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 成り行き上始まってしまった怪しい美少女との共同生活!魔法を教わることが出来るというメリットはあったものの負担は大きい…。


 あれよあれよと流れのままに押し切られてパーティーを組み冒険者として活動する事あっという間に約一月…。

 討伐依頼や採集依頼など難易度の高くないものばかりではあるが幾つもの依頼をこなし、収入も支出をわずかに上回るほどには稼げている。

 キーヴァとも軽口を叩くほど仲が良く過ごして見える様には行動している。

 …傍から見れば冒険者生活を満喫して見えるが確実に限界が訪れていた。


 キーヴァと共に活動する事自体を警戒している上に、同じ部屋で眠ることでいつ命を狙われるか分からないと警戒して眠りも浅い。一緒に過ごす間は冒険者になった少年クーロンを演じなければならず、一人で気を抜ける時間が無くなっていた。


 そんな生活を短い間でも過ごしたからか、気付かぬ内に消耗していたのだろう、気付けば会話をするその時その時で無意識に演じたまま答えるだけ。目に見える景色からは色彩が失われ情報処理が追い付かず人の声も耳に入っても内容を理解できない。


 そんな様でいつまでも取り繕える訳もなく…何か伝わっていたのだろう…。

 いつからかキーヴァも何かを考え込む素振りを見せたり、溜め息を吐いて何かに悩んでいる様子を見せていた。ただそれも余裕の無い自分には何を意味するか理解が出来ていなかった。





 今朝も普段通りにギルドでゴブリンの討伐依頼を受け町を出て、森に踏み入り人が訪れることもないだろう場所に来た時のことだ。

 隣を歩いていたキーヴァが突然立ち止まり、振り返って姿を確認すると思いつめた表情でこちらに杖の先を向けていた。



「急に立ち止まってどうしたの」

(実力行使に出たか、理由は分からんが現状他者からの横槍も助太刀も見込めない。戦力的に厳しい状況だな。周囲に魔物が居ないようなのはマシといったところ)


「…クーロンに聞きたいことがあるの」


「何?答えられることなら答えるよ」

 周囲にサッと視線をやり、地面の凹凸やどこに木が生えているか、枝や枯れ葉が落ちている場所を確認する。


「…あなたは勝利の果実の欠片を口にした?」


「…何それ?たぶんないと思うけど…」

(あの森で食ったやつか?勝利の果実って名前程良い感じはしなかったけどな)


「昔…神々の争いがあった頃に、食せばどんな願いも叶うという勝利の果実と食せば望みが叶うことはなくなるという無常の果実という二つの果実が盗み出されたの。その果実は神々によって取り戻される際にばらばらに砕けてこの世界に散らばった。そしてこの世界に散らばった勝利の果実の欠片を口にしたものは運命に愛され、無常の果実の欠片を口にしたものは運命に嫌われる。そして勝利の果実の欠片全てを集めたならどんな願いも叶うと言われてる」


「…それが何か俺に関係あるのか?」

 一息で詰められる距離で尚且つ地面が平らな場所まで相手が動かないようにゆっくりと動く。

「あと何故俺がそれを食ったんだと思ってるんだ?」


「…私も果実の欠片を食べたから、果実を食べた人にはなんとなく同じ食べた人が分かるようになるの」


「へぇ、なるほどね。それじゃあ俺に対しての敵意はどういう要件だ?」

 これまでの事に合点がいった。なんとなく感じていた警戒感はそれだったんだろう、話を聞いて当事者として感覚と知識が一致して理解できた。


 キーヴァは言いにくそうに一度うつむいてから話し始めた。

「果実の力は相手を殺すことで奪うことが出来るから…、初めはそのつもりでクーロンに近づいた。でもクーロンが本当にそうなのか確証が持てなかったし、一緒にいたら覚悟が決まらなくて」



「それでも二人で1か月パーティーを組んで冒険者として活動してきたんだ!その間何も思わなかったのか!?」


「そんなことないよ!私だってクーロンといて楽しかったし、クーロンの事は友達だと思ってる」




「そう、俺は思ってない」


「…え?」


「お前の事はずっと怪しいと思って警戒していた。自分の外見の事を理解しているか?俺はそこまで目立つつもりはなかったし、お前みたいな美少女が自ずと近寄ってくる外見じゃない。お前の思惑が分からず演技を強いられてこの1か月ずっと苦痛で仕方なかった」


「そ、そんな…」

 キーヴァは動揺したようで声を震わせる。


「俺の演技力がなかった事は認めよう。ごちゃごちゃ言ってたが俺を殺すことが目的って訳だ。本当は決心が揺らいだだけだと分かってんだろ?俺はお前をずっと信頼出来なかったが、目的が分かってようやくお前の言うことを信じられる。お前は俺を殺したい、俺が生きてるだけで他人に殺意を抱かれるには十分だ」

 

 言い切るや否や剣を抜

き放ち逆袈裟に切り上げ  突然の抜刀に動揺しな

る。          がらも咄嗟に飛び退き、

 後ろに跳んだ相手を追 杖を構え呪文を唱える。

い、手首を返して両手で  魔術で生み出された突

剣を振り下ろそうとする 風が踏み込んできたクー

が、突然の強風で1メー ロンを吹き飛ばす。

トル近く後退させられる 「止めて!!」

「口答えはいいから掛か  キーヴァは気圧された

って来い!!!殺してや ようだったが覚悟を決め

る!!」        たのか

 距離を取られると不利 「死んでも知らない!」

と見て直ぐに走り出し、 と叫ぶと自身の周りに、

距離を詰めようとする。 拳大の火球を複数個浮か

 相手から飛んできた火 べると向かってくるクー

球を横っ飛びして転がり ロンへ向けて放つ。

ながら避ける。      着弾した火球が小規模

 回転した勢いのまま立 な爆発を起こす中、次の

ち上がり木々の隙間をジ 魔術の詠唱を始める。

グザグと抜け、相手の後  クーロンが近づいたタ

ろから斬りかかる。   イミングで魔術を発動す

 気づかぬ内に地面がぬ る。

かるんでおり、体勢を崩  一瞬で次の魔術を発動

す。          し、石の礫を発射する。

 姿勢が崩れた状態では  石礫を受けて吹き飛ん

避けることも出来ず、剣 で剣を離した所で、風を

が手から離れる。    起こし剣を拾えない距離

 礫を受けて這いつくば まで吹き飛ばす。

いながら剣を拾おうとす  武器を相手に失わせた

るも手の届かぬ場所に飛 ことで一瞬油断したのか

ばされるも、即諦めて駆 、杖を下ろしてしまう。

け出し鳩尾を蹴り上げる  その隙に蹴り上げられ

。           るが咄嗟に腕を入れ後ろ

(くっ、こいつ動ける) に跳び衝撃を逃がす。

 二本目の剣を抜き、走  すぐに魔術を発動しよ

り寄りながら脳天に剣を うとするが腕の痛みで集

思い切り叩きつける。  中出来ず対応が遅れる。

 しかし刃が相手に届く  しかし振り下ろされた

前に、見えない障壁によ 刃は身に着けた指輪の能

って阻まれる。     力で防ぐ。

 そのまま腹を突き刺し  その間に魔術の発動が

、首を左から斬りつける 出来るまでに集中を取り

も防がれる。その間に骨 戻し、再び火球を自身の

から魔力を出して周囲に 周りに浮かべる。

広げる。         クーロンに対してぶつ

 剣先を相手の体の中心 けようとするも至近距離

に向けて相手の注意を引 に近寄られたことで、自

き続けながら、蹴りを繰 分も巻き込んでしまう為

り出したり殴りつけよう 後ろに下がり続けて攻撃

とするも障壁に阻まれ、 を躱し続けるしかなく、

躱されてしまう。    焦り始めていた。

 その間に魔力を伸ばし  そうしている内に突然

て相手の足元で固める。 足が動かなくなり、転び

「止まれ!!」     そうになり、咄嗟に自分

 相手が後ろに倒れ込む を巻き込むことも忘れて

のに合わせて体重を掛け 魔術を発動する。

障壁を貫こうとする。


 二人の間から大量の水が生み出され、津波のように体ごと攫っていく。


 予期せず水に流された  何が起こるのか分かっ

事で三半規管が揺らされ ていたかそうでないかの

相手を見失い、剣も手元 違いなのか、魔術を幾つ

から離れている。    も発動させ始める。

 水を吸って衣服が重く  相手の下の地面を操作

なりながらも肘をつき体 して、手足を巻き込んで

を起こそうとするも、土 土に埋め込み固定する。

が絡みつき動けない。   石礫を生み出して発射

 真横から礫が飛んで来 する。

た衝撃で地面から離れ、  更に転がっていった先

立ち上がりながら水筒か へ火球を飛ばし追撃しよ

ら酒を口に含み、走り出 うとする。

して至近距離で火球に向  その時既に向かって来

かって吐き出す。    ていたクーロンが何かを

火吹き(練習済み)   吐き出すと、引火して炎

 当然役に立つ訳がなか が吹き上がるが、同時に

った。         火球が着弾し吹き飛ぶ。


 他に飛んできた火球を躱せず自身の周りに広げた魔力を固めて防御を試みるも爆風で吹き飛ばされる。

 何度か地面にバウンドして地面を転がり勢いが止まる。体を起こそうと力を入れるも血管が切れて鼻血が噴き出すばかり。



 …終わってみれば圧倒的か。これだけやって傷一つ付けられず、もはや瀕死だ。

 何をやっているんだ、俺は馬鹿か。わざわざ戦いを仕掛ける必要もなかったというのに。

 ストレスと疲労でまるで思考が回っていなかった。魔法使いを相手にするんだから何が起きても対応しなきゃならねえってのに水に流されただけで前後不覚でやられるだけか。



 近づいてくる足音が聞こえる。

 クソ。本当は分かってた。自分が強くないということも、天才なんかじゃないということも。ただ認めれば折れてしまうだけ。認めねぇよ、自分を強いと思い込んでまだ生きてやる。



「力を振るうのは楽しかっただろ?」

 喉が焼かれてしゃがれ声だ。


「…そう…かもしれない」


「ほら、殺せよ」

 わざわざ教えを乞うてまで使おうとした魔法は相手の動きを止めるというだけの魔法、それでも一番使い道があるだろうと考えた。

 本当に殺されるつもりなど微塵も無い。会話を引き延ばして少しでも体力を回復して魔法で動きを止めて逃げる。


「何でそんなに戦おうとしていたの?」


「ハハッ、消耗してボケてたんだよ。ああそれと次誰かと戦うときは火の玉にしろ石礫にしろ相手の注意を引き付ける位置に置くといい」


「…分かった、気に留めておくよ」


今だ!!!


 小声で呪文を唱え、キーヴァの動きを止め力を振り絞り、ほとんど這うようにして逃げ出す。


 ……が、力が持たずうつ伏せに地面に顔をこすりつけるように崩れ落ちる。

 それと同時に一瞬もキーヴァの動きを止めることは出来ず、魔力の放出によって拘束が破られる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!クソクソクソクソクソォ!!糞がっ!!何故こうもテメエは強い!!」


「そ「答えんな!!」」


「何故こうも悉く通じない!?何故俺の体は動かない!!何で…なんでっ…俺はっ…ここまで弱い!!」


 ギリギリと音がするほど歯を食いしばり、心の底からの怒りで頭痛に苛まれながらもはやこれまでと死ぬことを覚悟する。


「…死にたくねぇ」


 そう小さな声で呟いたのが聞こえたのか、倒れ伏すクーロンにキーヴァは声を掛ける。


「殺すつもりはないよ」


 それを聞いて必死になって額や首筋に血管が浮かび上がるほど力を入れていたクーロンの動きが止まる。

 何が目的だ?殺さないことに心情的にも実利的にも利は無い、絶望させようという意図の言葉か。


「あなたが何でそんなに警戒してたのか、何を隠していたのか教えてくれたら今回のことは水に流してあげる。何をそんなに恐れていたのか興味があるの」


 そうか自分で手を下さずここに置き去りにすれば何かしらの魔物にでも食われるからそれを狙っているわけだ。

 だがそちらのほうがまだ回復と生存の余地がある、俺が異世界転移者だと知ったら逆に殺す気になるかもしれんが、彼我の力の差を考えれば無視されるかもしれんな。話してもいいと判断する。


「…俺は元々魔法なんてない別の世界に住んでいた」

 そう口火を切るとこれまでの経緯を簡潔に話し出した。


 2,3分で特に面白いこともなくあっという間に過ぎた異世界生活について話し終えるとキーヴァは

「そうだったんだ…それでいつも演技してたんだね、なんとなくだけどクーロンが何を考えていたのか理解できそうな気がする。よく分からないことも多いけどね。

私もクーロンについて知ることが出来て疑問も解消できたから信じられると思う」


「フン、俺も自分を殺すつもりで近づいてきた相手なら信じられるよ」

 これで奴が立ち去ってからが勝負。


 するとキーヴァは懐から何かの瓶を取り出すと、クーロンに中の液体を掛け始める。


 !体の痛みが和らいだ。傷が治ってる。

 力も入るようになり、ゆっくりと手をついて立ち上がると驚いた表情でキーヴァの事を見つめる


「何のつもりだ?まさか本当に俺を生かすつもりなのか」


「え!そう言ったのに!?」


「そうか、本当だと思わなかったよ。これからどうするつもりなんだ?」

 よく考えたら俺程度の雑魚の生死なんてこいつには関係ないんだろうな。殺すほどの関心を持たれると考えていたのが自意識過剰か…。


「うーん、とりあえず依頼をやろっか」



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