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さつき、小学校を卒業するときに・・・

それから、二年の月日が経ちました。


津波に飲まれた小学校は別の校舎にうつり、街にも仮設住宅が立ち並んでいます。


さつきの小さかった背丈もほんの少しは伸びたと思います。相変わらず、背は前から四番目とか五番目のほうだったけれども・・・。


あの、明るくて無邪気だったさつき、学年が上がるにつれて、どことなく笑顔が消えたように思います。

この二年間は、いろいろなことを心の中に押し込んで、笑顔で何事もなかったふりをして普通な様子で過ごさなくちゃいけませんでした。ゆっくり何かを振り返ったり悲しみに暮れているひまもなくて、ただ生きていくためにしなきゃいけないことがあまりにも多かったのです。

さつきは、ずっと胸の中に抱えていた苦しみを誰にも打ち明けることができませんでした。


いよいよ小学校を卒業するときがきました。



卒業式からの帰り道、友達と別れ、帰宅途中、川の上にかかる橋をパパとママと三人で歩いていたときのこと。

雲の隙間がきらっと光ったかと思うと、小さな円盤がくるくると目の前に降りてきました。

周りには誰もいません。

「まさか」と思ってドキドキしていると、やっぱり開いた扉からは懐かしい顔が出てきました。

「にい!」

さつきはすぐさま駆け寄って抱きつきました。

卒業式の時にもらった、卒業証書やアルバムを思わず落っことして。


にいちゃんはあの小さなUFOにのって私の様子を見に来たのです。


にいちゃんは優しそうに笑ってた。

「さつき・・・卒業おめでとう。少し様子を見に来たよ。

・・・地震・・・大変だったね。うちゅうにも知らせが伝わってきて、心配していたけれど無事でよかったよ。」

「にい・・・にい・・・。会いたかった、会いたかったよぉおおおお!」

学校がなくなったこと、先生やクラスメイトが流されていったことを話すと、にいちゃんは「辛かったね」と言って抱きしめてくれました。

パパとママも久しぶりににいちゃんとあえて嬉しそうです。

「あなたの星からここまで遠かったでしょう。向こうでの暮らしはどう?星が離れ離れになってもあなたは私たちの家族だから・・・いつでもあなたのことを想って祈ってるわよ。」

円盤から降りたにいちゃんと、パパとママは互いにハグをしあいました。


「ねえ、後ろのせてよ。」

にいちゃんがいなくなり、災害が起こってから、ずっと、さつきは自分自身の感情を押し殺して生き続けていたように思います。

・・・だけど・・・

中学校に上がる〈私〉は、もう子どもみたいに無邪気に甘えられるのはこれ以上難しい・・・もう、最後なのかもしれない、そう思っていっぱい甘えました。

「一緒に・・・鬼ごっこしてあそぼ。」

「ねえ、おんぶして・・・にいに。」

「抱っこして、ぶーんって振り回すのやってやって。」

背中から、にいちゃんのあたたかい体温が伝わってきます。

心臓の鼓動がトクントクンってなってます。


少し、ぶかぶかの中学校の制服をまといながら。確かに、自分でもまるで低学年のときに戻ったようで、ほかの人に見られたらたぶんすっごく恥ずかしいんだろうなあと思いながら、でしたが幸いなことに周りには誰もいません。

大笑いしながら、もうこんなことできるのは最後なんだなっておもいながら、少し悲しくなった。切なくなった。


一方、にいちゃんは地球にいた時の服と違った、ものすごくかっこいい・・・そうだ、古代のギリシアやローマの人たちが来ていた服みたいにおしゃれなかっこをしている。

地球でいったら、おそらくにいちゃんは14~15歳くらいの中学生くらいなのだろうけれども、二年前と背丈も顔もほとんど変わっていない・・・。

12歳のままだ。

・・・でも、ちきゅうのどんな偉い博士でも知らないような難しいことを知っている。

IQは300以上あって、そうたいせいりろんとかりょうしりきがくとかせいしんげんしょうがくとかちょうげんりろんとか、地球では最先端とされているお勉強の内容も小学生がひらがなを書くレベルと言わんばかりにやってのけます。


・・・どうせだったら、さつきみたいな普通のおうちや普通の小学校なんかに通わず、国連とか、NASAとか、ハーバード大学とか行って貢献してくればいいのに、とか思っちゃいますが。


そういえば、にいちゃんはちきゅうで私と一緒に暮らしていた時は難しいことをなんでもできたけれども、当たり前のことがほとんどできなかった。

自転車は乗れないし、ボール遊びもできない。

・・・あとは・・・

「にいに・・・まだ、おねしょしてんの?」

といたずらっぽく、さつきが聞くと、にいちゃんは顔を真っ赤にして

「ばっ・・・ばかっ。」と頬をふくらませる。

ちょっとかわいいとおもっちゃいました。


わたしは、とにかくにいちゃんにいろいろなことを聞いた。

うちゅうでの生活のことや、この二年間で何があったかとか。

心から大笑いしました。楽しくて、楽しくて、笑いすぎて涙が出るほど。


うちゅう人同士のあいさつは、おでことおでこをひっつけて、アンテナをつなぐこと。

さつきもおなじようにしました。

ものすごくあたたかくて、こころとからだの全体がふわあとして安心する。


「さつき・・・」

「何?」

「お願いがあるんだ。」

「うん。」

「にいちゃんのこと、ずっとずっと忘れないでね。・・・中学生になっても高校生になっても、大人になっても、死ぬまでずっとずっと忘れないで。

ずっとずっと、さつきはにいちゃんの大切な妹だから。」

「ありがとう。

それは・・・こっちも同じだよ。

にい・・・たとえ、うちゅうにいっちゃっても・・・大好き・・・だよ?

絶対に、絶対に、いつまでもいつまでもさつきのこと、忘れないでね?

さつきも・・・にいのこと、一生忘れないから。

にいのくれたすべてのものも思い出も、大切にするからね。」


・・・離れたくない・・・離れたくない・・・本当はずっとそばにいてほしい。

そう思いながら、飛び去っていくちいさな円盤を眺めていました。


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