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さつき、とっても悲しい思いをする

いろいろあって、クーデタが起こりました。

「この街を守るため。」と言って。

立ちあがった人たちは、占領軍を見事に追い出しました。

そして、占領軍に負けないだけの軍隊をすぐさま整えました。

王様になったのは、トラヒーという将軍。クーデタを起こした首謀者でした。

街の人たちは、当然こぞってトラヒーを英雄と持ち上げました。

トラヒー将軍は街のみんなに勇気を与えました。

トラヒーは、ものすごくわかりやすい言葉とキャッチフレーズを繰り返し、そしてたくさんの広告で街の人びとの心をつかみました。

「私だけだ!私だけが・・・!この街を救うことができる!皆!我に従え!我を信ぜよ!」

ドームを市民いっぱいにして彼は叫びます。

それにたいして「わあああああ」というウェーブが巻き起こります。

街という街はトラヒーの広告と映像で溢れかえって、熱狂しています。

世の中の人みんなが、トラヒーに万歳を言いました。

今や、この街のすべての人にとっての希望の光でした。


わたし、さつきも、形だけのバンザイをします。

バンザイしなければ、「みんな同じようにバンザイしてるんだから、あなたもしなさい!」と言われかねないので。


「・・・本当に?本当にそうなの?」

さつきには何だかみんなが自分で考えることを捨てて、恐ろしい力にコントロールされているようにしか思えませんでした。


占領軍がいた時と法律は何一つ変わらないまま、上の王様がすげかわっただけ。

「自分のことだけしか考えてはいけない。他人を助けたり、思いやりの気持ちを持ったものは処刑とする。」


人びとの賛成を一気に集めた王様は次に言い始めました。

「ちきゅうじょうにひそむありとあらゆるうちゅうじんを皆殺しにしてしまえ!

このちきゅうに最大の害悪は、飛来してきたうちゅうじんの存在にほかならない。

うちゅうじん一人がまぎれこむだけで、ちきゅうじん全員が毒に汚染される。

わたしたちが不幸なのは、なんら生産性のないくせに、口先だけはいっちょまえな地球外生命体どもが人びとをたぶらかし堕落(だらく)させてしまうからだ・・・」

などなど、あることないことでっち上げて、とにかくなんでもいいので理由をつけてうちゅうじんを殺したいみたいです。


はじめは「そうかなあ」と思っていても、同じことを何度も何度も繰り返されると、人間というものの考え方は簡単に変わってしまうものなのです。

いつの間にか、みんなが大した根拠もないままに「うちゅうじんを絶滅させろ」という考え方に染まっていきました。


学校でも、うちゅうじんを殺すことはいいことだという授業が展開されるようになりました。


ちきゅうじょうで正体を隠して暮らしていたたくさんのうちゅうじんたちが警察に捕らえられて、何にも悪いことしていないのに、どこか知らないところに送られて、私たちの間から消えていきました。


にいちゃんやお世話になったせんせいがうちゅうじんだったさつきは、想いを押し殺して黙っているほかありませんでした。


「一体どんな人が、うちゅうじんたちを捕らえているの?」

わたしは、こんなひどいことをする人の面を確かめてやりたいと市役所に行きました。

保健所・地球外生命体処理班の班長は、黒縁のめがねをかけニコニコした気の弱そうなどこにでもいるふつうの公務員でした。

事務処理をするように書類にハンコを押し、うちゅうじんに「死亡診断書」を出し、生きたまま棺桶(かんおけ)に入れ直接火葬場に送り込みます。


おそるおそる聞きました。

「こんな非人道的なことが行われていいのでしょうか。」

その公務員は、事務的な対応でこう答えます。

「ううむ・・・そんなことを言われてもねえ・・・。

法律で決まっているものは仕方ないでしょう。私どもはただ上から言われただけでやっているだけで。従わなきゃ、職を失ってしまうのは私ですからね?

憲法にも法律にも地球外生命体の人権に関しては明記されていないので、何とも言えません。

まあ、自己責任ということで。宇宙人殺処分というのも、上から言われたことなのでこちらとしては何とも。詳しくは上に問い合わせてください。」

とそっけない答え。

これ以上は何も聞けませんでした。

役所の人たちは、あの残酷な行為を「いいこと」と思っていやっている、いえ、「法律に定められた通り忠実に」やっているに過ぎないのです。


街の人たち同士は、お互いがお互いに監視をしあいます。

少しでも怪しければ、街のいたるところにいるトラヒー直属の治安維持警察に連絡すれば連行可能。

うちゅうじんであるという「疑い」だけで、裁判なしで生きたまま棺桶に入れられ焼却されます。

うちゅうじんだけでなく、トラヒーに反対した学者や政治家も「平和を乱す」という理由で連行されていきました。


そういったことをすればするほど皮肉なことに、街は規律正しく一つにまとまりました。

ゴミ一つない「きれいな街」がそこにはありました。

街の人みんなが一人残らずきれいにトラヒー将軍に忠誠を誓い、同じ方向を向いています。



さつきも、パパもママもにいちゃんがうちゅうじんであったことを隠さなければなりませんでした。

にいちゃんの写真をもっていただけで刑務所に送られ、うちゅうじんの話をしただけで「それはね、いけないことなのよ」とすごい剣幕で諭される街になりました。


さつきは、にいちゃんとの思い出を繰り返し繰り返し心の中で巡らせては、何とも言えない気持ちになりました。


寂しい、寂しい・・・寂しいよ、にいちゃん。

逢いたい、逢いたい、逢いたい・・・でも、ダメなんだね。


・・・にいちゃん、あなたは・・・うちゅうに帰って、よかった・・・よかったの。

この星にいたら、あのやさしいにいちゃんはきっと殺されていた。それだけは、それだけは避けたかった。



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