さつき、死ぬ
パパとママは、わたしが生まれてきたときのことを話してくれました。
にいちゃんは竹からひろってきたのですが、さつきはちゃんとこうのとりさんが運んできてくれたこと。
うちゅうからきたにいちゃんは、ふつうの子とはちがって赤ちゃんのときからいろんなうちゅうの存在とお話ができてほとんど手のかからない子だった反面、ずっとパパやママの手から離れようとしなかったそう。
一方、さつきは、ものすごく手のかかるやんちゃな子でにいちゃんで遊びまくり、少し目を離すと、すぐに遠くに行っちゃうもので、気が付くと誰にでも話しかけておともだちになってしまうんだって。
パパは言いました。
「さつき、おまえがね、我が家にやってきたとき、
『この子のためなら死んでもいい。』と思ったんだよ。
だけど、にいちゃんが、うちゅうに戻り、そして、さつき・・・おまえまでもが、おまえまでもが、遠いところに行ってしまうと思うと・・・。
本当は、パパの心臓を移植してあげたい。
だけど、この星の法律でも技術でも、それは不可能で・・・。
もし、できたら、死んでも殺されてもいい!さつき、あなたを助けたいよ。
・・・だけど、もう、これ以上何もできない・・・何も。何も。何も・・・。」
「パパもママも安心して。
あのね・・・いのちはひとつにつながってるの。」
「知ってる・・・知ってるよ。
だけど、それでも、何としてでも生きていて欲しいんだ。」
「・・・生きなきゃ。生きなきゃ。何としてでも生きなきゃ。」
さつきは、そう思いました。
*
だけど、さつきの余命と言われる日が来ました。
「さつき、もう、死んじゃうんだね。
でも、最期にこんな楽しい想いができて本当によかった!
みんな、愛してるよ!」
さつきの心は、まるで雲一つない青空や満天の星空のように澄み渡ってスッキリしていました。
本当に、旅立っていくには最高の日だと思いました。
さつきは・・・死んでも、死なない。だいじょうぶ。
すべてのことが、うちゅうの「ひみつのことば」によって作られていてすべてのいのちはひとつにつながっているのだから。
*
・・・たしかに、それは、「ほんとうのこと」なのかもしれない。
だけど、だけど、だけど・・・それでいいのでしょうか。
・・・最後に、もう一度、「あの人」に逢いたい。
私を精一杯愛してくれたにいちゃん・・・わたしが裏切って傷つけて悲しませてしまったにいちゃん・・・。
心の底から「ごめんね」と「ありがとう」を伝えて死んでいきたい。
逢いたい、逢いたい、逢いたいよ・・・にいちゃん。
どこにいるの?
いま、どこにいるの?
遠い宇宙の果て?
意識が遠のいていく。
息をする回数が減っていく。
心臓の音が弱くなっていく。
*
にいちゃんだった。
にいちゃんは、あのかわりないつぶらな瞳いっぱいに涙をためていた。
胸を痛めてしぼりだすような声で「かわいそうに」といって、さつきの手をにぎりしめた。
あたたかい。同じ血が流れているんだ。
「にい・・・来たの・・・来てくれたの?」
「あたりまえじゃないか、さつき。さつきは、ぼくの妹だから。」
「にい・・・ごめんね。ほんとうにごめんね。あのとき、にいを辛いきもちにさせたこと。
にいを、傷つけたこと、裏切ったこと。たくさんたくさん、知らなくて、にいを悲しませたね。ずっと言いたかったことが言えた。ごめんねって。ゆるして・・・くれる?」
にいは、
「いいんだよ、さつき、いいんだよ。だいじょうぶだよ。」
というやいなや、その場に泣き崩れました。
「にい、あと・・・ありがとう、ありがとう、ありがとう、ね。」
「つらかった・・・つらかった・・・つらかったよ。死ぬほどつらくて、つらくて、僕はもう・・・」
さつきは、ベッドの上でにいのあたまをかかえて「よしよし」ってしながら、なみだをポタポタたらしながら「ごめんね」を言います。
にいちゃんは、ずっとずっと私のことを想っていてくれたのです。
にいちゃんはさつきの目を見てほほえんで言いました。
「さつき、さつき、さつき・・・
ぼくの・・・ぼくの、心臓を使いなさい。」
「・・・!」
ことばが出てきませんでした。
それは・・・つまり、にいが死んじゃうってこと?
さつきのみがわりになって?
にいちゃんは、うちゅうの医学もマスターしていました。うちゅうの進んだ技術でさつきの病気は治ります。
だけど、にいちゃんがちきゅうに来たということがばれたら最後、にいちゃんは、死刑になります。
「・・・もう、とっくにばれてるよ。」
にいちゃんは、笑いながらそう言った。
「あの、トラヒーという将軍は闇の宇宙の力を借りている。
・・・今、ちきゅうでは闇が支配している。だけど、どんな闇も光には勝てないよ。
さつき、勇気を出して。僕たちはね、もう闇に打ち勝っている。」
にいちゃんは、うちゅうから持ってきたであろう小さな医療器具を持ち出して、自分のうでにつなぎました。
そして、そこから、小さいパンを取り出しました。
「さあ、これを取って食べなさい。」
「うん・・・。」
ぱくり。
みるみるうちに、さつきの心臓は強く脈をうち、さつきは息を吹き返したのです。
「このパンはなあに?」
「『うちゅうのひみつのことば』でできているパンだよ。」
「・・・まさか、にいちゃん、その『ひみつのことば』を食べさせるために、じぶんの体の一部を使ったの?」
どうも、うちゅうじんというのは、人が困っているときは、自分の体の一部を分け与えることができるようなのです。
さつきは、天井にいました。
もうひとりのさつきが、ベッドの上でたくさんの管をつながれて、まわりではお医者さんや、パパやママがそのさつきの手を握って泣いています。
さつきは、まるでそのことをひとごとかのように見学しています。
「この人たちは、なぜ泣いているのだろう。だいじょうぶだから、悲しまなくてもいいのに。」
羽化した蝶が、天空から葉っぱの上のさなぎや幼虫を見るのってこんな気持ちなんでしょうか。
一気にさつきはその気持ちよい気分から、引き戻されました。
・・・目が覚めました。
人間は死ぬときに、懐かしい人の幻覚を見るということが良く言われていますが、にいちゃんと出会ったのもそんな幻覚の一部だったのでしょうか。
いえ、目の前にはやっぱりにいちゃんがいたのです。死ぬ前の幻覚などではありませんでした。
パパとママとはるか先生と、そしてにいちゃん・・・。
大好きな大好きな人たちが、いま、さつきの周りに集まってくれています。




