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12話



 川で身体中を洗い、身体を乾かしてから川沿いを下流の方に歩いて行く。そして昨日見つけた獣道が見える位置で茂みに隠れる。


 このまま待ってれば何か動物来るかなあ?自分一人で獣道を辿って行くのと動物の後を付けて行くのでは大分労力が違うと思う。素人が一人で獣道を辿っても迷いそうだし。それに割と方向音痴だからなあ。






 そしてしばらく待っていると森の奥から茶色で胴体に白い斑点があり尻の毛が白く何股にも枝分かれした大きな角を持った1m位の鹿が三匹出てきた。


 おぉー、鹿だ。動物園とかで見たのとは違うなぁー。異世界だからかな?

 こっちを見るなよー、ここでバレたらお仕舞いだ。


 息を潜めて隠れていると三匹が水を飲み始めた。さらに隠れて待っていると満足したのか、森に戻っていった。


 すぐに追いかけると気付かれそうだから見失わない程度に距離を取ってゆっくり追いかけないとな。


 音を立てないように静かに川を渡り、姿勢を低くして距離を保ったまま追いかけて行く。

 そのまま後を付け続けていると鹿たちが立ち止まり何かを食べ始めた。


 あ~、腰が痛い、こんな風に姿勢を低くしてると腰が痛くなる。焼いた腕と武器を一応持って来たけど、超邪魔だな。ポケットに入れればなんとかなると思ってたけど考えが甘かったかな。

 鹿が止まって何か食ってるけど何食ってるんだ?鹿が食べてる物なら人間も食えるかな?そういえば鹿って結構何でも食べるんだったかな。日本で狼が絶滅して鹿が増えて鹿害(ろくがい)っていうのが起きてるらしいし。

 

 おお、また進み始めたな。何を食べていたのか分かるかもしれないな。



 鹿が何かを食べていた所に行ってみると、ドングリがいくつかに落ちていた。


 ドングリかー、きっと食べられない事も無いんだろうと思うけどやっぱり不味そうではあるな。不味いっていうより苦い気がするが。まあ数少ない食料の足しにはなるだろう。

 やばっ、また先に進んじゃってる。ちょっと走ろう。


ガサガサッ


 ‼走って草に引っ掛かったか!大きな音が出たけど大丈夫か?


 ああ、クソッ。気付かれた。こっちを見てすぐに走って逃げられた。

 ヤバいヤバいヤバいってこのまま見失ったらすぐに迷う。急いで追いかけないと。


 全力で走って追いかけたがだんだん離されていってついに見失ってしまった。


 これは結構ヤバい、道なんて無いし元の場所に戻れる気がしない。結構前から迷っていたけど考えないようにしてたのに。

 ただ何も無いまま戻って迷うよりは先に進もうか。道に見える部分を進んで何かあればいいんだけど・・・





 そのまま歩き続けて数時間が過ぎ、何一つ目新しい物が見つからないまま日が暮れた。


 ハァハァ…疲れた。もう何時間も歩いたけどずっと変わらず木、木、木それにもう足元も見えない位暗くなってきてる。

 

バタッ


 ついに転んじゃったよ。さっきから足が全然上がらなくなってたしそろそろ転びそうだとは思ってたんだよね。もう起き上がる気力も無い。

 あー今日はもうこれ以上進めない。身を隠す場所も何も無いけどここで夜が明けるのを待つしかない。不安だらけだけど大丈夫かな。








 ダメだ。暗い。目の前に自分の手をかざしても何も見えない。暗すぎる。




 ただ暗くて何も見えない。それだけでこんなにも恐怖を感じるなんて・・・自分がここまでビビりだとは思ってなかった。


ガタガタガタガタ


 身体の震えが止まらない。全身が震えて過呼吸になってる。風で木の葉が擦れる音に心臓が止まるかと思う程反応する。誰かに見られているように感じて周りを何度も何度も見回す。誰かが喋っている話し声が聞こえるような気がする。胸が痛くて息が苦しい。汗が出て止まらない。




 暗い、怖い、何も見えない。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い




ガサッ


 ‼な、何だ?!何か居るのか!?クソッ、やっぱり何も見えない。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい‼‼



ワオーーーーーン



 え、狼?狼が居るのか!?どうしようどうしよう。


ガサガサッ


 ‼さっきより音が近い!近くに来てるのか?に、逃げないと。音のした方に何かが居る気がする。見えなくても生き物の気配がある。音のした方と反対の方に逃げないと。



 何も見えないまま転んでも立ち上がらぬままに前に進み、木にぶつかっても闇雲に逃げ続けた。


 走っていると突然前から何かに押し倒された。咄嗟に腕を顔の前に出すと、腕に噛み付かれた。


「ギャアアアアアアアア!!!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!


「痛っ・・たいわー!!」


 噛み付かれていない空いた手で腕に噛み付いている奴の頭が有りそうな所を殴り、のし掛かっているのを蹴ってから転がって振り落とす。

 それでも噛み付いて離れないので腕を振るが離れず、逆に牙がさらに食い込んだ。


ブシュ


 !どっかの血管切れた!クソ痛い・・・から


「アアアアアアアアアアア!!!」


 叫んで痛みを紛らわす。我慢我慢我慢・・して早く振りほどかないと。

 噛み付いている頭を何度も殴り付けて腕を振ると、ようやく腕を離し、離れた。

 腕が自由になって最後に蹴ってから逃げる。

 だが何歩も進まない内に足首を噛まれ、引き倒された。

 倒されてからすぐに仰向けになり足をバタつかせて引き剥がそうとしたが今度は仲間が来たのか手首を噛まれ引っ張られた。

 そして抵抗するが両手に噛み付かれ起き上がれなくなった。


 ヤバい・・・死ぬ。ヤバいヤバいヤバい。噛み付かれた部分から血が流れて止まらない。もう既に結構な量の血が流れてる。手足の感覚が冷たくなって無い。その上拘束されているような物だから次来たら抵抗出来ない。

 ・・・・・・し、死ぬ。ヤバいヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。


「うわあああああああああ!!!嫌だ嫌だ嫌だーーー!!!!死にたくない死にたくない死にたくないーーー!!まだ俺は死にたくなんゴプッ」


 もう一匹居たのか喉に噛み付かれ、口から血が溢れてくる。そしてそのまま首の肉を食いちぎられた。

 噛み付かれた痛みと血が大量に流れた事による寒さと死への恐怖がごちゃ混ぜになって頭が回らない。

 そしてすぐに意識が朦朧としてきた。その朦朧とした頭で最後まで死にたくないと思っていた。






―――――なんてな、まだそんな事にはなってないけど。

 ただ悪い想像が頭から離れない。世界が闇に呑まれて消えて行く。少しでも動いたら自分も消えるんじゃないか・・・そう思って頭を抱えて蹲って動けない。沢山の怪物が自分をじっと見ている・・・そう考えると目を開く事も出来ない。

 自分が死ぬ想像が幾つも浮かんでくる。今ほど自分の想像力を要らないと思った事は無い。あまりにも時間が長く感じる。このまま夜が開けないんじゃないかって気がしてくる。


 時間が過ぎて行き、眠気が出て、うつらうつらとする中それでも恐怖で震えが止まらず、頭の中が恐怖に埋め尽くされ、誰でもいいからと助けを求めていたが何も変わらず怯えていた。





















「・・・・・・・あれっ、寝てた?」


 いつの間にか寝てたみたいだ。


 ・・・あっ思い出した。

 あぁ思い出した。そのまま一生思い出さなければ良かったのに・・・。思い出したらもう周りの物全てが怖くて動けない。

 もう動きたくない。もう何もしたくない。


「ハッ・・・ハハハハハハハハハアッハハハアハッアハハハハハハハハヒーッヒッヒッアッハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハッハッ・・・・・・・・・・・ハァー、よしっ頭おかしくなるの終了!」


 もう全てがどうでも良くなる位怖かったけどもういいや、怖いのは仕方ない。もうどーにもならない。怖い物は怖いっ!だからずっと怖いとして置いといて、考えない事にしよう。いくら怖がっても何も変わらない、怖くてもまだ一応自分では死にたくないと思ってんだから。

 それでも頭おかしくなけりゃやってけないよ。急に異世界転移してそこで生きて行くなんて常人には出来ないよ。まったく世の中の転移系主人公はすげーなー。俺は元々割りと変人だから大丈夫な方だけどね!

 まあ変人と言っても特出した能力が無い中途半端な奴だけど、凡人カテゴリーの中の変人ってやつだね。変人としてもクラスで浮く程度だから周りから見てちょっと変な人ってだけ。中途半端は嫌いなんだけどなあー。

 もっと突き抜けた変な奴だったら異世界転移しても生きて行けるんだろうけど。

 まずちゃんとした変人って言われる人は何か特出した能力があるから変人でも生きて行けるんだよ、能力は平凡な性質だけは変な奴は生きてけないんだ。

 異世界転移して余裕で生活できるような特別な人間じゃあないんだよこっちは、オタクだからって虐められてもいないし、それを庇う自分の事が好きな美人の幼なじみも、典型的な自分を虐めるヤンキーもいない。昔から続く特殊な武術が代々受け継がれてもいないし、神様の手違いだったりお願いでも無いだろう。

 だからと言って自分が普通だと言うつもりも無い。特別な事は何も無くても個性が欲しいとは思うんだよ、目立ちたい。凡人で居たくなんか無い!!

 だから、どれだけ辛くともどれだけ死にそうでも元の世界に帰りたいとは言わない。異世界転移するってだけでも物凄い個性だから自分が凡人で無くなる異世界で生きてやりたい。英雄願望は誰だってあっただろ?英雄には成れなくても目立ちたい・強くなりたいとは思う。

 この世界なら俺でも強くなれるかもしれない。それだけでいる価値があると思う。

 情報が多すぎて自分がどっかの会社に就職して働いて死んでいくってある程度想像が出来るのがつまらない。想像出来ない未来は魅力的だから。

 あとは働きたくないってのも結構ある。

 めちゃめちゃ過酷だけど死んでも元の世界に帰りたいと言わないっていう意地。


 まあ下らないな。人間の悩みも恐怖もどんな事も宇宙から見たら小さい小さい。下らない事だ。

 だからどんな下らない事でも自分の心の持ちようで大事な事になる。下らない意地を張って生きていられたらなぁーって思います。


 恐怖だって考えてみれば自分が弱いから怖いんだ。あとは知らない事への驚き。自分が強ければ怖くない。何かに殺されるのが怖いなら殺されない位強くなれば良い。暗闇が怖いなら何があっても問題無くなるまで強くなれば良い。何があるか、何が起きるか知っていれば怖くない。全てを知って何より強ければ良い。

 自分の才能から言えば最強にはなれないだろうけどそんぐらいの心でやればそれなりにはなんのかな?


 いろいろやりたい。生きていたい。下らない事考えてないで動かないとまた日が暮れる。もう歩こうかな。

 はぁ、だるい。よく考えたらめちゃめちゃ下らない事考えててなんか気疲れしたわー。無駄な時間だった。

 一応塩探しだった。忘れんなよ。




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