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さつき、倒れる

一番大切なもの。

人間が一番大切にしなきゃいけないもの。

ところが、今このちきゅうでは、一番大切にしなきゃいけないものが、いちばん軽く扱われるようになったのです。

誰もこのことに気が付いていません。この流れには逆らうことなどよほどの強い意志がない限り難しいのです。何もかもが罪に(おちい)っていかざるを得ないのです。


これは、とても理不尽なことだと思うのですが、ある人はお金持ちの家に生まれ、ある人は貧乏人に生まれる。ある人は、良い頭とみんなから愛される美貌(びぼう)をもって生まれ、ある人はいくら勉強してもよくならない頭とかわいらしいとは言えない美貌を持って生まれる。人は、見た目と学歴とお金で人を判断する。

死ぬほど努力しても報われないこともあれば、遊び半分でやったことが大絶賛を受けることだってある。

ある人は、健康でスポーツのできる身体をもって生まれ、ある人は病気になったり、障害をもってきたまま生まれてくる。


こわい・・・こわい・・・こわい・・・

どうしたらいいの。

一体どこまでいったら、人は幸せになることができるの。


胸の中になんだかしらないもやっとしたものが植え付けられて増殖されていくのがわかります。

そんな生活をしているうちにさつきはある日、気を失って倒れた。

胸が苦しい。息ができない。起き上がっても、頭が痛くて痛くて泣きそうになる。

それでも、重い身体を引きづってあの狂った空間に行かなくちゃならない。

先生は「甘えだ」「体調管理も学業のうち。お前が倒れるだけでどれくらい多くの人間に迷惑がかかると思ってるんだ?」と鞭打つようなことをのたまいます。

いくら「しんどい」と訴えても、「しんどいのはみんな一緒なんだ。みんなも一生懸命頑張ってるんだからお前ひとり休むのは卑怯なことだぞ。がんばれ!」といって、わずかな優しさすらも見せてはくれません。

人が何人か死ぬくらいではいささか心の動揺(どうよう)も見せない、せいぜい気になることはといえば自分の地位や身分が(おびや)かされることくらい。そんな大人たちなのですから仕方がありません。


パパとママはさつきを病院に連れて行きました。

どの病院に行っても原因不明。挙句の果てに、「自業自得だ」なんていうことまで言われた。

こんなにしんどいのに「何も問題ありません。」ってどういうこと?


地球のお医者さんはみんな笑顔一つなくて病気のさつきにたくさんの薬しかくれなかった。

話を全然聞いてくれなかった。


いろんな病院をまわって、やっと見つかったお医者さん。

「・・・手術が必要です。・・・なんで、こんなになるまでほっといたんですか!?」

と叱られた。

すぐに、病院に入院することになりました。


「このまま、さつきは・・・死んじゃうの?」

不安で仕方がなくなります。


真夜中に、息ができないくらい苦しくなって目が覚めます。

「生きている」と思う。

「だけど、もうすぐ死ぬんだ。」


真っ暗なベッドの上で、天井を見ながらずっと考えました。


「死ぬ」ってどういうことだろう。

人は・・・誰もみんな死んじゃう。死なない人はいない。

なのに、さつきの周りのだれもが、自分だけは死なないかのように、他人事のように笑いながら毎日を過ごしている。


死んだら、もうものを見ることもできないし、聞くこともできないし、身体を動かすこともできないし、感じることもできないし、考えることもできない。

私は消えてしまう。世界のすべてがなくなってしまう。

もう、誰とも会うこともできないんだ。

だけど、そこにさつきという存在はいなくて、なにもかもわかることはない。

さつきの存在は、みんなから忘れ去られていく。

さつきがいたっていう思い出も、証拠も、みんな消えていくんだね。


いずれ、みんな死んでしまう。

誰も、替わってもらえない。


いずれ、この国も人類も地球も滅びてしまう。

すべてが無意味に思えてきました。


真っ暗な病室。

眠れないで、ベッドの上で、天井を見上げながらとても苦しくなります。

「寂しい、寂しい、寂しい、寂しいよ!

誰か、誰かそばにいて!なぜ、誰もいないの?」

「この先、一体どうなるの?」

「私の人生っていったい何だったんだろう。」

「いやだ、いやだ、いやだ、死にたくない!死にたくない!もっと生きていたいよ!」


「パパとママのいるおうちに帰りたい!返して!」

「わがままを言わないの!もう中学生でしょ!」

看護師さんたちが、私を叱りつけます。

「我慢しなさい。我慢しなさい。我慢しなさい。」


「学校行かなくていいよね。勉強しなくていいよね。」

「みんなから心配してもらえていいよね、ちやほやされて、優しくされて、注目してもらえていいよね、さつきは。」

「自分の足でわざわざ歩かなくても、看護師さんがお手伝いしてくれるからいいよね。」

お見舞いに来てくれた人や、メル友がこう言います。

「だったら、私と替われよ!」

そう叫びたくなります。


「さつきは、結局のところ、誰ともつながっていない・・・。」

そんな、ひとりぼっちの感覚に襲われます。


「歩きたい!走り回りたい!勉強をしたい!

みんなでご飯を食べたい。

・・・ぜいたくは言わないよ。ただ、それだけでいいから。

それだけのことが、どれだけしあわせなことか・・・。」


・・・でも、知っています。

健康に見える昼の世界にいたころ、何もかもが息苦しくて、ゆううつで、生きている意味なんてないと思えて・・・。

そうか、「自分は愛されていない」「この世界に必要がない存在だ」と感じているのは、きっとたくさんの人が同じなのかもしれません。


人は、みんなみんなこうなるんだ。

こうやって、死んでいく。

誰一人として、避けることはできないんだ。



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