27
い、息が…出来ない。く、空気…死ぬ…。深呼吸しなければ。
スゥーーハァ、ハッハッ
あ、駄目だ。無理だ。途中で息が切れる、息できない深呼吸もできない。頭いたい。脇腹いたい。足いたい。空気足りない。思考するとより息切れる。地面にぶっ倒れたい…でもそれは駄目。
噛まれた場所の皮膚がボロ雑巾みたいに穴だらけで血ダラダラだから倒れたら二度と立ち上がれない。
まだ耐えろ。俺なら出来る。俺だから出来る。俺にしか出来ないだろう。俺は天才だ。天才だから出来る。出来なきゃイケない、天才じゃなきゃイケない。
やるぞ、ぐおー、キツイけど何とか…なる……はず。
剣を杖代わりにして寄りかかりながら、残りのゴブリンを仕留めに向かう。思い出したかのように身体中の傷の痛みがぶり返してきた。アキレス腱のあたりがパンパンで痛くて歩くのが辛い。
腕がプルプル震えて上手く力が入らない、傷の部分が熱を持っていてジクジクと傷が痛む。辛い。息が上がって仕方ない、体力を使いきった。泣き言が止まらねぇ。
もう死ぬかも知れない、というか何で死んでないのか自分でも分からない。それは俺が運命に守られているからだー!ガハハハハ!い、痛いっ!
そうこうしている内にゴブリンに追い掛けられながら戦った場所に着くと、まだ生きているゴブリンがいた。だが、生きている者も動く体力が…ズキズキ…もう無いのか、地面に倒れた 痛い! ままほとんど動かない。まあ っ痛い 良かった。
一体ずつ生死を確め、剣先を突き刺して ぐふっ 体重を掛けて貫くことで止めを刺す。全てのゴブリンの息の根を止めた所で、ようやく少し余裕が出来たので ピキッ 殺したゴブリンの持ち物を確認する。
ゴブリン全体が共通して着けている腰巻きを あー痛い よく見てみると紐のような物が縫い通してあって腰の所で棒か何かを通せるようになっている。何と言うか文化的な生活をしているんだな…。生意気だなあ、死ねば良いのに。
ははっ、こいつらはもう死んでるか。アハハハッ…ギィィッ!…ああ゛ー!!クソッ!痛い!イラつく!傷の痛みで思考が吹っ飛ぶ。脳内の言葉が一瞬消える。どの傷も慢性的にズキズキ痛む上に身体を動かす度にどこかの傷が鋭く痛む。…辛い。
痛くて変な声出るわ。笑わなきゃやってられねぇが笑うと傷に響くから脳内でひたすら笑うしかないな。
あぁー、紐の部分に剣とかを刺して持ち運んでたのか。鞘は無いみたいだけど、抜き身で持ち運んで大丈夫なのか?
と、言うかこれ鞣し革か?凄い技術だな、森林暮らしなのに。革を鞣して加工する技術を確立しているとはな…
もはや文明だな。文化的な生活なんてもんじゃないよ、一大文明築いちゃってるじゃん。あー、くそうぜぇ。
一体何様だってんだ?
ゴブリン様だ。とでも言うのか?ゴブリンの癖に、ゴブリンの癖に。ゴブリンの癖にー!
クソッ死ねっ。全部死ね。残らず死ね。世界から消え果てろ。
ふぅ、さっきからキレたり落ち着いたり頻繁に情緒が変化してる。ストレスかな?いや、まぁこれは素の自分だな。普段通りだ。
頭も痛いし、フラフラで吐き気が収まらないけど、まあ今は気分的には落ち着いてるし、ゆっくり行こう。
まあこの布は全回収して何か有効活用したいね。布だけじゃなくて使える物は全部剥ぐけど。
とりあえずは腰布を全部剥ぎ取って剣や棍棒をまとめてくるんで、布の紐部分を結んで持ち運べるようにしておく。死体からナイフを抜き取って、そのナイフで死体から腕を切り取って現在の糧食として一緒に持って行こう。
死肉を齧りながら川岸に戻って行って、狼の毛皮をナイフで何となく剥いでゆく。やっぱり動物の解体って難しいと言うかよく分からん。海外ドラマで鹿を捌いてるのと猟師のマンガで読んだくらいだしな。
正中線と足首と足の真ん中の線を切れば良いのかなー。
そこにナイフを入れて、切れ目が出来たら指を突き刺して少し剥がしてナイフを入れる、を繰り返すとボロボロになってしまったが、一応毛皮を手に入れた。
あはははは、やややばいなー。震えが止まらねえ。
血が止まらない。力が入らなくなってきた。このままじゃ死ぬぞ!どうする?どうするの?え、どうしたら良い?どうしようどうしよう、アワワワワ…。
な、何かで縛って血を止めよう。何か無いか、何か…蔦!蔦無い!今までは欲しい時には都合よく有ったのに…さっきの革紐だ!腿の付け根を縛って止めよう。
これで良し…良し?早く血ぃ固まれー!
全ての狼の毛皮を剥ぎ終えた頃にはほんの少し剥ぎ取りが上手くなった気分になっていた。
あれ?狼の数が少ない?四匹分の死体しか無い…まだ生きてんのか、野性動物は強いな。それに比べて二足歩行の生き物は弱いな…俺もゴブリンも生命力が低いな。また襲ってくるかも知れないし用心しないとな…。はぁ、まったく嫌になる。
そして生肉を齧りながら牙を抜いたり、ゴブリンの腰布を川の水で洗ったりしていると、吐き気が小さくなり体力がほんの少し回復した。
ただもう大分暗くなってきた。何となくだが日が落ちるのが段々と早くなっている気がする。一ヶ所に物を集めて身体を休めたいけど、安全な場所なんてどこにもないしな。
あぁー、もう瞼が開いているのか閉じているのか分からない位だ。意識が…飛びそうだ。
時間が無い…身体を休められる場所は無いか?…無いか。無いなら無いで木に寄りかかって寝る。何かあったら即起きる、頑張る。
何本か木が密集している所に諸々剣だのを置いて休もうとした所で意識を失い、頭をぶつけてから地面に顔から突っ込んでいった。




