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さつき、トラヒーを看取る

ちきゅうは・・・平和になりました。


闇の宇宙の住人は去り、トラヒーは失脚し、占領軍も兵を撤去し、戦争はなくなりました。


トラヒー将軍は、闇の宇宙とのつながりをなくし、そして、もはや以前のような力はありません。

もうお互いに信じあい、愛し合う仲間は何よりも固い絆で結ばれているのですから、トラヒーの権力が付け入るスキなどないのです。

あのおそろしい独裁者はいまや、病床にあって、ただの無力などこにでもいる中年の男。

さつきは、気になって、敵であったトラヒーの病室に訪れました。

そこには、お金も地位も権力もすべてを失って、たくさんの管をつながれた孤独な病人が横たわっているだけでした。

街中の人から踏み場もなくなるほどに熱狂的に神のように崇められていた男の姿はそこにはもはやありませんでした。

「・・・トラヒー『さん』・・・。」

さつきは、おもわず、その男に「さん」をつけてしまいました。

痩せた男はこちらに気が付いて、驚いた顔をしていました。

「ああ、あの時の、少女か・・・。」

男は、会わせる顔がないといった風に窓の外に目を向けながら言います。

「いろいろと・・・すまないことをした・・・。」

さつきは、にいちゃんを殺しすべてを苦しめ苦しめぬいたあの男からそのことばを聞いて、驚いて目を丸くすると同時に、何とも言えない哀れみの感情に包まれましたが、それ以上何も言うことができませんでした。

「・・・うん。」

「・・・とかく、君の病気がすっかり治ったようで・・・何よりだ。

死んでいく私には、もはや何もかも関係のないことであるが、な。

力と引き換えに、闇がすっかり私の肉体を蝕んで破壊してしまったようだ。

もう、助かりはせんよ。分かってる。

そして・・・人びとが、私の死を望んでいることも、本当の神があるとするなら、私はとうてい許されるべきでないということも。」

さつきは、何も言えませんでした。

そうだ、ということも、許す、ということも。

「何が、私をそうさせた・・・。

何が、人びとをそうさせた・・・。

何がすべてをそうさせた・・・?」

やせ細った男はこちらを向いて言いました。

「おじょうちゃん、教えてくれ。

すべては、決まっていたことなのか?

すべては、運命だったのか?

すべては、こうなるしかなかったのだろうか?

すべては、それしかなかったのだろうか?」

「・・・わかりません、わかりません、わかりません。

ただ、ただ、これだけは言えます。

『だいじょうぶだよ』。」

さつきの口からなぜ、こんな言葉が出てきたのかはわかりませんが、とにかく世界中のすべての力が今さつきに働いてその一言を言わせようと出口を求めていて、さつきの口を蛇口にしてぽんっとあふれ出したようでした。


「『だいじょうぶ』・・・か。

少女よ、その言葉を信じるよ。」

トラヒーは、最期にこう言いました。

「フフ・・・本当は・・・本当は・・・この私の周りにも、おまえたちのような『おともだち』に囲まれていれば、おまえたちみたいな方法でこのちきゅうを守ることができていたかもしれなかったのに。

このちきゅうという星は、あまりにも悪と悪がはびこりすぎていたから、私は悪の力によってヒーローにのし上がることしかできなかったようだ。

誰だって、本当は悪など犯したくはないのだ。だけど、人間のすべてが悪という現実のなかで、私に与えられていた手は、闇の住人の力を借りることしか残されていなかったのだ。

・・・さあ、行きなさい。

最期にあなたに会えてよかった。ありがとう。」


その数日後に、トラヒーは孤独に亡くなりました。

新聞は大々的に「悪の帝王、滅びる」と書き立て世界中がその死を喜びました。


しかし、「最後は穏やかで平和な顔つきだった」といいます。



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