9話
塩
塩化ナトリウムを主成分とする物質であり、調味料や食品の保存に使われたり、融雪剤等にも使われている。最近は塩分の過剰摂取による高血圧や腎機能の低下等の悪影響から減塩が流行っている。しかし塩は生物にはなくてはならない物である。古代文明の栄えた地域には塩の生産地が共通して存在した。英語のsalary
やsaladはsaltが由来の言葉だし、敵に塩を送るや青菜に塩等の塩に関係することわざも多くある。血液と海水の成分はほとんど同じで、生物の体には塩は必要不可欠だが体内で作り出すことはできず、食べ物として摂取する必要がある。その塩が不足すると人間の体には脱水症状やナトリウム不足が起こる。血圧の低下や筋肉の痙攣、昏睡が引き起こされ死に至る事もある。
そんな重要な塩が無いことに今更ながら気付いた訳ですが・・・。動物から塩分を摂るとしてもいつも捕まえられる訳じゃあないし、継続的に塩を摂る手段が欲しい。無ければ死ぬ。ここら辺が海沿いだったら海から塩を得られたかもしれないけど、川をたどって海迄行くとしてもどれ程の距離があるかわからない。岩塩や塩湖があったらいいんだが、どうやって見つけよう。
肉食動物は獲物から塩を摂っているとして、その餌になる草食動物は食事から塩を摂れないよな。どうやって塩分を摂ってるんだ?そういえばテレビで象が岩塩の含まれている洞窟の壁を食べているのを見たことあるな。じゃあ何か草食動物を見つけてそいつの後をつけていけば、どこかで塩が見つかるかもしれない。草以外に食べている物があればそこに塩があるかも。
実際草食動物はこの森にいるのか?草食動物っていったら何がいる?熊とか猪は雑食?雑食じゃなくても後をつけるにはちょっと危ないからやめとくか。居るかもしれないのは鹿かなぁ。鹿がいたら後をつける事にしよう。
でもまずは動物を見つけないといけないんだけど、まだそんな大きな動物と遭遇してないんだよなあ。動物っていったら何処にいる?
生き物が必ず行く所は・・今探してる塩場以外に…水辺。水辺?今、水辺にいるなあ。
ここらで探せば思ったより簡単に見つかるんじゃないか?この辺りみたいに流れが遅い所の川縁に足跡とかないか探しながら下流に下っていこう。
何か動物がいないか探しながらしばらく歩いていると・・・
おっ、何かあそこだけ少し開けてるな。川辺に草木の生えていない地面が少し泥のようになっている場所があった。そこに近づいて行くと、二本の細長い穴が並んだ足跡があった。そこから森の奥の方に足跡が続いていて、よ~く見ると周りの木々と比べて開けていて道の様になっている気がする。
ここでこの足跡の動物が来るのを待つか、この獣道らしき道を辿って行くか迷うなぁ。ここで待っていても何時動物が来るかもわからないし、来たとしてもこっちに気付いて逃げられるかもしれない。でもこの獣道が何処まで続いているかもわからないのに辿って行っても戻れなくなるのは嫌だ。どうしようか?
・・・とりあえず今日はどちらも出来るような準備をして明日考えよう。そうだ、そうしよう。明日の事は明日の自分に任せよう。頑張れ、明日の自分。焚き火の所まで戻るか。
ここ数日風呂に入ってないから自分では気付かないけど臭くなっていると思う。動物は鼻が利きそうだから身体と服を洗っておこう。歯が虫歯にならないように歯磨きもしたいんだけど歯ブラシないし、昔は木の枝とか塩つけて指で磨いてたんだっけ?また塩出てきたよ、塩。便利な物だな、塩。一応指で磨いて置こ。
身体を洗った後、服を乾かしながら、体温を下げないように火にあたっていると…
ガサガサッ
茂みから何かが動いている音が聞こえた。
何だ!ついに大きめの動物と初遭遇か?今の内に服を着ないと。
何が出てくるか身構えていると、木の間に小さな人影が見えた。