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無常感のある話って面白いですよね。そんな話をかける人ってすごいと思います。

私は書けませんけど。

無常というと、rolling stonesのyou can't always get what you wantは無常感のある歌詞と曲でいいですよね。知らない人は聞いてみて欲しいですね。

 集落の中に入っていくと、何軒か廃屋が立ち並んでいる。


 ゴブリンの物とは出来が違うな。木造だけど結構しっかりしてる。

 ただ人がいない、生活感が無いな。少し壊れて雨漏りもしたような痕跡がある。だいぶ昔に棄てられた村なのかな?


 一通り見て回り、この村には井戸と小さな畑があることが分かった。何軒か家を見て回った後、村の入り口に人影が現れた。


 現れた人物は、ぼろきれのような服をまとった老人だった。深い皺が刻まれた年季を感じさせる顔に警戒心を浮かべながら黙ってこちらを見ていた。


 どうしたものか…、話しかけてみるか?いかにも不審な格好をしていることに間違いはないからな…。

 攻撃されることも考えておくべきだよな。というか言葉が通じるのか、うん今こそスキルの出番だぞ!



「よ~う、爺さん。言葉通じるか?何言ってるかわかる?」

 手のひらを見せて敵意が無いことをアピールしながら笑って話しかける。


  …返事がないね、かなり友好的に話しかけたつもりなんだが。


『〇▽◆△●?』


 うーん、分かんねえ?こりゃ通じてねえな、まあいいや。口ぶりには敵意は感じられないし、今んとこ殺し合いにはならなそうだし、別に良い!!


 そのまま身振り手振りで意思疎通を図ったが、どうにも難しいね。スキルでの翻訳はぼんやりかかってくるようだ。何度か話してる言葉を聞いてると、○○は、とか○○が、とか、はがのをにとの部分だけ日本語のように意味が理解できるようになってきた。


 どうやら俺をみて哀れにでも思ったのか、身振り手振りでついてくるように指示すると、その爺さんが住んでいるらしい家へと案内してくれた。

 簡素な室内で、真ん中に小さな暖炉と、薄いござのようなものが敷いてあり、鍋や食器などの生活用品が少し置いてある。老人は、暖炉の前の鍋からお椀にスープを掬うと、こちらに差し出してきた。そして吊るしてあった干し肉を取り出し一緒に渡してきた。


「ありがとう」

 礼を言って、差し出された食べ物を受け取った。


 大丈夫か?毒入ってないだろうな?

 まあ食ってみるか。…まあ味しないな。それでもちゃんとした料理を食うのは久しぶりだな。

 こんな怪しい奴に飯をくれるなんて優しい爺さんだな。この村に住めねえもんかな、勝手に居ついていいのかな?

 人のいない家もあるし、まあいいだろ。聞いてみたいが言葉は通じんしな。







 そんなことがあってから、数週間がたった。


 あの後爺さんは、麻のような植物性の服をくれた。言葉を交わすことこそほとんどないが、何となく俺がこの村に住むことを了承したような気がした。食事を食わせてくれたり、生活具をある程度用立ててもくれた。

 爺さんはこの村で一人で暮らしていたようで、俺の見た感じほかの人間との関わり合いはないように思える。畑の管理も一人でしていたようで、芋と野菜を育てているみたいだ。主食は育てた芋である程度貯蓄もしているようだ。たまに森に狩りをしにも行くようで、弓と矢筒を担いで出かけていき、兎や野鳥を射止めて帰ってきていた。

 会話はなくとも交流を持つようになり、畑仕事や狩りについて行って手伝うこともあった。ただいつも一緒で、一緒に暮らしている訳ではなく、たまに合同で動くような感じだった。





 その間俺がもっぱら行っていたことは、自分の能力の確認だった。

 スキルが変化していたことと、魔力というものを感じられるようになったこと。この二つについて分析しなけりゃならなかった。

 魔力が感知できるようになってからは、自分の魔力を操作することに時間を費やした。最初はほとんどわからなかったが、自分の体の中での魔力の流れを感じて動かすことが出来るようになった。

 魔法が使えるならすぐにでも使いたいけど、使い方が分からない。ただただ魔力の操作が出来るように訓練している。

 そして、その魔力の操作が意味を成すスキルを、新しく習得していた。魔力硬化(骨)なんてスキルを新しく習得していたが、これがどうやって使うものか分からない。自分の肉体を魔力を張り巡らせて、把握しようといていた時に、自分の骨に魔力が込められることが分かった。

 実際に魔力を込めてみると、骨が固くなるじゃあありませんか!?…っとなったら良かったが違いが分からない。ただ魔力を骨に貯められるようなものだと考えて割り切って考えることにした。


 その延長線として魔力を体外に出して操作できるかを試した。こ~れがかなり難しく、体外の魔力は動きが悪くって動かしにくいったらありゃしない。

 かなり集中して操作して、半径2メートルぐらいが限界だった。



 そして一番興奮したのが、魔力の感知による情報の知覚。自分の精神を周囲に広げていくようなイメージでゆっくり自分の魔力を伸ばしていくことで、周りの状況がどうなっているかを知ることが出来た!!


 これは凄い。凄すぎる。情報量が多すぎて頭痛くなったけど凄い。まさに三次元の人間になったって感じだ。立体的に情報が得られることが凄すぎて、語彙力がなくなるな。


 これをどう戦いに生かすかと考えて試行錯誤した結果、魔力を()()できるようになった。

 魔力を動かすだけじゃなく、体外に出した自分の魔力を固めて弾にして撃ち出したり、壁にすることが出来るということだ。まあ撃ち出しても2メートル飛んだら霧散して周囲に溶けちゃうけどね。

 これをいくつか試して、魔力を空中で箱のように固めることを思いついた。これが面白いのは基本魔力で固めた『箱』が空中に留まること。上に物を置いたら、空中に乗ったままだし、中に入れても同様だ。

大気中に存在する魔力に干渉して、とどまっているのか詳しくは分からんが、細かいことは置いといてそういうものだった。

 と思っていたら、自分の操作次第でこの『箱』は特徴に変化が生じる。一度作った箱の性質をより物質に近いものとしてイメージすると途端にこの『箱』が地面に落ちていった。重力の影響を受けて落下するような性質にも変化した。

 さらにさらに、その中間のような性質で空中に浮くが力を加えるとその方向に動くようにも変化させることが出来た。

 この実験を通して分かった、便宜上『箱』と呼んだ3種類の魔力の塊を作るのはだいぶ使えそうだと思う。

 他にも薄ーく色を付けたり、透明度の変化をさせたり、なかなかに幅がある。

 爺さんに遠目で見せて反応のあったステータスパネルと合わせて、いろいろできそうだ。





ーーーーーーーー


 そんなこんなで瞬く間に月日は過ぎ、約2か月が経った。

 行き当たりばったりながらも、なんとか暮らしていくとたまに交わす会話のようなものが効果があったのか、爺さんと意思疎通が出来るようになった。



 その結果いくつか分かったことがあり、爺さんは昔冒険者だったらしい。

 なかなかに魅力的な言葉だが、俺の知ってるいわゆるものと近いかどうかは分からねえな。




 話を聞くと、田舎の農村で育った爺さんは、退屈な日々に飽き、冒険者に憧れて村を飛び出したそうだ。都会に出て冒険者になったはいいものの才能が無く、その日を暮らしていくのも精一杯だったそうだ。ゆっくりと冒険者として成長していったが、年齢を重ねていくうちに肉体的に限界を感じてきた爺さんは、都会で出会った奥さんを連れて自分の生まれ育った村に戻った。

 農家として自分の家に帰ると、年老いた自分の両親は長く家を空けた子供に対しても、変わらず温かく迎えてくれたそうだ。農家として家を継ぎ、家庭を築いてそれなりに幸せに暮らしていたが、ある日村が魔物の集団に襲われ、必死で交戦したが結局は引退した凡人には無謀だったのか、両親、妻、子供たち、村の人々すべて死に、自分だけ瀕死で生き残ってしまった。

 ただ自分の無力と不運を悔いて、何度も死のうかと思ったが、たかが田舎の小村と見捨てられたここで家族の墓を守るのだと、家族やみんなの生きた証を少しでも長く残したかったと、踏みとどまり老いぼれになるまで墓を管理してきたのだと言っていた。



 そんなこと話されても、どうしようもないし何も出来んな。と思っているとただ自分がだれかに話したかっただけだと爺さんは付け加えた。ただ自分が弱かっただけだと。




 まあそんな話は置いといて、冒険者だった爺さんにいくつか技術を教わることが出来た。

 簡単な魔力を使った着火方法と、薬草になる葉っぱの見分け方、小さい獣のさばき方、冒険者じゃなくても旅をするのに、役立つ技術。

 それに昔使っていたという剣帯と小剣、フード付きの外套、革製の水筒、靴、火打石、小さな鍋に肩掛けの鞄。


 そんなことがあって次の日に、その爺さんは息を引き取り、目覚めることはなかった。



 爺さんが死んで、泣くほど悲しみはしなかったが、少し物悲しくなった。爺さんが死んでいつまでもこの村にいるのは何となく気分が悪かったので、爺さんの死体を奥さんの墓の隣に埋めて、旅に出ることにした。

 もう誰もこの廃村について知ってるのは俺以外誰もいないのだなあ、そして誰にも知られず滅びるのかと考え、思考を切り替え村を出た。



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