21
雨……止まないなぁ。
雨に関する曲も結構いっぱいあったなあ、音楽聴くのは好きだったから自由に聴けないのは不便だな。
こんなにも好きだった物にすがるのは心の中で辛い現実から目を背けて殻に閉じ籠っているからなんだな。大したことないというふりをしてても、ストレスを感じているんだな。
そんな自分が気に入らないなー。もっとイカれた狂人でいるのが理想なのに…。自己暗示でも掛けて自分を変えられたらいいな。自分がそうであると思い込もう。
俺は天才だ。俺は最強だ。どんな状況でも冷静で感情が波立たない。
雷鳴は鳴り止まず、雨脚もまだ強い。強い風が木々の間を通り抜け、まるでうめき声のように聞こえる。
横殴りの雨から逃れるために木の陰になる位置に移動する。雨に打たれ、寒さに震えながら火事を眺めていると、勢い良く川が流れる音を聞いている内に増水した川がすぐそこまで迫ってきている事に気付いた。
真っ黒な水が川岸を削り呑み込んで行く様は恐ろしくもあるが、じっと見ている内に段々と楽しくなってきた。
アッハッハ、ヒャッホー!なんだか想像が膨らむな、蟒蛇が泳いでるぞ~。竜神が怒ってるのかな?お祭り騒ぎだ!面白いなー。
うーん、それにしても火事が収まんねえな。これは寝られないぞ。…ハァー、ダルい。
それにしてもこんだけ雨が降ってると生き物が寄ってきても分からなそうだ。
川岸から離れた木陰に腰を下ろすと、気疲れからか天を降り仰ぐ。
影になっている枝を見ていると突然上から小さな影が降ってきた。
ギャッ!毛虫っ!キモいキモい!
腕に付いた毛虫を振り落とし、跳ねるように立ち上がり距離を取る。石を拾って投げつけたが、当たらなかったので、石を拾って直接叩き潰した。
石の裏を見ると、潰れた毛虫の汁が付いて気持ち悪かったから遠くにほうった。
うわ~、服越しだけど毛虫触っちゃったよ。気持ち悪いなー。嫌な感じだ。
うわっ!腕赤くなってるじゃん。痒くなってきた、毒虫かよ。あー、嫌だ。毛は刺さってないかな?
爺さんが肩に毛虫が落ちてきた時、刺さった毛をアロ○アル○ァで固めて皮膚ごと引っぺがしたらしいけどそれは流石に今の俺にはまだ早いかなー?
ん?セメ○イン?まあ瞬間接着剤だな。
毛虫と言えばちょっと違うけど、ふとサンダルを履いた時に芋虫が中にいて、踏んだのは嫌な思い出だ。潰してはいないけど気持ち悪かったぜ!
今は殆ど刺されちゃいないが、割りと虫に刺されるタイプだから夏とかになったら大変そうだな。
時間も立って火も雨も大分収まって来たな。上下左右と全方向警戒して注意を向けるようにしてると疲れるな。超眠い。雨に濡れて寒いのもあるし、気を抜いたらガクッと眠りこけそう。
徹夜したのは初めてじゃないかな?疲れるしね。眠りたいとはいってもまだ余裕が無いから気張っていこう。
火事も収まったし、拠点にしてた洞窟とゴブリンの様子でも見に行こうかな。
昨日の荒れ様が嘘のように静かに流れる川を渡り、真っ黒な森を腕を掻きながら歩いて行く。一歩ずつ地面を踏む度に真っ黒な灰が舞い上がる。ボロボロに崩れた木々の隙間から空が大きく覗く。今までに無い程に広く差し込む日の光が進む先を照らし出している。灰を吸い込まないように袖を口元に当てていたが、あっという間に手が黒くなっていた。
分かりにくかったけどこの洞窟かな?中は焦げ焦げだな。岩壁が真っ黒。残った肉も黒焦げ。毛皮も黒焦げ。これじゃあ使えそうにないな、あーあ、もったいない。
まあ無くなった物を悔やんでいても始まらない、何一つ使えそうな物は無いが次いこう。どうせこの拠点は捨てる心積もりだったんだ。ゴブリン団に身バレしてたから…。
そんな(俺の中で)噂のゴブリンの様子を見に行こうか。大体焼け死んでたらいいな。
一旦川まで戻り、上流側に上っていく。一度通った道から少し離れて身を隠せるようにしつつ、ゴブリンの村に向かう。体に灰を擦り付けて姿を隠す。森が一部開けて集落が近付いてきた。
……うーん。ゴブリンの姿は見えないな…。死骸も見えないし、集落が焼けた様子もあんまり無いな。どこかに避難でもしたのか?
集落の周りに沿って回り込み、奥の様子を見ると、集落の奥には岩壁が広がっており、そこに洞窟が口を開けていた。見える範囲では大きめの入口が一つあり、半分位を石で塞いでいた。
はーっ、避難所として使う洞窟があるのか。空気が入るようにしてるのか、塞いでいたのを外しているのか。別の空気穴とか非常口位ならありそうだな。
おっ、デカイゴブリンが出てきた。普通の奴も続々と出てきたな。食料も運び出してるし、本格的に避難所だな。
何なんだコイツらは、ゴブリンの癖に。ゴブリンの癖に!はあ、また襲われない内に逃げるか。




