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 ………………………?





 浮上するような感覚と共に意識が覚醒する。


 震える腕に力を入れてなんとか上体を起こす。だが直ぐに辺りに広がる血の臭いに咳き込み、崩れ落ちる。


「ゲホッゲホッ」


 臭いが強すぎる。ゲロ吐きそうだ。

 ははっ、良かった良かった。無事かどうかはともかくまだ生きてる。やっぱりツいてるなー。神に愛されてるのかな?いやー異世界にたとえ意識だけでも転移するだけあって俺は特別な人間なんだなー。

 ふっふっふっ、これはすぐにでも俺の無双が始まっちゃうかな?いやーモテすぎて困っちゃうかもなー。そしたらどうしよっかなー?ハハハハハハ!


「オエェェェェェ!」


 急に吐いちまっただよ。驚いて訛っちまったよ。

 いや驚いて訛るって何だよ、普通驚いても訛らねぇよ。…セルフノリツッコミ、友達のいない暇人がやる遊びが出てしまったな。完全に偏見だけど。

 あー、胃の中身が無い分胆汁出てる気がする、苦ぇ…。


 ハァ…ハァ…傷の具合でも確認するかな。恐る恐る脇腹の矢傷に触れてみる。

 触った所からズキンと鋭い痛みが走り、顔をしかめる。細かく傷に触れて痛みに慣れ、ゆっくりと手で覆うように触れる。そして幾つも大きな穴が開いてしまったシャツを捲り、傷を見る。

 脇腹には百円玉位の穴が開き、黒ずんだ血の塊が傷を埋めていた。そして周りが真っ赤に腫れ上がっていた。

 次に背中の傷を確認しようと背中に手を回すと、


 …手が届かない。あれ?こんな身体固かったかな?

 あっ、左手で触ろうとしたからかな?そういえばたすきみたいに背中に手を回した手を組もうとした時、左手を上にすると頑張れば触れる程度だけど、右手だと手を掴める。だから右手でやった方が良いかな。

 右手と左手のどっちが柔らかいかは個人差だろうけどどっちか多いとかあるのかな。

 右手を肩から回して手を伸ばしてみると、背中が突っ張るようにして痛みを感じ腕が止まる。むう…痛い。

 まあ本来傷に触る事が目的じゃあなくて手当てするのが目的なんだけど…。シャツを脱いだら届くかな?


 シャツを脱ごうとした時、背中の傷を引っ張られる感覚と痛みがあり、動きが止まる。


 あー血が固まって傷に服が引っ付いてる。このままにするのは嫌なんだけどどうすればいいのか全然分からない。とりあえずはゆっくりと少しずつ剥がしていくか、痛みが強くなったら止めて何回かで剥がす。

 剣が当たった左肩は青くなってるだけだから大分マシだな。切れなくて良かった。青痣になって触ると痛いけどその内治るだろ。



 さて何時までもここに居る訳にはいかないし、このボロボロの体で移動しようか。


 地面に右手を着き立ち上がろうとすると、指の痛みで傷を思いだし、両手でバランスよく体重を掛けて立ち上がる。

 そして普段よりもずっと重く感じる体で半ば足を引き摺るように歩き出す。辺りにはむせ返るような血の臭いが充満し、森の木々は赤く染まっている。所々にゴブリンの体の一部や内臓らしき物が散らばっている。枝にぶら下がっている物もあればバケツに入れて一度にぶちまけたように一ヶ所に集まっている物もある。

 そんな一方的な虐殺のような戦闘の痕跡が森の奥に続いている。新たな敵が現れることを恐れながらも戦闘の結果への興味が抑えきれず、そこら中にあるゴブリンの肉を拾い食いしながら奥へ奥へと進んでいく。




 こんな戦闘の痕跡を見ると恐ろしく感じるが、自分に色んな物が足りていない事が分かるな。ハァー、むしゃくしゃする。チッ。今は筋肉も技術も才能も時間も足りない。

 今回の傷の原因は自分の警戒不足だから自業自得ではある。でもどうやっていきなり矢で射たれるのを警戒しろとは自分でも思う。ただそんな事を思っているから駄目なんだ。どうやってとかじゃなくとにかくやるしかないからな。常に全方向に対して警戒するべきだな。今後は出来る限り警戒を続ける。

 計画性の無さも問題になったな。筋トレをしたのは良いが、そのせいで上手く戦えなかった。余力を残すように配分を考えるべきだな。

 ただそんな風に余裕を持ってゆっくり強くなる事が出来る程の時間は無い。強くなければその分命が持たないのに、強くなるために努力すればその日はその分弱くなる。そこら辺の兼ね合いを上手くやらないとな。

 技術も足りてないのは分かっているんだけどどうすりゃいいのか分からない。分からない事ばっかだな。まあ適当に何度も殴る蹴るの練習でもするかな、木を蹴り倒すとか出来るようになったらいいな。


 死肉を漁るような奴が来る前にここらのゴブリンの肉を出来るだけ取って置きたいんだけど保存出来ないからな。今の内に食えるだけ食って傷を治すかな。





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