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体を鍛えるために走る事にした。
洞窟が見える位の距離の所を洞窟を中心にぐるぐると走り回ってる。
目的としては足場が悪い中で走り回る事でバランス感覚と全身の筋肉と持久力が鍛えられたらいいな~って…
忍者みたいに木の上を移動するのもやってみたいけど全然無理。いつか出来るようになれば!位の心積もりでいるけど。
まあ今はちょっと走れば疲れる程度の体力しか無いから体力が付くまでは続けたいかな。継続は力なりってな!
ただ俺が一番苦手としている事は努力なんだけど…、まあ努力しなけりゃ死ぬって状況なら頑張れんじゃないかなーと思ってます!
ハァハァ、キツい。普段の運動不足に加えて足場が悪い事が相まってもう息が切れてきた。10分位は走ったかな?あぁー脇腹痛い。あ、足がもつれる。
地面から出る木の根に足を引っ掛けて、勢い良く転んだ。
「ぐえっ」
ズキン!
指先に強い痛みを感じ視線を指の先に向けると、右手の中指の爪の間に枝が刺さっていた。
「ぐおおおぉぉぉぉ!」
痛ったい!!痛い!
指先に息を吹き掛けながら左手で中指を握って圧迫する。
グッ、枝を抜かないと。血が出始めた。枝抜いた方が血が出そうだけど。
木の枝を拾って口に咥える。
「フー、フー、フッフッフッフッ
これから来る痛みへの恐怖から過呼吸気味になりながらも、指に刺さっている枝を掴み、勢い良く引き抜く。
ッッッ!!ン゛ン゛ーーーー!!!」
バキッ
口に咥えた枝を噛み砕き、声にならない叫びを上げながら、指を握って痛みに耐える。
ペッペッ、痛ってえ痛え、枝が指に刺さるって痛いとは聞いたことが有ったけど刺さった事はなかったからな。痛すぎて目がチカチカする。
クソッ、また怪我かよ。怪我して治って怪我して治ってのワンパターンはもう飽きてんだよ。クソッ。
チッ、クソクソクソ。糞がっ!!ああーー!!イライラする!ふざけんなこの糞根っこが!死ねーー!!
地団駄を踏みながら足を引っ掛けた木の根を蹴り続け当たり散らす。
ズキン
痛っ!あー血が止まってないんだった。どうするかな?とりあえず血は止めたいから軽く縛っておきたい。そこらの蔦か蔓かを指に巻いておこう。直接じゃなくて大きめの葉っぱでも噛ませておきたい。止血効果のある葉っぱとかあればいいんだけどね。薬草だったり葉っぱの知識はないからなー。
手近にある葉っぱと木に巻き付いている蔓だか蔦だか分からない紐状の植物を指に巻き付ける。
あーそういや蔦と蔓の違いって何なんだろう。全く違う物かもしれないけどよく分かんねーなー。こんな時に自分が分からない事を分からないままに後回しにして日々をボーっと過ごしてたんだなーと実感するな。もっと色んな事勉強しておけばと今更思う。
うん、痛みはイライラを吹っ飛ばすな。世の中の自分の思い通りに行かない事にイライラするけどそれどころじゃなくなるな。
よし、筋トレでもするかな。腕立て…だと指が痛いから拳立て伏せ。まあ拳を硬くしたいから良いかな。ちょっとずつ努力はして両手の拳を打ち合わせられる位にはなったけどまだまだだからなあ。あとは腹筋背筋スクワットとか思い浮かぶのをとりあえず限界までやってみよう。
つ、疲れた…。拳立ては三十回を越えたぐらいで限界がきた。言い訳をさせてもらうなら地面がゴツゴツしてて小さい石が刺さって痛かったんだもん。そりゃあ出来ないよ。うん。
いやーイケメンじゃない奴がだもんなんて言ったら気持ち悪いね。UN○しちゃうかな?リバースしちゃうかなって言いたいんだけど分っかるかなー?分かんないか。そのまま言えって思うよね、でも何か遠回しに言うの好きなんだよね。面倒くさい人間だから仕方がない。
まあいいや。腹筋は百四十を越えて腹がプルプル震えるのが止まらなくなって終わり。背筋は六十回で限界。スクワットを一回ただけ少しの休憩をして百回まで頑張った。
手も足も腹もプルプル震えが止まらない。腕を持ち上げられないからダランと下げたままだし、真っ直ぐ立ってるけど膝を少しでも曲げると途端に震えが止まらなくなる。だからと言って物を持てないとか歩けないって程じゃないけど、物を持ったりしたあと凄い力が抜けて力が入らなくなる感じ。
あー喉が渇いた。水ー。すぐ近くの川が遠く感じるが水は汲んである訳じゃないからなー。
川まで水を飲みに歩き、川辺まで辿り着く。そして膝を突き倒れ込むようにして直接顔を水に付けて喉を潤す。
ドスッ
四つん這いになって川に顔を突っ込んでいた所、胴体の左側に衝撃を受けて倒れ、少ししてから激痛が走る。痛みのある場所を見ると矢が一本身体から生えていた。
「ああああああ!!!」
痛い痛い痛い!これは今までのとは違う!
死ぬ。死に近づく気がする。一歩間違えれば死ぬ傷だ。
痛みで余裕が無くしながら立ち上がり矢の飛んできた方を見ると…
…ゴブリンか。あークソッ!万全なら敵じゃないのに。
対岸の左奥から剣を持ったゴブリンが二匹こちらに向かってきていた。
弓を持ってる奴は居ない。糞、それ位の頭は回るのか、回らない方が良かったな。姿が見えれば矢の飛んでくる方向が判るのに。こいつらを見てある程度の確信が得られたけどゴブリンは三匹ずつで行動してるみたいだな。三人一組だなんてよく考えてるじゃねーか。もっと馬鹿で居て欲しかったよ。
弓矢持ちも多分一匹。最初に飛んできた矢は一つ。間隔が少し開いても来ないからまあ一匹だろう。それが幸いか。
痛みが薄れて来た。アドレナリンでも出たのか、痛みのキャパを超えたのか…。
今の自分の状態を知りたいと思い心の中でステータスが出るように念じる。
目の前に半透明の板が出てくると、
「ギャッ!?」
ゴブリンから驚いたような声が上がった。
反射的にステータスが消えるよう念じ、ゴブリンの方を見る。
ゴブリンはさっきまでステータスが見えていた位置をじっと見つめていた。
なるほどな。これで実験出来なかった事が分かった。このステータスプレートだかウィンドウだかは他人にも見える。これは良い事を知った。
あ、矢。
突然弓矢を持った敵の事を思いだし、右に飛び退く。すると矢が左足の太股を掠めて後ろに抜けていった。それが原因か体勢を崩し川面を転がる。
転がる事によって刺さった矢の鏃が体内で動き、体を傷つける。
「ぐううっ」
痛みで体が強ばり、動きが止まる。ゴブリン二匹は既にこっちに向かって走って来ている。
矢を抜かないと…。覚悟を決める時間も無い!一気に引き抜く!
覚悟を決める間も無く矢を引き抜く。鏃には肉がこびりつき、傷からは血が流れ出し始めた。
矢が深く刺さってた訳じゃ無さそうだ。硬くなった肋骨で止まってたんだろう。そうじゃなかったら心臓に刺さって死んでた。ゴブリン野郎しっかり心臓狙ってたな。次の矢も足を潰す気だった。その上一射目と矢が飛んできた方向が違う場所を変えて捕まらないようにしてるのか。ああ、死ね糞が。じゃなきゃ俺が死ぬ。
ゴブリンは剣を振り上げ向かって来ている。腕はまだあまり力が入らない。どうにかして止める。
近い方のゴブリンに向かって走り、剣が振れない程に懐に入る。
肘が肩より上にあると腕を下に下ろす力は弱くなって、肘が肩より下にあると腕を上に上げる力が弱くなる。それぐらいの事は流石に知っているので腕と肩でゴブリンの腕を止める。
そのまま浴びせかかるようにして倒れ、横に転がってその場を離れる。今なら普通に動くより転がる方が速い。
そろそろ次の矢が来ると警戒して茂みに目をやり、動きが見えた所から大まかに矢の軌道を予想して倒れるように避ける。
上手く避けれた。助かった、運が良かった。
矢がさっきまで居たところを過ぎるのを確認すると、もう一匹のゴブリンがすぐ近くに来て剣を振り上げていた。
そこでゴブリンの顔の前に視線を向け、ステータスが出るように念じる。
するとゴブリンの目前にステータスプレートが現れ、目の前に突然半透明の板が出てきた事で驚いたのかゴブリンの動きが一瞬止まる。
その一瞬を狙い痛みを無視して全力で顔面を殴る。たたらを踏んだ所に回し蹴りを入れる。
そのまま横に倒れるのを見て急いで刺さっていた矢を拾い上げる。最初のゴブリンが既に近くに走ってきていたので、拾い上げながら体を低くして体当たりする。そのままゴブリンの胴体を掴み後ろに押し進む。
ゴブリンが背中に剣の柄頭を叩き付けるのに耐えながら鏃をゴブリンに何度も突き刺す。段々と矢を突き刺すにつれて背中に叩き付けてくる力が弱まっていった。
すると隙を気を抜いていたせいか背中に矢を受け、そのまま倒れた。
それでも力を振り絞り、直ぐに矢を抜いて、すぐ後ろにまで来ていたゴブリンの首に振り向き様に突き刺す。
しかし同時にゴブリンの振る剣を肩口に受け、傷が出来る。
ゴブリンはそのまま息絶えたが今度は自分が立ってられなくなり、膝を着く。
血が足りない。ま、不味い。剣持ちは両方死んだか動いてない。でもまだ一匹居る。立たないと殺される。
ゴブリンの流れる血を啜り、肉を噛み千切って立ち上がる。
あれ、居ない?逃げた?クソ、仲間を呼びに行ったか。増援を呼ばれる前に殺さないと。
ゴブリンの死体が握る剣を拾い両手に握り、精一杯急いで森に入る。
森に入って直ぐその姿を視界に捉えた。だが、こちらに向かって矢を射ってきたり、邪魔されて追い付く事が出来ない。
息は荒くだんだん足取りがおぼつかなくなってふらふらと真っ直ぐ歩けなくなって行く。前を歩くゴブリンとの差も広がる一方でもう見失うのではないか…と言う所で、ブォンという風切り音が一つしてゴブリンの姿が消える。
その数瞬後真っ赤な血と共にゴブリンの手足や臓物が降り注いでくる。
僅かな時の後、ようやく視界に飛び込んで来た情報を処理し、混乱する。
……は?死んだ?今度は何だ!?ゴブリンどころじゃ無いのは分かる。
その奥から現れたのは真っ黒な壁。一瞬壁と勘違いするほど大きな黒い体毛の熊だった。
熊か。一回見たが段違いに大きい。もしかしたら前見たのが子供サイズなのか?それでこいつが成体の大きさ。だったら異世界級だな、四足着いてる状態で3m位。逃げ…られないな、こっち見てるし熊足速いし…。
よっしゃ!こいつ殺せば一回終わりだ。さっさと殺して寝る!まあ震えが止まらないがな。
覚悟を決めた所でその熊はこっちに物凄い勢いで走って来て、目の前で止まる。
そして後ろ足で立ち上がり、
「グオオオオオオ!!!!」
大きな声で威嚇をした。
…チビりそう。走って来るのもトラックが向かってくるのと変わんない、近くで見たらヤバすぎる。殺意とかは分からないけど腕の一振りで命が吹き消えるのは分かる。本能からなのか目に見える情報からなのか恐怖が大きすぎる。プチッと踏み潰されそうだ。手足はドラム缶位太く、牙も爪も人の腕位の太さで15cmはありそう。
挫けそうでも挫けられない。殺せなくてもなんとか追い払えないか…。
両手に自分の血を付け、顔に線を付けるように塗る。息を深く吸って体を精一杯膨らませる。そうして精一杯の威嚇をする。
そして全く意に介した様子も無くその熊は後ろ足で立った状態から前に倒れ込むように勢いをつけて、地面ごと凪ぎ払うように右前足を振るう。
「わあああああ!!!!!」
人生で一、二を争う程の大声を出し、熊に向かって行く。子供一人と同じ位の大きさの腕が迫る中、爪が当たらない内側に入るため走り、右に跳びながら両手の剣を熊の腕に叩き付ける。
そして二本の剣が砕け散る高い音の後、轟音と共に吹き飛ばされて木に高速で衝突する。その後熊が腕を振る軌道上に有った木が薙ぎ倒され、地面に振動が響く。
「ハッ…ハッ…」
息が出来ないっ…。内臓に衝撃が伝わって掻き回された感じ。体内で爆発が起きたような、体の深い部分の痛みが消えない…。眼は開いているのに真っ暗で何も見えない。
肋骨に罅が入った気がする。ピキッと音が鳴ったのが聞こえた。罅で済んだのならスキルのお陰だな。折れてたら肺に刺さって息が出来ないだろう。今の呼吸困難は衝撃によって筋肉が締まったような感じ…、だんだん息が出来て眼も見えるようになってきた。
これでも生きてるなんて俺は丈夫だな。流石は俺様だな、なんてツいてるんだろうか。
だが止めを刺す気なのか熊は歩いて来ている。
ああああ!動け動け動け、立て立て立て。逃げないと。立ち上がれ、力を入れろ!
必死に体を動かそうとしてもがくが、どうにも力が入らない。体が言うことを聞かず、立ち上がる事すら出来ない。
すぐ側まで来た熊が顔を寄せ、鼻息が懸かる程に近付く。そしてまさに首に噛み付く…というとき、
シュッ
と風切り音が鳴り、熊の体に何本もの矢が突き立つ。矢の来た方には何十匹ものゴブリンが棍棒のような物から剣や弓矢など様々な武器を持って現れた。
矢が刺さった熊は一声大きく吠えると、ゴブリンの方に向き直り、身を震わせる。それだけで矢が地面に落ち、まともに刺さっていなかった事が分かる。
そして熊が走りだし、熊とゴブリン軍団の戦いが始まった。
…のを横目に這いずるようにその場から離れる。だが20mと行かない内に力尽き、意識を失う。




