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 目を覚ましてしばらくは寝ぼけたままぼんやりしていた。

 その後は死体を引っ張ってきて、肉を食ったら眠る食ったら眠るのだらだらしながら思い出したように筋トレをして、ステータスの表記を変えたりして数日を過ごした。





「対象の様子はどうだ?」

「ああ、主任ですか。いきなり話しかけられたからびっくりしましたよ。観察対象ですがようやく環境に適応してきたのかストレス値が許容範囲に落ち着いて来ました。」

「そうか…。少し損傷があるようだが大丈夫か?死亡してしまえば多大な費用が無駄になってしまうぞ。」

「大丈夫ですよ。生死に関わるほどの損傷ではありません。実験体843,4,5番との戦闘での損傷も許容範囲です。ただ対象は戦闘センスが比較的高いようですね。」

「そうなのか?平均的な能力の個体を選んだはずだが…?」

「ええ、高いとは言っても他の能力と比較して…です。しいて言えば高いと言える程度です。」

「では問題は無いのだな?」

「一月程度経過しましたが、未だに自身能力には気付いていないようです。順調に成長して行けば良かったのですが、種族としての能力が想定以上に低かったようで…。」

「その程度ならまだ大丈夫だろう。あまりにも成長が遅いようなら多少の干渉も構わない。この実験が成功すれば私達の昇進も間違い無いだろう。他にも実験体はいる。焦らずに経過を観察して行けばよい。私はこれから他の実験体の様子を確認してから課長への経過報告がある。この実験体については任せたぞ。」

「はい!分かりました実験主任。」


 遠ざかって行く足音を聞きながら頭を上げる。

 フンッ。無能が偉ぶりやがって。自分では大した事も出来ない癖に、少し考えれば分かるような事を何度も聞いて来るんじゃねえよ。上司に媚びて部下の手柄を横取りする屑が。

 だがそれも今回の実験が成功するば終わる。俺に少しでも地位があれば、あの屑を引きずり下ろしてやる。せいぜい今の内だけでも喜んでいろ。



 ここは王立魔導研究所。魔導王と呼ばれた4代目国王が予算をつぎ込み設立した、今年で創立150年の歴史を持つ近隣諸国でも最大の規模を誇る由緒正しき研究所である。

 その王立魔導研究所の魔法生物部門異世界生物課でその実験は行われていた。

 その実験とは魔法の存在しない世界の生物が魔力の影響でどのような変化をするかを観察する物である。異世界から生物を召喚したり精神を複製して別の生物に上書きし、別の生物として成長させたり様々な状況での変化を観察する事で、新たな魔力の運用法や寿命を伸ばす方法等を発見する事が目的である。





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 みたいな事があったりすんのかなー?あったら面白いな。物語としてはつまらなそうだけど自分が対象だと考えると楽しい。

 異世界といってもどんな文明があるか分からないからな。本当に高度な魔法文明が有って今も観察されているのかも。逆に全く文明が無くて石器時代みたいな感じかも。もしくはイメージ通りの中世ヨーロッパ的な感じかも。中世ならヨーロッパじゃなくてアジアの方が良いな。


 暇だから色んな事を考える。あ、そう言えばステータスの表記を変えてみたりしたんだけど、ステータスを名前の部分だけにする事が出来た。英語三文字には分からないから出来なかった。

 これで自己認識が影響しているって分かったな。だから知ってるゲームと同じ表記だったり、レベルアップの通知が見知ったファンファーレだったりするんだろう。


 そんでもって今のステータスがこちら!



種族:人間(変異種)

名前:

性別:男

年齢:16

職業:

LV.5

HP:68/103

MP:10/10

攻撃力:69

持久力:47

魔力:15

防御力:65

速度:81

抵抗:57

知力:99

運:9


スキル

算術LV5

○○語翻訳LV1

我慢LV2

恐怖耐性LV3


固有スキル

超強力消化器官LV-

アレルギー無効LV-

肺活量増加LV-

骨密度上昇LV7


称号

異世界転移者



 以上!言う事無し!





 そしてゴブリンの集落を見つけてから一週間が過ぎた朝。パチパチと地面を叩く雨音で目が覚める。


 ……雨か。雨は初か?雨は好きなんだよな。雨の音も匂いも。湿気を帯びた空気も気持ちが良い。霧雨でも夕立でも雨が降ると気分が良くなる。雨粒に打たれる冷たい感触も心地よい。

 小さい頃は雨が降ったら良くパンツ一丁で雨に打たれに外に出たもんだ。今やったら少年院に直行コースかな。

 こう雨が好きな気持ちは理解されなかったなー。何で分かんないんだろうな。風情があるって言うのに。


 ん?うわっ!洞窟に水が溜まって来てる。ヤバいヤバい。地面より低くなってるから雨が降ったら水が入って来るのか…。考えてなかった…。のんびりしてる場合じゃない、外に出ないと。


 洞窟から出ると、森の木々に遮られているものの葉っぱの間を抜けて降ってくる雨に打たれ始める。


 いかんぞ。雨に濡れるのが好きと言っても濡れて良い時と悪い時がある。雨に濡れて風邪でも引いたらまずい。体温も下がるし、雨に打たれるのは余裕がある時だけだ。

 まさか雨に打たれる事と雨が好きな事が豊かさの象徴になると今気付かされるとは…。早く雨に打たれない場所を探そう。木の下でもある程度は効果が有るけど雨脚が強くなったらあまり意味が無さそうだ。


 雨宿りが出来る場所を探しに、洞窟周囲を探検した時に行った洞窟の多い方向へ進む。すると早足で進み始めてすぐに、葉を叩く雨音が急に大きくなった。そして本格的に体が濡れ始め、足を速めた途端目も眩むような光が降ってきた。


ピシァーーン!!


 うわっ、ヤバいな。落ちたみたいだ。結構近い所だろう。雷すげえなー。サンダ○ストラ○ク。まあ、格好いいよな。オーストラリアと言ったら真っ先に思い浮かぶね、俺も好きなんだよ。クラスには知ってるやつ多分一人もいなかったけど、俺のいたクラスが特殊なだけだ。

 頭の中でBGMとして流すだけにしといて、さっさと走ろう。


ドガーーン!!


 天地が傾いたかのような振動と目の前の木が突然燃え上がるのを目にしたと辛うじて認識した一瞬の内に、全身の骨をハンマーで直接叩かれたと錯覚するような体に響く衝撃を感じる。

 一瞬にして体の自由が奪われ、前方に倒れこむ。耳元に心臓があるかのように心音が大きく聴こえ、降り続く雨の音を掻き消そうとする。

 今にも消えそうな意識の中最期に視界に飛び込んできたのは、まだ火が着いている木がこちらに向かって倒れて来ている光景だった。





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