだ風呂の水が残っている。だからウミカと一緒に体でも洗いなさい」

「えっ?!」

 その言葉を聞き、私は思わず、後ろを振り返った。

 と、そんな隙をついて、長老はそそくさと家から出て行ってしまった。

 ――しまった……やられた……。

 ――だが、今はそんな事より……!

 そう思い私はじっとカネリを見つめた。

 すると、カネリはふっと気を緩めた。

 そして、

「よし。じゃあ一緒に風呂に入ろうか、ウミカ」

 そう言って何も気を止めない様子で服を脱ぎ始めた。

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