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罪を償う為に私は異世界に行くことになりました。  作者: チョビ
第0章:プロローグ
3/9

これからの生きる意味

 ペチャリ。

 ――ん?何だ……これは……?

 頭の上、ちょうど額の辺りに何か冷たいものが乗せられた。

 それは遠い昔、私が熱で倒れた時に母が額に乗せてくれたものと似ているものだった。

 ――い、一体……?

 そう思って、私は右手で探るように額に手をやる。

 ――あ、あれ……?

 額に向けて右手を動かそうとしたが、右手が全く動いてくれない。だが、私の額には確かに何かが乗ったような重みを感じられた。そしてその重みは確かに私の右手であるはずなんだけど……。

「――やっと目を覚ましたか」

 するとふとそんな声が聞こえた。

 ――そ、そうだ。そもそも私は一体どこにいるのか。

 遅くなりながらも現状の確認をするため、そして声の主を見るため、私は重く感じる瞼をゆっくり開けた。

「――こ、ここは……?」

 目を開けると、少し低く感じるような天井がまず目に入った。

 そしてすぐに、自分の額に向かって延びている物が目に入った。

「こ、これは――私の右手?」

 そう、目を動かして確認すると、私の額の上には先ほど伸ばそうとした私の右手がしっかりと乗っていた。

 ――でも、確かに私の右手は全く動かない感触がしたのだけど……。

 そう思いながらも、私は実際に右腕を動かす。

 そして当然のように私の右腕は考える通りに動いている。

 腕が動いている感覚だけがない、そんな感じだった。

「やっぱり腕の感覚はないみたいだな」

 と、そんな事をしていると、さらに横から声が聞こえてきた。

 ――腕の感覚がない?それは一体どういう……。

 そう思いながら、先ほどから聞こえてくる方に視線をずらした。

 すると、そこにはどこか見覚えのあるような赤い髪をなびかせた少女が立っていた。

 ――その赤い髪、そして少し男っぽく感じる口調、そしてなにより少しだけ細く睨んでいるかのような瞳。それら全ての特徴が私には見覚えがあった。

 そして、わずかに速く波打つ心臓の音をなだめるようにして、僅かに唇を動かす。

「カ、カリ……」

「じゃ、ないよ私は」

 と私が全て言い終わる前に、目の前の少女は否定の言葉を返した。

 だが、その少女の言葉を一つ聞く度に、目の前の少女がカリンさんに思えて違いない。

 でもそれは彼女自身が否定した事だ。

 ――では、一体目の前にいる、カリンさんに似た少女は一体誰なのだろうか……?

「――私の名前はカネリだよ」

 すると、私が疑問に思っている事を察したのか、目の前の少女――カネリは少しだけ声のトーンを強くして答えた。

 ――カネリ……。聞いた事がない名だ。

 なんて思っていると、カネリは顔を俯かせ――たかと思うとすぐに顔をあげ、私に突っかかってるような勢いで口を開いた。

「……私はカリン姉ちゃんの妹だよ」

「え、え?カ、カリンさんの……妹さん?」

「そうだよ」

 つい聞き返してしまったが、カネリはすぐに一言返した。

 だが、そんなカネリを前にして私は、ただ言葉に詰まっていた。

 カネリがカリンさんの妹……。あのカリンさんの妹がカネリ……。

 ――い、いや、今はそんな事よりも!大事な事が!聞かなくちゃいけない事が!

「カ、カリンさんは今……?」

 カリンさんの姉妹と合う衝撃な事にあいつつも、私は意識がなくなる前の事を思い出し、私は思い切って尋ねた。

 ――きっと私がこうして生きているのだから、きっとカリンさんも……。

「――死んだわよ」

 カネリは短く言った。

 ――え?死んだカリンさんが?ど、どうして?

 あの程度の傷ならまだぎりぎり生きていられる――そう思ってたのに……。

 ――そうか……、ここは異世界だ。私はまだ異世界の治療技術を知らない。

 確かにカリンさんはあの時、大量の血を流していた。

 じゃあ、この世界の医療技術は……。

 とそこまで思考していた時、ふいに小さくすすり泣いている声が聞こえた。

 ゆっくりと視線を動かすと、そこには小さな瞳に大きな涙を浮かべては頬に落としている――そんな様子のカネリを見た。

 ――励まさないと……。

 そう思って私は手を伸ばそうとした。だが、私はすぐにその手を留めた。

 なぜなら、私はカネリの姉であるカリンさんの命を間接的にとはいえ奪っているからだ。

 だから私は大粒の涙を流す小さな少女をじっと見守ることしか出来なかった。

 そしてしばらくすると、

「――どうして姉ちゃんは……」

 小さく鼻をすすりながら、カネリはそんな事を呟いた。

 そしてそんな言葉を呟くカリンさんの妹――カネリに視線を合わせることは出来なかった。

 なぜならカリンさんが死んだ原因は全て私のせいなのだ……。

 ――私なんかより、カリンさんの方が悲しんでくれる人がいる。当然、私なんかこの世界にそんな人はいない。さらにいえば、向こうの世界でもそんな人はいないだろう。

 ――こんな私を一体どうしてあそこまでして助けてくれたのか……。

 そんな疑問は未だ分かることはなかった。

「――ごめん……」

 未だカネリの顔を直視する事は出来ないが――それでも私は固く唇を動かし、その一言をひねり出した。

「――勿論こんな言葉で許してくれるなんて私は思ってないけど……。それでもごめん。――これで気が済まなければ私に何をしてもくれても構わない……それが私に出来る唯一の事だから」

 だんだんとしゃべっている内に熱が入ってきてしまい、少し長くなってしまった。

 だが、熱が入ったことによって、よくアニメで聞くような謝罪の言葉と同じように言うことが出来きた――勿論全て自分の本心だ。そして同時にカネリの顔もじっと見つめることも出来た。

 それだけ私のしてしまった事は重いことなんだと自分に言い聞かせると同時に、カネリがどんな事を私に行ってくるのかと身構えた。

「……」

 しばらくすると、私とカネリの目がピッタリと合った。

 ――さぁ、くる……。

 どんな言葉を浴びせられても受け入れる。そういう覚悟でじっとカネリの瞳を見つめていると、

「……な事言わないで」

「え?」

 カネリが小さく呟いたが、私はそれを聞き取ることが出来ず、思わず聞き返してしまった。

 すると、カネリが私にゆっくりと近づいてきたかと思えば、突然カネリが私の胸ぐらをギュッと掴まれた。

 そしてその勢いで、私の体がカネリに接近し、顔と顔との距離がわずか5cmの所まで接近した。

 ――カネリの顔を間近で見つめることとなり、未だに瞳に涙を浮かべているカネリの顔はどこか申し訳なく感じ、視線をずらしそうになる。

 が、カネリがそんな事をさせまい、というような圧力を発しながら私をじっと見つめている。

 そしてカネリは一度その涙を乱暴に拭き取り、そしてその勢いに任せてたように口を開く。

「――あなたがそんな事言わないで!自分を大事にしないような事を言わないで!」

「……え?」

 突然そんな事を言われた私は一瞬何を言っているのだろうと考えてしまった。

 だってそうだ。自分の姉を間接的とは言え、殺してしまった人に対し、自分を大事にしろ、なんて言われたら誰だってこうなるのではないだろうか?

 そもそも、私は罪を償う代わりに私の事を好きにしてもいいと言った。

 なのに、カネリはどうして、恨みをはらすわけでもなく、八つ当たりをするわけでもなく、「自分を大事にしろ」なんて言うのだろうか?

「え、えっと……。わ、私はあなたが好きなようにしていいと……、あなたの持っている恨みを全て私にぶつけてと……そう言ったんですけど……」

 私は再度確認の為、先ほど言った事を繰り返し伝えた。

 だが、カネリはさらに気にくわないというような表情を浮かべた。

「だから!そんな事言わないで!」

 とカネリはさらに声をあらげて言った。

 だが、私にはどうしてこんなに声をあらげて、自分の姉さんの恨みを晴らすわけでもなく、私に対して怒っているかが分からなかった。

 ――私はこの少女の心情が全く分からない。

 どうしてこの少女は……どうして私なんかの事を……?

 ――そう考えていると、ふと最近もこんな事を考えたことを思い出した。それは、カリンが私をかばって地面に倒れた時。あの時も私は、どうして私なんかの為にと思っていた。

 どうして姉妹そろって、私なんかの事を考えているのか。どうして姉妹そろって、全く分からない感情を持っているのか。

 ――どうして……、どうして……。

「どうして!」

 いつの間にか、私の口からその言葉が発せられていた。

 ――し、しまった!つ、つい熱くなり過ぎちゃった!

 と、とにかくなんとか誤魔化さないと……!

 そう思い慌てていると、

「――えっ?」

 突然、私の視界が真っ暗になった。

 ――い、一体何が……!?

 突然の事で気が動転してしまい、少しの間何事かと思い体を動かそうとしたが、体は何か強い力で抑えつけられているように全く動かなかった。

 ――ど、どうして体が……?

 そう思って、無理矢理動かそうとした所で、私は一体何が起こったのかやっと理解することが出来た。

「――カ、カネリ?」

 そう突如私の視界を封じ、そして体も動かなくなってしまった原因はカネリが抱きついてきたからである。

 ――い、一体なぜこんな事を……?

 もうカネリの行動すべてが不可解過ぎて全く分からない。

 そうしてその不可解な事を何とか分かろうとしようと頭を使うが、それは鼻から入ってくるカネリの香りが邪魔をし、私はカネリに抱きつかれているという事に少しだけ安心感を覚えてしまった。

 ――だ、駄目だ!わ、私はカネリのお姉さんを殺してしまった!そんな私がこんな気持ちを抱く権利なんて……。

 と、頭の中では必死にその感情を押し殺そうとしたが、それでも体に力が入らず、カネリをどかすことは出来なかった。

 結局私はしばらくの間、カネリに包まれていた。

「――自分を大事にして……」

「え?」

 ふとそんな声が聞こえたかと思うと、カネリがそっと腕の力を弱めてきたので、私は少しだけ離れ上を見上げた。

「……っ!」

 カネリの表情を見た瞬間、私は言葉を失った。

 ――カネリは私に向かって微笑んでいたのだ。

「――ど、どうして……そんな顔を……」

 ――私はカネリのお姉さんを殺した。だからこんな顔で見られる事はあってはいけない……。なのに……なのに……どうして……。

 ――いつの間にか私の頬には一筋の涙が通っていた。

「――自分を大事にして。それがお姉ちゃん――カリン姉ちゃんに出来る唯一の恩返しだから……」

「恩……返し……?」

「うん」

 カネリはそれだけ呟き、もう一度私を優しく抱き寄せた。

「――カリンお姉ちゃんが最後に守った人。カリンお姉ちゃんが最後に命を懸けて残してくれた。――だからあなたは生きて。これからもずっとカリンお姉ちゃんの分まで……」

 強く抱きしめられている上では、カネリが優しい声でそう言った。

 ――カリンさんの分まで私が生きる……。それがカリンさんに出来る唯一の恩返し……。――果たしてそんな事でいいのだろうか?――だって私はカリンさんの命を奪ってしまった……。そんな私が――カリンさんの代わりに生きる。そんな選択肢を私が選んでもいいのだろうか……?

「お願い姉ちゃんの為にも。そして――私の為にも……」

 ――カリンさんの為……それにカネリの為にも……。

 私はじっと目を閉じ、少しの間考えた。

 私からこれからするべきこと、しなくちゃならない事……。

 私がカリンさんの代わりにしなくちゃいけない事は……。

「――分かった……。カネリがそれを望むなら私はそれを受けられる。――カリンさんの分まで私はしっかりと生きる」

 今の私にはそれしか選択肢が無かった。

 そしてその言葉を聞いてカネリの力が少しだけ弱まるのを感じた。

 ――きっと私の言葉を聞いて少し安心しているのだろう。

 でも、私がすべき事はもう一つだけある。

 それは――、

「――私が……私がカリンさんの代わりにカネリのそばにいさせて。そしてあなたを守らせて」

 カリンさんの代わりになって、カネリのそばにいることである。

 ――だが、そんな事をしても意味がないことは分かっている。

 私は私で、カリンさんはカリンさんだ。

 いくら私が頑張ってカリンさんの真似をした所で、それはカリンさんの真似をした私でしかない。

 だから、当然そんな事は意味もなく、むしろカネリを傷つけてしまう事になるかもしけない。

 だが、それでもこうしてカリンさんの代わりになると言ったのは――私がカリンさんを殺した罪を忘れないためである。

 近くにカネリがいることで、そのカネリの姉を殺したという事は嫌でも思い出すことになる。

 だからいつまでもその罪を忘れないためにも、私はカネリの近くにいることを選んだ。――結局は自分の為である。

 だが、そんな私の思惑も知らずかカネリは、

「ありがとう……」

 と小さく呟くのだった。

 そしてその言葉を聞いた瞬間、今度は私がカネリをそっと抱き寄せた。


 ――こうして私が償うべき罪が一つ増えたのだった。




「――ここが例の場所か?」

「はっ!そうであります!」

「なるほど……確かに興味深いな……」

 その薄暗い路地裏とは似ても似つかないような白く清潔な服に身を包んだ男が、隣に鎧を着込んだ男を従わせながら、顎に手を当ててじっくりと青く輝く瞳を動かしていた。

「――それで。そこの黒い二つの塊は?」

 男が鎧を着込んだ男に尋ねると、男はその黒い塊を一瞥し、一瞬だけ吐き気のようなものがこみ上げてきたようだが、すぐにそれを飲み込み、目をそらしながらも口を開いた。

「お、おそらくこれは……人ではないでしょうか?」

「ふむ、そうか」

 その答えを聞いた男は、顔色を悪くした男の横を通り、その黒い塊に近づいた。

 その様子を見ていた鎧を着込んだ男は、一瞬だけ顔をしかめながらも、鼻を抑えながらもその男について近くに寄った。

「これは人が焼け死んだ――つまり焼死体という事か……。――そしてこの場所でこうなるほどの熱量を出した、という事か……」

 そう呟きながらも、男は尚二つの焼死体をまじまじと見つめている。

「――となると、これは魔道具?……いや魔道具ではこれほどの威力はそう出せまい。それこそこれほどの威力が出せる魔道具は全て国王が管理しているはず……。という事は新たに威力の高い魔道具が見つかったか……それともこれは人が……」

 と、それだけ言って男は口を止めた。

「まさなか……」

 男はそう言って薄く微笑んだ。

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