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 宿の中に入ると女将は台帳に何かを書き込んでいる様子だった。


「あの、女将さん」

 

「はい…ってあれ?後ろの子はどうしたの?」

 女将は顔を上げキーヴァの事を見てそう言った。


「彼女もこの街に来たばかりで宿が決まってないみたいで、この宿に泊まれるか確認したくて…。空いてる部屋ってありますか?」


「…うーん、そうだねぇ。今は個室で空いてる部屋は無かったよ、あんたと同じ大部屋しかないけどそれでよければそこにするかい?」


(何を考えてる分からんこいつと同部屋では余りにも気が抜けないし、女の子が云々と言って宿を変えさせよう。宿を知られたのはこの際仕方ない、変えたら変えたで警戒もされるだろう)

「それじゃあ仕方ない止め「大丈夫です!!」…」

 会話の途中でキーヴァが身体を割り込ませて答える。


「いやいや女の子が男と同部屋はまずいんじゃないかな?」

(このボケが!!何が目的だ?寝首を搔こうってか?今日会ったばかりの男と同じ部屋に泊まるとか何考えてんだ頭おかしいのか?)


「えぇー大丈夫だよー。今日一緒に居ていい人だって分かったからねっ!それにクーロンは私の事襲ったりしないでしょ?」

 キーヴァはこちらを向いてニッコリと笑いながらそう言ってくる。


「いやそうとも言い切れないけど…」

(クハッ…こいつ美形だなっ…顔が可愛い。可愛いが…俺がいい人な訳ねぇだろ。もしそうだったとしても判断材料が足りないし、心が読めるわけでもあるめえし。…まさか心が読める?いや心が読めたならわざわざ俺に近づいて来たりはしない、何かしら俺に近づく理由があったとしてもここまで警戒していたら警戒されないように行動するだろう。ここで無理して宿を特定したりわざわざ近い場所に来る理由としたら本当に世間知らずの阿呆なのか、近くで監視あるいは観察が必要な理由があるか、俺の全くの知識外の理由かだな)


「ア、アハハ…ま、まあ大丈夫だって!女将さんよろしくお願いします!」

 そう言ってキーヴァは女将に向かって頭を下げた。


 分かった、こいつ俺のこと舐めてやがる。無警戒なのかと思ったがこいつ俺の実力を警戒に値しないと判断したなぁっ!!恐らく俺が見た魔法だけで判断してもそれは正しいのだろうなあ!たとえ間違っていなくても許せん!それならそうと言やぁいいのにこの態度!腹が立つ!


 と内心荒れ狂いながらも、相手から見えない側で首の血管が浮かび上がる程に力を込めて怒りを抑え、苦笑いを浮かべて見せる。



 連れだって泊まる部屋に入るとキーヴァが話しかけてきた。


「無理言ってゴメンね。代わりと言ったらなんだけど私にできることがあったら何でも言ってね」


「へぇ、何でも…」

(頼みを聞いてくれるってなら都合がいいが)


「エ、エッチなのはダメだからね!!」

 キーヴァは言い淀んだのを見て何を勘違いしたのか赤面して、慌てたように手を振りながらそう言った。


(エロい事してくれんならそれはそれで嬉しいけれども最重要じゃない、こいつを利用できるなら現状での一番は…)

「そう、それは残念。でもそうじゃなくて魔法を教えて欲しい」


「魔法を使えるようになりたいって事?」


「うん、昔から魔法に憧れてて」

(そこまで嘘じゃない、誰だって魔法を使えるような妄想したことぐらいあるだろ?だから動機と言い分と心理に乖離が少ないから不信感の少ない印象を与えられてる筈…)


「…うーん上手く教えられるか不安だけど頑張ってみるよ!あ、でも魔法を使えるかは生まれつきの才能が必要な事もあるから使えなくても許してね」


「もちろん、使えなかったら残念だけどそれでも責めたりなんかはしないよ。約束する」

(魔法に関しての情報源として得られるのは現状コイツだけ、信頼のおける情報源も当てがないし、今後得られることも先ずない。敵対的意思があった場合偽りの情報を渡してくる可能性もある。信頼性は7割といった感じで思っとこう)


「じゃあ始めよっか、まずはそこに座って」


 部屋にあるベットに向かい合うようにして座る。


「魔力を感じるところから始めるよ」


 魔力の操作なら俺は多分出来ているから大丈夫だろうと思っているとキーヴァは両手を取って目を瞑った。


 何かと不審に思う間もなく手から力の波が送られてくるような感覚があり、感覚が鍛えられていたが故か相手の魔力を探るようなことが出来てしまった。

 その瞬間突然太平洋のど真ん中に沈められたかのような錯覚をする。一瞬で毛穴が開き冷や汗が噴き出してくる。


 …ッツ!!!何だ今のは、何だじゃないコイツだ!これがコイツの魔力か!エネルギー量が違う、化け物だ。俺が魔力少ないと考えてもコイツはヤバい、俺がコップならコイツは海だ。通りで警戒心が湧くわけだ、生き物としての桁が違う。


 …今からでも別の街に移りてえ。気付いたか?気付いたことに気付かれたのか?…それとも気付かせたのか、威嚇のために?読めん…反応が分からんし、明らかに動揺させられた…。


「…え、聞いてる?ねえってば」


「あ、ああ聞いてる聞いてる」


「ウソだあ、ボーっとしてたよ」

 キーヴァは笑いながら話しかけてくるが平常を装うために歯を食いしばりすぎてぎりぎりと音が鳴る。

「魔力を感じるのは問題なさそうだから次に行くね。次は魔力を体の中心から引っ張って指先に集中させるイメージをしてみて」


 心情的にはそれどころじゃないが森から出てくるまでの多大なる暇な時間を魔力操作に費やしていた俺ならそれくらいなら楽勝だ。


「うん!出来てるよ!じゃあそのまま自分の魔力が火種になって火が付くのをイメージして」


「イメージ………うん、出来た」


「それじゃあ『∼∼∼∼∼』って唱えて!」


「え?ぶ、ブレンネン!」


 すると指先から細長い火が吹き出し、ユラユラと数秒揺れ、搔き消えた。


「うわっ!出た!凄い!!」

 一人だったら感動モンだよ、まさか俺に魔法が使えるなんて嬉しいなあ。


「すっごーい!!一回で成功するなんてスゴイよ!!クーロンは火属性の適性があるんだね!」

 キーヴァは俺の手を握り上下に激しく振りながらそう言うと、手を握りっぱなしな事に気付くと照れたように慌てて手を放した。

「今みたいなのを何回も繰り返しやってたら他にも色んな魔法が使えるようになるよ。何か教えて欲しい魔法とかあったら私に教えられるものなら教えるから言ってね!」


「…それじゃあこんな魔法はある?」





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