さつき、戦いをはじめる
にいちゃんのうしろには、トラヒー将軍の治安維持警察たちがずらりと並んでいました。
「うちゅうじん二名現行犯で発見・・・。」
「にいちゃんも、せんせいも、なにも悪いことしてないよ?
なのに、なんでそうやって、うちゅうじんをいじめるの?悪者扱いするの?」
治安維持警察たちはゲラゲラと大声をあげて笑います。
「そんなもん・・・うちゅうじんの存在自体が、人間の世界にとって邪魔だからだよ。
べつに、私たちもやりたくてやってるわけじゃない。そういう決まりなんだよ、決まり。決まりは守らなきゃならない。」
「その決まりは、誰がつくったの?誰が決めたの?」
「みんな、だよ、みんな。みんながトラヒー将軍を選んで、みんなでそういう法律が決まったものだから仕方がない。」
「みんなって誰?」
「みんなは、みんなだよ。・・・ったく、面倒くさい奴だな。ごちゃごちゃ言い訳をするんじゃない!
ったく・・・差別だとか何とか云って加害者扱いされる俺たちの気持ちも考えてみろよ。仕方ねえんだよ。いったいどうすりゃいいっての?そうしなきゃ俺たち、このちきゅうに居場所がなくなるし、生きてすらいけなくなるわけ?いい?俺たちゃ、あたりまえのことをしてるだけなんだ。」
もう一人の警官が、こそっと
「それが正義かどうかは置いておいて、まあ、うちゅうじん一匹を捕獲しただけでボーナスがたんともらえる。そういう仕組みがあるわけだから。」
と言いました。
「そんなのは・・・ちがう!ほんとうにたいせつなことがあるでしょう?」
「ほんとうに・・・たいせつなこと?なんだいそれは?」
警官は不思議そうな顔をして答えました。
「あんたたちうちゅうじんとそれをまもるやつらの言ってることはよくわからない。
まあね、なんとなくは、言いたいこと分かるけれど、だったらどうすりゃいいのってことよ。
そういうことも大切かもしれんが・・・このちきゅうでは、そうなってるんだよ。みんな、そうしてるんだよ。
はい。じゃあ、うちゅうじん二匹はこっち来て。
・・・あと、うちゅうじんと密通していた病室のそこの三人のちきゅうじんもだ。」
「待って!うちの娘、さつきは、さっきまで死んでいたんです。
だけど、奇跡的に息を吹き返したばかりなんです!どうか助けてください。」
ママが警官にすがりついて泣き叫びます。
「人間どうせ死ぬんだ。
この娘も、生きながらえたところで、どうせいずれ死ぬだろう。
今死ぬのも、何十年か後に死ぬのも、どうせ同じではないか。早いか遅いかの違いだろう。」
「何を言っているの!?」
「汝は、トラヒーを神の使者と信じるか?
信じるものには永遠の命を約束され、信じないものには呪いと死と地獄が待っている。」
「・・・あんな人が、神なわけないじゃない!?」
さつきは思わず言ってしまいました。
警官たちは顔を真っ赤にして鬼の形相で病室のものというものを蹴り倒して言いました。
「正体を現したな!この悪魔め!
皆!聞いたか!この冒涜の言葉を!!
神に逆らう貴様らは、天に唾を吐き、自ら自分の作った落とし穴に落ちて死んでいくのだ!
トラヒー直属の神聖なる治安維持警察が、天に替わって貴様ら全員の魂が罪を犯す前にその場で殺してくれるわっ!!」
「待て!」
警官たちは光にうたれて銃を落とし気を失って倒れています。
にいちゃんの身体が真っ白に輝いています。
にいちゃんのまわり一メートルにはオーラが放射されています。
あのおだやかで、ほわあんとしたにいちゃんはもはやそこにはいませんでした。
目つきはするどく、あらゆる存在を射貫くようです。
でも、怒っているのでもないし、憎しみにかられて自分を見失っているのでもない。
鋭いその目の奥はどこまでも澄み切っていて清らかでした。
「にいちゃん・・・?ほんとうににいちゃんなの?はじめて・・・見た。こんなにいちゃん・・・。」
さつきは、とてもではないですが、にいちゃんに近づくことはできませんでした。
「これが、あの泣き虫だったにいちゃん?さつきにいいようにいじられていたにいちゃん?おねしょたれのにいちゃん?」
はるか先生がつぶやきました。
「うちゅうのパワーと完全に一致した状態よ・・・。」
「さつき・・・下がってろ。」
にいちゃんは、手をあげてわたしたちをそこにとどまらせます。
そして、にいちゃんは、倒れた警官のほうに歩を進めます。
倒れた警官の中から、まるでさなぎから成虫が脱皮するように、次々と、もやもやっと黒い煙のようなものが現れ、それは確かな形を取って立ち上がりました。そうです。「闇の宇宙の住人たち」です。
闇の宇宙の住人が姿を現しました。
「ゲヘヘヘヘ。ああー、やっとこの窮屈な『身体』から解放されたわい。
今までは、このちきゅうじんどもの悪い気を吸い取って生きていかねばならんかったが、これからは、『身体』なしで何でもし放題できるのう。」
「この人たちが・・・ちきゅうじんの中に宿って、悪い思いや『ちきゅうの毒』を吸い取って成長していたのね。」
闇の住人たちはにいちゃんを見つけて言いました。
「光を闇に変えてやりたい。光を闇に変えてやりたい。ああ、腹が減ったのう・・・。
おお!あんなところに、巨大な光が。喰ってやれ、喰ってやれ。
希望を絶望に変えてやれ。
信じることを疑いに変えてやれ。
安心を恐れに変えてやれ。
一致を分裂に変えてやれ。
愛情を憎しみに変えてやれ。
正義を罪に変えてやれ。
すべてを、すべてを、すべてを、破壊してしまえ、混沌と闇に陥れてしまえ!」
闇の住人たちは四方八方からにいちゃんにおそいかかります。
にいちゃんの手から「光の剣」が伸びたかと思うと、瞬間にして花びらが散ります。
闇の住人たちはまた「闇の気」に帰したかと思うと、空中に消えていきました。
「今、一体何が起こったの?見えなかった。」
次々と、闇の宇宙の住人たちがにいちゃんにおそいかかりますが、にいちゃんは顔色一つ変えず、目を半眼にしてゆっくりと歩いていきます。
闇の世界の住人たちは、なぜか自ら崩れ去っていきます。
にいちゃんは、病室の窓から飛び降りました。
「ひゃあっ!あぶない!」
と思った瞬間、〈光の鳥〉が現れ、にいちゃんを乗せました。
「一緒に行きましょう!」
はるか先生が、呼びかけます。
さつきと、はるか先生は兄ちゃんと一緒に〈光の鳥〉に乗ります。
何一つ束縛のない自由な空。雲の上から見る地上はまるでプラモデル。
流れるように風に乗るようにゆったりと〈光の鳥〉はある方向に向かって飛んでいきます。
トラヒーの住む宮殿のような官邸の前にさつきたちは降り立ちました。
地面という地面がボコボコと盛り上がります。
「ひぃぃぃいっ!」
さつきとはるか先生は叫びました。
闇の宇宙の住人たちが、毒キノコのように現れてきます。
つづいて・・・そうだ、あれは「ちきゅうの毒」によって育ったおぞましい植物たち。
まるで、宮殿の庭も内部もジャングルのようです。
ところが、にいちゃんが、
「三下には用はない・・・。消えろ。」
とひとこと言うだけで、闇の宇宙の住人も植物も海が割れるようにしてパラパラと退き、にいちゃんのまえに道ができたのです。
そのまま宮廷の最上階まで進んでいくと、トラヒーは「闇のうちゅうの住人たち」と会談をしていたところでした。「彼ら」はそれまでの住人とは違い、何か異様なパワーを持っているのを感じました。




