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さつき、せんそうに巻き込まれる

そうこうしているうちに、ちきゅうでは、せんそうがはじまりました。


度重なる天変地異とミサイルの爆発、金融(きんゆう)恐慌(きょうこう)というのが起こり、それが引き金となって地球全体が二つに分かれるようなせんそうがはじまりました。

どうしたら、せんそうを食い止めることができたのでしょう。

たくさん調べたり、考えたりしますが、子どもの浅知恵なんかでは分かりません。それを食い止める方法が仮に分かったとしても、自分の無力を呪うだけしかできません。

これが運命だったのでしょうか。小さなボートがあたかも木の葉のように滝に吸い込まれるようなあらがいがたい流れに、ちきゅうじんも飲み込まれている。そんな哀しい生き物なのでしょうか。


クラスの人たちは、なんだか喜んでいるようでした。だって、それまでの何もない息の詰まりそうな出口のない日常に大きな穴が開いたのですから。不謹慎(ふきんしん)なことだと分かっていながら、「何か新しいことが始まる!」とか「学校も社会もぶっ壊れて、自分の活躍できる場所が出てくるんじゃないか。」そんな風に思っている子もいたに違いありません。


いえ、「はじまった」というよりも、もともと、この星は戦争をしているようなものでした。

銃も爆弾もありません。

ミサイルもありません。

「ことば」です。

死ね、

アホ、

消えろ、

きしょい、

うざい、

殺す、

なんて言葉がまるで紙飛行機でも投げるみたいに毎日飛び交っているわけです。


ことばは、現実になります。

何気なく発したことばはうちゅうに届いて、ちきゅうにまかれます。

それは、発した本人にふりかかるのです。


ことばは、数年経たないうちに成長して、怒りになり、憎しみになり、法律になり、軍隊になり、新兵器になり、戦争になりました。


さつきの住んでいた大好きな街は、しばらくして外国の人たちの軍隊に占領されてしまいました。

さつきたちの国は、外国からいじわるをされても、せめこまれても、絶対に自分の国を守ったりしてはいけない決まりがあったのです。

街で暴走族が走っていても、

「個人の表現の自由というのが認められていますから。みなさん寛容な目で見守ることはできませんか。」としか言えないおまわりさんたち。

「強盗が家に押し入ってきています。助けてください!」と頼んでも、

警察は「暴力反対です。ううん、それは話し合って解決してください。」としか言えません。

警察のやることはと言えば、身分証を持たずに歩いている一般人のかばんや服の中までぜんぶ漁ったり、ささいな交通違反に目を光らせてたくさんの罰金を徴収することくらいです。

それに、街の人たちはみんなみんな自分たちの街のことに関心がなかったのです。

「自分一人が街のことを考えたって、何にもかわらないよ。」

「だれかがどうにかしてくれる。」

なんていっているあいだに、軍隊がやってきて私たちの街を占領していきました。

みんなだまってそれを受け入れました。

すこしでも反対した人は、みんなの前で殺されてしまったからです。

いつのまにか、街のルールは誰も知らない間に造り替えられていきました。


「人を愛したり大切にしてはいけない。他人を助けることや他人の幸せのためにすることのすべては禁止。

すべての国民が、自分のことしか考えてはいけない。」

という決まりが作られました。

(「ただし、自分の利益になると思ったときに限り、他人を助けてもよい。」)


うちゅうの基本法とは正反対の法律が作られました。


困った人を助けた人はすぐさま処刑されました。

道端で倒れた人のそばを誰もがそしらぬ顔で通り過ぎていきます。

街から、一切の笑顔が消えました。


太陽は今まで通り明るく輝いているのに、街にはたくさんの電気が輝いているのに、なんだか街全体が暗い雲に覆われたように薄暗いのです。


「自分のことだけしか考えてはいけない。人を助けてはいけない。」

その決まりは学校でも適用されました。

今までも、半分そのようなものだったのですが、学校には鉄の柵が張り巡らされ、監視員が脱走を防ぐために巡回しています。


「そういえば・・・。」

わたしは、昔、小学生の時にもらったメガネのことを思い出しました。

「たしか・・・この辺にあったはず。」

押し入れの奥に、そのメガネはありました。

うちゅうからきた紳士が、「ちきゅうの毒」をはかるためのめがね。

あの時は、ちきゅうの毒にやられた、にいちゃんの胸からは恐ろしい毒草が生い茂っていた・・・。

「これで、今のこの街の様子をみたら・・・」

心臓がどきどき高まります。

ゆっくり深呼吸をします。

意を決して、目をつぶりめがねをかけます。

覚悟を決めて、うっすら目を開くと・・・。


視界一面が、泥のように濁った血の色になったかと思うと、

「バチン」という音を立てて、そのメガネはメーターを振り切ってショートしてしまいました。

二度と、そのメガネでちきゅうの毒を観察できることはなくなりました。

それほどまでに、高濃度の毒が蔓延していたのです。

怒り、憎しみ、恐れ、うらやみ、殺意、いじめ、許せない・・・。


その毒は、見えないけれども人体の細胞をボロボロに破壊するだけの力があるということをみんな知らないのです。



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