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冒険者ギルドを出て、受付嬢に言われた通りに広場から繋がる道を見て回る。
1本の道には、武具や防具、衣服の店が並んでいて装備に関しての店が並ぶ通りのようだ。
外から見てもガラスウィンドウがあるわけじゃあないのでウィンドウショッピングとはいかない。店先においてあるものを見て回るが武器にも防具にも当然詳しくないのでよく分からん。
適当な武器屋に入って中を見て回ると、鋳造された同じ型の長剣や短剣、様々な武器が並び、はては鍋やフライパンなどの金物も置いてある。
やっぱりどれ買うべきかは決めかねる。
流石に今のボロッちい服装じゃ心もとないから適当に鎧か何かが欲しい気もするが、如何せん金が足りるかどうかは分からない。
そんなこんなでプラプラと店を見て回り買い物をした。
最終的に予備の安い剣を一本、ちゃんとしたベルトを2本買った。次に肩に掛かるくらいの覆いのある薄っぺらい革鎧、服屋に寄って上下の服とパンツを2セットを見繕う。
風呂敷が欲しかったが流石に置いてなかったので、長く大きい布を3枚、細長い布を3枚、そして革製の靴で足に合うサイズのものを2足探して買った。
意外と気に入っていた外套も、姿を隠して昨夜の男たちを襲っちまったせいで捨てざるを得なかったから、新しい外套を探し、フードとポケットが多くついているのが決め手となって灰色の外套を購入した。
雑貨品というか生活用品を売っている店で水筒を5つ購入し、大体必要なものを購入し終えた。
今まで使っている肩掛け鞄には火打石、鍋、皿、コップ、フォークと、食事用ではないナイフと、靴を突っ込んでいる。
衣服に布類は、1枚の布で風呂敷のように包んで両端を袈裟懸けに通して、体の前で結んでいる。
ベルト2本を腰の左右で交差するように斜めに着けて、2本の剣を間に挟むように差し、水筒5個をひもでベルトに結び付ける。
なんでそんなに水筒を買ったかというとまあ水筒に入れておきたいのは水だけじゃないだろうと思って…、あとそれとは別にいくつか考えてることがあるからね。
まあそんな奇抜な格好の上から外套を羽織って覆い隠して店を後にする。
それだけ買い物しても銀貨を使い切っただけで、意外と金貨の価値が高いのか手元に残っているので、鍛冶屋で何か防具を特注してもらうことにする。
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という事で鍛冶屋に来たわけだが、広い敷地で後ろに川が流れて水車が回っている。大きな煙突がついたレンガ造りの建物で外からでも熱気が感じられる。
扉を開け、建物の中に入って行くと室内は煩雑にものが置かれ、圧迫感を感じるほどだったが真ん中にあるカウンターの周りには空間が保たれていた。
回りに飾られている刀剣類を見ると、一目で違いが分かる…なんてことはないが立派に見えるものばかり。
視線をカウンターの方へ戻し、人影を探すも見当たらないので奥に向かって声を掛ける。
「すいませーん!!誰かいますかー!!」
一拍おいて怒声が返ってくる。
「うるせえ!!今行くから黙ってろ!!」
(イラッ …ちょっとムカつくな。まあいい)
わずかな間そこで待っていると、ドスドスと足音が近づいてくるのが聞こえる。
奥から現れたのは筋骨隆々で髭もじゃのゴツイおっさんだった。いわゆるイメージのドワーフのような見た目のそのおっさんに一つ意外な所があるとしたら俺より頭一つ大きいくらいのタッパがあることだろう。
作業をしていたのだろうか分厚いエプロンに金槌を手に持っている、帽子をかぶり真っ赤な顔でだらだらと流れる汗を拭きながら歩いてきた。
カウンターに持ってきた金槌を置き、水筒で何かを飲みながら腰かけると低い声で話しかけてきた。
「で、何の用だ」
こいつが襲い掛かってきたら殺せるかなあと、ぼんやり考えながら、取り繕って返答する。
「あ、ああ、ええと、作ってもらいたい物があって」
「鍛冶屋に来る奴は皆作ってもらいたい物があるから来てるだろう、何を作って欲しいのか聞いてんだよ」
「…すみません。まず一つは」
鞄から買ったばかりの革靴を取り出して
「この靴のつま先の内側を金属で覆って欲しいんです」
「あ゛ぁ?どういうことだ?」
「踏まれたり、物が落ちてきてもつま先を守れるように覆って欲しいんです」
(察し悪ぃなあ)
「ほう…なるほどな、面白いじゃねえか」
「二つ目は、股間を覆って守れる防具が欲しいのでそれをお願いします」
「ガッハッハ!股間用の防具か、それ単体で頼んできた奴は初めてだ!面白い、確かにそりゃあ大切だ」
「三つめは細い金属の棒を何本か、長さは僕の腕の手首から肘くらいの長さでお願いします」
「ふむ、何に使うのかは分からんがいいだろう。材質は?」
「鉄とかで作れますか?お金はこれしか無いんですけど」
そう言って懐から金貨を取り出してカウンターに置く。
「1万クラムも要らんわ、ざっと見積もって4500くらいだろうな。久々に面白い注文だからな、明日までには作っといてやる、また明日金持って取りに来い」
「分かりました、ありがとうございます!」
その後細かい大きさや形の要望を伝えて、靴を預けて鍛冶屋を後にした。
次に向かった先は酒屋だった。
軒先に杉球を飾ってるわけじゃないが、かなり大きな建物で酒の匂いが店先まで漂ってきて判別できた。
店の中に入っていくと、酒樽が大量に並び、酒蔵に続く店主に二つの水筒を持ち上げて見せ
「こっちに一番安い酒を、もう一個には一番強い酒をいっぱいになるまで入れて貰えますか?」
と頼む。
店主は訝しんだようにちらりとこちらを見たが、水筒を取って酒樽から酒を注いで持って来た。
安いのはたぶんビール、もう一方は分からないがだいぶ高いようなことをもぞもぞと話していた。
結果銀貨6枚程度の値段だったが、崩すために金貨を置いて釣りをもらう。
大量の銀貨を取り出すのを面倒くさそうにしていたが、巾着に入れて釣りを渡してくれた。
銀貨の枚数もちょろまかされていなかった。
全くありがたいね、こんな俺でも一応親切にされたら好意的な印象を抱くもんだ。なんだかんだ面倒くさいことを頼んでいる割に断らないし、特に詮索しようって感じでもないのがいいね、いい奴じゃないか気に入ったぞ。
まあなんで酒を買ったかというと、元から未成年飲酒の常習犯の不良だったってことではなく、あくまで消毒と麻酔用に使えそうだからな。
それにビールなら飲み物として長持ちするだろう。
前にアルコールのパッチテストをやった事があるがその時は全く赤くならなかったし即潰れるほど弱くはないだろう。
それに火吹きとかやってみたいしな、出来たら相手を驚かせる事くらいは出来るだろう。
そうして一連の買い物を終え、もらった巾着を財布代わりにすると、銀貨を2枚づつ靴の中にいれ、数枚を外套の内ポケットに入れて、冒険者ギルドに戻る。
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冒険者ギルドの中に入ると、すぐに受付をした女の人がこちらに気付いて手を振ってくる。
その女性のもとに向かい、お礼の言葉を口にする。
「いやあ、ありがとうございます。いろいろ買い物をして準備が出来たと思います。」
少女は両手を振りながら答える。
「いえいえ、当然ですよー!受付としてのお仕事をしたまでですっ」
「それでですね、用意も出来たので依頼を受けたいところなんですが、もう遅くなってきたので依頼を受けるのは明日しようと思います。
ちょっと都会には慣れて無くて疲れちゃいまして…」
「なるほど!それもそうですね」
「そこで何ですが、この街にも始めてきたばかりなので土地勘が無くて…
おすすめの宿屋があったら教えてくれませんか?」
「分かりましたっ!!私がとっておきの宿屋さんを紹介しちゃいますよー!」
「ありがとうございます。
え、えーと…すいません名前を聞いてなかったので聞いてもいいですか?」
少女は受付から身を乗り出し、顔を近づけながら答える
「あ、ごめんなさいっ!
私はレイラって言います レイラちゃんって呼んでください!」
受付台に乗った大きな胸に視線が惹きつけられるが、強い意志で引き戻し何とか目を見て話す。
「僕はクーロンって言います、よろしくお願いします。レイラさん」
「さん付けなんて堅苦しいですよぉ もっと気軽に呼んでください」
少し息を止めて顔を赤くしながらレイラの肩を掴んで押し戻す。
「い、いやあまだちょっと心の準備が……」
(あーうぜえうぜえこいつ俺のこと馬鹿にしてんじゃなかろうか?まあそれでも別に構わねえけどよお)
「むぅ、分かりました…。そうだ宿屋の話ですねっ、ギルドを出た広場の右から2本目の道を行ってその先の広場を抜けてまっすぐ行くと見えてくる白い子羊亭っていう宿屋さんが安くていいと思います!」
「分かりました、ありがとうございます。そこに行ってみます」
レイラは笑って元気よく手を振ってクーロンを見送った。
「もうそんなにお礼言わなくていいですよー。
それじゃあクーロンさん!また明日来てくださいねー」
「はい、それじゃあ失礼します」
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レイラの隣にいた妙齢の受付嬢がクーロンがギルドを出て行ってすぐにレイラに話しかけてきた。
「レイラちゃんまた新人冒険者の子を騙してるの?」
レイラは小悪魔的に笑いながら答えた。
「騙してるなんて人聞きの悪いこと言わないで下さいよー。
私はまだ慣れてない新人の子にやさしく対応してるだけですっ!」
「またそんなこと言っちゃって…、今まで何人の新人冒険者を振ってきたのよ」
「向こうから告白されただけで、私が告白を受けようが振ろうが自由じゃないですかー」
「はぁ、本当は楽しんでるくせに…」
「…でも、何か今回は反応が薄いと言うか、表面的な反応されてる気がするんですよね」
「そう?横から見てる分にはいつもと変わらないけど…」
そんな会話はギルドに冒険者が帰ってきたことで中断され、この話題はそれ以上為されることはなかった。
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教えてもらった宿屋までたどり着き、木造3階建ての建物の中に入っていくと、受付をしている中年の女性に声を掛けられた。
「お客さんかい?」
「はい、冒険者ギルドで紹介されて来ました」
「へえ、てことは冒険者になったばかりなのかい?」
「はいついさっき登録したばかりです」
「そうなの!それじゃあお金もないだろうし、せっかく冒険者になったお祝いに安くしてあげるよ」
「ありがとうございます、それじゃあ10日お願いします」
女性は台帳に何かを書き記しながら答えた。
「本当なら銀貨8枚貰うところだけど7枚でいいよ。
朝と夜は一階の食堂で用意してるからね、朝焼いたパンを持ってくなら二つで銅貨3枚だからね
2回の二つ目の大部屋に泊まりな」
2階に上がって言われた部屋に入ると、8畳くらいの部屋に植物に布をかぶせたマットレスに毛皮がかかったベッドが置いてあり、かなり圧迫感を感じる部屋だった。
まあ不便だし、ほかのやつと一緒に寝るなんて嫌な環境だね。




